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研究室

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子ども達が持つ新しい映像感覚

河村智洋 (チャイルド・リサーチ・ネット 外部研究員)

2007年3月 2日掲載

要旨:

家庭のメディア環境が急速に変わっている。この変化は、大人の世代にとってはアナログのデジタルへの置き換えでしかない。しかし、子ども達にとってはデジタルが最初に出会うメディアになっており、このことが、新しいメディアの利用の仕方に大きな影響を与えていると著者は考えている。大人は、それをアナログ時代の代替として使っていくが、最初からデジタルを使っている子ども達は、デジタルにより適応した形で使っていく。この違いは、アナログ世代の大人とデジタル世代の子どもとのメディア利用に大きな違いをもたらしていると考える。
アナログ世代の大人とデジタル世代の子どもとのメディア利用

家庭のメディア環境が急速に変わっている。ブロードバンドのインターネットが家庭に急速に普及したことは既にいわれているが、それ以外にも大きく変化していることがある。一つはハイビジョンテレビの普及が始まったことだ。本格的な普及期への突入は20%を超えてからと言われているが、薄型テレビの家庭普及率が2006年3月現在で19.8%(内閣府「消費動向調査」)になり、普及期に入ったといえよう。また、2011年にアナログ放送が終了し、デジタル放送への移行が決定されていることもあり、地上波デジタル放送に対応したハイビジョンテレビ、つまり液晶テレビやプラズマと呼ばれる薄型テレビが家庭に入り始めた。近年、オリンピックやサッカーのワールドカップが行われたことも、その普及に拍車をかけた。つまり、ハイビジョンで美しい映像を見ることが家庭において当たり前になりつつあるといえよう。これらに付随して、テープ媒体から大容量のハードディスクを搭載したデジタル録画へと、映像を録画する装置も変わりつつある。もう一つの変化は、家庭における映像媒体のデジタル化である。多くの家庭でデジタルカメラが利用されるようになった。そして、それを家庭のプリンターで印刷するという写真の利用そのものが変化している。従来は、静止画のデジタル化だったが、最近では映像もデジタル化されてきている。Hi8といわれるテープ媒体からDVD、ハードディスク、メモリーでの録画に変わってきている。


このような変化は、大人の世代にとってはアナログのデジタルへの置き換えでしかない。しかし、子ども達にとってはデジタルが最初に出会うメディアになっており、このことが、新しいメディアの利用の仕方に大きな影響を与えていると著者は考えている。デジタル化により、使い勝手など様々な部分が大きく変わっている。大人は、それをアナログ時代の代替として使っていくが、最初からデジタルを使っている子ども達は、デジタルにより適応した形で使っていく。この違いは、アナログ世代の大人とデジタル世代の子どもとのメディア利用に大きな違いをもたらしていると考える。

以上の点に注目しながら、具体的にどのような変化が起こっているのかを観察するため、子どもにデジタル機器を貸与し、撮影した画像・映像を分析することにした。主な観察・分析の視点は以下のとおり。
・これから映像は、子ども達の世界にどう入ってくるだろうか?
・デジタル映像の驚異的な変化は、子ども達にどんな影響を与えるだろうか?
・テキスト・画像・映像の今後
・ネットとのかかわり


デジタルムービーカメラを利用しての実験

今回利用したのは、サンヨーの「Xacti (ザクティ)」というデジタルムービーカメラである。これは、デジタル形式で映像が撮影できるカメラなのだが、最大の特徴はmp4形式で撮影できることにある。WEB形式を選べば、Podcast(ポッドキャスト)やインターネットに対応した形式での撮影・記録が可能である。また、映像のいらない部分をカットしたり映像をくっつけたりするなどの簡単な映像編集ができる点も大きな特徴である。タイトルを入れることはできないが、タイトルは必要ならば紙に書いて撮影してしまう方法がある。複雑な作品を見てもらいたいときにはパソコンを使っての編集が適しているが、撮影した映像記録を簡単にインターネット上に公開したい場合には、ザクティのような機材を使うことで簡単に可能となる。つまり、ブログに日記を書くような手軽さで、音声やビデオのポッドキャスティングを配信することが可能となっているのだ。

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デジタルカメラ/デジタルムービーカメラ Xacti (ザクティ) | 三洋電機
http://www.sanyo-dsc.com/



デジタル世代の子どもが撮影する画像・映像からわかったこと

今回の被験者は小学生4年生の女子。2006年8月21日から31日までの10日間、前述のザクティ(デジタルビデオムービー)を貸与し、自由に画像・映像を撮影してもらい、期間終了後、機材とデータを回収し、分析を行った。

