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オンラインシンポジウム 「子どもとメディア~幼児教育における研究・実践の最前線~」Q&A

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2020年2月17日に行われたオンラインシンポジウム「子どもとメディア~幼児教育における研究・実践の最前線~」において、ライブ配信中に、日本と中国の視聴者より寄せられた質問に対して、シンポジストの先生が回答します。

(回答者)
佐藤朝美(愛知淑徳大学准教授)
堀田博史(園田学園女子大学教授)
田爪宏二(京都教育大学准教授)
森田健宏(関西外国語大学教授)
松山由美子(四天王寺大学短期大学部教授)
中村恵(畿央大学准教授)

*シンポジウムの詳細はレポートをご覧ください。

全般

Q. メディアに対する保護者のネガティブな意識は、メディア活用によって子どもの行動が受動的になることへの心配からだと思いますが、現場で注意している点はありますか? (日本の視聴者より)

A. 堀田:保育では、個別の遊びのためにタブレット端末などを活用することは、あまりありません。個別から協働的な遊びへ展開するなど、保育者は保育のねらいを決め、それを達成するために、展開を考えていきます。


Q. 幼児向けのタブレットは、一人1台でしょうか? その場合、費用はいくらですか?(中国の視聴者より)

A. 堀田:一人1台でお絵描きアプリを活用する園もありますが、主流は、クラスの人数が30名だとしたら、4~5名に1台程度をグループで使用します。例えば、タブレット端末は1台4~5万円ほどです。タブレットの管理者は、担任の先生である場合がほとんどです。
私の実践では、1クラスに1台もしくは2台です。だいたい10人程度に1台だと思っていただければと思います。研究用のタブレットを貸し出ししていますので無料です。
タブレットの管理は幼稚園にお任せしています。保育室に置いていることが多いので、管理者は担任保育者になるかと思います。不具合が起きた時はこのプロジェクトの研究者が対応しています。

A. 松山:私の実践でも、研究チームのタブレットを無料で貸し出していたため、1クラス1台もしくは2台です。

A. 中村:一人1台の例については、社会福祉法人の園での例です。タブレット端末1台5万円弱×45台+プロジェクタおよびLAN設備費等で相当額の費用が発生しています。この園では、理事長が最初から特別予算を組んで導入していますが、それを公立の園で実現するのはおそらく大変難しいのではないかと思います。


Q. 幼稚園の段階でタブレット端末を導入する主な目的は何ですか?写真を撮ってシェアすることでしょうか?(中国の視聴者より)

A. 堀田:タブレット端末を活用する保育が、従来の保育の何かと置き換わるのではなく、保育の多様性が求められる中で、子どもにわかりやすく説明したり、子どもが活動を振り返ったりする場面などで、様々な方法のひとつとしてタブレット端末も活用すればよいと思います。子どもの使いすぎを防ぐためにルールを守ることを徹底しないといけません。

A. 松山:日本の場合、幼児教育の段階でのタブレット端末導入の目的は園によってさまざまです。
プレゼンテーション能力の育成や、新たな表現活動のためのツールとして導入している園もありますし、文字や数字、新たな知識等の修得支援のために導入する園もあります。
今回、私が報告させていただいた園には、子どもが自分の思いを可視化することで、自らの学びを友だちや保育者に伝えるための支援ツールとして、また、絵画や音楽などの従来の表現活動に加えて新たな表現ツールとして活用してほしいというねらいをお伝えしたうえで導入していただきました。さらに、一人1台ではないので、協力して1つのものを扱うことができるような態度を育てるきっかけにしてほしいとも考えていました。
保育者へのインタビューでは、タブレット端末の写真に頼って言葉でのプレゼンテーション能力の育ちがおろそかになるのではないかという不安も最初はあったと聞いています。しかし、話すことが苦手だった子がむしろ写真があることで、少しずつ言葉を発していき、成長する姿が見られてよかったと回答してくれています。伝える経験、伝わった時の嬉しさや、話し合いがスムーズに行われるようになったことで、自分の思いや学びを誰かに伝えるためのツールとして活用することの楽しさを感じただけではなく、どのようにすればよりよく伝わるかを考えることができるようになったと保育者も語っていました。

