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基調講演⑤a:遊びの処方箋 ― なぜ遊びは社会的・認知的発達を促進するのか-(CRNアジア子ども学研究ネットワーク第3回国際会議講演録)

要旨:

イェール大学のエドワード・ジグラー教授は、論文で「遊びは危機に瀕している」と述べたことがあります。1981年には子どもの自由時間の40%が遊びに使われていたのが、1997年になると25%まで減少しています。過去20年間、子どもの自由遊びの時間は週当たり8時間失われ、米国では数千もの学校が学習時間を増やそうと休み時間を撤廃しました(エルキンド、2008年)。皮肉なことに、子どもたちはこうした「教育」の時間が余分に増えたことで恩恵を受けませんでした。いわゆる知育玩具や知育アプリも同様です。この講演では、自由遊びやガイドされた遊びが、対処能力や社会的・認知的スキルの発達を促すものとしていかに重要であるかを論じます。学校の中と外における遊びが子どもの学力、社会的スキル、身体の健康を促す上でいかに重要な役割を果たすのかを科学的な観点から見ていきます。また、遊び、特にガイドされた遊びが、幼児期の教育において、単なる遊びと教育指導という相反する二つのアプローチの中間にある利点についても説明します。遊びと学びは相容れないものではありません。遊びを取り入れた教育によって高い学習目標を設定することも可能なのです。こうした考えから、私たちは、子どもたちの日常生活や学校のカリキュラムに遊びを復活させる『処方箋』を提案したいと思います。
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本稿は、2019年9月25~27日、インドネシア・ジャカルタで開催されたCRNアジア子ども学研究ネットワーク(CRNA)第3回国際会議にて行われた講演録です。

※肩書は当時のものです

遊びの処方箋 ― なぜ遊びは社会的・認知的発達を促進するのか

ジャカルタの皆さん、こんにちは! CRNアジア子ども学研究ネットワークの国際会議に招待していただき、ありがとうございます。今日は「遊びが社会的・認知的発達を促すしくみ」についてお話をさせていただきたいと思います。

遊びはどこでもみられるありふれた存在です。それにもかかわらず、現在は危機に瀕しています。いったい何が起こったのでしょうか? 1981年には米国の平均的な児童は自由時間の40%を遊びに費やしていましたが、1997年になると25%まで減少しています。なぜでしょうか? 2000年以降、子どもたちの自由遊びの時間は週当たり8時間失われています。米国では30,000校以上の学校が休み時間をなくしています。

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英国の校庭にあった掲示板(写真:Tim Gill)

この掲示板は英国の校庭にあったもので、「走らない、飛び降りない、飛び跳ねない」と書いてあります。こうした遊びの消滅傾向は最近の調査によっても明らかとなっています。米国の児童連盟(Alliance for Childhood)が2009年にニューヨークの幼稚園142クラスおよびロサンゼルスの幼稚園112クラスを対象に調査を行った結果、教師の25%が遊びの時間を設けていないことが判明しました。また、ニューヨークの教師のうち61%がチョイスタイムの(自由に遊びを選べる)時間を設けておらず、代わりにテストの準備に時間を費やしていました。たとえそれが5歳児のクラスであってもこうした傾向がみられました。

これを受けて米国小児科学会もいくつかの報告書を発表しました。最初の報告書は2006年に「子どもの健全な発達の促進および親子の強い絆の維持における遊びの重要性("The Importance of Play in Promoting Healthy Child Development and Maintaining Strong Parent-Child Bonds")」という表題で発行され、2012年にも更新版が発表されました。

1. 遊びの定義

そもそも「遊び」とは何でしょうか? 自由遊びは、構成遊び、物体遊び、想像的な遊び、ごっこ遊び、運動遊びなどと一緒に定義されており、子どもが楽しいと感じる活動でなければ、「遊び」とは言えません。自由遊びは積極的に行うもので、受け身であってはならず、周囲から与えられる目標もありません。繰り返して行うことにより新たな発見や学びを体得します。

