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【読者参加型共同研究「日本、中国と韓国、何がどう違う?」】第7回-①「友達間の葛藤をどうやって解決しようとするか」

前回の最後に予告させていただいたように、日中韓の人間関係の文化的な特徴に迫る方法の一つとして、北京師範大学の姜英敏さん(教育学)、前橋国際大学の呉宣児さん(心理学)と一緒に「友達から援助を依頼され、断った物語」を作ってもらう、という調査注1を行ってみました。

みなさんは友達から何かを頼まれて困ったとき、どう対応しますか? また相手に何かを頼んで断られたとき、どう感じ、どうしますか? これは、親しいもの同士の間に起こりうる、そんな小さな葛藤についての態度や考え方を、子どもたちに該当する物語を作ってもらうことで探ろうという研究です。

簡単な問題ですので、まずはみなさんご自身でちょっと考えてみてください。もしよろしければ記入欄にご自分の作った物語も投稿してみてください。今後の議論の参考にさせていただきます。もちろん記入を飛ばして、先を読み進めていただいても構いません。

作っていただきたいのは以下のようなあらすじをもった物語です。

AさんとBさんはお友達です。
ある日、AさんがBさんに、何か「手助け」をしてほしいことがありました。
けれども、Bさんは何らかの理由で「手助け」をしませんでした。

さて、このような物語のあらすじを見て、あなたはどんな場面を想像しますか? このあらすじをもとに、自由に物語を想像して作ってみてください。

物語には正解や不正解はありません。ただし物語を作るときには、以下の点については必ず含めて書くようにお願いします。なお、実際の個人を特定するような個人情報は記入しないでください。

  1. AとBにそれぞれ仮名を付け、作文ではその名前を使って下さい。
  2. Aさんはどういう「手助け」をしてほしかったのでしょうか。
  3. Bさんはどうして「手助け」をしなかったのでしょうか。
  4. Bさんが手助けをしなかったあと、AさんとBさんはそれぞれどうしたのでしょうか?
  5. 最後にAさんとBさんの関係はどうなったのでしょうか。
  6. この物語に自由に題名を付けてください。

(自由記述については次回以降、内容を紹介させていただくことがあります。もしお望みでない方は、記入時にその旨をお書き下さい。またご回答についての著作権はCRNに移転するもの<CRN掲載のほか、書籍への掲載など、自由に利用することができます>とさせていただきますので、ご了解のほど、よろしくお願いいたします。)


さて、みなさんはどんな物語を思い浮かべられたでしょうか?

私たちは、まずは日本の中学生と中国の中学生に同じ質問を投げかけ、物語を作成してもらいました注2。実施時期は2021年3月(日本)と4月(中国)で、無記名回答。回答者は以下です。

対象者回答者数実施方法
日本中部地方の国立大学教育学部付属中学2年生44名宿題としてネットで回答
中国浙江省国際学校の中学2年生15名授業後の長い休み時間に手書きで回答

結果はある意味予想通り、それぞれの社会の人間関係がよく表れているものと感じられる面白いものとなっていますが、今回はまず日本の子どもたちが作った物語について、その概要をご紹介しましょう。そして次回は、その日本の子どもたちの作った物語を読んで、中国人の姜さんと韓国人の呉さんが何を感じたかをご紹介します。

そこで見えてきた問題を背景に、その次に中国の子どもたちが作った物語をご覧いただき、それについて日本人の山本と韓国人の呉さんが何を感じるかを書いていきたいと思います。

物語には生徒自身の日常生活を素材に作られたものと、自分が日常的には体験しない非日常の場面を素材に作られたものがあります。日常場面の例には、たとえばこんなものがあります。

頼む人「あさん」、断る人「びさん」

あさんは放課後、体育大会のポスターをつくならければならなかったので、友達のびさんに手伝ってくれと頼みました。びさんはちょっと用事があるのでだめだと断ったので、あさんは、塾か部活か何かと尋ねました。びさんは、部活があると答えたのですが、あさんが放課後遅くまでかかってポスターを作り、帰るとき、びさんの部活はまだやっていたが、そこにはびさんの姿がありませんでした。次の朝、あさんはびさんに、昨日本当に部活へ行ったのと尋ねたところ、家の用事があって行かなかったと答えました。結局びさんはあさんに嘘をついて手伝うのを断ったのです。あさんは、嘘をつかれて裏切られたような気がしました。しかし、よく考えてみたら自分の仕事を人に手伝ってもらおうとする甘い考えが悪かったのだと反省しました。それに本当に家で何かあったのかもしれません。あさんとびさんは、その後もいつも通り仲良くしました。めでたしめでたし。(原文ママ)

「嘘をついて断る」といった要素は入っていますが、頼んだ「あさん」の方が考えが甘かったと反省して、その後の展開も、まあ穏やかに終わっています。

非日常場面の例には、こんなものがあります。

ある日、小説家の直さんは雪さんに「新しく書いた小説の題名を考えて欲しい。」とお願いされた。だが、雪さんは断った。それは、「直さんが読者に何か思いを伝えるために努力して書いたものだから、直さん本人が決めるべきだ。」と考えたから。そのことを直さんに伝えた。すると、直さんは雪さんが自分の小説を大切に思ってくれていることを知り、2人の関係はより良くなった。(原文ママ)

