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第1回-②「第1回日中韓調査についてのまとめとコメント」

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研究室

【読者参加型共同研究「日本、中国と韓国、何がどう違う?」】
第1回-②「第1回日中韓調査についてのまとめとコメント」

山本 登志哉(日本:心理学)
姜 英敏 (中国:教育学)

2013年10月11日掲載

◎【読者参加型共同研究「日本、中国と韓国、何がどう違う?」】もくじ


今回の結果についてまとめ(文責:山本登志哉)

1) 第一回調査への読者のみなさんの参加について

第一回の調査については、2013年8月19日の段階でみなさんから日本語版で58名の参加(コメント数は10)、中国語版では16名の参加(コメント数は1)がありました。初めての試みにしてはまあまあの滑り出しかと思います。ご協力いただきました方々、どうもありがとうございました。また、9月6日にはいよいよ英語版も掲載され、さらにいろいろな方のご意見を伺えるようになり、楽しみです。

今回は、①日中韓の学生に行った同様の調査結果を合わせたものをお示しすること。②ネット上で寄せられた日中の皆さんの回答結果を(8月19日までの分について)集計してご報告すること。③みなさんから寄せられたコメントの概要を紹介すること。④それらについて、さらにみなさんのご意見をコメントでいただくこと、という手順で進めていきます。

(なお、日中韓の学生に対する調査には、青山学院大学の高木光太郎先生に、ご担当の異文化理解関係の授業でご協力いただきました。また、ネット上にお寄せいただいた回答のうち、数値データについては、調査法の性質上、どこまでそれぞれの地域の平均的な意見を反映しているかは確定的には評価できません。他の調査データとの関係で傾向を知る参考資料、というふうにお考えいただければと思います。またコメントについては有効な質的データとして理解できますが、回答者の属性については十分な情報は得られない調査という限界はあります。少数の質的データから文化的なことを論ずる意義について、方法論的な問題に興味のある方は、山本の論文「文化の本質的な曖昧さと実体性について ― 差の文化心理学の視点から文化を規定する」(『質的心理学研究』第12巻2013年)などをご参照下さい。)

2) 日中韓の学生に行った同様の調査の結果データを加えて考察する

第一回の調査で使用した物語は次のようなものでした。

大学生のCとEは親友です。ある学期、Cは、授業料を支払う締め切りが明日に迫っているのに親からはまだ授業料が送金されていないという事態に直面しました。そこで、Cは他人にお金を借りる以外この問題を解決する方法はないと思いました。Cは悩んだ末、親友のEにお金を借りることにしました。


第一問 もし私がCなら
 選択肢 絶対にしない Cと同じ行動をする

日中韓の大学生の答えは、図1のようなものでした。

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図 1 第一問「もし私がCなら」

一見して分かるように、日本の大学生の圧倒的な多数派は友だちに学費を借りるようなことは絶対しない、と述べています。これは今まで私たちが日中韓越の研究者と共同で行ってきた「お小遣い研究」で見られた傾向ととてもよく対応しているようです。つまり、お金の貸し借り、特に多額のお金の貸し借りについては、中国や韓国のみなさんに比べて、日本の多数派はとても慎重、あるいは否定的だと言うことです。

では、ネット上に寄せられた回答はどんな具合になったでしょうか。今あるのは日中のデータだけですが、次のような結果になりました。

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図 2 第一問の日中ネット回答比較

回答者の年齢構成は次のようになっています。

 年齢構成 
 日本語版 
 中国語版 
 20代    
 30代    
18 
 40代    
16 
 50代    
10 
 60代以上   
 不明    

日本語版は60代以上の方まで幅広く回答を寄せてくださいましたが、日本の大学生に見られた傾向はほぼ同じか、より強いくらいの結果になっています。他方、中国語版で寄せられた回答は今のところ40代までの若い階層になっていますし、回答数が少ないため、あまりはっきりとした結論は言えませんが、大学生に比べて、かなり「借りない」と答える人の割合が多い傾向が見られます。