A. 中村:幼稚園の段階でタブレット端末を使用する最も大きな目的は、小学校以降の自覚的な学習活動以前の段階で、子ども自身の興味や関心に基づいて、幼児期なりの方法でデジタルメディアを経験することで、主体的に情報を扱う姿勢を身につけることではないかと考えています。園によって短期的な目的は様々ですが、研究者が参画することにより、このような長期的な方向付けが可能になるのではないでしょうか。


メディアと学び

Q. メディア活用については、協働作業によるものと、個人作業の活用と2つあると思いますが、小学校以降は、「アダプティブラーニング」にデジタル機器を活用し、個人の能力に合わせた学びができるようにすることが価値の1つです。幼児期でのアダプティブラーニングの活用について、詳しく知りたいです。(日本の視聴者より)

A. 堀田:デジタルメディアで、個人の能力に合わせた学びを実現するには、教育データの蓄積が必要です。それは、保育現場だけではなく、家庭でのメディア活用のデータも含みます。日本の幼児教育では、それを実現できるメディア整備環境も整っていませんので、現段階では難しいと思います。


Q. 子どもは中継配信やオンラインレッスンから学ぶのに適していますか? たとえば抖音(中国版TikTok)から学べる内容はたくさんあり、そこから学んでいる乳幼児も多いです。(中国の視聴者より)

A. 松山:適しやすい子もいると思いますし、適さない子もいると思います。また、個人的には、内容や状況によっては、中継やオンラインレッスンが有効に活用されると思います。これはテレビ視聴についての日本での研究結果ですが、親子で話し合いながらテレビを見ることや、クラスの友達などとテレビ視聴後に感想や意見を交換させることで視聴による学びの効果があることも分かっています。今後はテレビ活用の研究にとどまらず、オンラインレッスンなど双方向性のあるメディアによる研究が必要ではないかと思います。

A. 中村:さらに、無自覚な学びの時期である幼児期においては、オンラインレッスンにおいても、子どもから働きかけたいと思えるような工夫が必要で、そのそばにはやはり生身の大人が一緒にいて、オンラインで返ってくる反応に対して一緒に喜んだり驚いたりすることがとても大切ではないかと思います。


Q. タブレット学習は伝統的な学習と比べて、何か違いますか? (中国の視聴者より)

A. 堀田:伝統的な学習とは、従来の保育からの学びを言われているとしてお答えします。保育でのタブレット端末の活用は、カメラ機能などを活用した協働的な学びが中心です。一方で、家庭でのタブレット端末の活用は、映像視聴やドリルが中心となります。いずれにせよ、伝統的な学習のように、子どもたちに考えさせる時間を状況に応じて作り出せることが大切で、それを現在のタブレット端末のアプリで実現させるのは難しいです。今後、AI技術が進化し、子どもの状況に合わせたAI判断ができるようになれば可能性はあります。


Q. 従来の教育方法と比較して、タブレット端末教育の長所と短所は何ですか?(中国の視聴者より)

A. 松山:従来の保育との比較ですが、今回、私が紹介した実践では、何かを学ぶためにタブレットを導入した訳ではなく、あくまで今までの保育の内容を可視化するためのツールとして導入したので、伝統的な保育にタブレットを足した、という風にご理解いただければよいかと思います。ですので、比較という言葉がうまく当てはまりません。


