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【日本】保育現場でのタブレット端末活用とこれからを考える~子ども主体での活用編~

要旨:

本稿では、幼稚園で子どもがタブレット端末を活用した事例から、子どもが保育現場でタブレット端末を活用して見えてきた活用方法とその効果について述べる。子どもが自らの興味や関心に沿って、カメラ機能を中心にクラス全体でタブレット端末を活用することで、幼児教育で求められている「自主的で対話的な学び」を支えるツールとなりうることが明らかになった。また、事例をもとに、今後、幼児教育の現場で子どもと保育者が共に活用できるアプリ開発に必要な考え方についても提案する。

キーワード:
幼児教育, タブレット端末活用, 学びの支援ツール, 新しい時代の保育, 主体的で対話的な学び, アプリ開発
English
1.子どもの活動を支えるタブレット端末活用

幼児教育におけるICT活用に関しては、保育者が園務で活用することが多い。近年では、デジタルカメラを中心に、保育の振り返りや評価に活用する事例も多く見られるようになってきた。一方で、子どもにタブレット端末を持たせて保育に活かす事例も少しずつ見られるようになってきたが、まだ少数である。

本稿では、2019年に初めてタブレット端末を子どもと活用する保育に取り組んだ大阪府富田林市立富田林幼稚園での実践から、保育におけるICT活用の中でも、主に幼児がタブレット端末を活用して活動した保育事例を報告する。加えて、その時の子どもの姿や保育者の意識の変化、評価を中心に、2016年度から子どもと保育者が共にタブレットを活用した保育を行っている富田林市立錦郡幼稚園をはじめ、いくつかの園での実践から得られているこれまでの結果も含めて検討した結果、タブレット端末で子どもの活動をどのように支援することが可能かを明らかにする。

2.子どものタブレット端末活用の1年間

富田林幼稚園は、重要伝統的建造物群保存地区の中にあり、町の歴史や今に残る昔の建造物への興味や関心を高める活動を保育に取り入れている。隣接する同市寺内町にある旧杉山家住宅をはじめとした重要文化財の見学や、地域の人々との多様な交流活動を通して、自分たちの住む町への親しみを深め、地域文化の継承と創造を担うことも可能な、「心ゆたかに たくましく生きる子の育成」を目標に、長年にわたり保育を行っている。年長児になると、地元の中学校の先生をはじめとした地域の方々の協力を得ながら寺内町の探検活動を行い、町に残る歴史的な建造物や、それらに込められた昔の人たちの工夫について学ぶことで、地域や歴史、文化への親しみを深める時間を設定している。2019年度は、この活動に初めてタブレット端末を導入し、子どもたちの活動がより深く掘り下げられるか検証を行った。

タブレット端末は、20名弱の年長児のクラスに2台導入した。必要な時だけ使うことができる環境を通して、子どもがタブレット端末に依存しないようにすることと、他の遊具や用具と同じように大切にしながら、友達と協力して使うことができるようにすることに留意した。このような保育者の適切な導入のおかげで、1年間にわたり園で撮影された写真を振り返って検討した結果、年間を通して、子どもが毎日タブレット端末を使うようなことはなく、約束どおり、必要な時だけタブレット端末を協同で活用していたことが明らかになった。

1学期は、保育の中で気になったことや、クラスの仲間に伝えたいと思ったことを子どもたち自身がタブレット端末のカメラ機能で撮影し、保育室や遊戯室に設置されているテレビにミラーリングして映すことで、保育者とともに一人ひとりの思いを共有する活動から始めた。筆者の参与観察からは、子どもたちの目線で見る自然の姿を日常的に共有する活動を通して、保育者だけではなく、子どもたちも、同じものを見ていても多様な視点や考え方があることを実感することができるようになっていたように思われた。保育者も、子どもたちの活動の撮影だけではなく、教材作成にタブレット端末で撮影した写真を使うなど、カメラ機能を中心にタブレット端末活用に慣れていった。

2学期になると、寺内町探検活動が本格的に始まることを受けて、町の探検にタブレット端末を持参して、気になったところや、町の人の話を聞いて大事だと思ったところを、子どもが自らタブレット端末で撮影しながら探索することになった。富田林幼稚園では、寺内町の探索活動を毎年行っているが、保育者がデジタルカメラで撮影していただけの昨年までの実践とは異なり、子どもが「これを撮っておきたい」と言った場所で、子どもたち同士がタブレット端末を渡し合い、譲り合いながら撮影していく姿が見られた。

探検から帰ってくると、その写真をモニターに映して共有しながら、保育者と子どもたちが、次の活動についての計画を立てた。グループでのより深い探検活動を行うために作るグループ分けの際には、誰がどのような箇所にどのような興味や関心をもっているかがクラス全員で共有しやすいだけではなく、同じものを対象としても興味や関心が少しずつ違うことを学んでいるため、次回どのように探検を進めていくかについても、子どもたちの意見をもとに全員で話し合うことができていた。
子どもたちは、誰がどの写真を撮影したかについてもよく覚えていた。探検活動の時から互いに興味や関心について意識できていたと思われる。
まとめの活動の時も、自ら撮影した写真を活用して伝えたいことを伝えるだけではなく、写真を見ながら絵を描き、その絵をもとに伝えるなど、自分の学んだ内容の中で伝えたいことを相手のことを考えながら、より工夫して伝える活動ができていた。

以上のように、カメラ機能を中心に、子ども一人ひとりの思いを可視化するツールとして、タブレット端末を活用できていた。またその後も、子ども同士の思いや考えを共有しやすくし、協同性を高めるツールとしての活用になるよう、保育者は年間を通して心がけていた。

