今回、ご紹介するのは、日本学術振興会の学術研究の助成により、基盤研究(B)一般に採択された、研究課題名:「幼児の遊びを止めない!」幼児教育でのICT活用におけるフレームワークの構築(課題番号:21H00913)の前半部分です。
本研究では、「幼児の遊びを止めない!」に着目し、保育の質向上のひとつの手法として、幼児教育でのICT活用フレームワークの構築を目的としています。第一に、園と家庭を繋ぐICT活用が保育における幼児の直接体験や創造的な活動を強化する事例を収集し、共通点をガイドラインに整理します。第二に、整理されたガイドラインをもとに、教育工学や幼児教育、発達心理学、医学の専門家の多角的な意見を組み入れ、①保育者の情報活用能力の可視化、②保育者の情報活用能力育成学習サイトの構築、③園の情報化認定制度の設立、④保護者の情報活用能力の可視化、⑤保護者の情報活用能力育成学習サイトの構築を通じて、幼児教育全般に広げていきます。
本稿の前編は、上記の第一に当たるガイドラインの整理までをまとめます。 「園と家庭をつなぐICT環境・活用ガイドライン」を作成するために、まず園と家庭を繋ぐICT活用の実態調査を実施し、その効果と課題を整理しました(1)。
本研究では、コロナ禍で園と家庭を繋ぐICT環境の整備状況とICT活用の効果と課題について、質問紙調査により明らかにしました。2021年6月下旬から8月上旬までの回答期間で、全国1,000園(国公立・私立・都道府県・規模の隔たりを考慮)の幼稚園・こども園に調査を依頼した結果、8月上旬までに333園より返信(有効回答数329/内訳:国公立100園、私立229園)がありました。
本稿では、コロナ禍で登園できなかった期間中の動画配信、またはオンライン保育についてまとめます。登園できない期間に動画配信(33.8%)またはオンライン保育を実施した(8.2%)園、登園再開後も動画配信やオンライン保育を継続している園(23.7%)は、いずれも高い値ではありませんでした。
また因子分析の結果、動画配信・オンライン保育・保育システムの効果については、「園と家庭の繋がり」「保護者対応」「ICTスキルの向上」の因子が、課題については、「ICT活用スキル」「ICT活用への家庭の理解」「ICT活用への環境整備」の因子が抽出されました。さらに、公立園と私立園との差の検定では、「ICT活用するための、職員研修の機会を持つ時間的余裕がない」「動画視聴やオンラインで受信する時、園のインターネットの速度が遅くてスムーズに見ることができない」などの項目で有意な差が見られました。
園としては、動画配信・オンライン保育・保育システムの効果は認識しているものの、ICT環境の整備や保育者の操作スキルなどで、実現できていない様子が読み取れます。
また、上記のICT環境を活用するためには、保育者のICTスキルを含めた情報活用能力が求められるための調査も行いました(2)。
この研究では、保育者が保育でどの程度ICT活用できる技能をもち得ているのかを調査し、保育者に求められる情報活用能力に係る構成要素を明らかにしました。情報活用能力の定義は、「保育者が、保育活動において必要に応じてコンピュータ等の情報手段を用いて、保育に必要な情報を収集し、それらを整理・編集・発信して、保育活動に活用することができる。さらに、子どものICT活用にも興味を持つことで、活用の支援ができる力」としました。定義した情報活用能力を、文部科学省が公開している教員のICT指導力チェックリストの項目も参考にして、17項目を仮構成要素としました。それらを免許状更新講習受講者に回答を願うとともに、情報活用能力という言葉のイメージについても評価を得ました。
さらに要素に、オンラインやオンデマンドによる情報配信技能を加え、保育のICT活用に詳しい保育現場の園長や保育者から意見を収集し再検討した結果、情報活用能力に係る構成要素25項目を特定しました。
次に、特定した項目を、マーケティングリサーチ企業の㈱マクロミルの全国モニターのうち、幼稚園または認定こども園に勤務する保育者を対象に、「1(ほとんどできない)から4(よくできる)」の4段階評定による回答を求めた結果、321名分(男性10名、女性311名)の有効データを得ました。
分析の結果、保育者の情報活用能力に係る構成要素は、4要因(子どもへのICT指導スキル、ICTによる情報活用スキル、オンライン保育・情報配信スキル、基礎的なICT機器使用スキル)から成り立ち、勤務年数による差は見られませんでした。
同時に、幼児のポジティブなICT活用を促す保護者のスキル育成の教材を作成するために、「インターネットやSNSを利用して積極的に子育て情報を収集する」や「スマホ(タブレット)やパソコンを通して保育者とやり取りすることで、保育者との距離が近くなる」など質問で構成された予備調査を行いました(3)。㈱マクロミルの全国モニターのうち、第一子が3〜6歳の保護者を対象に824サンプルを回収しました。
分析の結果、保護者のICT活用スキル(Q2)は、因子分析とクラスター分析により、情報活用状況・スキルを基準に高群(369名)、平均群(362名)、低群(93名)にタイプが分かれました。タイプごとの「情報活用能力(Q3-Q6)」の結果を表1に示します。
表1 保護者自身のICT活用スキル(Q2)と「情報活用能力(Q3-Q6)」との関連
(日本教育工学会2022年春季全国大会,pp.165-166,2022年3月20日)
「子育てに関する情報交流」(Q3-F2)、「オンラインの負担感・デメリット」(Q4-F2)、「放任」(Q3-F2)を除き、各項目の平均値は概ね高群>平均群>低群の順で有意に高くなりました。詳細に項目をみていくと、Q5 の子どものICT活用を支援する能力において、知育的な支援より「自尊感情」「共感・向社会性」「協同性」の得点が低く、うまく支援が行えていない様子が読み取れます。これらを踏まえ、幼児のICTを適切に活用するための保護者のスキル育成教材を作成していくことが今後の課題であると言えます。
後編では、整理されたガイドラインをもとに、「園と家庭をつなぐICT環境・活用ガイドブック」についてお話をするとともに、保育者の情報活用能力チェックリスト、および園の情報化認定チェックリストの作成と認定制度の設立についてまとめます。
参考文献
- (1)論文名:「園と家庭を繋ぐICT活用による情報発信の効果と課題」(日本教育メディア学会2021年度 第2回研究会,pp.34-37,2022年2月27日)
- (2)論文名:「保育者の情報活用能力に係る構成要素の抽出」(日本教育工学会2022年春季全国大会,pp.299-300,2022年3月20日)
- (3)論文名:「幼児のICT活用に関する保護者用教材作成のための予備調査」(日本教育工学会2022年春季全国大会,pp.165-166,2022年3月20日)
- 園田学園女子大学 堀田 博史
- お茶の水女子大学 榊原 洋一
- 愛知淑徳大学 佐藤 朝美
- 大分大学 吉崎 弘一
- 明星大学 今野 貴之
- 大阪大学 奥林 泰一郎
- 京都教育大学 田爪 宏二
- 島根大学 佐藤 鮎美
- チャイルド・リサーチ・ネット(CRN)劉 愛萍
- チャイルド・リサーチ・ネット(CRN)小川 淳子
- 認定こども園エンゼル幼稚園 勝見 慶子
<研究組織>