ロボット・AI

Q. ロボットとのコミュニケーションが、周囲の園児とのコミュニケーションをとる以上にどのようなメリットがあるのかを知りたいです。(日本の視聴者より)

A. 田爪・森田:私共と致しましては、保育環境への導入という条件のもと検討しておりますので、以下のような考えを抱いております。

  1. 今後、世の中に様々なメディアやAI機器が広まると考えられる。それらへのリテラシーの育ちの出発点として、比較的子どもにもなじみやすいロボットとのコミュニケーションは有効ではないか。
  2. 多様性が求められる社会になり、自分たちとは異質なものとのコミュニケーション能力が求められるようになる可能性がある。その中で、相手の特性を見極め、それに対応して自らのコミュニケーションのスタイルを変化させるというスキルが、ロボットとの関わりの中で育つのではないか。
  3. 但し、人間同士のコミュニケーションや、幼児期の必要な経験が保育に重要であることに変わりは無く、ロボットとのコミュニケーションがこれらに取って代わるものではない。特に幼児期の認知的、非認知的スキルの育ちは、幼児期の豊かな経験とそれを可能にする教育環境によってもたらされるものであるが、ロボットとのコミュニケーションは従来の経験に新たな要素として加わることはあっても、直接的な経験に代わるものではないと思われる。
以上のように、ロボットとのコミュニケーションは、周囲の園児同士のそれとは異なった様々な経験をもたらすと思います。他方で、園児同士のコミュニケーションが幼児期の経験として重要であることは言うまでもなく、ロボットとのコミュニケーションはそれに代わるものではないと思います。


Q. ロボット・AIをヒト型に造形するのは日本の特徴と聞いたことがあります。AIスピーカーのような「キカイ」と「ヒト型」でコミュニケーションの取り方やその効果に違いがあるかもしれませんね。(日本の視聴者より)

A. 森田:この知見のうち"日本の特徴"という部分については、実は私共も初めて知ったことで、ありがたく、今後、その思想的背景の独自性などを探求していきたいと思っております。これまでの発達心理学分野において、赤ちゃんの心理的発達についてのロボット利用による研究は多く見られます。その点で、「ヒト」を認識する特徴との関係から、ヒト型に求める研究の題材になっているところも多く見られます。一方で、研究倫理の問題から適切ではないと思われますが、AIスピーカーのようにヒトでない対象から、つまり非生物から言葉を発せられる中で出生時より育つとすれば、言葉とは何物なのか(ヒトだけが持ち合わせている道具ではなかったのか)、どのように認識するものなのか、などを理解できればと考えております。

A. 田爪: 幼児期には、人間以外の物事に人間と同じ特徴を見いだす「アニミズム」という特徴がありますが、これは、幼児が自分の持っている知識(人間の特徴)を使って世界を理解しようとする働きであると考えることができます。対話型のメディアについても、子どもはより人に近い造形や動きをする人型ロボットのほうが人間になぞらえやすく、理解しやすいのではないかと思います。また、人型のロボットは、AIスピーカに比べて「身体の動き」があることにも特徴があります。幼児は自分の働きかけに対してより変化に富んだ反応をしてくれるものに興味を抱きます。このような特徴から、対話型のメディアに対する初期経験として、人型のロボットは子どもが馴染みやすいものになるのではないでしょうか。


Q. 日本の幼稚園でAIロボットの使用はどれくらい普及していますか? 私が知る限り、AIロボットは独自のアルゴリズムに基づいて新しい環境に対応できますが、幼稚園でのAIロボットの使用には隠れたリスクがありますか?たとえば、幼児を傷つけるような言葉を発する可能性がありますか?(中国の視聴者より)

A. 森田:日本の幼稚園ではAIロボットの保育実践での使用は、ほとんど無いと思います。私達のように、未来社会を想定して試行的に導入する実験が一部で行われている程度です。
一方で、サービス産業でロボットが導入されている事例は、近年、増えてきています。例えば、ホテルのチェックインや、飲食店の来客案内などで見られます。そのような利用実態から類推すれば、幼児に傷つけるような言葉を発する可能性は、日本で有名な音声発話マシンを調べる限り、不本意なものを除き、まず無いと思います。そして、そのように開発研究も行われていると思います。例えば、大人が高精度のAIスピーカーに非情な言葉を発しても、AIスピーカーが非情な言葉を発することは、まずあり得ません。ですので、言語コミュニケーションのシステムについては、日本では、かなり配慮されていると思います。その他、幼稚園でのAIロボットの使用の隠れたリスクという点については、幼児がロボットに関わる際、アニミズム的な心の働き(無生物に対して生物的な反応をすること)が伺えるときもあれば、子どもであるが故の非情な指示や発話をすることもあります。これは玩具一般に言えることかもしれませんが、擬人的であるが故に、もしかすると粗暴な発話や行動が現れやすくなることがあるのかもしれません。

