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親子のコミュニケーションを育むメディア環境構築の試み ~「ピッケの冒険」と「親子de物語」の紹介~

佐藤 朝美 (東京大学大学院情報学環 助教)

2010年11月12日掲載

要旨:

現在、幼児を取り巻く環境は、テレビ・ビデオ・ゲーム・パソコンなどの電子メディアで溢れている。人間形成における重要な発達段階である幼児期は、身近な大人とのコミュニケーションが大切であるにも関わらず、現状の電子メディア環境は、子ども一人でバーチャルな世界に入り込むものが多い。しかし、メディアを「親子の三項関係に入る媒体」と捉え、テクノロジーをうまく活用すれば、親子の対話を促進させる可能性を秘めている。ここでは、そのような背景のもとに開発研究を試みた、「ピッケの冒険」、「親子de物語」を紹介する。
English
幼児を取り巻くメディア環境

現在、幼児を取り巻く環境は、テレビ・ビデオ・ゲーム・パソコンなどの電子メディアで溢れている。幼児向け商品も大量に流通しており、中には、幼児期の発達段階からみると適切ではないと思われるものも多く見られる。こうした現状を踏まえ、メディア、特にコンピュータの特性を考慮するとともに、幼児期の発達における重要な要素を適切に捉え、幼児期に相応しいメディア環境の在り方を検討する。


コミュニケーションの媒介としてのメディア

幼児期におけるメディアの役割は、直接の対面での対話を促進させることが重要であると考えている。

幼児期は「三項関係」が成立していく重要な発達段階にあるといわれている。「三項関係」とは、例えば、親と子で共通の対象物を見て、それに対する気持ちを共有することといえる。玩具や絵本などを通じて、「三項関係」を成立させながら、親子は対話し、子どもの成長が促される。テクノロジーの進歩に伴い、玩具や絵本も進化していくことを考慮すると、「三項関係」の中に入る媒介物は時代と共に変化すると捉えることができるだろう。コンピュータのインタラクティブな特性をうまく活用すれば、親子の対話を充実させたり、従来の絵本や玩具とは異なる新たなコミュニケーションを実現することも可能である。

筆者は、こうした可能性を引き出すメディア活用について検討しており、ここでは、その取り組みについて紹介したい。


デジタルストーリーテリングにおける開発研究

これまで、幼児期のNarrative Skillに着目し、向上させるための研究を進めてきた。幼児期のNarrative(物語産出)とは、実際に体験したこと、テレビやビデオ、絵本の読み聞かせ等を通じて間接的に体験したことなどから自分なりの世界を構築していく作業であり、言語発達だけでなく、自己の意味形成にもつながる重要な活動である。

そこで、親子で一緒に「お話作り」をするためのタブレットPC用ソフトウェア[1]、さらに、その様子をリアルタイムで録画・共有可能とするオンラインコミュニティサイトを開発[2]した。前者は、幼児自身の語りの促進を目指したソフトウェアであり、後者は、幼児のNarrative Skillを育むための親の言葉がけSkillの向上を目指したものである。

具体的な内容を以下に紹介する。


「ピッケの冒険」

本研究では、幼児期の5歳半頃から活発にみられるようになる、物語行為を支援するソフトウェアを開発した。本ソフトウェアにより幼児の物語行為を活性化し、発話の種類を増加させ、前後文の統合を支援することを目的とした。支援形態は、幼児の物語産出の発達過程の先行研究や物語支援の先行研究の知見から検討し、システムの機能として実装した。

このようにして開発したアプリケーションが「ピッケの冒険」である。
このソフトウェアは、発端部・展開部・解決部という場面構成になっている。発端部では主人公が問題解決すべき内容を、親が子どもに読み聞かせる(図1-a)。展開部・解決部では、それを受けて子どもが主体的にお話作りを行うことが出来るようになっている(図1-b)。子どもは、画面を見て、ボタンを操作しながらお話作りが出来る。ボタンは、登場人物の表情を変更出来るもの、登場人物の行動を操作出来るもの、場面の情景を設定できるものなどがある。

本ソフトウェアの効果の検討を行う為、5歳児を対象に紙を使った作話との比較実験を行った。その結果、ソフトウェアの機能を使用しながら作話することにより、発話が活性化され、発話の種類も増えることがわかった。特に、登場人物の表情を付加する機能から、発達の初期段階には難しいとされる登場人物の心情に触れる発話が増加した。また、話の前後文が統合され、聞き手に理解しやすい内容になるという結果も得られた。