第二問 もしあなたがEなら
  選択肢 貸す 貸さない

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図 3 第二問「学費を貸すか」:日中韓の大学生

結果は中国>韓国>日本の順で、「貸さない」という回答が増える傾向が見られています。特に中国では全員が「貸す」と考えているのに、日本では半々になっているのが目立ちます。第一問の図1と比べてひとつ面白いことは、自分がCの立場なら、貸してくれるように頼むことはしない、と答えていても、Eの立場で「貸して」と言われれば貸す、と答える人が日中どちらもそれなりにいて、中国の大学生では「友だちに言われたら貸さなければならない」という考え方が当たり前になっているようにも見えます。日本の場合は「借りるのはまず遠慮するけれど、言われれば貸すかも知れない」という感じでしょうか。

ネット上の回答では次のようになりました。

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図 4 第二問 日中ネット回答比較

面白いことに、大学生より年齢が上の場合、中国語版の回答者では大学生とほぼ同じで「友だちに言われれば貸す」という人がほとんどですが、日本語版の回答者では「貸さない」という、より「厳しい」判断がかなり多くなっていることです。これは質問1と比べてもちょっと興味深いことで、中国語版ではCの立場なら「借りない」という判断が大学生より増えるようなのに対して、Eの立場ではほとんど変化がなく、逆に日本語版では、Cの立場なら「借りない」という判断にあまり変化はない(割合がもともと大きいのでそれ以上あまり変化の余地がない「天井効果」とも言えます)のに対して、Eの立場なら「貸さない」という厳しい判断がかなり増えることです。大学生のように、親に養われている世代ではなく、自分で稼いで暮らさなければならない世代の「厳しい生活を経験している人の経済観念」が、どう回答に影響するかということについて、日中で反対の方向性が見られるということになりそうです。


質問3 Cの行動をあなたは
  選択肢 理解できる 理解できない

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図 5 第三問「Cの行動が理解できるか」

「理解できるか」という質問自体、「理解する」とはどういうことなのか、「いいことではないが、その人がそうせざるを得ない理由は分かる」という意味か、「それは許容できる」という意味か、もっと積極的に「当然と思える」という意味か、いろんな意味を含み得ますから、その回答の解釈はすこし難しいところもあります。そのことを前提にしてですが、それでも図5を見れば、中韓と日本の回答に大きな違いがあることが見えます。日本ではCのような行動は、もう頭から「理解できない」という回答がかなり出てくるのに対して、中韓では、どういうレベルでの理解かは分からないにしても、とにかく理解できない、という回答は皆無だと言うことです。つまり中韓では、Cのような行動は、少なくとも「あっても不思議ではない」ということが、圧倒的に大学生の常識になっていると言えそうです。

ではネットに寄せられた回答ではどうでしょうか。

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図 6 第三問 日中ネット回答比較

ご覧の通り、日本語版では、回答の傾向はほぼ大学生と一致しています。すこし違いが見られるのは中国語版で、20代以上の大人になると、「理解できない」と考える方が少し見られるようになっています。その理由はこのデータだけからは解釈が難しいですね。大学生時代には(あるいは大学生なら)理解できることが、大人になると分からなくなる人がいる、という話なのか、北京のエリート大学の大学生の回答だから少し偏りが強くなったと言うことなのか。いずれにせよ、大きな目で見れば、図5とはそれほど傾向に違いはない、と見ることが出来そうです。

3)ネットに寄せられたコメントについて

今回は日中合わせて11件のコメントが寄せられましたが、中国語版へのコメントも日本語で寄せられており、その方は義務教育を日本で受けられた方のようなので、中国に出張されている日本人の可能性があります。(今回の上のデータでは、そのような方の回答は日中どちらの側からも外して集計しました)