A. 田爪:加えて、今回報告したロボホン(シャープ株式会社製)について言えば、開発者の意向で、乱暴な言葉や子どもに対して不適切な言葉は使わないようにプログラムされているそうです。ロボホンに限らず、一般に子ども向け、あるいは子どもが使用する可能性のあるメディアはには、そういった配慮がなされていると思います。ただし、子どもの働きかけに対して、ロボットが意図した反応をしてくれないと、子どもはストレスを感じたり、飽きてしまったりするかもしれません。


Q. AIロボットの利用によって、子どもとロボットだけのコミュニケーションによりマイナスな影響がありますか? (中国の視聴者より)

A. 森田:私共がこれまで研究を進める限りにおいて、大きなマイナスな影響は感じていません。しかし、これまでのヒトとヒトとのコミュニケーションのあり方とは異なる表現や言動が、今後、出てくるのかもしれません。ただし、これは時代の変遷と文化的背景によって、肯定・否定についてはいろいろな考え方があるのかと思います。例えば、言葉遣いの考え方も過去と現代では異なるものがあります。ヒトとヒトとのコミュニケーション自体の常識も時代に応じて変化してきているわけですし、言葉の扱い方や意味すらも変わってきているわけです。ですので、我々、大人の常識と異なる表現や言動が子どもへのマイナス影響と考えるべきか否か、そこは解釈の仕方なのかもしれませんが、生じうることかと思っています。

A. 田爪:AIロボットとの関わりはAIメディアのリテラシーや、メディアを通したコミニケーションスキルの育ちに役立つと思われますが、私は決して人とのコミュニケーションの代わりになるものではないと思っています。AIロボットとのコミュニケーションは、現実の人間同士のそれとはある程度別物と考えた方が良いでしょう。メディアに対しても人間に対しても、様々な経験を豊富にする事は幼児にとって有効であると思われるのです。ただし、メディアの利用に時間を使いすぎたり、関心が偏ったりすると、本来、必要な人間同士の直接的なコミュニケーションが減ってしまうことには気をつけなければいけません。特にメディアは時間を浪費してしまいがちで、際限なく続けることは幼児の自己抑制の育ちにとっても悪影響が懸念されます。このため、時間の管理をはじめ、メディアとのふれあいには、ある程度大人の関わりが必要になると思われます。


ポートフォリオと子どもの成長・評価

Q. ポートフォリオとして、評価に子どもや保護者も参加、つまり、自分(自分の子ども)の成長を振り返ることで、「こんなことができるようになった」⇒自己肯定感につながるといいですね。(日本の視聴者より)

A. 松山:私たちも、ASCAを活用して、保育者だけではなく、子どもが(また、場合によっては保護者が)撮影した写真も含めて評価が行われて、子どものよさが多面的に見えてくれば、なおよいのではないかと思っております。子どもの成長を保育者が撮影した写真をもとに保護者が振り返るワークショップの研究は、佐藤先生が今後シンポジウム等でご報告くださると思いますし、私もたちもASCAの活用をきっかけに、多様な視点での評価が進むことを期待しています。

A. 中村:「こんなことができるようになった」という結果までのプロセスを共有することによって、どんなふうにできるようになったのかを知り、その取り組み方の質の変化のようなものを共有できると、より自己肯定感を育むような援助ができるのではないかと思っています。


