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【タイ】 屋外用ルースパーツ を用いた「ガイドされた遊び(Guided play)」:幼稚園における共同遊び行動への取り組み

要旨:

「ガイドされた遊び(Guided play)」は、大人が共に遊ぶ相手としての役割を務めながら、幼児学習者のコンピテンシーやスキルを向上させる教育上、効果的なアプローチである。本研究は、タイの公立学校附属幼稚園を対象に調査を行い、Guided play(ガイドされた遊び)と屋外用ルースパーツ *1を用いた活動の取り組みが共同遊び行動の促進にどのような効果をもたらすかを調べることを目的とする。
調査手法としては、まず48名の5~6歳児を対照群と実験群の2つのグループに均等に振り分け、それぞれからデータを収集した。ルースパーツを用いた屋外の遊びには10のテーマを設け、それぞれの遊び活動は45分間とした。教師は、1) 遊び素材を準備する、2) 子どもたちに遊び素材を手に取って確かめさせる、3) 皆で遊ぶ、4) 遊び素材を片付けさせる、の4つのステップで子どもたちをガイドする。データの分析には共同遊び行動の評価フォームを用い、平均値、標準偏差、および対応のあるt検定で分析を行った。
調査の結果から、屋外用ルースパーツを用いた「ガイドされた遊び(Guided play)」は、共同遊び行動を促進する効果的な教育法であることが明らかになった。さらに、重要な要因として創造性やリスク管理行動にも向上が見られたことが確認された。

キーワード:

ガイドされた遊び、屋外の遊び、ルースパーツ、共同遊び、幼稚園
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はじめに

子どもの学力を重視し、3~5歳児の読み書きや計算の教育のみに力を入れることは、21世紀において望まれる子どものスキル育成とは真逆なものである。現代では、子どもの将来的な成功のためには、ソーシャルスキルのような対人関係スキルを育成することが重要であると考えられている。子どもたちは積極的な学習者(アクティブ・ラーナー) であることから、「遊び」は彼らをとりまく世界を探索するうってつけの手段となる。とくに、5~6歳児には小学校に進む準備の一環として「共同遊び」をさせることが推奨される。米国の心理学者ScottとCogburnの研究(2020)によると、共同遊びは21世紀の市民にとって重要なスキルの1つであることが提唱されている。従って、子どもたちの遊びで期待される成果を確実に引き出すためには、大人が遊びの進行役となり、いわゆる「ガイドされた遊び(Guided play)」を推進することが求められる。

「ガイドされた遊び」は、大人が進行役となり、子どもたちが主導者(イニシエーター)として行動する遊びであり、子どもたちが遊びを通して望ましい学習成果を得るのに効果的な方法である。米国の心理学者Weisbergらの研究(2016)では、子どもの遊びにおける大人の役割として、遊び環境の設定、遊び素材の準備、自由回答形式の質問を行い、「観察者」または「共に遊ぶ相手」となることが述べられ、ガイドされた遊びは自由遊びよりも効果があることが確認されている。

「共同遊び」とは、子どもたちが共通の目的のためにチームとして協力しあいながら遊ぶことであり、5~6歳児の社会的発達の指標となっている。この年齢の子どもたちは役割を割り当て、プランを立て、チームとして協力しあう社会的なスキルを活かした遊びを行うことができると考えられている(Shim他, 2001)。共同遊び行動には遊びのルールを共有し、交渉しあい、守ることが含まれる(Mawson, 2010、Scott, 2020)。こうした共同遊び行動を促進するためには、幼稚園の教師が共同遊びの効果を高める環境を準備、整備する必要がある。すなわち、遊びルールの設定、子どもたちの遊びの監視、プランニング、遊び道具の提供、設備の吟味、そして子どもたちの遊び相手になることである(Greenman, 1988)。さらに、屋外用の遊び道具は柔軟に使用できるよう、子どもたちが自由に運び、動かして遊べることができるようにしなくてはならない(Mawson, 2009)。

最近の研究では、共同遊びにルースパーツ*1を使用することが効果的であると報告されている。カナダの幼児教育学者FlanniganとDietze(2017)の研究によると、ルースパーツを用いて遊ぶ子どもたちにはポジティブな社会的行動の向上が確認された。すなわち、遊びの中で子どもたちが言語および非言語的表現を用いて、より複雑な表現をすることが増えたと報告されている。また、子どもたちが屋外でルースパーツを用いて遊ぶ場合、仲間同士のやり取りや協力も見られた。この研究の結果から、子どもたちが屋外でルースパーツを用いた遊びを行える機会を増やすことが推奨される。

