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研究室

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【アメリカ】 幼児期における対立と協調

要旨:

幼児は多くの時間を保育園、幼稚園で過ごしており、未熟な仲間たちの影響にさらされている。この状況が一般的である現在、社会性を獲得する過程は幼児間でサポートし合えるのか、あるいは妨げられるのか、また幼児が互いに貴重な影響を与え合うために保育士に何ができるのか、検討する必要がある。より貴重な経験をもたらすためには子どもが集団保育の中で過ごす時間は限定されるべきであり、この理由を理解しておく必要がある。保育士が、幼児の社会的限界を受け入れた上で、プライバシーを尊重し、お互いの権利を守りながら、創造的な方法で対立を解決できるよう手を差し伸べられるようになるためには、質の高い研修を受けることが必要だ。これらの方策があってこそ、幼児は仲間同士で互いによい関係を築くことができるのである。

Keywords;
なわばり, パリス S.ストローム, ロバート D.ストローム, 保育, 保育園, 幼児, 幼稚園, 社会性, 競争
English
他人とうまくやっていくことの重要性は生活の中で日々感じるところである。この基本的能力を子どもが身につけられるように親が助けるのは、自分の子どもが、親密な友情や学校や職場における仲間との生産的関係、幸せな結婚や周囲の人々との平和的共存関係を築く機会を高められるようにと望んでいるからである。これら多岐にわたる目的を達成する方法が完全に理解されているわけではないが、私たちが分析した中の幼児期における基本要素のいくつかは、成功の鍵であることが証明されている。このレポートの目的は、幼児が保育園や幼稚園で行う遊びの中で自分のなわばりを主張するタイプの遊びを分析して、監督する立場にある大人が、幼児の互いの権利を確立すべきであることを明らかにすることである。仲間との対立に関し、大人に判断をゆだねるだけではなく幼児が自分たちでよりよい決断ができるはずであると理解していただけるだろう。また、幼児が社会的スキルを損なうことなく仲間との相互関係から多くを得るには、集団保育で過ごす時間を制限する必要のあることも明らかにする。


なわばり意識とソーシャリゼーション(社会性)

これまでの世代に比べ、より多くの幼児が早い年齢から集団保育に入れられようになった。その結果、より多くの時間を同年代の仲間と過ごすことになった。実際彼らは、今までにないほど同年齢の仲間たちと長い時間を過ごしている。保育園、幼稚園は幼児に大きな恩恵をもたらしうるが、未熟な仲間たちとの秩序ある相互関係を教え、口論や争いにうまく対処できるように幼児を助けなくてはならないという課題もある。これら頻繁に見られる問題に対し、集団保育という状況下で、健全な社会性のある態度及びスキルをいかに発達させていくか考慮が必要となる。

まず、幼児間に起こる相互関係の特徴について分析してみよう。2歳児から6歳児までの監督者はしばしば、幼児の身勝手さと所有欲に落胆させられる。これに対する対応は普通、子どもたちに、すすんで協力し分け合うことを教えるというものだ。しかしこのアドバイスは一定の場所を自分のものとして主張する動物の持つ性向、つまりなわばり意識という自然な現象を無視したものである。動物の世界ではどこでも、なわばり行動が見られる。たとえばコヨーテやオオカミは、自分の場所の境界をはっきりさせるために匂いを残してなわばりをはる。魚は自分より大きな魚が自分の場所に侵入してくれば、攻撃する。ネコも、他のネコが自分の庭を侵害しようとやってくれば同様のことをする。

同様に人間にも、なわばりを守ろうという意思が見られる。人の社会的立場を判断する方法の一つが、支配する場所の広さである。概して裕福な人々は、高い塀で囲んだ「立ち入り禁止」という標識のある広い土地を所有する。低所得の家族は低い塀を建てて自分のなわばりを確立し、大きな家を所有することにあこがれを抱く。ビジネスの場では、役職のない社員は最低限のプライバシーとコントロール感を守るために小さく区切った作業スペースで働く。同じビルのどこか他の場所では会社の幹部社員がそれぞれ自分の部屋を持つが、そのもっとも広い部屋が社長や経営者のものである。


