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【読者参加型共同研究「日本、中国と韓国、何がどう違う?」】 第2回-①「生徒のほめ方」

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◎【読者参加型共同研究「日本、中国と韓国、何がどう違う?」】もくじ


教育の中では子どもを「認めてあげる」ことが大事なことのひとつだと考えられています。ではどのように認めてあげることが望ましいのでしょうか。今回は「みんなの前で特定の子どもをほめる」という先生の行為について、日本と中国の教員養成系大学の学生に質問してみました。

まずはみなさん、ご自分ならどうお考えになるか、答えてみてください。ご回答いただくと、現在のネット上の回答結果をご覧いただけます。(なお、自由記述については次回以降、内容を紹介させていただくことがあります。もしお望みでない方は、記入時にその旨をお書き下さい。またご回答についての著作権はCRNに移転するもの *1とさせていただきますので、ご了解のほど、よろしくお願いいたします。)



では、日中の学生はどのように考えていたでしょうか。順にご紹介します。なお、調査に協力してくれたのは北京と東京の教員養成系大学の学部生で、人数はそれぞれ北京30名(内男子8名、海外出生者3名)、東京50名(内男子3名、海外出生者1名)です。


問い1 あなたの周囲にこのような先生はどの程度いると感じますか?

lab_08_11_01.jpg

そういった行為の善し悪しの判断は別として、実際にそういうことが普通に行われているかどうかについての理解を聞いてみました。その結果は、日中でかなりはっきりとした傾向が出ています。ご覧の通り、中国では8割の学生さんが「沢山いる」と答え、「ある程度」まで含めると実に97%になります。つまり中国では、こういう子どものほめ方はほんとうに普通のことだと感じられていることが分かります。

それに対して日本では、「沢山いる」はわずかに4%です。それに対して「あまりいない」、「ほとんどいない」と感じる人が46%に達するという結果になっていて、「ある程度」いるとほぼ拮抗しています。中国のデータに比べると、明らかに「そういう先生は少ない」と感じられていることが分かります。

では、もし自分がそういうほめ方をされたらどうでしょうか。


問い2 もしあなたがD君だったらどう思いますか?いちばん近いものを選んで下さい。

lab_08_11_02.jpg

ここでもかなりはっきりとした傾向の違いが出ています。中国では最も多いのは「うれしいけど恥ずかしい」という答えで、57%と半数を超え、ついで誇りに思う人が33%です。「恥ずかしさも感じる人が多いが、基本的にはうれしかったり誇りを持っていたりする」という受け止め方であるように見えます。

日本の場合はとても印象的なことに、過半数である56%の人がそもそもそういうほめ方は「やめて欲しい」と感じています。ついで「うれしいけど恥ずかしい」が38%になっていて、「誇りに思う」はわずか6%に過ぎません。

つまり、中国ではこのような子どものほめ方について、基本的には肯定的に感じている人が多いのに対して、日本の場合は否定的あるいは拒否的に感じている人がかなり多いという結果になっています。その理由は後にまた少し探ることにして、ではそのようなほめ方をする先生に対する評価はどうでしょうか。


問い3 D君をみんなの前で何度も模範的と賞賛し、見習うようにいう先生の教育の仕方について、あなたはどんな印象や意見を持ちますか?

lab_08_11_03.jpg

この結果は大体問い2の傾向をそのまま反映している、あるいはもっとはっきりと示していると考えられそうです。

中国の場合、平均(普通)以上の評価を与えている人が73%と多数を占めているのに対して、日本の場合は実に84%の人が否定的な評価になっていて、中国では今回見られなかった「とても良くない」という最悪の評価も、10%の人から行われています。

この結果を問い2と合わせてみると、同じ「嬉しいけど恥ずかしい」と答えた人でも、日本の側は「ほめられることはいいけれど、そういうやりかたは恥ずかしいしあまり賛成できない」という感じ方が強く、中国の場合は「恥ずかしさはあるけど、基本的には嬉しい」という感じ方が多いのではないか、という推測も可能になります。

実際クロス集計をしてみると、中国では問い2に「嬉しいけど恥ずかしい」と答えた人の71%が、この先生に対して平均以上の評価を与えています。それに対して日本では「嬉しいけど恥ずかしい」と答えた人の74%がこの先生に否定的な評価を下し、そのうち11%は最悪の評価をしているのです。

ではどうしてこれほどまでに「みんなの前で繰り返しほめる」ことについて、評価の傾向に違いが出てくるのでしょうか?自由記述から、特徴的と思われるものをいくつかご紹介します。


問い3 自由記述(先生の評価について)そう思った理由は何ですか?

