2017年に公表された教職課程コアカリキュラムでは,保育内容の指導法で,到達目標の一つに「各領域の特性や幼児の体験との関連を考慮した情報機器及び教材の活用法を理解し,保育の構想に活用することができる。」とあり,保育者は具体的な情報機器及び教材活用を想定して,保育を構想する方法を身に付けることが求められている(教職課程コアカリキュラム,2017)。
筆者らは,2009年度より経年で,全国1,000園を対象に,国公立,私立,都道府県の隔たりを考慮し,保育でのメディア活用に関する実態調査を実施している。表1は,幼稚園等の保育現場で活用されているメディア(複数回答可)について,3カ年の回答結果をまとめたものである。
表1 保育で活用しているメディア | |||
2009年 | 2014年 | 2018年 | |
ビデオ・DVD | 73.0% | 85.0% | 72.9% |
デジタルカメラ | 66.4% | 84.6% | 78.9% |
オーディオ | 73.0% | 94.2% | 91.1% |
幼児向けテレビ番組 | 26.5% | 28.8% | 45.4% |
実物投影機 | 16.9% | 15.0% | 16.0% |
OHP | 14.2% | 19.6% | 15.0% |
パソコン | 13.3% | 40.4% | 38.6% |
タブレット端末 | - | 3.8% | 8.2% |
(値は1,000園に質問紙を配布。回答園に対する活用メディアの割合) |
値には,多少の年度格差はあるものの,CDプレーヤーやカセットデッキで音楽再生するオーディオ,防犯や防災,物語などの映像を投影するビデオ・DVD,そして幼児の活動などを記録するに適しているデジタルカメラの活用率が高い。デジタルカメラに比べ,タブレット端末は画面の大きさ,鮮明な映像を写し出す解像度で優勢ながら,高価であるために活用率はまだ低い。
表1の保育で活用しているメディアを教職課程コアカリキュラムでの情報機器に当てはめて考えてみると,オーディオ,ビデオ・DVD,そしてデジタルカメラを保育で活用するイメージは,容易に抱くことができよう。逆に,表1の上位3つを除くメディアに対しては,具体的な活用イメージを抱きにくい,とも言える。
そこで本稿では,教職課程コアカリキュラム内容への対応を考え,表1の中から,敢えて保育での活用頻度の低いタブレット端末活用をイメージし,具体的な保育構想ができるように,保育者及び保育者養成課程の学生を支援する取り組みについて考える。
筆者らは,2014年度にタブレット端末を活用した保育での取り組み活動例(表2)を作成し,全国1,000園を対象に質問紙調査を実施,「1:非常に取り組んでみたい」から「5:まったく取り組んでみたいと思わない」の5段階で評価を得た。そこでは,表2のA・Bそれぞれの項目に関して一元配置の分散分析を行い,ともに有意差(A:(F(7,1909)=16.4,p<.01),(B:(F(7,1905)=18.2,p<.01)が見られたので,多重比較により,Aでは(ア)・(オ)が他の項目との間において,Bでは(サ)が他の項目との間において1%水準で有意な差を検出している。結果,表2の「(ア) 幼児が育てている小動物や植物をカメラ機能で撮影して,その様子を振り返る」活動,「(オ) 図鑑アプリで,幼児が興味・関心を持った内容を調べる」活動,そして「(サ) 保育者が運動会の練習風景などを撮影・録画して,プロジェクタで大きく投影して振り返る」活動に対して,保育者の取り組み意欲が高いことを明らかにした(堀田ら,2014)。
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2017年度には,保育でのタブレット端末の活用場面をより具体的に示すために「保育でのタブレット端末活用を促す事例集」を作成,保育での活用場面を図1のように整理している(堀田ら,2017)。

さらに2018年度は,事例集に整理された保育でのタブレット端末活用場面の14の遊びを対象に,全国1,000園を対象に質問紙調査を実施,5段階で評価を得ている。14の遊びの場面に関して一元配置の分散分析を行い,有意差(F(13,3698)=6.53,p<.01)が見られたので,多重比較を行った結果,B1:個に応じる遊び「七夕の星座を見てみよう!」,B5:家庭とのつながり「子どもの活動を伝えてみよう!」の活動が,他の多くの遊びの場面との間で有意な差が見られた(堀田ら,2018)。「七夕の星座を見てみよう!」では,お泊まり保育の一場面で夜空の星座を見る活動がある。この活動は,天候に左右されるので,部屋の天井にシートを貼り,アプリから映し出る星座をプロジェクタで投影することで,何時でもこの活動ができる。そのようなイメージを多くの保育者が抱いたのではないだろうか。また,「子どもの活動を伝えてみよう!」では,従来,保育中の幼児の活動を,デジタルカメラやビデオで撮影・録画して,保護者に伝えることはあり,その際には,保育室にテレビなどの投影機を準備し説明をしていた。それが,園庭など場所を問わず,タブレット端末さえあれば,投影機の準備なしで,保護者と話ができる手軽さが評価されている。
オーディオ,ビデオ・DVD,デジタルカメラ以外のメディア活用を想定して,保育を構想することは容易ではない。本研究のような,有用なメディア活用をイメージさせる取り組みやその結果の公表により,少しでもメディアを活用した保育構想の手助けとなるよう,今後も研究成果を充実させたい。
注)本稿は,日本教育工学会第30回全国大会講演論文集に掲載の「タブレット端末を活用した保育での取り組み内容の調査」,及び第25回日本教育メディア学会年次大会に掲載の「保育でのタブレット端末活用場面における取り組みやすさの評価」の一部を引用,追記したものである。
<参考文献>
- 教職課程コアカリキュラムの在り方に関する検討会,「教職課程コアカリキュラム」,2017年11月
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/126/houkoku/1398442.htm より引用(参照日:2018/10/26) - 堀田博史,他7名,「タブレット端末を活用した保育での取り組み内容の調査」,日本教育工学会第30回全国大会講演論文集,p.557-558,2014年9月
- 堀田博史,他6名,「保育でのタブレット端末活用を促す事例集の作成」,第70回日本保育学会,pp.404,2017年5月
- 堀田博史,他2名,「保育でのタブレット端末活用場面における取り組みやすさの評価」,第25回日本教育メディア学会年次大会,p.106-107,2018年11月