画像について、著者が子どもの頃と大きな違いはないという印象を得た。個人的な経験ではあるが、初めて自分のカメラを持って旅行に行ったときに、それは動物園に行ったときのことだが、動物の写真をたくさん撮ったことを記憶している。被験者の場合、家族で出かけた先は水族館であったが、手ぶれやピンぼけを気にすることなく多くのものを被写体にし、たくさんの画像を撮影していた。著者の場合、最初は撮影する枚数は意識せずに撮っていたが、フィルム代と現像代がかかることを知ってからは、撮る枚数を制限してカメラを使っていたと記憶する。しかし、今の子ども達の場合、デジタルカメラなので、撮影枚数を気にすることはないようだ。もちろん、プリントアウトすればお金がかかるのだが、写真を確認してから現像できる点が、フィルムカメラの時代とは大きな違いだろう。今回の観察期間中では上記のような結果であったが、この子どもの写真の取り方が今後どのように変化するのかを追ってみていくと興味深いのではないかと考える。

映像について、動きのあるものや人間を中心に撮影していることがわかった。静止画である写真と動画である映像とは異なるものと認識していると感じた。つまり、記録と記憶、デジタル写真が記録として撮られているのに対して、映像は記憶をサポートするものとして撮影されているのではないかと考えた。

被験者が撮影した映像を見ていると、最初は何もわからずに使い始めて、お父さんやお母さんに使い方を聞きながら、だんだん使い方がうまくなっていく様子がわかる。機材の様々な機能は、説明書を読むのではなく実際に使ったり聞いたり試したりしながら使いこなしていくのが今の若い人たちの特徴である。画像や映像に指が入ったりぶれたり失敗を繰り返しながら学んでいっているのだ。


インターネットと映像

この数年でインターネット、中でもブロードバンドの普及が急速に進んだ。今の小中学生の家庭の多くにもブロードバンド接続されたパソコンが入ってきている。そして、その大容量のデータ転送速度を利用して、映像や音声を配信するサイトが増えてきている。

そのなかで、インターネットでの音声・映像配信の変革をもたらしたものの一つが「Podcast(ポッドキャスト)」である。ポッドキャストはアップル社がiPod向けに始めたサービスの一つで、音楽を持ち歩いて聴くための装置としてiPodは不動の地位を築いている。メインのサービスは、有料の音楽をアップル社のショッピングサイトで購入して聴くことだが、ポッドキャストは、個人に向けて開放された映像配信システムである。このシステムを利用すれば、誰もが簡単に映像や音声を配信することができる。そして、それはiPodという多くの人が持っている装置に送られる。これまでのパソコンと違ってiPodユーザーは非常に多く、かつモバイルで音声や映像を利用する環境がそろっている。

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アップル - iPod + iTunes
http://www.apple.com/jp/ipod/


また、もう一つのインターネットにおける映像流通の変化としてYou Tube(ユーチューブ)というサービスがあげられる。You Tubeは、誰もが簡単に自分が持っている映像コンテンツをサーバー上にアップロード、それを公開、共有できるというものである。その手軽さと映像のクオリティ、サーバーの安定性の面で、それ以前の映像アップロードサイトとは一線を画し、多くの利用者を獲得した。特に日本での人気が高く、日本語対応ではなく英語だけのサイトとしては破格の利用者数を誇っている。一日に1億本の映像がYou Tube経由で見られ、その3分の1は日本人と言われている。You TubeがGoogleに買収されたことが大きなニュースとして伝えられたが、今後この分野の大きな変化が予想される。

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You Tube - Broadcast Yourself.
https://www.youtube.com/



デジタルデータの映像へ

You Tubeの出現は、テレビの見方を一変してしまったといえるのではないだろうか。従来、テレビは番組表を見て、見たい番組が放送されるときにテレビの前で見るものであった。しかし、ビデオの普及により、見たい番組を前もって予約録画することが可能となり、自分の好きな時間に何度でも見ることができるようになった。さらに、ビデオもテープの時代からハードディスクの時代に移り、何百時間も録画可能となり、気になる番組はとりあえず録画をし、後から見たいものからチェックすることができるようになった。その究極の形態がソニーのXビデオステーションで、2テラバイトのハードディスクを搭載し、アナログの8つのチャンネルを同時に3週間連続で録画することが可能になった。これはテレビのタイムマシンで、後から見たい番組にいつでもたどり着くことができる。