自由記述(日本の大学生)問い1問い2問い3
1. D君を嫌に思う人が出てくる可能性があるから ある程度 やめて
欲しい
あまり
よくない
2. 生徒には個人差があり、個性もあるのでD君のようになるべきだというのは押しつけである あまり
いない
うれしいけど恥ずかしい 普通
3. 確かにD君は手本になるような良い生徒だが、彼だけ特別扱いされているように他の子には見えると思う。そんなことでもしかしたらD君ばかりが先生にひいきされていると他の子がひがんで、虐めるかもしれない。先生はどの子も平等に扱うべきであり、ほめるにしてもその子に個人的にやればいいと思う。 あまり
いない
うれしいけど恥ずかしい とても
よくない
4. 先生がえこひいきをしているように聞こえる。先生は子どもを平等に扱うべき。親から苦情が来そう。 あまり
いない
やめて
欲しい
あまり
よくない
5. D君にとってクラスの前でほめられることは必ずしも嬉しいこととは限らないし、D君に対して劣等感や反発を抱いている生徒にとっても気分が良くないと思う。先生がほめるD君を尊敬の目で見る生徒はほとんどいないと思う。 ある程度 うれしいけど恥ずかしい あまり
よくない
6. D君をねたむ人が出てくるし、競争社会でもある学校、しかも何かと多感な学生の中で、ある一人をほめると、周りの反感をかうおそれがあるため。 ある程度 やめて
欲しい
あまり
よくない
7. D君がひがまれ、場合によっては(D君の人柄次第では)いじめにあいそうだ。 あまり
いない
やめて
欲しい
あまり
よくない
8. D君が「ひいきされている」と言われていじめられたり煙たがられたりする可能性があるから。他の生徒にもD君のようにほめられるべきところはあると思うから。 ある程度 やめて
欲しい
あまり
よくない
9. ほめられない子が可哀想。D君に対するクラスメイトの目も良いものではなくなりそう。 あまり
いない
誇り あまり
よくない
10. 「D君が優等生である」というレッテルを貼り付けてしまうことになり、D君もクラスメートも不快に感じると思うので。 ある程度 うれしいけど恥ずかしい あまり
よくない
11. 言うなら1度でよいし、他の子も同様に他の点で評価してあげるべき。みんなの前でほめるというのはまちがってないと思うし、それでモチベーションが上がる子どもたちもたくさんいると思う。 ある程度 やめて
欲しい
普通

全体として目立つのは、先生のやり方はえこひいきになってしまい、他の子どもたちからD君が反感を持たれる、ということについての心配で、その結果「いじめに遭う」ことをはっきりと心配している回答も3人分ありました。


自由記述(中国の大学生) 問い1 問い2 問い3
12.すべての学生が長所をもつ。常に一人をほめるのはほかの子どもが不公平と思う可能性があり、人間関係に悪い影響を与える。 沢山いる うれしいけど 恥ずかしい あまり
よくない
13.ほめすぎたら傲慢になる可能性がある 沢山いる 誇り 普通
14.模範が必要だ 沢山いる 誇り 普通
15.真剣に勉強する模範がいるのはいいが、でもやり過ぎたら逆に悪い影響がある。すべての子どもがひとつの生活と学習パターンを見習うようなやり方を先生はしていけない 沢山いる うれしいけど恥ずかしい 普通
16.子どもが誰をお手本にすべきかを迷っているこの時、先生が模範を指定することは、ほかの生徒に簡単に影響を与える 沢山いる うれしいけど恥ずかしい あまり
よくない
17.やり過ぎたら、子どもが個性を失う。 沢山いる うれしいけど 恥ずかしい あまり
よくない
18.バンデューラの理論に従えば、模範を示すことにメリットがある(引用者注:バンデューラは、人が他の人に与えられた賞罰を見て、自分の行動を変化させるという観察学習を行うという視点から研究を行った) 沢山いる 誇り すぐれている
19.模範作用、みんなを励ます 沢山いる 誇り すぐれている
20.しかし、このようなやり方で、Dが慢心したり、プレッシャーを感じる恐れがあり、それに、ほかの生徒に悪い影響を与える可能性もあり、反感を買う。 沢山いる うれしいけど恥ずかしい 普通
21.優秀な生徒がクラスに影響力を持つ。先生はこのようなやり方をとることで、反感を買わずに優れた学生の模範を示すことができる 沢山いる うれしいけど 恥ずかしい すぐれている
22.模範が必要だが、やり過ぎたらDが傲慢になる可能性もある。 沢山いる うれしいけど恥ずかしい とても
すぐれている

先生のやり方が「模範を示す」という積極的な意味を持つと考える人は少なくありません。それによって他の子たちも励まされる、という回答もあります。その上で、やりすぎれば不公平になったり、Dに慢心をもたらしたり、他の子からの反感を買ったり、個性を失わせたりする心配がある、という、そのやり方の否定的な面にも目を向けている、という感じです。

回答にはかなりの幅があって、そのバリエーションは日本の回答と共通する部分も多いけれど、模範作用を持つかどうか、否定的な意味が大きいか、どちらをメインに問題を考えようとするかについて、その軸足が違うという印象を与える結果でした。

次回はこの結果や、皆さんから寄せられた回答について、姜と山本がそれぞれの考えをコメントさせていただきます。


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*1. CRN掲載のほか、書籍への掲載など、自由に利用することができます。

筆者プロフィール

Yamamoto_Toshiya.jpg

山本 登志哉(日本:心理学)

教育学博士。子どもとお金研究会代表。日本質的心理学会元理事・編集委員。法と心理学会元常任理事・編集委員長。1959年青森県生まれ。呉服屋の丁稚を経て京都大学文学部・同大学院で心理学専攻。奈良女子大学在職時に文部省長期在外研究員として北京師範大学に滞在。コミュニケーションのズレに関心。近著に「ディスコミュニケーションの心理学:ズレを生きる私たち」(高木光太郎と共編:東大出版会)

Jiang_Yingmin.jpg

姜英敏 Jiang Yingmin(中国:教育学)

教育学博士。北京師範大学国際比較教育研究所副研究員、副教授。1988年~1992年に北京師範大学教育学部を卒業。1992~1994年、遼寧省朝鮮族師範学校の教師を経て、北京師範大学国際と比較教育研究所で修士号、博士号を取得し、当所の講師として務め、現在は副教授として研究・教育に携わっている。在学期間中、1997年~1999年日本鳴門教育大学に留学。また2003年~2005年はポスドクとして、日本の筑波大学に留学し、研究活動を行い、さらに中央大学や早稲田大学、青山学院大学の教員と積極的に日中の学生間の交流授業を進めてきた。日本と韓国、中国を行き来して、実際の授業を観察した道徳教育の国際共同比較研究。

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