Q. 評価についてはとても興味があります。幼児期での「振り返り」と「成長」との関係について知りたいです。(日本の視聴者より)

A. 松山:新しい幼稚園教育要領等でも、活動がねらいどおりに行われたかを評価するのではなく、活動のなかでどのように子どもや保育者がねらいを達成しようとしたかを振り返ること、また、子どもがどのような学びの姿を見せ、成長につながる経験をしているかを振り返ることがとても重要であると示されています。成長につながるプロセスを示すために写真などを活用することはデジタルカメラ等で既に行われていますが、保育者が、子ども一人ひとりについて整理して振り返ることが少しでも負担なくできるように、ASCAでは撮影した写真を保存するためにサーバ用パソコンに個人フォルダを作成したり、タグを写真に付与して整理するという機能で支援したいと考えています。この機能があることで、保育者の振り返り作業において、以前よりもスムーズに、子ども一人ひとりの成長のプロセスを確かめることを意識的に行えるようになるのではないかと考えています。


Q. デジタルデバイスを触媒にして、幼児の育ちと保育者の関わりの意味意義意図が(リフレクションも通して)可視化されていることに大きな可能性を感じました。このとき、子どもの個々の育ちを保護者とどのように共有し、保育に活かしているのでしょうか? (日本の視聴者より)

A. 松山:私が実践していただいた園では、タブレット導入前から既に、保育者が保育中にデジタルカメラで保育中の様子を撮影した写真を印刷し、活動中の子どものつぶやきや保育者のコメント等を添えて掲示することで、保護者にも保育の様子や子どもの育ちを伝え、共有していました。ですので、タブレット活用後は、さらに子ども自身が撮影した写真が加わって、より子どもの興味や関心が可視化された状態で保護者にも伝えることができたと保育者も感じていると、インフォーマルインタビューで答えていただいています。幼稚園でも保育所でも、保護者面談等はもちろん、日々の送迎の時に保護者と話したりしますので、その時に子どもの育ちのプロセスを共有するツールとして活用してくれています。
保育に活かすという点においても、子どもの興味や関心が一人ひとり違うということに、写真を用いることで改めて気づきやすくなることで、子どもどうしの話し合いも進みます。保育者は環境の再構成や保育の進め方を再計画する際に、見えてきた子どもの興味や関心を大事にしていました。


Q. 幼児期なりのメタ認知の発達が子どもの主体性や成長につながる可能性がある、という中村先生のコメントは、とても参考になりました。(日本の視聴者より)

A. 中村:ご関心を寄せてくださりありがとうございます。幼児期は自己中心的であると言われていますが、実は子どもなりに今いる状況を客観視したり、他者からどのように見えているか等をタブレット等を用いて具体的な場面として認識することにより、外から見た自分を意識するようになります。その時に、「良い・悪い」で評価するのではなく、気づいたことを認めることによって、自然に「お友達の思い」に気づいたり、「お友達の立場になってみる」ということもできるようになる様子に、実践園の担任教諭が何度か気づいていました。これがおそらく社会情動的スキルを取得していくプロセスと言えるかもしれません。そして幼児期なりのメタ認知に保育者が気づいて、それをベースに子どもとともに環境の再構成をしていくことも大切ではないかと思っています。


Q. 評価の共有が、子どもはもちろん保育の主体者全ての方の役立ち感・成長感につながり、さらなる当事者意識につながる・・・そのような好循環を生み出せるデジタルの活用ができると素敵ですね。(日本の視聴者より)

A. 松山:おっしゃるとおりだと思います。ありがとうございます。そういう循環をもっとスムーズに生み出せるようなデジタルシステムの構築についても引き続き考えていきたいと思います。

A. 中村:評価を結果ではなく、未来を見据えた指標にしていけたら良いのではないかと考えています。そのためのツールとしてデジタルを活用できるように私たちも努力を重ねたいと思っています。


利用上のルール

Q. 幼稚園の中で、タブレット端末の利用はコントロールされていますか?
子どもはいつでも自由に使えるのか、それともなんらかのルールがありますか?
もしルールがあるとすれば、どのように作られて、どう監督されていますか?
(中国の視聴者より)

A. 堀田:子どもがタブレット端末を使うときは、保育者と一緒に使用する園がほとんどです。自由遊びとして、子どもが自由に使用することはほとんどありません。
タブレットの扱い方についても、インターネットへの接続は必要な時のみ保育者と一緒にすることを条件にしています。使用のルールについては、他の教材や玩具と同じで、壊さないように大切に使うことと、譲り合って使うことは最初から決まっていました。中村先生の実践園では、さらにパスワードは誰にも教えないというルールも決まっていたと聞いています。

