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実験する力と楽観する力を育むデザインラーニングの可能性

要旨:

他者のためにデザインする行為を通じて様々な学びが起こる。特に児童が他の児童を楽しませる遊びを考案し、それを試行錯誤によってより楽しい遊びに改善していく体験が、「実験する力」や「楽観する力」といった、創造的な思考力を育む上で必要となる能力を習得させる効果をもつことが確認された。

※本研究の取り組み内容詳細については、学生チームによる研究レポート参照のこと。


Keywords: サービスデザイン,遊びのデザイン,主体性,創造的思考力,プロトタイプ
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21世紀型教育の手法開発に取り組んだ学生のメンバーは、慶應義塾大学経済学部のゼミナールで、サービスデザインと呼ばれる、サービスを作り出す方法を研究している。近年のデザインの範囲は急速に広がっており、プロダクトやファッションのような形のある物だけでなく、サービスや組織、制度といった仕組みまでもがデザインの対象となってきている。

本研究プロジェクトの開始当初は、小学生を対象に、ストーリー性をもつゲームを活用した新たな学習サービスを考案することが目標に設定されていた。それは、ある架空の物語世界でのミッションを小学生の児童に演じさせ、その体験を通じて想像的に問題解決を行う態度を身につけられるようにするというものである。その有効性を確認するため、実際に小学生の児童を対象にゲームを用いた情報リテラシー習得のワークショップを実施した。参加した児童には、モチベーションの向上や活動の活性化、積極的な意見の表明などの変化が現れたが、物語の演出やゲームの楽しさの方に心を奪われ、情報リテラシー習得については充分な効果が確認されなかった。

学生たちは、そのような結果を受け、再度、研究の目標や、ゲームや遊びといった児童を動機づける手段の活用方法について検討を行い、研究テーマを「主体性と創造的思考力の養成」という課題として設定し直し、またゲームを児童にプレイさせる手段ではなく、デザインさせる対象として新たに位置付けることとなった。前者のテーマ設定については、トニー・ワグナーやティム・ブラウンなどの見識者の考えを参考としたが、後者のゲームのデザイン対象としての位置付けについては、学生らが先のゲームワークショップをデザインする過程を通じて様々な学びを得た経験に基づいての判断である。

サービスデザインでは、まずサービスのユーザの問題状況や行為、感情を共感的に理解することを重視し、ユーザの視点に立って、デザインが達成すべき課題を設定する。次に、設定された課題に対して様々なサービスのアイデアをスケッチやマップなどの視覚的記述を用いて考案し、さらにそれを体験的に評価するためのプロトタイプを作成する。プロトタイプの使用体験とアイデア発想で期待したイメージとの差異を確認すると、そのアイデアの前提認識や表現方法についての新たな気づきが起こり、それを基にさらに望ましいサービスに向けての改善を続けていく。

学生たちは、自らが実践的に学んでいる、このようなサービスデザインの学習効果に着目し、それをヒントに小学生児童の創造的思考力と主体性を育むワークショップを開発することとなった。実際に、児童が体験する「相手を笑わせる遊びを作り出す」ワークショップは、児童が「楽しい遊び」を「相手を笑わせるサービス」としてデザインすることから、主体性と、創造的思考力として特に「実験する力」と「楽観する力」を伸ばすことができるよう工夫されている。そして、そのプロセスは、1)他者の遊びの体験を想像する、2)想像された遊びを現実の遊びとして体験する、3)想像の遊びと実際の遊びの違いから気づきを得る、4)気づきをもとにより楽しい遊びを想像する、という4つのステップで構成されている。実は、ゲームにもこのプロセスと類似の学習効果がともなうのだが、多くのゲームではプレイの仕方に正解があることや、他者ではなく主に自分の楽しみのために試行錯誤を繰り返す点、またプレイの失敗からの気づきを個人的に、反射的に活かしていく点などで、今回の遊びをデザインするワークショップとの違いがある。

イノベーションや創造的な思考には、「正解の無い課題に挑む」という特徴が挙げられるが、そのようなチャレンジへの動機付けのためには、正解の無い問題に自分で主体的に答えを生み出すことに喜びを感じることと、その問題に興味をもつことが条件となる。また、予想通りの結果とならないことを恐れずに、やがてはアイデアの改善や問題の解決ができることを信じる「楽観する力」と、想像と現実のズレを繰り返し起こすことで、その試行錯誤から解決策を探る「実験する力」を養うことが武器となる。学生チームの研究活動を通じて、そのような能力を身につけ、発展させる方法の原型が生み出されたが、あくまでそれは一つのプロトタイプであり、今後のさらなる改善や、異なる形態のワークショップやメソッドの開発が必要である。

本研究は、教師である筆者がデザインした大学のゼミという学びの場において、学生たちが主体的に小学生の学びの場(ワークショップ)をデザインし、その学びの場において、小学生が他の小学生のための遊びをデザインするという、世代を超えたデザインと学習が展開したところに、もう一つのユニークな特徴がある。他者のために何かをデザインするという行為や、そのための場づくりが、21世紀の新たな教育方法の確立にとって有効なアプローチとなることに期待したい。

※本研究の取り組み内容詳細については、学生チームによる研究レポート参照のこと。

筆者プロフィール
武山 政直(たけやま まさなお)

慶應義塾大学経済学部教授
慶應義塾大学経済学部卒業後、同大学院経済学研究科に進学。1992 カリフォルニア大学サンタバーバラ校大学院に留学後Ph.D.取得。慶應義塾大学環境情報学部助手、東京都市大学講師、准教授を経て2003年より慶應義塾大学経済学部准教授に就任。2008年より同教授。都市メディア論、マーケティング論の研究を背景に、ICTを活用したサービスデザインの研究に着手。企業と顧客の価値共創プラットフォームの構築、ストーリーテリング手法を応用したサービスプロトタイピング、サービスのイノベーションの方法開発を対象に、実践的な産学共同研究プロジェクトを推進。Service Design Network会員、SDN Japan共同代表。
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