ガイドされた遊びは、やや異なります。周囲から何かを学ぶための目標を与えられます。ガイドされた遊びには二つの形があります。一つ目は保育者が遊びの環境を用意し、遊びを通して得る経験を注意深く管理する一方で、子どもが遊びの進行を決めるものです。二つ目は保育者が質問を投げかけることにより遊びを通した子どもたちの効果的な探索や学びを導くものです。質問は、答えが一言で済むものではなく、会話になるような自由に答えらえる質問をします。

「自由遊び」は、子どもから始め、子どもが進める遊びです。保育者が始めさせ、子どもが進める遊びは、ガイドされた遊びです。子どもが始め、保育者が参加する場合は、仲間入り遊びとなります。保育者が始め、保育者が進める場合は、もはや「遊び」ではなく「直接教示」となります。ある研究によると、こうした異なる形態の遊びが対処スキル、社会的スキル、学習スキルを会得する上で非常に重要となります。ジョージタウン大学デボラ・フィリップス(Deborah Phillips)教授による2017年の報告書では、遊びを用いた教育法を採用することで、幼児教育における豊かな学習アプローチが可能であることが明らかとなっています。ガイドされた遊びを用いることにより、子どもたちは効果的に学ぶことができるのです。

2. 遊びのメリット

自由遊びは子どもの発達において保護因子として作用し、子どもたちが特定の状況に対処する方法を効果的に学ぶことができます。

柔軟性、衝動制御、意識集中、問題解決などのいわゆる実行機能スキルは重要です。子どもたちの計画性や自立心は遊びによって向上し、衝動的な行為が抑えられるようになります。メトロポリタン州立大学のエレーナ・ボドロヴァ博士とデボラ・レオン博士による「Tools of the Mind(心の道具)」を用いたカリキュラムの研究では、子どもたちに感情制御や実行機能のスキルを教える効果が高いことが実証されています。この研究は、考案した複数のゲームを子どもたちに取り組ませるというものです。子どもたちは適切に設計されたタスクを用いてプレイフル・ラーニング(遊び心に満ちた学び:Playful Learning*1)を行うことで、実行機能や標準テストの算数・読解力のスコアが向上しました。また、オレゴン州立大学のミーガン・マクレランド教授は子どもたちの自己制御の発達を促すような一連のゲームを考案しました。例えば、オーケストラの指揮をさせる、ドラムを叩くといった遊びです。彼女はその著書で、「立ち止まって、考え、行動する(Stop, Think, and Act)」という遊びを通して子どもたちが集中力、柔軟性、衝動制御、問題解決を学び、学校での成績が向上したと述べています。さて、私たちの研究についてですが、私たちは保育者が「騎士とドラゴン」といった絵本を読み聞かせる時に子どもたちが非常に熱中することに気が付きました。そこで、子どもたちに絵本を読むときに「馬の駆け足」や騎士が敵と戦う時に使う「盾」などの新しい言葉を強調しておき、そのあとで「自由遊び」、「ガイドされた遊び」、「指示された遊び」の3つの遊びの形態のうち一つに取り組ませます。自由遊びでは人形、盾、馬、騎士を使って自由に遊ばせ、ガイドされた遊びや指示された遊びでは台本的なヒントを与えます。子どもが主導で遊びますが、より系統立っています。

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図1:受容語彙テストの平均正解率

この図を見ると、指示/ガイドされた遊びを行った子どもたちの約60%が大半の単語を覚えた一方で、自由遊びでは約53%となっていることがわかります。従って、学習目標を意識してガイドされた遊びを用いる教育方法は、子どもたちの語彙力が向上するなど、学びを促す効果があると言えます。私たちの最近の研究では、音楽やデジタルなどを用いたグループゲームも採用した結果、子どもたちはフラッシュカードや説明付きカードを使った遊びでも言葉を学ぶことがわかりました。例えば、「蛇と梯子(Snakes and Ladders)」というボードゲームですが、子どもたちはゲームをしながらブロックの文字を読んだり、フラッシュカードに書かれている単語を読んだりします。単に言葉を覚えるためにフラッシュカードや説明を読む従来の方法よりも、遊びを通してフラッシュカードを使うほうが効果的であることがわかりました。従来の方法は受け身であり、積極的に没頭して学ぶものではないからです。