「ルースパーツ」とは、あらかじめ決められた使用方法がない遊び素材であり、さまざまな方法で自由に動かし、計画し、工夫し、分解することができる(Nicholson, 1971)。ルースパーツを用いた学習環境は次の4つの原則を考慮すべきである。すなわち、1)子どもたちがいる場所や置かれている状況を考慮する、2)子どもたちに遊び環境の構築プロセスに関与させる、3)教育の様々な側面を学際的な概念に統合する、そして、4)関係者に情報を提供することである。

本研究では、ルースパーツとして6種類の素材( 天然素材、再生木材、プラスチック、金属、布/リボン、梱包材)を使用した。安全性の観点からガラスや陶器のような壊れやすい素材は除外した。

本研究の目的は、屋外用ルースパーツを用いた「ガイドされた遊び(Guided play)」を導入することにより、1)ものごとを共有し、2)交渉し、3)ルールを守るという3つの構成要素において、幼稚園児の共同遊び行動に及ぼす効果を探ることである。本研究の結果は、子どもたちの共同遊び行動やチームワークスキルを向上させ、将来の学問的成功を達成できるように取り組む幼稚園教師にとってのガイドラインとなることが期待される。

調査方法

本研究は疑似実験(観察研究)の手法を用いて2つのグループを対象に調査を行い、調査前後のデータを比較した。調査の手順を以下に述べる。

本調査はある幼稚園の年長組児童48名を対象とし、2021年度第2学期(2021年11月15日から2022年2月4日までの間)に実施した。無作為抽出によって年長組のうち1クラスの児童24名を対照群、別のクラスの24名を実験群と、2つのグループに振り分けた。

調査対象の児童のために10種類の遊びのテーマを設け、遊び活動の授業として100回分を計画した。そのうち50回は実験群向け、残りの50回は対照群向けである。遊びのテーマは、1)ファンハウス、2)大きな森への旅、3)橋の建築、4)スーパーヒーロー、5)おとぎ話、6)宝探し、7)宇宙への冒険、8)大きな森の中の小さな生き物、9)子どもたちの発見、10)すばらしい発明とし、各テーマの授業を1週間として合計10週間の観察を行った。

実験群の子どもたちには、以下の4ステップで構成される授業プランを策定した。

ステップ1「遊び素材を準備する」:教師は遊びのテーマに基づき子どもたちが遊ぶ素材を準備し、子どもたちに遊びのテーマを説明し、子どもたちと一緒に遊びの基本ルールを決める。

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写真1:屋外用ルースパーツの準備
 
写真2:遊びルールを決めるために話し合う

ステップ2「子どもたちに遊び素材を手に取って確かめさせる」:子どもたちにルースパーツを手に取って調べさせ、理解してもらった後で、小グループに分かれて遊ばせる。教師は子どもたちの遊ぶ様子を観察し、決まった回答のないような質問を織り交ぜながら、子どもたちが話し合い、目標を設定するよう促す。

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写真3:ルースパーツを紹介する
 
写真4:ルースパーツを手に取って調べる

ステップ3「一緒に遊ぶ」:子どもたちは遊びを始める。子どもが遊びをリードし、教師は協力相手として遊び、助言を与え、決まった回答のない質問を投げかける。

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写真5:別のグループと遊びルールについて交渉する
 
写真6:話し合い、協力しあって家を作る

ステップ4「遊び素材を片づけさせる」:教師は遊びをやめる指示を出し、子どもたちに全ての道具や素材を片づけさせ、手足をきれいに洗うよう指示する。その後で、子どもたちと感想会を行い、遊びについて意見や感想を述べてもらう。

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写真7:ルース・パーツをひもでまとめる
 
写真8:遊びの後の感想会

調査に用いた共同遊び行動の評価フォームは、共有、交渉、ルールの順守の3領域で構成される。各領域で望ましい行動として項目2つを設定し、合計6つの項目で評価を行った。評価基準として、教師の催促やガイダンスがなくても共同遊びをした子どもに2ポイント、教師の催促やガイダンスを受けて共同遊びをした子どもに1ポイント、教師の催促やガイダンスを受けても共同遊びをしなかった子どもに0ポイントのスコアとした。

実験の1週間前に事前調査を行い、児童6名ごとに40分間、体系的な観察を行った。10週間の実験で、2つのグループ向けの授業プランに基づき、毎週5日、1日あたり40分間、子どもたちの屋外活動を実施した。事前調査と同じ方法により事後調査を1週間実施した。取得したデータから平均値および標準偏差を算定し、対応のあるt検定データの分析を行った。

