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【日本】AIロボットが保育環境に入る時代へ:幼児教育場面におけるインタラクティブAIロボットに対する幼児のリテラシーと認知の特徴(後編)

田爪 宏二(京都教育大学 教育学部 准教授)
森田 健宏(関西外国語大学 英語キャリア学部 教授)

2020年10月16日掲載

要旨:

我々の生活の中に普及しつつあるコミュニケーション型のAI機器やICT機器,特に人間に近い動作をするロボット型のメディアと子どもの関わりは,幼児期におけるメディアに対するリテラシー(認知的スキル)とともに,社会情動的スキル(非認知的スキル)の育ちにも影響がある可能性がある。
本稿では,前編でヒト型AIロボット「ロボホン」を幼稚園の環境の中に設置し,自由活動の中で幼児がロボホンと交流する場面の観察(研究1),後編でロボホンとコミュニケーションを行った後に幼児にロボホンに対する認識について質問する(研究2)という2つの研究を紹介する。その上で,それらの場面においてみられる,AIロボットに対する幼児のリテラシーと認知の特徴について考察する。

キーワード:
ヒト型AIロボット,ロボホン,幼児教育,メディアリテラシー,コミュニケーション

本稿の前編では,幼稚園の環境の中にロボホンを設置し,自由活動の中で幼児がロボホンと交流する場面(研究1)について紹介した。それに続く後編では,ロボホンとコミュニケーションを行った後に幼児にロボホンに対する認識について質問した結果(研究2)について紹介すると共に,研究結果を踏まえて幼児教育の文脈におけるこのような新しいメディアに対する幼児のリテラシーや認知の特徴について考察する。

研究2.設定場面におけるロボホンとの関わりと認識

目的と方法

研究2の目的は,ロボホンと幼児が関わる実験的場面を設定し,幼児がロボホンをどのような存在であると捉えているのかについて検討することであった。

幼稚園の5~6歳児計28名が実験に参加した。そのうち明確な反応を記録することができた22名を分析対象とした。実験は幼稚園内の個室において1グループあたり3~4名,約10分間実施した。

実験では,まず幼児に質問のリスト(例:好きな〇〇は?)を渡した。幼児は一人ずつロボホンに質問し,それに対してロボホンが反応した。続いて,幼児に,今日の出来事や遊びについてロボホンに説明するように求めた。ロボホンは幼児の発話に対して相づちをうつようにプログラムしており,擬似的に幼児とロボホンとの間で相互作用が引き出されるようにした。

これらの関わりを体験した後に,各幼児に,ロボホンと幼稚園の活動(遊び)を一緒に行うことが出来るか否かを質問した。

結果と考察

実験の冒頭における子どもとロボホンとの関わりにおける語りかけの特徴として,主に女児において,「可愛い」という感想とともに,丁寧な(気取った)言葉遣いが多く見られた(事例1)。これらの発話の特徴から,幼児はロボホンに対して畏敬の念を抱きつつ,自分よりも幼いものとして(例えば乳児またはペットのように)捉えていると思われる。また,今日の出来事や遊びについてロボホンに説明する場面において,自分の発話にロボホンが反応すると喜ぶ姿が見られ,ロボホンをコミュニケーションが可能な存在であると認識をしていることが窺われた。但し,「〇〇遊びをしたよ」など,ロボホンに対して語りかけの形で発話をする子どもは少数で,多くの子どもは「〇〇遊び!」など,自分のしたことを文章ではなく,一語で発言するだけであった。これは,友達同士の会話と異なった,ロボホンとのコミュニケーションの特徴のひとつであると考えられるが,子どもは自分の経験を語ることが難しいという特徴を反映しているとも思われる。