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図2:「蛇と梯子」ゲームで遊ぶ前のテスト結果と遊んだ後のテスト結果

図2を見ると明らかなように、調査対象の子どもたちを介入群と対照群に分けて遊ぶ前にテストを行ったところ、双方とも結果はほぼ同じでしたが、遊んだ後のテスト結果は、ボードゲームを利用した介入群、のほうが、対照群、すなわちフラッシュカードを使った子どものグループよりも高い点となっています。

このことは、科学・技術・工学・数学の教育分野を対象とするSTEM教育にも当てはまります。かたち探し、キャンディを友達と分ける、スナックミックス(ナッツやシリアル、ドライフルーツなどの複数のスナックを混ぜ合わせたおやつ)の中身をナッツとキャンディに分ける、スパイゲーム(スパイになった人が指定する形を探す)などのゲームを用いることによって、子どもたちは物のかたちを学びます。STEM教育にこうしたゲームを活用することにより、遊びを取り入れない場合には達成できそうもない成果を得ることができます。また、私たちの研究では積み木遊びにも焦点を当てています。これは空間認識や算数的なスキルを学ぶのに非常に有効な手段です。積み木を使うガイドされた遊びでは、自由遊びの時と比べて、「~の中に」「~の周りに」「~を通って」「~の下に」といった空間を表す言葉が使われる頻度が高くなります。

こうした言葉は後に空間認識や数学的な能力を育むためにも重要です。私たちの調査では、空間認識能力を調べるための2次元/3次元テストを行いました(図3)。3歳の時にこのテストで高い点数を取る子どもは、そうでない子どもに比べ、5歳になった段階で就学に必要なスキルを獲得する度合いが高まります。

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図3:空間認識能力のテスト

最後に、私たちは幾何学的研究を行い、三角形などの基本的な形状の学びに遊びが役立つかどうかを調べました。三角形とは3つの角度と3つの辺をもつ形で、横向きになったもの、頂点が上を向いているものなど、様々な状態があります。ところが、私たちが調査したカリキュラムでは、三角形はどれも頂点がまっすぐに上を向いた状態でした。そうなると子どもは頂点が上を向いた三角形ばかりを学び、そのような三角形が全てだと考えてしまうでしょう。私たちは直接教示で三角形を取り上げ、三角形は3つの辺と3つの角度をもつ形だと子どもたちに話しました。そして探索的な自由遊びでは、子どもたちに指示を一切与えずに、三角形を使って自由に遊ばせました。その後で、図4に示すように、「かたち探し」のゲームに取り組ませました。

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図4:かたち探しのゲーム

子どもたちには40枚のカードが提示されます。ひとつの形ごとに10枚のカードがあります。3枚は典型的な形、3枚は変則的な形、残りの4枚はすべて無効な形となっています。子どもたちは正しい三角形を見つけることができるでしょうか? カードの三角形には、二等辺三角形、直角三角形、正三角形があります。これらを三角形と認識しているでしょうか? 逆さまになっても、頂点が上を向いていなくても、三角形だとわかるでしょうか? その答えは図5を見ればわかります。

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図5:かたち探しゲームの結果

なぜプレイフル・ラーニング(遊び心に満ちた学び)が子どもたちの学びを促すのでしょうか? ここでいくつかの仮説を挙げてみましょう。

ビッグアイデア1: プレイフル・ラーニングは「積極的に没頭でき、意義があり、社会的交流を伴う学習」で、人間が最も効果的に学ぶ方法である(Chi, 2009; Hirsh-Pasek et al., 2015)。

ビッグアイデア2: ガイドされた遊びは「制約を受けながらあれこれ試す」ようなもので、気が散る「雑音」を減らし、特定の仮説を優先させ、仮説を検証する機会を提供する(Parish-Morris et al., 2014; Tare et al., 2010; Uttal et al., 1997)。