ドミニオンプレイと仲間関係

幼児がなわばりを支配したいという欲望をもっともはっきり現すのが、遊びという行動においてである。自分の遊ぶ場所の占有権を主張する、あるいは玩具の所有権を主張しているのは、ドミニオンプレイ、つまり自分のなわばりを主張する遊びであると考えられる。こういうなわばり遊びは、2歳児から6歳児によく見られる。しかし、このドミニオンプレイはときに集団がうまく機能することを妨げる。そうなったときには、大人と子どもとで「相互の権利」について話をする必要がある。多くの子どもは保育園、幼稚園、家庭で、あるいは親の計らいで友達の家に遊びに行ったときに、毎日のようになわばり争いの状況に直面する。

キャロルとデールの2人について考えてみよう。2人の4歳児は、幼稚園に通っている。キャロルは涙ながらに先生のところに行き、デールが一緒に遊んでくれないと報告する。先生はキャロルの気持ちを認めた上で、一緒にデールと話をしてみましょうと提案する。デールは動物園を作っていること、人に助けてもらいたくないことを説明するが、それでも一緒に遊びたいと言うキャロルに先生は、デールは他の誰かのなわばりを侵害しているわけではないので、他の誰かと遊ぶか、あるいは1人で遊ぶように諭し、デールのプライバシーの権利を擁護する。デールの意思に反してキャロルを動物園に入れてあげることを強いればデールのプライバシーの権利を侵すことになり、2人の子どもの人間関係は悪化する。同様の状況がキャロルに起これば、先生はキャロルのプライバシーの権利も守る。大人が自分たちのプライバシーを守ってくれないと感じれば、幼児は自信ではなく無力感を発達させてしまう。

子どものドミニオンプレイは、ときとして他人の権利を妨げる。こういう場合は限度を設けなくてはならない。子どものなわばりを否定するのではなく、他人の要求も満足させることができるように、なわばりを制限するのである。4歳のジムは、週末に電車の駅と線路を見に出かけた。月曜日の朝、幼稚園に着くなりブロックで電車の駅と線路を作ろうと考えた。不運にもジムが駅と線路を作ろうとした場所はブロックの棚のすぐ近くだったため、他の子どもたちは遊び道具を取りに行くことができなくなった。

クラスメートがジムの転車台つきの機関車庫を動かそうと試みるも失敗したのを見た教諭は、「ジム、みんながあなたの機関車庫を動かしたいと思っているのは、そのせいでブロックの棚に行くことができないからなのよ」と話した。ジムは、機関車庫が倒れるからさわらないほうがいいのだと説明した。教諭は「ジム、他の子たちも遊べるように、あなたの機関車庫をどこか移せる場所はないかしら」と提案する。ジムは断固として、動かそうとはしなかった。「動かしたくないのはわかるけれど、どこか別の場所を見つけなくてはいけないのよ」とたたみかけるが、それでもひるまず、「もう建ててしまったから、動かせない」と言う。窓のそばを提案したが、それもまた受け入れられることはなかった。次に、「窓のそばに移すのを手伝うわ、それとも自分で移動させてもいいのよ」と提案したが、ジムは、「いや」と答えた。教諭は、それ以上何を言うこともなく、ジムの機関車庫を崩し、窓のそばに移して皆がブロックを取りに行けるようにした。ジムは、まるで何もなかったかのようにすぐに機関車庫で遊び始めた。

多くの幼児はジムに比べれば容易に提案を受け入れるだろうが、受け入れないときには面目を保てるような選択肢を提案するのが、罰を与える、きまりの悪い思いをさせる、皮肉を言う、特定の命令を出すなどよりよい指導法である。こうして幼児は、他人の私的スペースの横でうまくやっていく方法を身につける。お互いの権利を調整するのは、社会的能力において不可欠である。概して子どもは、プライバシーの権利が尊重されれば過剰に自己防衛することはなくなり、つい今しがた拒否した子どもともすぐさま楽しく遊び始めるものである。