また,ロボホンがどうやったら自分の言葉を認識してくれるのか,ロボホンの反応を試す実験的な行動が多くみられた(事例2)。そして子どもたちには次第に,ロボホンの反応にあわせて自らの発話を調節するような行動が見られるようになった。子どもは,ロボホンとのやりとりが、自分とは異なる特徴をもつ存在とのコミュニケーションであることに気づき,相手に合わせてコミュニケーションをとろうとしていると考えられ,このような姿は,メディアに対するリテラシーの育ちの一端である可能性が考えられる。但し,実験的な行為が中心であるために,反応することで満足してしまい,それ以上会話が長続きしない(一問一答の形)子どもが多く,会話のやりとり,コミュニケーションの広がりという点については十分ではなかった。

事例1:ロボホンと幼児との対話の例

A児好きな遊びは何ですか?
ロボホン僕はパズルが大好き。
A児えーっ!パズルだって!
ロボホン難しいけど,完成したら嬉しいよね。
A児うん!

事例2:ロボホンが質問に答えてくれない(認識しない)時

B児     (ロボホンは音声を認識すると目が黄色くなることに気づき)「目が黄色いうちに早く話そう」
C児     (ロボホンは複数が同時に話しかけると音声を認識しにくくなることに気づき)「私が話しているときは,他のみんなは黙っていてください!」

ロボホンに対する認識に関する質問においては,回答した全ての子どもが,ロボホンと一緒に遊ぶことができると思うと回答した。「どんな遊びをロボホンと一緒にできると思うか」という質問に対する回答について,ロボホンの機能を反映したものであるか,それともロボホンの機能とは関係の無い,子ども自身の好きな遊びをしたいという回答であるか,という観点から分類を行った。前者の例としては,「遠足に行って,道を教えて欲しい」「ダンスを一緒に踊りたい」「一緒に歌う」などがあり,幼児はロボホンの機能を使って遊んでみたいと考えていたと思われる。後者の例としては「鬼ごっこ」「お絵描き」などの回答がみられた。回答の比率としては,前者が3名(14%),後者が14名(64%),分類が難しい回答が5名(23%)であり,ロボホンの機能とは関係ない回答が多かった。

この結果から,幼児は,ロボホンを自分と一緒に遊ぶことができる,人間に近い存在として捉え,特に運動や発声という特徴に注目することはできていたことが窺われる。但し,具体的な遊びになると,ロボホンがその遊びができるのか,ということについてまでイメージすることは難しいと思われる。

まとめ

2つの研究場面から:幼児とロボホンとの相互作用にみられる特徴

本稿で紹介した2つの研究それぞれの場面においては,いずれも幼児はヒト型のAIメディアであるロボホンとの関わりに強く動機づけられていた。その中で,幼児は徐々にロボホンとの対話の可能性を探り始め,ロボホンの反応にあわせて関わり方を調整することを試みていた。また,幼児にはロボットとの交流を通じてアニミズム(後述)的な反応と思われる言動が確認され,幼児はロボットを人間とは異なる存在であると認識しているが,コミュニケーションが可能な,意思のある存在と捉えていることが窺われた。 幼児期には,アニミズム,すなわち人間の特徴を使って世界を理解しようとする発達的な特徴がある。子どもは,対話型のメディアの中でも,本研究で取り上げたロボホンのように,より人に近い造形や動きをするヒト型ロボットのほうが人間になぞらえやすく,理解しやすかったと考えられる。また,ヒト型のロボットは,他のAIメディアに比べて身体の動きがあることも有利である。幼児は自分の働きかけに対して、より変化に富んだ反応をしてくれるものに興味を抱く。このような特徴から,対話型のメディアに対する初期経験として,ヒト型のロボットは子どもが馴染みやすいものであったと考えられる。

以上の結果をふまえると,幼児はロボホンとの関わりにおいて,自分とは異なる特徴をもつ存在とのコミュニケーションであると捉え,相手にあわせてコミュニケーションをとろうとしていると考えられる。このような特徴は,メディアに対するリテラシー,つまり認知的能力の発達を促す経験である可能性があるだろう。さらに,AIロボットとの相互作用は他のメディアとのそれよりも人間とのコミュニケーションに類似するものであることから,非認知的能力の発達にも影響することも考えられる。但し,この経験は決して人とのコミュニケーションの代理的な経験ではなく,人同士の相互作用で獲得される能力とは質を異にすると思われる。