しかし、このような大容量、大量録画が可能になって起こった現象の一つがテレビを見なくなることである。大量録画をしている人の多くがテレビ番組そのものを見なくなってきている。また、もう一つの特徴として、番組を見たとしてもCMをスキップしているということが言われ始めている。

一方、You Tubeは多くの人が面白かった映像を同じ共通の場にアップロードしていく仕組みである。その中では、コメントや評価が行われ、それぞれの映像がランキングされていく。よって、そこを見れば、何が面白いかは一目瞭然である。また、面白い映像については後から聞いて知ることが多い。従来ならば、知人が偶然にも録画していたなどのことがない限り、その映像を手に入れることは難しかった。しかしYou Tubeならば、そのような面白い映像は皆がこぞってアップロードする。You Tubeを見れば、たいがい見たい映像にたどりつくことができるのだ。また、映像によってはテレビ局側からのクレームによって消されることもあるが、そのような人気の映像はアップされると同時に多くの人が見ており、その一部の人は録画をしているので、すぐに同じ映像が別の人によってアップされるということになり、著作権上の問題の検討は必要だが、見たい映像を確実に見ることができるのが現状である。このようなことから、テレビ番組はテレビという装置を使ってみるのではなく、パソコンでインターネットを使って見る割合が急速に増えているといえよう。CMすら、見たいCMをYou Tubeで選んで見るようになってきている。同時に、それだけ多くの人が映像を見る媒体としての存在を確立したために、それを利用して宣伝したり、自分の作品や自分自身を売りこむためにそこに登場する人達も増えてきた。

ポッドキャスティングやYou Tubeは全く新しい映像の流通システムをつくりつつある。映像というコンテンツのあり方は、これから全然違ったものになるだろう。特に放送という一方的に映像を流すシステムへの影響は大きいだろう。実際、テレビ欄から番組を選んでテレビの前に座って見ることは、特に若い人の中では少なくなりつつあるようだ。インターネット上のコミュニティや掲示板の書き込みなどから見たい映像にたどりつくことのほうが多くなってきている。テレビでの視聴よりネットでの視聴に移りつつあることはもう事実として存在し、真剣に見るコンテンツはネットで見たいものを探してきて見るということが起き始めている。

モバイルでのテレビ視聴としてはじまったワンセグは、実際のところあまり使われていない。リアルタイムで見なければいけないほどのコンテンツが今のテレビ番組には少なくなったのではないか。著者が子どもの頃、モバイルテレビは夢の装置だったが、今ではそれほど魅力のあるものではない。むしろ、PodcastやYou Tubeから取り出した映像をモバイルでも見ることが多くなっている。


個人が撮影した映像が力を持つ時代へ

今後、映像・音声コンテンツの担い手は、WEB2.0時代のSNSやブログが示しているように、個人に移行してくるだろう。多くの人が、特別な知識がなくても簡単にある程度のコンテンツを制作できるようになる。そして、それを流通させることもインターネットを使うことによって容易になっていることはポッドキャストやYouTubeの事例が示している。

そのような新しい映像・音声コンテンツの流通の中では、映画やテレビ、ラジオのように多くの人に見てもらうため聴いてもらうための演出は必要なくなり、莫大なコストをかける必要もなくなる。つまるところ、たった一人に見てもらうための映像、自分のための映像なども出てくるであろう。また、そのような映像の中から多くの人の共感を得るような作品も出てくる。これまでとは違った経路での映像の伝播もおこる。同時に広告などのあり方も変わってくるだろうし、テレビやラジオ、映画などの既存のメディアのあり方も大きく変わってくるに違いない。

ブログで起こっているように個人の情報発信力が急速に強くなってくるに違いない。それと同時に、映像流通システムの再編が始まるだろう。今後、どのようなかたちに収まっていくのか、非常に興味を持ってみていきたい。

このようなメディア環境の変化のなかで育つ子ども達は、どのような適応をしていくのだろうか? 中学生や高校生と話をしていると、iPodを持ち、You Tubeで話題になった映像は見ていることが多い。
彼らの中では、テレビ番組をテレビで見るよりも、映像をパソコンで見ることに既に慣れてきているように感じる。また、パソコンで見ていると言うことは、その情報をインターネットから得ているということで、それだけの情報網をネット上に持ち、使いこなしているともいえる。特に、音楽や映像に関する興味はもともと高いので、それらに対するアプローチは非常に強く行われている。

今回、実験的に子どもにデジタルムービーカメラを使ってもらう試みを行った。このような素朴な映像表現が、どのようにネットワークでの映像表現につながっていくのかに非常に興味がある。長期的な観察をしていきたいと考えている。

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