子どもは次第に、特定の子と遊んで他の子とは一緒に遊びたくないと思うようになる。他のすべての子どもを排除することによって、遊んでいる2人は「2人は仲良しだけれど、3人になると仲間割れしてしまう」と暗に知らせているのである。大人はときにこういう行為を承認せず、皆と仲良くするべきだと子どもたちに勧める。しかし大人自身もまた、この不当な期待に応えていることはない。保育者にとってもっと適切な反応は、多くの場合幼児は友を選ぶことを許されるべきだという事実を受け入れることである。友情というのはある程度のプライバシーを発展させる必要があり、一緒にいたいと思えないクラスメートとは少し距離を置いた上で、この子とは一緒に遊びたいという幼児の好みを尊重することが適切である。


ドミニオンプレイの指針

親、ベビーシッター、そして集団を相手にする保育士は6歳以下の幼児の社会性の発達を支えるために以下の指針を検討する必要がある。

(1)幼児の発達を支えるために、幼児のプライバシー、所有権、空間支配(なわばり)に対する要求を尊重すること。

(2)他人のプライバシーを尊重することを、幼児に促す。相互の権利のために、限度を設ける。

(3)可能であれば、自分の遊び場に入ってきてもよい人、入ってきてはいけない人を子ども自身に決定させる。子どもは大きくなるにつれ、他の子どもも遊びの場に受け入れられるようになる。

(4)幼児間の対立の解決にあわてて割って入るのではなく、しばらく状況を観察して何が起こっているのかを確認する。子どもが自分たちの対立を満足できる方法で解決できるよう、時間を与える。子どもが自分の感情を他人に向かって相手が受け入れられるような方法で表現できるようになるように、助ける。

(5)介入が必要なときは、相互の権利を修復できるよう双方の面子を立てた選択肢をいくつか与える。これには大人の側に創造力、工夫を要求するため最初は概して難しいが、繰り返すうちに幼児が必要とする模範となることができるようになる。

(6)幼児の社会性を育むためには、対立に対処する子ども自身の直接体験が必要であることを認識する。概して大人は幼児間の対立に対し、警察官であるかのように、罪と罰という観点で決定を下して取り組もうとする傾向がある。

(7)幼児には、決定を下す機会が必要である。その意思決定において着目すべきは、可能な解決策を考えた上でということである。選択肢を考え出すという創造的能力は、長期的にも、個人のストレスを軽減させる上での大きな財産となる。


集団保育の研究

協力的な環境下では幼児園児は集団学習活動からさまざまなことを得るというのは、皆の合意するところである。しかし保育士の多くには十分な心構えがなく、給与は低く、その上妥当数以上の幼児の世話をしなくてはならない状態にあり、理想的な状況はめったに存在しない。幼児教育を正規学校制度の一部とする法令の導入を試みた組織もある。この案では幼児教育にたずさわる者は小学校教諭と同水準の給与を得られることになっているが、資格を得るために小学校教諭と同等の教育を受けることも要求される。このような幼児教育に関する規定を変更しようという試みは、今のところ成功を収めていない。

現在のような状況で、親に代わって子どもの世話をする人がドミニオンプレイの利点を認識せずに、相互の権利の必要性を見過ごし、プライバシーを否定して共有を強要し威圧的な方法で対立を解決するのなら、どういうことが起こるのか。これが子どもの社会性の獲得に悪影響を与えていることは、子どもの観察から明らかである。1歳前から保育園に通い始めて5歳まで通い続けた子どもと、主に家庭で育てられた同年代の子どもとを比較した研究が広く報じられた。攻撃性を比較したところ、幼年期から保育園に通っている子どもは家庭で育てられた子どもに比べて15倍攻撃的であることがわかった。その違いは自分の権利を守るためにしっかりと自己主張できるかどうかという点にあるのではなく、言葉で、あるいは肉体的に他人を攻撃する傾向があるということであった。幼年期から保育園に通っている子どもはそうでない子どもと比べていらいらしやすく、非協力的で自分本位であり、物事に集中することが苦手で注意力散漫である。こういう子どもたちには自制心が発達しておらず、問題解決のために手を出しやすい。これらの研究結果は、早期からの長時間の幼児保育と問題行動の関連性を示唆する他の研究とも合致している(ベルスキー、2008)。