今後の展望

これまで子どもの認知発達研究を中心とした基礎実験的なロボット研究は多く見られたが,教育現場や保育現場を対象とした応用的,教育実践的研究は,あまり見られない。このため,本稿で紹介したような教育,保育の場面における実践的な検討の蓄積の必要性があると考えられる。AI関連技術が進化し,日常生活の様々なアイテムに利用されている現在,幼児教育現場に資する可能性は多様に考えることができる。例えば今回の研究をより精緻化することによって,子どもがロボットをどう認識するかについての従来の研究知見を幼児教育,保育の文脈から捉え直すことが出来るであろう。さらに,ディープラーニング,自律型対話プログラムなどのAI研究,またロボットの開発を通して人間の認知機能を明らかにしようとする認知発達ロボティクス(浅田, 2009など)などの先進的研究を受け,ロボットと人とがともに成長(進化)していくなかで,教育,保育の現場において学習や日常生活に及ぼす影響や,その教育的効果の可能性などを明らかにすることが出来るかもしれない。

また,幼児教育の質的向上に関連して,幼児への教材としての利用以外にも,保育者の多様な業務(園務)の負担軽減に向けた応用に資することも考えられる。IT技術の導入によって人間の生活や仕事に変革をもたらすSociety5.0(内閣府, 2016)が推進される現代においては,これまでの個を基調とした研究をふまえ,教育実践場面や管理場面,事務場面など,AI機器やICT機器が我々の様々な日常生活場面と行動にいかに適用できるかを考える段階に至っているものと考える。


文献

  • 浅田 稔 (2009). 認知発達ロボティクスによる身体・脳・心の理解と設計の試み 心理学評論, 52, 5-19.
  • 内閣府 (2016). 第5期科学技術基本計画
    https://www8.cao.go.jp/cstp/kihonkeikaku/index5.html(最終確認日:2020年9月5日)

付記
本稿で紹介した研究は,科学研究費助成事業 基盤研究(B)- 18H01064(代表者:堀田博史)による研究の一部である。

筆者プロフィール
Tazume_Hirotsugu.jpg 田爪 宏二(たづめ・ひろつぐ)

京都教育大学 教育学部 准教授(発達心理学)
広島大学大学院教育学研究科修了。博士(心理学)。専門は発達心理学・認知心理学。主な研究テーマは認知的情報処理のメカニズムや,子どもの概念獲得,発達とそれを促す教育的支援に関する研究。さらに近年は,子どもの支援者としての教師・保育者の認知的個性や専門性についても関心を持っている。主な著書は「教職エクササイズ教育心理学」(ミネルヴァ書房,編著),「認知発達とその支援」(ミネルヴァ書房,共編著),「保育の心理学―保育の中で捉えるこころのすがたと育ち」(あいり出版,編著)など。

Morita_Takehiro.jpg 森田 健宏(もりた・たけひろ)

関西外国語大学 英語キャリア学部 教授(初等教育学)
大阪大学大学院人間科学研究科修了。博士(人間科学)。専門は,初等教育学,メディア教育、発達心理学 他。特に,保育環境におけるメディア導入による様々な影響を幅広い手法を用いて検討している。現在は,「幼児へのグローバル教育の導入を目指すためのメディアの活用」や「園務情報システムの導入効果」(いずれもJSPS科研費)などを手がけている。主な著書は,「メディア心理学入門」(学文社)や「赤ちゃんから学ぶ「乳児保育」の実践力」(保育出版社)の分担執筆の他,「よくわかる!教職エクササイズ」シリーズ(ミネルヴァ書房)の全監修および共編著を担当。

※肩書は執筆時のものです

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