調査結果

実験群の事後調査の平均値は実験前よりも有意水準0.05で増加した。事前調査の共同遊び行動の平均値が10.79であったのに対し、事後調査では20.66であった。評価の各項目についても、3項目全ての平均値は有意水準0.05で増加がみられた(表1)。

表1:実験前後の平均値、標準偏差、および対応のあるt検定データの分析
共同遊びの評価項目   事前調査 事後調査    
n (n=24) (n=24) t p
  M SD M SD    
共有 24 3.41 1.71 7.45 0.83 10.37 .000*
交渉 24 2.91 1.24 6.58 1.1 10.79 .000*
ルールの順守 24 4.45 1.44 6.62 1.09 5.85 .000*
合計 24 10.79 1.55 20.66 1.73 20.72 .000*
**p < .05

共同遊び行動については、実験群の事後調査の平均値は有意水準0.05で対照群の平均値を上回っている。共有、交渉、ルールの順守という3項目全てにおいて、実験群のスコアは対照群よりも高い(図1)。

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図1:対照群と実験群の事後調査の平均スコアの比較


考察
1.ガイドされた遊びにおける屋外用ルースパーツの効果

遊び活動における教師のガイド、すなわち「遊び素材を準備する」、「子どもたちに遊び素材を手に取って確かめさせる」、「一緒に遊ぶ」、「遊び素材を片づけさせる」の4ステップ全てが共同遊び行動を促している。

ステップ1では、 教師が「遊んでいる間に守るべきルールは何かな?」と、決まった回答のない質問を子どもたちに尋ねた。これにより、ルールを守る行動が促された。

ステップ2では、教師が「これは何だろう? なんて呼ばれているか知っている? どうやってこれで遊べばいいのかな?」と尋ねている。子どもたちは自分の考えを皆に伝え、仲間の意見に耳を傾け、決定を行う機会をもつことができた。このステップにより子どもたちの交渉スキルが向上した。米国の幼児教育学者CharlesworthとLind(2010)が論じているように、子どもたちは遊びの素材を調べている間、以前の経験をこの新しい経験に結び付け、質問に答えるための情報を整理し、目標設定について意見を出し合い、話しあう。こうしたプロセスの結果、子どもたちの認知発達が促されている。

ステップ3では、教師が「共に遊ぶ相手」と「進行役」としての役割を担い、「皆で決めた目標に向かっているかな?」、「何をやったのかな?」、「どうやって皆で助け合ったのかな?」などの質問をすることにより、子どもたちに考えることを促した。このステップにより、米国の心理学者Svetlovaら(2010)が述べているように、子どもたちは遊びを通してアイデアや意見を共有し、協力しあうことを学び、共有スキルが向上した。また、ヨーテボリ大学の研究(2010)によると、子どもたちは遊びのスペース、遊びに使う素材、または状況について交渉する際に、グループ内またはグループ間で意見を伝え、交渉し、譲歩することが必要であるため、彼らの交渉スキルが向上することが指摘されている。

最後のステップ(ステップ4)である「遊び道具の片づけ」では、子どもたちのルールを守る行動が促された。

ルースパーツを用いて教室の外で遊ぶことで共同遊び行動が促進される。これはルースパーツのサイズが理由である。屋外用ルースパーツは子どもの体に比べて大きくて重いものが多いため、1人で動かすことができず、友達と協力しあったり、どのように使って遊ぶかを話し合ったりする必要がある。こうした活動を通じて、意思を伝達し、交渉を行い、交代で遊び、リーダーとリーダーに従う役割を演じるなど、共同遊びスキルが発達する。英国の研究者CaseyとRobertson(2019)が論じているように、ルースパーツは使う方法が決まっていない自由な遊び道具であるため、子どもたちはルースパーツを調べ、触れたり動かしたり組み合わせたりして、新たな創造物を制作することができる。従って、ルースパーツは意思伝達のスキルなどの社会的行動を発達させ、自信を深めさせ、自己調整力や問題解決のスキルを向上させる。また、屋外用ルースパーツはチャレンジしがいのある冒険的な要素も備えている。


2.屋外用ルースパーツを用いた遊びにより創造性とリスク管理行動が向上

2.1 創造性

屋外用ルースパーツを用いた遊びの間、子どもたちには創造的思考による行動が見られた。すなわち、自分で考えてみる、リスクを負う、難しい課題を受けいれる、自信をもつなどである。例としては以下のような行動である。