アメリカで就学前に保育園などに通う子どもの割合は1980年には25%であったが現在は80%にまで上がり、そのうちの多くが2歳前からこういった保育を受け始めている。米国国立小児保健発達研究所の保育研究ネットワーク(2006)は、母親以外の人による保育の影響についての究明を試みた。生後1カ月の赤ん坊とその母親1300組が調査対象となった。これらの親子は、国民のさまざまな民族集団から選ばれた。親の10%は高校を卒業しておらず、14%が母子家庭であった。6カ月、15カ月、24カ月、そして54カ月のときに追跡調査が行われ、育児の様子のビデオ録画、子どもの成果測定、家庭の特徴、通っている保育所の内容などが質と量の両側面で評価が下されたのである。

研究結果によれば、母親による排他的保育を受けている子ども(母親以外による保育が週に5時間以下)の母親は教育をあまり受けておらず、うつ傾向にあり、思いやりのある育児に欠け、多くの場合低所得層に属していた。これに対して高所得家庭の子どもは平均的に質の高い保育を受けており、集団保育を受けている時間はより少なかった。36カ月と54カ月になったときに行われた保育所の観察報告によると、母親以外の人による保育時間が長いほど否定的な行動、不品行、友だちとの喧嘩が多く見られた。研究結果は概して、幼児が長時間、保育園などで育てられることは健全な社会性の発達を促すものではないと示唆している(国立小児保健発達研究所の保育研究ネットワーク2006)。

集団保育で「相互の権利」を習得することができないのは、国際的な問題のようである。バーバラ・ティザードとマーティン・ヒューズ(2003)は、米国、英国、スウェーデンで幼児の社会性の発達における保育園の影響に関して8つの主要な調査をまとめた。すべての研究において、週のうち長時間を保育園で過ごす幼児は保育園にいる時間が短い幼児に比べて社会性に優れていないと結論づけられた。その後小学校や中学校において、社会的能力がないことで、他生徒の空間を侵害する、通路を行き来してクラスメートを妨害する、仲間の邪魔をする、人からものを取る、集団で学ぶときに必要な学習環境を乱すなどの行動が見られた(ストローム、ストローム、2007)。

ウォン(2005)は、350人の幼稚園教員に関する全国調査を報告した。それによると、幼稚園に入る準備としてもっとも重要なことはアルファベットや数字を覚えることではないと教諭たちは捉えていた。多くの親がアルファベットや数字の学習に唯一関心を寄せており、集団環境において他の子どもとうまくやっていくために必要な社会的スキルを無視している。幼稚園教諭の80%にも上る多数が、親たちは、子育てにおいて多くの場合学問的スキルを過度に重視しており社会性の発達に十分な注意を向けていないことを認識する必要があると感じている。母親と父親が子どもの言語コミュニケーションを支え、指示に従い集団行動にうまく参加する能力を重視していれば、子どもは幼稚園から最大限に多くを学ぶこと、得ることができ、教室内や家庭で問題ある行動を軽減することができるようになる(ヴァイゲル、マーティン、ベネット、2005)。

ウォンの調査(2005)に対応した教諭は共通して、社会的スキルを教えるには遊ぶ約束をする、公園に行く、親子クラスに参加することなどによって同年代の子どもと触れ合う状況に子どもをさらすことが最適であると勧めている。教諭達の意見によると、親は社会的圧力を受けて子どもの成長における優先順位を誤っているという。競争の激しい環境にあって、親は子どもに早く勉強を始めさせなくてはならないと圧力を感じている。ウォンの調査(2005)では、親が子どもの社会性の発達と性格形成をもっと重視し、他の子どもと協力的に遊び学ぶ機会を提供すれば、優秀な学業成績につながる良い影響を与えることができると示されている。