中学生の日常生活ではあまりないだろうと思えるような小説家の話です。断る理由は相手のことを考えてで、そのことを相手に説明もしています。その結果、断られた方も相手の行為を知ってさらに関係が深まっています。おだやかな展開と言えるでしょう。

これに対して次のように、かなりドラマチックな展開になるものもあります。

絵梨華さんは、学校関係で悩みを抱えていました。そこで、香織さんに悩みを相談して欲しいと「手助け」を頼みました。けれど、香織さんは相談された頃、精神的に疲れ果てていて、少しだけ待って欲しいと言いました。その返答を貰った絵梨華さんは、自分で解決して見ようと考えました。しかし、解決しようとしても中々上手くいかず、あと一歩で自殺まで考えたのです。そして、もう一度香織さんに相談しようと考えます。翌日、絵梨華さんと香織さんは2人で今の悩みをさらけ出し、解決策を導き出し、自分に正直になろうと決心したのです。そして、2人は以前よりももっと親密な関係になったのです。(原文ママ)

深刻な相談をした友達も相談に乗れる状態ではなかったので、少し待ってほしいと言われ、相談をした絵利華さんは悩んで自殺まで考える展開ですが、結局お互いの悩みを語り合うことで問題が解決し、お互いの関係もさらに良くなったという話でした。

日本の中学生44名が書いた物語の援助依頼の内容と断られた理由、その後の展開の全体は、以下のようになっています。中国の分については、また改めてご紹介することにします。

lab_08_41_01.png
クリックして拡大

それぞれの物語の舞台が日常的なものか、非日常的なものか、展開が平坦かドラマチックか、関係が悪化するか維持または向上するか、というところで、日本の中学生が書いた物語全体について姜さん(中国出身)と呉さん(韓国出身)と感想を交わした後、それを踏まえながら山本の主観でざっと分類してみると以下のようになりました。

日本
物語の舞台展開関係
日常的 36人(82%) 平坦 31人(70%) 維持・向上 30人(70%)
非日常的 8人(18%) 中間 9人(20%) 悪化 13人(30%)
ドラマチック 4人(9%)
(%には丸め誤差があります。また「関係」についてはAとBが友人であるという条件を満たしていないために判定不能なものが1例あり、合計は43名になります)

これに対して中国の生徒15名が作った物語を分類すると、こんな感じになります。

中国
物語の舞台展開関係
日常的 11人(73%) 平坦 2人(13%) 維持・向上 8人(53%)
非日常的 4人(27%) 中間 8人(53%) 悪化 7人(47%)
ドラマチック 5人(33%)
(%には丸め誤差があります。また「関係」については悪化の7人のうち、1例は数年後に友人の仲介で修復とされていました)

これをグラフにしてみるとこんな感じです。

lab_08_41_02.pnglab_08_41_03.png lab_08_41_04.png

物語の舞台が日常にあるか非日常かについてはそれほどの差が見られませんし、関係が悪化したかどうかについては中国の方がやや悪化の割合が多いようにも見えますが、微妙なところです注3。ところが展開を見ると、かなり明確な違いがあります注4。つまり、日本の中学生が考案した物語では平坦な展開が多く、中国の中学生の物語は、それよりはるかにドラマチックさを増した展開になる傾向が強いわけです。

さて、これは何を意味しているのでしょうか? まずは中国の姜英敏さんと韓国の呉宣児さんが、日本の中学生が考案した物語を読んでどう感じたかを教えていただくところから始めてみたいと思います。



注記

  • 注1) この調査の方法は、現・中国政法大学副教授である片成男さんが神戸大学大学院博士課程の学生だった当時に、博士論文執筆のための研究で用いたものです。
  • 注2) 中学生というのは対人関係の発達にとってもとても興味深い時期です。小学生の時期はまだ親の敷いたレールの上で親の価値観に従って生きようとしますが、小学校高学年あたりから「自分自身の価値観」を作ろうとし始めます。お小遣い研究でも見えましたが、中学生はお金の使い方でのトラブルが急増する時期で、高校生になるとトラブルの頻度は、小学生レベルにまた戻って減ります。これも「親のルール(≒社会のルール)」から離れて自分の納得するルールを模索するところから生ずることでしょう。そうやって中学生は対人関係を模索していくことになります。
  • 注3) χ二乗検定でp=.24なので有意差はなしです。さらに回答数を増やすと差が出る可能性は否定されませんが、この程度のデータ数では差があるとまでは言えません。
  • 注4) χ二乗検定でp<.001とこのデータ数でも明らかに有意な差が認められています。


筆者プロフィール

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山本 登志哉(日本:心理学)

教育学博士。(一財)発達支援研究所 所長。1959年青森県生まれ。呉服屋の丁稚を経て京都大学文学部・同大学院で心理学専攻。奈良女子大学在職時に文部省長期在外研究員として北京師範大学に滞在。コミュニケーションのズレに関心。近著に「ディスコミュニケーションの心理学:ズレを生きる私たち」(高木光太郎と共編:東大出版会)

※肩書は執筆時のものです

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