ということで、残念ながら今回は、回答者ご本人に関する質問が少なかったこともあり、中国人と断定できる方々からの生の意見は得られませんでしたが、初回ということで日本側のデータが示されなかったことも一因かも知れません。いずれにせよ、今回はまず日本語版の参加者がどんな感想を持たれているかの概略(要点のみ)をご紹介しましょう。概ねこのような調査を面白がってくださっている感じがしますし、新しい調査項目を提案してくださっている方もいます。これを読んで、特に中国など、日本以外のみなさんはどんな風に思われるでしょうか。

  1. 「両親や学校の先生に相談するのが先」

  2. 「お金の価値基準が個人や経済状況によっても変わるのでは?」

  3. 「中国は貸し借りに厳しいと思っていた(想像していた)ので、意外。内容が教育費だったからではないか。自分はその後の人間関係を考えて貸さない、としたが、それを考えて貸すという考えもあるのかと思った。中国の学生の、目的を達成するための力は学ばなければならないと思った。」

  4. 「アジアの留学生から同じように依頼された経験があるが、返済計画を聞いたら実現性に乏しかったので、断った。中国、韓国の学生は、返済面について若いので考えにくいのだろうし、それはやむを得ないと思う。Cさんの親の事情を確認し、学校当局に一緒に交渉に行くやりかたもありうると思った。」

  5. 「中韓とも、お金の貸し借りでトラブルが少ないのかと疑問に思った」

  6. 「日本では友だちと金の貸し借りをするな。すれば友だち関係が崩れるとよく言われる。謝謝とありがとうの意味も違いがあると学んだことがある。それではお互いに誤解を生むとつくづく思った。中国は親しい同士は助け合うのが当然なのに対し、日本の助け合いは「お互い様」の感覚が強く、親しくなくても本当に困っている人なら助けようとするし、知人同士なら「お返しの義務」が暗黙の了解となっていそう。ありがとう、謝謝、カムサハムニダをどういう場面で使うかを調べても面白そう」

  7. 「自分には友人関係にお金を介さず、精神的交流をしたいという意識があるが、お金を介して関係作りもする中韓の学生はタフだと思った。」

  8. 「若者の友情に対する感覚の違いを考えさせられた。親友から頼まれればNOと言えなかったり、言えば関係が壊れるという不安があるのだろうか。「一緒に考える」という選択肢があればまた回答は変わったのではないか。学生は親の金で学費を払っているので、金銭の貸し借りを安易に考えるのは、お金に対しても親に対してもあまりに安直だと思う。いろいろ考えさせられる結果で、次回が楽しみ。」



注:お寄せいただいた自由記述は次回以降、このコーナーで紹介させていただくことがあります。紹介をご希望にならない方はその旨を明記の上、ご回答をお願いいたします。またご回答についての著作権はCRNに移転するものとさせていただきますので、ご了解のほど、よろしくお願いいたします。

筆者プロフィール

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山本 登志哉(日本:心理学)

教育学博士。子どもとお金研究会代表。日本質的心理学会元理事・編集委員。法と心理学会元常任理事・編集委員長。1959年青森県生まれ。呉服屋の丁稚を経て京都大学文学部・同大学院で心理学専攻。奈良女子大学在職時に文部省長期在外研究員として北京師範大学に滞在。コミュニケーションのズレに関心。近著に「ディスコミュニケーションの心理学:ズレを生きる私たち」(高木光太郎と共編:東大出版会)



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姜英敏 Jiang Yingmin(中国:教育学)

教育学博士。北京師範大学国際比較教育研究所副研究員、副教授。1988年~1992年に北京師範大学教育学部を卒業。1992~1994年、遼寧省朝鮮族師範学校の教師を経て、北京師範大学国際と比較教育研究所で修士号、博士号を取得し、当所の講師として務め、現在は副教授として研究・教育に携わっている。在学期間中、1997年~1999年日本鳴門教育大学に留学。また2003年~2005年はポスドクとして、日本の筑波大学に留学し、研究活動を行い、さらに中央大学や早稲田大学、青山学院大学の教員と積極的に日中の学生間の交流授業を進めてきた。日本と韓国、中国を行き来して、実際の授業を観察した道徳教育の国際共同比較研究。

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