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図1-a 「ピッケの冒険」 発端部


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図1-b 「ピッケの冒険」 展開・解決部


「親子de物語」

本研究では、幼児の物語行為における親の役割に着目している。Narrative Skill習得に関する先行研究は、幼児の語りの詳細を引き出す言葉がけをする親とそうでない親がおり、その差が子どもの語り方や考え方にまで影響するという結果を示している。そこで、Narrative Skill習得を促す親の語りの引き出し方の向上を支援するシステム「親子de物語」を構築した。幼児の語りの詳細を引き出す言葉がけとは、「それから何があったの?」「何をしたの?」のような情報を得るための制約のない質問・プロンプト、文脈の特定情報(5W1H)を得る質問・プロンプト、「うん・それで・もっと教えて」等の応答、または子どもの発話の復唱などの語りかけなどである。先行研究においては、「はい/いいえ」で答えられるYes/No質問は、子ども自らの語りを止めてしまうものとして分類されている。

「親子de物語」はWebアプリケーションとして構築しており、自宅においてWeb上で、お話作りを行うことができる。親子で物語を作成し、その過程をWebカメラで録画(図2-b)、ビデオを親が自身で振り返る(図2-c)と同時に他の親子とビデオを共有していく(図2-d)。本システムは、上記のような活動を通して親自身が学んでいける仕組みを備えており、いわばオンラインワークショップと言うことができるだろう。

評価実験に27組の親子に参加してもらい、その有効性を検証した。その結果、ビデオにより自己を振り返り、他者を観察することで、子どもの詳細な語りを引き出す親の言葉がけが向上することが分かった。特に、「うん・それで・もっと教えて」等の応答、または子どもの発話の復唱などが有意に上昇した。また、引き出し方が特に向上した母親には、課題を行う過程で、他者の良い点から自身の言葉がけを反省するだけでなく、その都度、自分なりの目標を立てるという傾向が見られた。

report_02_108_3.jpg    report_02_108_4.jpg
(a) 「親子de物語」トップ画面    (b) Step1物語作成画面
report_02_108_5.jpg    report_02_108_6.jpg
(c) Step2物語評価(絶対基準)画面    (d) Step3物語評価(相対基準)画面
図2 "親子de物語"画面構成


メディア環境のこれから

以上、2つの開発研究-コンピュータメディアによる活動支援-について紹介したが、これらは子どもが一人で仮想世界に入り込んでいくものではなく、親子の対話を発生させ、この時期に大切な親子のコミュニケーションを支援することを目的としている。コンピュータメディアのインタラクティブな要素やオンラインコミュニティの機能により、絵本の読み聞かせでは実現し得なかった対話を発生させている。このようなメディア環境は、特に、子どもとの対話をうまく行うことが出来ない、あるいは、子どもとの対話をする時間を確保することが難しい親に対しても、対話を維持していくきっかけになるだろう。

子どもの発達を考え、適切に技術を活用することで、より良いメディア環境が構築できることを実証出来たのではないかと考える。テクノロジーはますます進歩していく。今後も、子どもの環境を豊かにするという視点から、メディア・テクノロジーの有効な活用方法を検討していく必要があると考える。


[1] 佐藤朝美(2008), 「幼児の物語行為を支援するソフトウェアの開発.」 日本教育工学会論文誌, Vol. 32, No1, pp. 33-42.

[2] 佐藤朝美(2009), 「幼児のNarrative Skill 習得を促す親の語りの引き出しの向上を支援するシステムの開発.」 日本教育工学会論文誌, Vol. 33, No3, pp. 239-249.


[*] ピッケのコンテンツは、朝倉民枝氏(株式会社グッド・グリーフ)より提供いただきました

筆者プロフィール
sato_tomomi.jpg 佐藤 朝美 (東京大学大学院情報学環 助教)

コンピュータ会社でSEを経験後、出産を機に退社。その後、育児の傍ら、武蔵野美術大学デザイン情報学科に編入し、幼児を対象としたインタフェースデザインを研究。卒業後は、子どもを取り巻くメディア環境と学びの関係について研究を行うべく、東京大学大学院学際情報学府の修士に進学。博士課程を経て、東京大学大学院情報学環助教に就任。現在は、デジタルストーリーテリングの活動を通した家族内コミュニケーションの支援に関する研究の他、東京大学情報学環とミサワホームとのプロジェクトにおいて、保育環境デザインについて共同研究を行っている。
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