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【10月】第4回東アジア子ども学交流プログラム「言葉の発達と脳科学~東アジアでの研究と実践~」

要旨:

第4回東アジア子ども学交流プログラム「言葉の発達と脳科学~東アジアでの研究と実践~」がお茶の水女子大学で9月11日に開催された。今回はこれについての報告である。特に日立製作所役員待遇フェローの小泉英明先生による基調講演、「外国語としての第2言語習得と脳科学」について、私見を交えて述べており、外国語の習得に必要なことは何であるのか、また言葉のプログラムの解明における脳科学の必要性について述べている。

第4回東アジア子ども学交流プログラムが、第6回日本子ども学会学術集会(子ども学会議)の前日の9月11日、お茶の水女子大学で開かれた。今回、中国ばかりでなく韓国も参加した意義は大きく、大成功だったと言える。

 

会ではまず、日立製作所 役員待遇フェローの小泉英明先生による「外国語としての第2言語習得と脳科学」というタイトルの基調講演、中国・上海の華東師範大学 朱家雄教授による「幼稚園のカリキュラムにおける早期読書」というタイトルの特別講演をうかがった。続いて、華東師範大学 姜勇副教授の「上海市幼稚園教諭の文化的状況についての調査」と、華東師範大学 張明紅副教授の「中国の幼稚園における早期読書教育活動のデザインと実施」の報告があった。

その後、シンポジウム「幼児のリテラシー習得に及ぼす社会文化的要因の影響~日・中・韓比較~」が行われ、お茶の水女子大学の内田伸子教授、韓国・梨花女子大学の李基淑教授、華東師範大学の周念麗副教授が、それぞれの国の子ども達の言葉の発達と「しつけスタイル」との関係について研究成果を発表された。しつけスタイルは「共有型」(ふれあいを重視し、子どもとの体験を享受・共有する)、「強制型」(大人中心のトップダウンのしつけや力によるしつけ)、そして「子負担型」(子育ての負担感が大きく、育児不安か放任の二極化)などに大きく分けている。日本と韓国ではその傾向がよく似ているが、中国は多少異なる傾向を示していることが明らかになった。しつけも、「強制型」よりも「共有型」の方が、子ども達がより良いリテラシー能力を示すことが明らかになったのである。大変興味深い研究成果であった。

この東アジア子ども学交流プログラムの内容は、いずれCRNウェブサイトや出版物として発表されるので、ここで詳しくは取り上げないが、小泉先生の御発表は、小学校でも英語教育を始めようとしているわが国の現状を考えると、皆さん方も御関心をお持ちであろうと思うので、私なりに理解した内容と私見を述べることにする。

小泉先生は、チョムスキーの理論から、世界中の多くの言語には共通の階層的な文法(普遍文法)が存在し、言葉の違いはいくつかのプログラムとスイッチ、そして語彙によっていると考えられると述べられた。これは、ある意味で、複雑な道具を使う行動と対比出来るという。母国語の環境で育つと、母国語の言葉のプログラムとそのスイッチが出来上がり、それを使って話したり、読んだり、書いたりすることになる。外国語を使えるようになるためには、新たにその言葉のプログラムを作り、スイッチが入るようにしなければならない。日本語と英語の関係を考えると、例えば「本屋で花の本を買いたい」という日本語の文章を英語にした場合 "I want to buy a book on flowers at a bookshop" となり、単語の位置の入れ替わりは6か所にもなる。これは、ヘッドポジションという切り替えスイッチに相当する。このスイッチを切り替えながら翻訳をやると、一時的に脳の関係部位に大きな負担がかかる。ミリ秒オーダの時間処理が必要な会話にはとても追いつかない。したがって、「英語で考える」プログラムを作らなければならないことになるという。第2言語習得に関する研究はまだまだ不十分で、今後に残されているのである。

また、音感には「絶対音感」と「相対音感」があるが、私達人間は、「相対音感」を進化の過程で手に入れたことが、言語の進化を有利にしたと述べられた。確かに、私達が話す時、声にはピッチやリズムがあり、言葉の意味と一緒になって、コミュニケーションに重要な役を果たしている。父親の「おはよう」と、母親の「おはよう」を同じ「おはよう」と捉える力は、相対音感によるのである。人間にとって、相対的な違いを感知する相対音感は、絶対音感より重要なのかもしれない。なにか絶対音感の方が重要と一般には考えられているが、絶対音感は虫や鳥なども持っている力である。

赤ちゃんが親や身近な親しい人のやりとりで言語を自然にマスターしていること、親がそれぞれ異なった言語を話す国際結婚などの場合でも、そのやりとりの中で自然にバイリンガルになっているのをみると、そこになにか幼児の外国語教育のヒントがあるように思われる。特に、遊びの中でのやりとりが幼児の言語発達にとっては重要と考えられるので、遊びを上手く利用した教育法などの工夫をする必要があるように思う。極言すれば、言葉のプログラムを自然に働かせながら、話されている言葉を自然に取り込ませればよいのではないか。そのためにも、言葉のプログラムはどうなっているか、脳科学で明らかにしなければならないと思うのである。

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