ビッグアイデア3: ガイドされた遊びは学びと探索に必要な下準備や肯定的な下地を作り出す(Weisberg, Hirsh-Pasek, Golinkoff & McCandless, 2014; Weisberg, Hirsh-Pasek et al., 2016)。料理をする前に必要なものを下ごしらえするように、学びの下準備を整え、効果的に没頭して学習することができるようにするものである。

ビッグアイデア4: プレイフル・ラーニングは楽しい活動であり、肯定的な感情をもつことにより子どもたちの学びが促進される。

ビッグアイデア5: 遊びは子どもたちの成功に必要なスキル(6つのCのスキル)を揃える手助けとなる。

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遊びは周囲の人間とうまくやっていく方法やコミュニケーションをとって会話をもたせる方法、そしてSTEMや読解力、因果関係、クリティカルシンキングのスキルを学ぶ手助けとなります。クリティカルシンキングとは、例えば、どの積み木を使えばその箱を上向きにすることができるのか、一緒にまとめるにはどうしたらいいのか、首尾よく成功させるにはどうしたらいいのか、などを考えることです。遊びはクリエイティブイノベーションのスキルを養うためにも役立ちます。6つのCのスキルについては、私たちの著書「科学が教える、子育て成功への道*2」で詳しく説明しています。

3. プレイフル・ラーニングを効果的に利用する方法

プレイフル・ラーニングの理論はわかったとしても、それをどのように利用すればよいのでしょうか? ここでペンシルベニア州ウェストチェスターにある学校の事例を皆さんにご紹介したいと思います。そこでは5歳児が従来の教育法で算数やSTEMスキルを学んでいましたが、プレイフル・ラーニングのカリキュラムモデルを導入してからは、変化が起こりました。例えば、小さな女の子が「予想」「予測」「天気予報」といった言葉を使ってその日の天気について、前線があれば雨が降ることを意味するなどと説明します。すごいことですね! また別のクラスでは、おとぎ話の時間に、「三匹の子豚」と「赤ずきん」をミックスして、オリジナルのストーリーを作っていました。

遊びの処方箋には家庭での遊びを奨励することも含まれています。小児科のクリニックには私たちが働きかけ、絵本を提供する様々なプログラムがあります。子どもたちは、そのようなプログラムを利用して、読むことの価値、STEM、クリティカルシンキング、コラボレーション、コミュニケーションを学ぶことができるのです。

ニューヨーク大学のアラン・メンデルスゾーン博士は、子どもたちが遊びを学ぶことを大人が手助けすることができ、保護者がこれを促進させると論じています。そうすることで、貧しい家庭の子どもたちは優れた遊び手になり、学校でも上手に遊びます。家庭訪問員は貧しい家庭に玩具を届け、恵まれない家庭でも遊びのもつ力を学べるように手助けすることができます。

最後に、私たちの研究では、コミュニティにおける遊びの機会にも焦点を当てています。子どもたちは、起きている時間のうちたった20%を学校で過ごし、残りの80%は学校の外で過ごします。この時間をどのように有効活用すればいいのでしょうか? 答えは、プレイフル・ラーニングの環境を作る、です。どこにでもあるような普通のベンチですら、うまく使えば頭の体操をする場所に変身させることができます。いくつか例をお話ししましょう。

最初の例は、2010年にニューヨーク市のセントラルパークで開催された「Ultimate Block Party」のイベントです。科学にまつわる28のアクティビティが行われ、5万人以上の人が集まりました。3つ以上のアクティビティに参加した保護者は、遊びと学びの関係について理解するようになりました。

2つ目の例は、私たちが実施しているスーパーマーケット研究です。私たちは貧しい家庭の多い地域のスーパーマーケットにポスターや看板を設置し、保護者と子どもとの会話が増えるかどうかを観察しました。

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スーパーマーケットに設置された看板(Ridge, Ilgaz, Weisberg, Hirsh-Pasek & Golinkoff, 2015)

ポスターにはこう書かれています。「私は牛さんよ。ミルクを出します。ミルクから作られるものには何があるかな?」 結果として、このコミュニティでは、家族が子どもに話しかけることが33%増え、子どもの語彙力が伸びました。STEMに関するポスターの使用でも同様の成果が得られ、子どもたちは以前よりも数を表す言葉を使うようになりました。このスキルは後に算数の能力にも関わってくるのです。