集団保育の評価

集団保育における幼児の数が増加するのは必至だが、そこでの経験は今より改善されなくてはならない。この結論は、幼児の発育に関する専門家と親の考えを反映したものである。解決策の一つとして、妥当な費用で質の高い集団保育が受けられるようにすることが挙げられる。国の推奨する子どもと保育者の割合は、ほとんどかなえられていない。また、保育士・幼稚園教諭に対して妥当な賃金を提供する必要もある。保育者は概して最低限の賃金しか受け取っておらず、それが離職者の多い一因となっている。フロリダでは、150人の担任を特定し、4年後に何人が同じ保育園、幼稚園に残っているかを研究者が調査した。結果は、150人中わずか2%にあたる3人が残っているだけであった(ジンクス、クノプフ、ケンプル、2006)。10年にわたる研究で、保育現場における年間離職率はおよそ31%であることがわかった(ミュンホウ、ベイカー、エルドリッジ、ベンハム、1998)。これは、小学校教員の離職率8%の4倍にもあたる数である(ホワイトブック、サカイ、2003)。

状況を複雑にしているのは、教員の離職が、幼児がもっとも継続性を必要とする年齢のときに起きている点である。2歳児から4歳児にとって、食と睡眠、自分が頼る人について習慣的パターンを持ち、それを自分がある程度わかっていることが大変重要だ。発達におけるこの段階では、子どもはすべてのことがいつも同じであり続けることを望んでいる。幼児にとって、安定は絶対不可欠だ。家族そろっての休暇ですら、慣れ親しんだものから離れることが原因で問題が引き起こされることもある。たとえば子どもはディスニーランドが好きだが、その夜ですらホテルではなく家に戻って自分のベッドで寝たいと言うものだ。こうした継続性を欲する習性が、幼児が旅先でマクドナルドをみつけると喜ぶ理由の一つである。メニューが予測可能で、家の近くにあるマクドナルドのものと同じだからである。


ソーシャリゼーション(社会性)の獲得に対する仲間の影響

仲間が人の社会性に与えうる影響は、学生が主に同年代からものを学ぶことを思えばよくわかるだろう。ここで大切なのは、仲間の中には広範な状況にわたって個人的適応を可能にする者もいれば邪魔する者もいるということである。仲間とは、相当な経験を一緒に初めてしていく。誰もが人との交流に価値を認め、他人が自分に注目してくれることを喜ぶ。仲間集団は、この欲求を満足させるに最適である。集団には、承認される行動を仲間が取ればその仲間に注目し、受け入れ、感情面で支持することで報いるという傾向がある。

仲間集団は通常、親や養育者が課す期待とは異なる基準を提示する。仲間の基準は達成しやすいことが多く、大人の指示に反する行為への弁明となることも多々ある。大人からの手助けが大きくなると、子どもには自主性を主張することが難しくなる。しかし仲間は、共通するジレンマについて常にすすんで耳を傾けてくれ、大人に対し彼らと自分は違うんだということを示せるようお互いを励まし合う。

同年代の仲間の肯定的影響は、大人には見過ごされ過小評価されることが多い。仲間は、社会的情緒的発達を促す経験をさせてくれる。たとえば子どもは自己の比較、罰を恐れず自分を表現する機会、リーダーシップを分かち合う機会の基盤として、同年代を必要とする。仲間は自立を得ようと励まし合って頑張り、家族やクラス以外に大切なグループに属しているという感覚を味わわせてくれる。

仲間たちは主にお互いから友情、同じ立場にある人間とうまくやっていく方法を学ぶ。集団のメンバーになることで、仲間に刺激を受け特定の社会的スキルを得る必要性が出てくることも頻繁だ。これらのスキルとは協力、分かち合い、自立の探求、怒りの発散、仲直りなどであり、これらすべての教訓は親からよりも仲間との付き合いから自然に学ぶものだ。子どもは仲間が容認すること、容認しない行動について確認していく。多くの子どもが同年代のグループへの帰属意識を持ち、受け入れられていると感じる。子どもたちは、ときには大人同様、敵意があらわであろうとも口論に穏やかに対処する方法をお互いから学ばねばならないことに気づく。