A. 松山:私が実践していただいた園では、原則的には幼稚園の担任の先生にお任せしましたが、基本的に子どもがいつでも自由に使えるように保育室にタブレットを置いています。
タブレット端末は、今回開発した「ASCA」と必要なカメラアプリ、撮影した写真を見るもの以外、アンインストールできるものは全てアンインストールし、アンインストールできないものはまとめてフォルダに入れ、子どもの目にとまりにくくしています。また、タブレット端末はインターネットには接続していません。保育者が用意している図鑑アプリ等でも、どうしても分からないことがあった時だけ、保育者が手助けする形でインターネットに接続して検索し、必要な画面を印刷して渡していました。
使用のルールについては、他の教材や玩具と同じで、壊さないように大切に使うことと、譲り合って使うことは最初から決まっていました。
一人に1台タブレットがあると取り合いは起こりませんが、クラスに1台という実践が多かったため、最初は取り合いが起きた園もありました。その度に、保育者が仲介し、どうすればどちらも納得して使うことができるか考えさせていましたし、子どもの方も、タブレットで写真を撮ることが日常になってくると、取り合ってまで撮影することもなくなりました。
保育者はルールが守られているかをもちろん監督していましたが、タブレットを活用する際に何か不都合があった時ほど、話し合いをし、ルールを子どもたちが自ら納得して作り出して守るということを大切にしておられました。例えば、撮影してほしくない友達を無理に撮影しようとして嫌な気持ちにさせるなどの事件が起きました。その時も、保育者と子どもたちが、自分たちがこの件についてお互いがどう思い、考えていたのかをまず話し、その後、クラス全員でどうすればよいか話し合いました。その結果、撮影していいか許可を取ることや、撮影した写真は必ず確認してもらうことなどを自分たちで納得したルールとして確立し、自然にルールを遵守していました。

A. 中村:私の実践していた一人1台の園ではICTの扱いに精通した職員が管理を担当して、「タブレットの時間」のみの使用なので、幼児は保育者と共に扱い方を考えながら使用する形での運用です。


Q. 子どもたちが自らタブレット端末を操作し、検索も自分でできるようになったいま、コンテンツの制限、コントロールについて、何かいい方法はありますか? (中国の視聴者より)

A. 堀田:機械的に制限をかけることはできますが、日々進化する莫大な情報をリサーチし続けて制限をかけないといけません。同様に、利用者側(子どもたちや保育者)のメディア・リテラシーを育てることも必要です。

A. 松山:私たちの実践は幼稚園や保育所での活用だったので、インターネットについては保育者と一緒の時にしか使えない状態にしてありましたし、使用できるアプリについても事前に整理し、コントロールすることが可能でした。
ここからは提案ですが、コンテンツの制限やコントロールについて、またインターネットについては、子どもにとって有害なページや宣伝などをブロックするためのフィルターを活用することも1つの方法としてあると思います。アプリについても、幼児期においては、子どもにとってよいものや必要なものを大人が選択することも大切だと思います。

A. 中村:いきなりインターネットに繋がった世界に子どもを飛び込ませるのではなく、教育的判断に基づくコントロールは必要だと思います。けれども、使い方は大人が決めるのではなく、子どもが試行錯誤してより良い方法を見出せるようにして、情報の扱い方を学べるようにしたいです。


Q. 日本の幼稚園の先生は、タブレットを使用して、指導中の子どもの行動を観察および記録しますが、指導以外の用途(CRN注:おそらく私的な用途を指していますが)で使うことはありますか? 保育者の私的用途を防ぐ方法はありますか? (中国の視聴者より)