3つ目の例は「Urban Thinkscape」です。ペース大学のブレナ・ハッシンジャー=ダス教授と建築家であるイタイ・パルティ氏が、ウェスト・フィラデルフィアのコミュニティにあるバス停をプレイフル・ラーニングの場所に変貌させたのです。彼らが地域の住民に、近所でパズルを置くとしたら、どのような内容のパズルがいいかを尋ねたところ、住民たちはマーティン・ルーサー・キングを記念するようなものがいいと答えました。

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バス停に設置されたパズル

結果として、子どもと長く会話する家族が35%増え、34%がバス停に提示されているパズルを見て数、形、色を表す言葉を使うようになりました。

4つ目の例は「Parkopolis」という等身大のボードゲームで、初期の数学的なスキルや科学的思考を育てるものです。これはカリフォルニア大学アーバイン校の学生であるアンドレス・ブスタマンテ君が考案し、いくつかの公園で実施したものです。サイコロには全ての番号と分数が書かれており、私たちの研究結果では、子どもも大人も分数をよく使うようになりました。例えば、サイコロを転がして6と1/2の目が出て、次に3と1/2の目が出た場合には、10のスペースまで進んで、指示されたアクティビティを行うことになります。Parkopolisを体験した後、数学的な言葉を使う大人が47%増え、子どもたちの79%が分数を含め、数を表す単語を使い始めたことが明らかになりました。

5つ目の例は「Playbrary」です。図書館の中に文字がかかれたクライミング用の壁を作り、子どもたちが壁を登りながら言葉を作ることができるようになっています。また、本棚にはめ込まれたタングラムのパズルを抜いて床に置き、自分自身で読む場所を作ることもできます。その結果、空間、色、文字を表す言葉の使用が44%増え、大人も子どももテクノロジーの使用が38%減少しました。実際のところ、図書館の利用登録をする人が3倍に増えました。

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プレイフル・ラーニングの例として最後に取り上げるのは「Fractionball」で、中学生向けにバスケットボールのコートをゲームの場に作りかえたものです。シュートをする場所によって3/4点、1点、1/2点のスコアが加算されていき、整数にどこまで近づくかを競います。コートサイドには各プレイヤーのスコアを記録しておくことができます。

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Fractionball

上に述べた例はプレイフル・ラーニングの活用法の一部にすぎません。私たちはワークブックも作っていますので、興味があるかたは是非kathyhirshpasek.comにアクセスしてご覧になってください。

この講演を終える前に、遊びの処方箋を書いておきましょう。遊びは子どもの対処能力、社会性、学びの発達を促します。遊びは仕事の対義語ではありません。遊ぶことが子どもの仕事なのです。子どもたちは、難民キャンプであっても、そして紛争地域でさえ遊ぶ必要があるのです。

ご清聴ありがとうございました。我々の研究を支援してくださった皆さま、並びに私の40年来の同僚であるロバータ・ゴリンコフ教授に感謝の意を表します。今日述べた研究に参加してくださった家族の方々にもお礼を申し上げます。皆さんが今日の講演で遊びの重要性を理解してくださったことを願っています。

司会者からのコメント

今日の学校や保護者は子どもたちを本当に遊ばせているとは言えません。むしろ、遊ぶことを制限しているくらいです。彼らは遊びが学びを育てることを理解していません。しかし、遊ぶことは子どもの仕事なのです。おもちゃがなくてもかまいません。子どもたちにとって、衣服、靴、その他周りにあるものがなんでもおもちゃになるのです。

遊ぶことは学ぶことです。キャシーさんのお話によると、自由遊びだけでは子どもの学びが十分に促されません。言葉の使用が重要となります。教師も保護者も子どもたちにはたくさんの言葉をかけ、何をしているのかを言葉で表してください。

