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オンラインシンポジウム 「子どもとメディア~幼児教育における研究・実践の最前線~」レポート

2020年3月 6日掲載

幼児教育・保育の現場においてデジタルメディアの活用が着実に広がっています。そうした中、チャイルド・リサーチ・ネット(CRN)では、2020年2月17日(月)、幼児教育・保育におけるメディアの活用に関する最新の研究・実践や課題を共有するオンラインシンポジウム「子どもとメディア~幼児教育における研究・実践の最前線~」を開催し、日本語・中国語の二言語で生中継。国内だけではなく中国の視聴者からも多くの質問がリアルタイムに寄せられ、このテーマへの関心の高さがうかがえました。当日の発表や議論の様子をお伝えします。

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(シンポジスト)
堀田博史(園田学園女子大学教授)
田爪宏二(京都教育大学准教授)
森田健宏(関西外国語大学教授)
松山由美子(四天王寺大学短期大学部教授)
中村恵(畿央大学准教授)
薛 燁(米国・メンフィス大学准教授)
榊原洋一(CRN所長、お茶の水女子大学名誉教授、ベネッセ教育総合研究所常任顧問)

※発表順
※田爪准教授・森田教授はビデオ映像による発表
※薛准教授は、インターネットのビデオ会議システムを用いて参加

(司会) 佐藤朝美(愛知淑徳大学准教授)

園現場での活用の幅が、着実に広がっている

はじめに、今回のシンポジウムをCRNと共に企画し、当日は司会を務めた愛知淑徳大学の佐藤朝美准教授が、趣旨説明を行いました。佐藤准教授は、デジタルメディアが社会に深く浸透し、子どもにとっても日常的な環境の1つとなっているとし、次のように語りました。「デジタルメディアを園の現場に導入して幼児教育・保育の質を高めるための研究も精力的に進められています。今回は、研究者同士だけではなく、研究者と一般の皆様が意見交換を行う機会にもなるよう、オンライン上でのシンポジウムを実施することにしました。そうして、園におけるデジタルメディアの活用の可能性をさらに探っていきたいと考えています」。

続いて、この領域における研究の先駆者である園田学園女子大学の堀田博史教授が、日本の幼児教育・保育におけるメディア活用の軌跡を解説。1988年頃に遊具としてのコンピュータの利用が始まりとされ、その後、タブレット端末に移行した流れを紹介しました。当初は保育者や保護者の側にメディア活用に対する抵抗感があり、保育者や学生を対象としたカリキュラム開発や保護者への情報発信により、活用に前向きな空気が醸成されてきたことにも言及しました。最新の研究成果としては、堀田教授が2018年度より実施した「黎明期を迎える幼児教育・保育でのタブレット端末活用に関する研究」の調査結果を紹介し、全国の園におけるタブレット端末の活用状況を明らかにしました。堀田教授は「タブレット端末の活用はまだ一般化しているとまでは言えませんが、保育場面での利用や保護者との情報共有など活用の幅が広がっています」と現状を語りました。

AIロボットとの対話が認知的能力を高める可能性

次に、最先端の研究として園にAIロボットを試行的に導入した事例について、京都教育大学の田爪宏二准教授と関西外国語大学の森田健宏教授が紹介。お二人はビデオ映像による発表となりました。

このロボットはシャープ社が開発した高さ20cmほどの人型ロボット「ロボホン」で、人間の発話に対して適切な言葉を返すなどの機能があります。5歳児クラスの自由遊びの時間にロボットを置くと、徐々に声をかけたり質問したりする姿が見られました。森田教授は「子どもだけで条件やルールを学びとり、返答可能性の高い言葉を選んで使っていました」と語りました。さらに自分が何をして遊んだかをロボットに話す活動でも、子どもたちはロボットの反応に合わせて発話を調節していました。田爪准教授は「こうした姿は、メディアに対するリテラシー、すなわち認知的能力の育ちの一端と考えられます。技術革新によりAIロボットの適用可能性が広がることで、子どもの発達への影響も一層見えてくるでしょう」と、研究の展望を話しました。

園向けアプリ「ASCA(アスカ)」を活用し、子どもと保育者の双方を支援

幼児教育・保育において、タブレット端末を用いた効果的な実践と評価を行うためのアプリ開発も進められています。「ASCA」は、園における子どもの学びと保育者の援助を支援するアプリで、セキュリティを重視したカメラ機能や、保育者が写真にタグを付与して記録として振り返ることができるアルバム機能などを備えています。

その開発にかかわっている四天王寺大学短期大学部の松山由美子教授が、ASCAを活用した実践事例を紹介しました。保育室にタブレット端末を置いて自由に使えるようにした園では、子どもが興味のあることや発見したものを撮影し、それを見ながら自分の思いを伝え合う姿が見られました。さらに、複数の子どもが撮影した朝顔の写真を比較すると、焦点の違いにより子どもの興味が異なることに保育者が気づくなど、子ども理解の深まりにもつながりました。松山教授は「子どもはタブレット端末を自分の思いを表現するツールの一つとして活用していました。また、保育者からは子どもの興味・関心が明確になり保育計画が立てやすくなり、保護者との連携ツールとしても活用できたという声が聞かれました」と話しました。

リフレクションにアプリを活用し客観性や具体性が向上

同じく「ASCA」開発にかかわる畿央大学の中村恵准教授は、別の活用事例について発表。年長クラスに1人1台導入した園では、幼児期から情報モラルを育むことにも重点を置き、相手の立場に立って考える大切さを子どもと共に考えることを通して規範意識につなげたり、イラストを使ったパスワードでセキュリティ感覚を育んだりしました。自分の大切なものを撮影し、その理由を言葉で伝える活動も展開。中村准教授は、「認知的スキルと社会情動的スキルが相互に高まる中で、その仲立ちとなるツールとしてタブレットが位置付けられると考えています」と述べました。