  • 見慣れない素材や道具を手にとってみる
  • 今までに試したことのない構造物を作ってみる
  • 何をすべきか、何をしたいかを理解している
  • 発明した製作物の上に自分自身で乗ってみるなど、耐久性を確かめる
  • 試行錯誤を繰り返し、失敗から学ぶ
こうした行動の全ては創造的思考のフレームワークである、探索、関与・楽しみ、不屈の努力に該当する(Robson&Rowe, 2012)。

2.2 リスク管理

英国の研究者CaseyとRobertsonの論文(2019)で指摘されているように、屋外用ルースパーツで遊ぶことは楽しく挑戦しがいがあるため、子どもたちの誰もがルースパーツを好む。また、ルースパーツはリスク評価・管理を学ぶ機会も提供する。実験の間、子どもたちには、棒で遊ぶ時や段差のある床を歩く時に「気をつけて!」と仲間に注意したり、手や体の一部を差し出して相手が体のバランスを取れるように助けたりするなど、用心する行動が見られた。

提案

教師は遊びの中で過度に子どもたちに強要したり指導したりせずに、適切な進行役を務めるように配慮する必要がある。子どもが遊びの主導者であり、自由に遊ぶ権利をもっていることを念頭に置くべきである。教師の主要な役割は、適切な屋外用の遊び素材を提供し、子どもたちが遊びを通して最適な学びを得られるようにポジティブな雰囲気をつくることである。また、学びの各段階で、決まった回答のない質問を行うことも望ましい。

今後の研究課題として、行動障害をもつ子どもに屋外用ルースパーツを用いた「ガイドされた遊び(Guided play)」を採用し、リスク管理行動に関連する効果を調べることが挙げられる。

謝辞
本研究はチュラロンコン大学院の論文助成金を受けて実施したものである。



  • *1:1971年に建築家サイモン・ニコルソンが「ルースパーツ理論」を提唱。身近にある素材で、移動させたり、デザインしたり、作り直したりすることができるものを使うと、創造したり発明する機会、発見の可能性が、その数だけある、という考え方。

References
  • Casey, T., & Robertson, J. (2019). Loose parts play: A toolkit. Inspiring Scotland.
  • Charlesworth, R., & Lind, K. (2010). Math and science for young children. Thomson Delmar Learning.
  • Flannigan, C., & Dietze, B. (2017). Ideas from practice: Children, Outdoor Play, and Loose Parts. Journal of childhood study, 42(4), 53-60.
  • Greenman, J. T. (1988). Caring spaces, learning places: children's environments that work. Exchange.
  • Mawson, B. (2010). Environmental influences on independent collaborative play. International Research in Early Childhood Education, 1(2), 2-12.
  • Nicholson, S. (1971). How not to cheat children: The theory of loose parts. Landscape Architecture, 62, 30-34
  • Robson, S., & Rowe, V. C. (2012). Observing young children's creative thinking: Engagement, involvement and persistence. Journal of Early Years Education, 20(4), 349-364.
  • Scott, H. K., & Cogburn, M. (2020). Peer play. StatPearls.
  • Shim, S., Herwig, J. E., & Shelley, M. (2001). Preschoolers' play behaviors with peers in classroom and playground settings. Journal of Research in Childhood Education, 15(2), 149-163.
  • Svetlova, M., Nichols, S. R., & Brownell, C. A. (2010). Toddlers' prosocial behavior: From instrumental to empathic to altruistic helping. Child Development, 81, 1814-1827.
  • University of Gothenburg. (2010, June 24). Young children are skilled negotiators, Swedish research finds. ScienceDaily. www.sciencedaily.com/releases/2010/06/100621101206.htm
  • Weisberg, D. S., Hirsh-Pasek, K., Golinkoff, R. M., Kittredge, A. K., & Klahr, D. (2016). Guided play: Principles and practices. Current Directions in Psychological Science, 25(3), 177-182.
    http://dx.doi.org/10.1177/0963721416645512
筆者プロフィール
sasilak_khayankij.jpg サシラック・カヤンキジ

チュラロンコン大学教育学部カリキュラムおよび指導科幼児教育課程、准教授。主に幼児の発達・学習評価、インクルーシブ教育、社会情緒的学習、美的感覚の発達の研究を専門とする。
連絡先:sasilak.k@chula.ac.th


path_sutthiboon.jpg パス・スティブーン

チュラロンコン大学教育学部にて幼児教育を専門とする教育学修士を取得。現在、幼稚園教師としてプラナコーンシーアユタヤ郡初等教育サービス地区第1オフィスの監督下にあるWatsawangaromスクールに勤めている。
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