ガイドされた遊びの方が自由遊びに比べて効果があります。遊びは子どもたちを幸せにし、ストレスを減らし、彼らの人生にとって非常に重要なものとなります。遊びと学びは子ども時代の全てのステージで起こるものです。それがキャシーさんの伝えようとしたことです。遊びは子どもの人生にとって必要不可欠なものなのです。


  • *1 プレイフル・ラーニングの詳細についてはplayfullearninglandscapes.comをご覧ください。
  • *2 R. M.ゴリンコフ、K. ハーシュ・パセック著(2016年)『科学が教える、子育て成功への道(Becoming Brilliant: What Science Tells Us About Raising Successful Children)』(出版社:Apa Life Tools)

参考文献

  • Hassinger-Das, B., Ridge, K., Parker, A., Golinkoff, R., Hirsh-Pasek, K., Dickinson, D.K. Building Vocabulary Knowledge in Preschoolers Through Shared Book Reading and Gameplay. Mind, Brain & Education, Vol.10, Issue2, 2016.
  • Hirsh-Pasek, K., Toub, T.S., Hassinger-Das, B. Playing to Learn: Vocabulary Development in Early Childhood, Research, Policy, and Practice 2014 Conference Program, April 2014.
  • Phillips, D., Lipsey, W. M., Dodge, K., Haskins, R., Bassok, D., Burchinal, M.R., Duncan, G.J., Dynarski, M., Magnuson, K.A., Weiland, C. Puzzling it out: The current state of scientific knowledge on pre-kindergarten effects, A consensus statement. REPORT, Brookings Institution. April 17, 2017.
  • Ridge, K.E., Weisberg, D.S., Ilgaz, H., Hirsh-Pasek, K., Golinkoff, R. Supermarket Speak: Increasing Talk Among Low-Socioeconomic Status Families, Mind, Brain, and Education, Vol.9, Issue 3, 2015. P. 127-135.
  • Verdine, B., Golinkoff, R., Hirsh-Pasek, K., Newcombe, N., Filipowicz, A., Chang, A. Deconstructing Building Blocks: Preschoolers' Spatial Assembly Performance Relates to Early Mathematical Skills, Child Development, May/June 2014, Vol 85, No. 3, P.1062-1076.
筆者プロフィール
Hirsh-pasek.jpg キャシー・ハーシュ=パセック
テンプル大学心理学科Stanley and Debra Lefkowitz Facultyのフェローおよびブルッキングス研究所のシニアフェローを務める。幼児期の言語発達・リテラシー、学びにおける遊びの役割に関する研究に従事。長年の共同研究者であるロバータ・ゴリンコフと14冊の本を出版し、数百の論文を発表。これまでに「AERA Outstanding Public Communication for Education Research Award」、「American Psychological Association’s Bronfenbrenner Award」、「Ameican Psychological Association's Award for Distinguished Service to Psychological Science」、「American Psychological Society’s James McKeen Cattell Award」、「Society for Research in Child Development Distinguished Scientific Contributions to Child Development Award」、「APA Distinguished Lecturer Award」を受賞している。認知科学会、アメリカ心理学会、アメリカ心理学協会のフェロー。過去には、国際乳児研究学会の会長や、Child Development誌の共同編集者を務めたこともある。

現在、Latin American School for Education, Cognitive Neural Scienceの運営委員会メンバ-で、Vroom, ボストン子供博物館、ディズニージュニア、Free to Be Initiative、Jumpstartの顧問。彼女の著書『Einstein Never Used Flash Cards: How Our Children Really Learn--and Why They Need to Play More and Memorize Less』(出版社:Rodale Books)は2003年に出版された最も優れた心理学書に贈られる「Books for Better Life Award」を受賞。2016年に出版した著書『Becoming Brilliant: What the science tells us about raising successful children(科学が教える、子育て成功への道)』は、「NY Times Best Seller List」の教育・育児の部に掲載された。ピッツバーグ大学で学士号、ペンシルバニア大学で博士号を取得。現在はニューヨークタイムズ、ナショナル・パブリック・ラジオ、国際的なテレビ番組などでスポークスパーソンとして活躍している。

※肩書は執筆時のものです

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