仲間の圧力からの防御

基準に沿った行動を取るというのが、仲間集団への帰属感に対する一般的代償だ。これは、満たすべき基準が健全である限りは問題ない。しかしそうでない場合、これに屈服することで健全さ、誠実さ、個人の目標を危うくすることになりかねず、そうならないためには1人で仲間からの圧力に抵抗しなくてはならない。親は、社会秩序を乱す行為を取ることを選ばなければ仲間からの拒絶に悩まされるという仲間からの圧力に対し子どもが対処できるよう、前もって子どもに準備させておくべきだ。すべての子どもには、仲間の圧力からの防御が必要である。

(1)仲間の圧力を最小限に抑える最良の方法は、個性を奨励することである。
このためには、親は兄弟姉妹の間で能力、成果、限界を比較することをしない。1人の子どもをその子の兄弟姉妹のお手本として扱えば、お互いの間に生涯にわたる相互の援助や誇りが築かれるのでなく、競争意識と嫉妬心が残るだけである(コンレイ、2004)。

(2)1人でいること、内省の時間、自己診断を大切にし、物事に新たな気持ちで目を向けられるよう子どもを促す。
長時間身の周りに同年代の友だちがいても仲間に依存するようならないためには子どもに個性や創造力が必要であり、そのためには1人でいることが大切である。

(3)親は、特に友情を築くことの難しさについて、子どもが話したいと思ったときにはいつでも、話を聞く心づもりをしておくべきである。
これは最優先にしなくてはならず、時間がかかって、都合が悪い場合もあるかもしれない。しかし、何をおいても必要なことである。仲間との問題は途切れることなく続くことが多く、親の対処の仕方によって、子どもが頻繁にアドバイスを求めることにもなればまったく求めなくなる場合もある。友人に対し譲歩を求めるあまり強い態度に出て後に引けなくなるような状況に陥ることなどないように、うまく関係を築けるよう子どもを導いていく。親の過ちについて話すこともよい。これには、自分について打ち明ける必要がある。

(4)プライバシーを守る。
出来事をすべて親に話すべきと強要するのではなく、子どもが話をしようと思ったときに話ができるようにしておく。親密な関係を築くためには信頼は必要不可欠であり、子どもが信頼にもとづいた友人関係を築けるようになるには親の影響力が最も大きい。


思いやりと社会的スキル

他人の感情を理解すること、つまり思いやりについて親がどのように幼児に話をするかは、子どもの社会的スキルに長く影響を及ぼしうる。他人がどのように物事を捉えるかについて考え、他の人の観点では状況はどのように解釈されるのかについて考慮することで、社会的理解は発達する。英国サセックス大学の研究者が、子どもが自分以外の人の視点を認識し評価する能力について調べた(ラフマン、スレイド、デビット、クロウ、2006)。この研究は長期にわたるもので、57人の子どもについて3歳から12歳までを追跡した。実験の開始にあたり、他人の感情、信念、要求、意思に関して子どもに話す方法について母親の半分には指導をし、残りの半分の母親(調整グループ)には親子の会話について全くまったくアドバイスをしなかった。

その後研究者は各家庭を訪れ、母親が一連の写真を子どもと一緒に見ながらどのように話しかけるのかを観察した。写真はたとえば、お気に入りのおもちゃが壊れてしまった幼い女の子、その女の子が公園のブランコやすべり台にいる様子、そして女の子がブロックで作った高い塔を男の子が故意にひっくり返している様子、などというものだった。これらの写真の中の子どもの「心理状態」について母親から話を聞いた子どもは、毎年実施した社会的理解についての課題でよい成績を残した。「心理状態」について会話することと社会的理解の関連性は幼少期には大変強く、母親のIQや社会的理解の水準とは無関係であった。母親に依存することが減り友だちや教師、他の大人と多くの時間を過ごすようになる8歳から12歳の子どもでは、母親の影響は減少した(ユール、ラフマン、2009)。