A. 堀田:保育者それぞれの意識の問題で、私的用途を防ぐ方法はありません。

A. 松山:シンポジウム中にもお答えしたように思いますが、私の実践では、指導以外の用途としては、教材作成に活用したりはしていましたが、私的な使用は一切なさっていません。
日本の保育現場において、個人情報の流出は非常に重大な問題として取り扱われています。園から子どもの個人情報が入ったものを持ち出すことは全ての園で原則禁止されていますので、タブレットを持ち出すこともありません。私的に使うことで何かがあった時の責任はとても重いと自覚していますので、保育者による私的な利用は通常ほぼ見られません。
私的利用を防ぐ方法としては、保育者の養成課程段階から個人情報の取り扱いや関連する法律についての授業を行い、保育者の守秘義務の重要さを学ぶこと、保育現場のものの私的利用の禁止について学ぶこと、さらに、勤め出してからの保育現場でもモラルを徹底することではないかと個人的には思います。


Q. 使いすぎを防ぐ方法はありますか?(中国の視聴者より)

A. 松山:今回、私が実践していただいた園では、自由に使ってもらっていましたが、使いすぎは見られませんでした。実際に保育現場にいると、自然をはじめとした、たくさんの環境と直接かかわることがとても楽しいからでしょうか、タブレット端末が邪魔になることもありました。子どもの好奇心、興味や関心のあるものを撮影してくださいとお願いしていたため、タブレット端末は子どもの興味や関心が動かないと使うことがなかったという活用方法だったことも、使いすぎることがなかったことにつながるのではないかと思います。さらに、一人1台ではなかったため、一人の子どもがずっと使うという状況にならないように保育者も子どもたちも意識していたことも使いすぎることがなかった原因と考えます。


家庭での利用

Q. 家庭でのタブレット利用について、大変気になっています。幼稚園での使い方とどんな違いがありますでしょうか? 子どもがタブレットを使うことで、対人関係、感情面でマイナスな影響ありますか?(中国の視聴者より)

A. 佐藤:友達と一緒に使う、先生の指導のもとに皆で協調する等の幼稚園での使用と異なり、ご家庭はお子様一人での使用が前提になっているかと思います。ただし、セサミ・ストリートの先行研究が示しているとおり、子ども一人の使用ではなく、親が介入し、アプリの内容を確認したり、一緒に楽しんだりすることで、お子様の育ちに効果的な活用になります。親の果たす役割は大きいということを意識して、タブレット使用が創造的な活動になるよう導いたり、現実の世界での体験を豊かにするような活用方法を考えたり、一緒に楽しんだりして頂ければと思います。

A. 松山:家庭でのタブレット活用と幼稚園での活用の違いは、家庭でのタブレット活用に関する研究を行っている先生とこれから協議していく必要があると思っています。
幼稚園でのタブレット活用については、タブレットの台数や活用方法を大人が工夫することで、考えられるマイナスの影響を軽減することができるのではないかと考えています。

A. 中村:家庭においても保育現場においても、子どもとタブレットの一対一になる時間よりも、保護者や保育者、お友達と共に主体的に扱う方が楽しいという経験を子どもと共に大切にすることにより、子ども自身がプラスの影響を受けられるように扱うことができるのではないかと考えています。短期的な効果はなかなか見えにくいですが、長期的に見取っていくことも大切ではないでしょうか。そのためには私たち大人もタブレットの扱い方を自ら考えていく必要はあると自戒も込めて感じています。


Q. 2歳の女の子がいますが、時々彼女に静かにさせるため、スマホを見せてます。しかし、取り上げようとすると、泣いてしまいます。なので、彼女とルールを作って、アラームが鳴ったら、親に返すことにすると、彼女は返してくれました。しかし、大人は忙しくなると、また彼女にスマホを与えてしまいます。スマホの使用ルールを彼女にどう教えるか困っています。教えてください。(中国の視聴者より)

A. 佐藤:ご家庭でのスマホ利用は、ルール作りがとても大切です。ただし、大人が決めて子どもに押し付けるのではなく、子ども自身がスマホとの付き合い方を考えることが、今後のデジタルメディアとの付き合い方にも影響し、非常に重要となってきます。2歳のお子様では時間感覚が未発達であると思いますが、使用ルールを「教える」のではなく、この時期から、常にスマホについてのルールを自ら「考える」よう、少しずつ導いてあげて下さい。

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