一方、保育者に1人1台を導入した園では、日常的に子どもの姿を撮影し、それぞれに「10の姿*注」によるタグを付与。週1回、保育者全員で検討し、掲示用ドキュメンテーションを作成するなどの試みを行いました。リフレクションにタブレット端末を活用することで客観性や具体性が高まり、保育者の主体性も向上し、多くの気づきが得られるサイクルが生まれたといいます。

*注 幼児期の終わりまでに育ってほしい子どもの姿を、「健康な心と体」「自立心」「共同性」などの10個の具体的な視点から捉え、より明確化したもの。幼稚園教育要領、保育所保育指針、幼保連携型認定こども園教育・保育要領の2017年の改定で重要なポイントとして位置づけられ、2018年4月より施行された。

研究者と保育者による共同研究を高く評価

これらの発表を受けて、アメリカ・メンフィス大学の薛燁准教授が、インターネットのビデオ会議システムを通じてコメントしました。薛准教授は、堀田教授の研究について、長年にわたり様々なメディアについて大規模な調査を継続してきたことを高く評価し、メディア活用の変遷の経緯がよく理解できたと語りました。

また薛教授は、AIロボットに関する研究も非常に興味深く受け止めたとし、ロボットとの言葉によるコミュニケーションを通じた発達を肯定的に捉えました。その上で、「幼児期にはまだ言葉で表せない感情などの表出によるコミュニケーションも大きな意味をもちます。今後のロボットの進化に伴い、言葉を超えた交流の可能性が開かれるのかを考えてほしい」といった課題も示しました。

「ASCA」の実践研究については、園内で研究者と保育者が子どもの姿を丁寧に観察して効果を確かめる姿勢が、幼児教育・保育の改善につながっている点を評価。「アプリの運用を通し、保育者は子どもの支援に対するフィードバックが得られます。こうした双方向的な学びにより、子ども、保育者、保護者にとって有用なインスピレーションが生まれるに違いありません」と語りました。さらに、幼児期からメディアに関するモラルやルールの習得を進めている点でも、アプリの有効活用に期待を寄せていました。

メディア活用による子どもの発達や情緒への影響

続いて、会場の5人の研究者(堀田教授、松山教授、中村准教授、佐藤准教授、榊原所長)によるディスカッションを実施しました。中国の視聴者からも多くの質問が寄せられ、中でも「子どもが受動的になったり、のめり込んだりするのではないか」という心配の声が目立ちました。これに対して堀田教授は、「保育現場の多くで、メディア活用にあたっては、個別の遊びを協働に発展させて、双方向のやり取りが生まれるように心がけています。家庭でも協働に展開できることが望ましい」と答えました。

子どもの情緒的な発達への影響については、CRNの榊原所長が回答。まずテレビに関する多くの研究では、テレビを視聴すること自体ではなく、1人で長時間見て保護者との会話が減ることで、言葉の発達の遅れや情緒の不安定さを引き起こすケースがあると指摘されていることに言及。その上で、「タブレット端末が子どもに及ぼす影響はまだ結論づけられていませんが、インタラクティブな点はテレビとの違いです。子どもの能動性を引き出す半面、参加型ゲームなど相手がいるので中断しづらいことには注意が必要かもしれません」と指摘しました。

タブレット端末のセキュリティや管理方法については、松山教授が「園内LANのみに接続して外部への情報流出を防いでいます。保育者がプライベートで使わないなどの意識も徹底する必要があるでしょう」と回答しました。

また、保護者との情報共有のあり方についても視聴者から質問が寄せられました。中村准教授は、「写真とともに『10の姿』を示して成長を伝えたり、保護者面談ではタブレット端末で動画や写真を見せたり、最近は作品展などで作品と一緒に完成に至る協働のプロセスの映像を公開して育ちを共有するといった方法もあります」といった事例を示しました。

適切なアプリの開発がさらなる活用の推進に不可欠

今後さらにメディア活用を推進するためには、幼児向けアプリのさらなる開発が必要という点でも研究者の意見は一致しました。堀田教授は「大人は不適切な言葉を削除したり無視したりできますが、子どもにそうしたリテラシーはありません。子ども向けアプリの開発と、メディアリテラシーの向上に取り組む必要があるでしょう」と話します。

松山教授も同様の課題意識を示し、「大人が管理することも大切ですが、子どもが能動的、かつ安全に使うことができるようなアプリが出てくることを望みます」と述べ、さらに中村准教授も「私も一定の制限は必要と考えており、その上で子どもと一緒に使い方を考えていく姿勢が大事だと思います」と、子ども主体の活用を進めるためのヒントを提示しました。

そして、ディスカッションの最後には、司会の佐藤准教授が「便利さの追求だけではなく、幼児教育・保育の質を高めたり先生の考えが深まったりするような使い方を皆さんと一緒に考えていきたいと思います」と述べました。

まとめ

幼児教育・保育におけるメディア活用は、今、まさに黎明期にあると言えます。榊原所長は、「保育者や保護者のメディアリテラシーの個人差は小さくありませんし、園によってインフラや設備の整備状況も異なります。さらに、コンテンツをどうしていくかという課題もあるでしょう。最新の研究成果とともに、こうした多くの課題を共有できたことは大きな前進です」と締めくくりました。

引き続き、CRNでは多くの研究者とも連携し、幼児教育・保育におけるメディア活用の可能性を追求して、最新の知見を発信することに努めていきます。ご期待ください。



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