8歳以上の子どもの社会的理解を測るには、人気テレビコメディー『ジ・オフィス』のビデオを見る方法を使った。主人公のデビッド・ブレントは社会性に欠ける人物の典型であり、社会的状況を誤って解釈する。デビッドがしばしば同僚を当惑させているのはデビッドに社会的理解がないからだということは、大人の視聴者なら理解できる。また子どもも、デビッドは何故自分が周りの人間を不快にさせ続けていることに気づかないのかの説明を受けると、デビッドの社会的スキルの欠落に気づいた。親は皆、番組内で登場人物が関わる行動や出来事についての登場人物の感じ方を子どもに話すという方法で、テレビを利用すべきである。他人がどう思うかについて考え、その「心理状態」を察することは、社会的成熟の達成に向けての重要な一歩である。これについては、筆者の「親子でテレビを見る」(CRN、2006)の記事に詳しくある。

また子どもには日々、同年代の友だちと関わる中でこういった心理状態について学ぶ機会がある。たとえば、幼児が友だちから玩具を奪い取れば、それを見た親はこれに関して「あなたがテリーから飛行機を取ったとき、テリーは悲しかったのよ」と指摘することができる。このように説明することで子どもに物事の本質を見抜く力を与え、「今すぐおもちゃを返さないと、お仕置きですよ」と言うよりずっと大きな効果を与えることができる。親は子どもに感情を表す言葉を教えなくてはならない。その言葉を使って、子どもは自分の感情を表現できるし、他の人が感じているだろうことも理解できる。思いやりを自分の一貫した人格パターンとして確立していくのである。


親の指導についての指針

(1)お互いの権利を尊重することを学ぶのは、社会的能力を発達させるためのベースである。
子どもは自分のプライバシーを大人が守ってくれると認識すれば、無力感ではなく自信を抱くようになる。しばしば見落とされることだが、意思決定が重要なのは、たたく、ものを取る、言葉を使って人を傷つけると言ったことによって喧嘩の解決をはかるのではなく、他の選択肢を生み出せるという点にある。面子を保つことができるような選択肢を考えつくことができるということについては、子どもの間に対立が起こったときに大人が創造力を持って模範を示せばよい。

(2)社会性、情緒の発達のためには、仲間の支えは必要不可欠である。
子どもが他者と自己の比較、自己の存在の主張、リーダーシップを取る機会を得るためには、同年代の仲間が必要である。子どもは大きくなるにつれお互いに励まし合って、親から自立しようと努力し、家族以外の集団への帰属感を確認し合う。友だちがどういうことを許容するのかを確かめ、協力し、秘密を共有し、怒りを表し、違いを認め合うのは大人からより仲間からのほうが容易に学ぶことができる。

(3)ある状況や出来事が他の人にはどのように捉えられるのかを子どもに説明する。
テレビ番組や本、お話、ウェブサイト上、そして日々の子どもと仲間たちの関わり合いの中に出てくる人々の「心理状態」について話し合うことで、社会的に有益な方法で対応するために必要な社会的理解を後押しすることができる。


結論

政府の補助金を増加させることがよりよい幼児教育提供の鍵である、と評されることもある。だが我々は、効果的な解決のためにはもっと包括的な変革が必要であると考える。幼児の親や保育者は発達の心理面、肉体面を理解する必要がある。適切なトレーニングを受ければ、保育者は子どもの社会的限度を受け入れ、ドミニオンプレイにおけるプライバシーの必要性を尊重し、お互いの権利を守り、創造的に対立を解決する方法を子どもに教えることができる。これらの方法を組み合わせて行うことが、子どもが他人とうまくやっていくために必要な基本的社会スキルを獲得するためには不可欠である。また、親には子どもの個性を支持して仲間の圧力から守ること、兄弟姉妹が団結できるようにすることや、他人の心理状態について子どもと話をすることでものの見方、思いやり、社会的スキルの獲得を促すことなども求められている。
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