年度の終わりに、園長先生を中心に園の先生方に、この1年の子どもたちによるタブレット端末活用を振り返っていただいた。その結果、保育者がタブレット端末を活用させる際の援助に留意したことによって、タブレット端末が子どもたちの学びを支えるツールとなっていたことが明らかになった。

3.子どものタブレット端末活用による成果

本章では、今回の実践事例として取り上げた富田林幼稚園での結果に加えて、2016年度から保育におけるタブレット活用を実践している富田林市立錦郡幼稚園をはじめ、いくつかの実践から得られているこれまでの結果も含めて検討した結果を紹介する。タブレット端末を子どもが活用することで得られる成果について、以下3点にまとめる。

(1)「楽しい」の「共有」が生まれる

子どもが、自分たちが楽しいと感じたことを写真に撮りたいと思うようになり、撮影後、仲間と一緒に見返すことも楽しんでいたことが重要であると考える。「子どもが撮影した写真は、アップでの撮影が多すぎることもあるが、その部分にこそ『ここだ!』という子どもの思いが溢れているのだと思った」と保育者が振り返っている通り、子どもは撮影の時から伝えたいことを強く考えて撮影しており、その気持ちをクラスの仲間や保育者と共有することで、伝えたいという気持ちをより高めることができたのではないかと思われる。つまり、自ら意欲をもって撮影したことと、タブレット端末がそれを仲間と共有しやすいツールであったことから、主体的で対話的な学びの第一歩が無理なく始まったと思われる。園長はじめ保育者からも「自分が撮影したい、知らせたいと意欲をもって撮影していたところに主体的な学びが可視化できたうえに、対話を促していると思いました」と評価をいただいた。

また、話し合いの時など、すぐにモニターにつなぐことで、クラス全員で共通理解できることもとてもよかったと評価されていた。可視化したものを簡単に共有することで、子どもたち同士の話し合いが豊かになった。特に、誰が撮影した写真であっても、そこになんらかの思いがあることを保育者が理解しただけでなく、子どもたちも誰がどの写真を撮影したかを互いに理解し、認め合えるように育っていることが、活動の振り返りをしやすくしたようであった。

このような結果は、今までに実践していただいた幼稚園や保育所でも同様に見られるものであり、発見した楽しさを共有することが子どもの学びを広げる可能性が高いと考えられる。

(2)「見る」から「観る」への学びの深化

見たいものを意識して「見る」ことが可能になったため、子どもたちはタブレット端末のカメラ機能をただ撮影に使うのではなく、拡大や縮小機能、時には動画撮影機能を使いこなし、撮影をしていた。特に、寺内町の建物の屋根の上などは、子どもにとっては遠い所にあるため、拡大して見ることができたのがよかったと保育者も評価してくださった。 遠方のものを近くで見ることが可能なだけではなく、細部を拡大して見ることができることで、より深い観察を可能にしたことも、学びの支援につながった。たとえば、単に寺内町の鬼瓦を拡大して見るだけではなく、その撮影した鬼瓦の絵を描く時には描きたい鬼瓦の細部を自分で拡大して描く子どももいた。

錦郡幼稚園の事例でも、撮影した写真だけでは伝えきれないと思った子どもが、自分なりに絵を描いて、特に伝えたい箇所について分かりやすく説明した例もあった。子どもは、普段から親しんでいる表現方法にタブレット端末という新しいツールの活用をうまく融合させており、自ら一番よい方法を選んでいることが改めて明らかになった。

(3)保育者の意識の変化

幼稚園でタブレット端末を活用する場合は、そのねらいに沿った使い方ができることが一番重要である。たとえば、確実に知識や技能を身につけさせるような遊びのためにタブレット端末を活用する場合は、事前にタブレット端末にインストールされたアプリの指示があって個別に遊ぶような遊び方になることがあるが、その場合は1人1台が望ましいと思われる。しかし、本事例のように、主体的で対話的な学びの支援ツールとしてのタブレット端末の場合、数人で1台、もしくは各クラスに1台または2台でも問題ないと考えられる。 すなわち、各保育現場の子どもの姿や保育のねらいに応じて、台数や使い方を工夫することで、子どもがタブレット端末にのみのめりこむのを防ぐことも可能となり、子どもたちの協同性を高めることも可能であることが明らかになったと言える。

また、富田林幼稚園が実践する以前から、子どもがタブレットを活用する保育を導入していた錦郡幼稚園では、導入時の保育者の不安として「自らの思いを写真によって可視化することができるので、タブレットに依存してかえって言葉で伝えることから遠ざかるのではないか」という点が一番に挙がっていた。しかしこの懸念についても、錦郡幼稚園の保育者が最終的に「子どもにとって、伝えあう楽しさや聞いてもらう喜びといったものの積み重ねが、言葉での発表にも活きてくると思う」という評価に至ったのと同様、富田林幼稚園での事例でも、子どもが伝えることの楽しさ、伝わることの嬉しさを積み重ねていくことによって、言葉での表現にも挑戦しやすくなったり、他の表現方法と組み合わせて工夫しながら、聞いてくれる相手のことを考えて表現しようとしたりする姿が見られていた。

さらに、「気付いていないところで子どもが主体的に写真を撮影していることもあった。虫籠窓注1から見た外の景色の写真など、子どもながらに素敵な写真が撮影できていたことに驚かされることもあった」と保育者が振り返りで評価していたように、子どもの新たな一面を発見し、子ども理解が深まったことが明らかになっている。これは、タブレット端末を子どもが活用した他の園での事例でも同様に見られる特徴である。

その結果、保護者連携や、保育者が自らの保育を省察して行う保育評価へのタブレット端末活用の期待が高まることが明らかになっている。保護者連携でのタブレット端末活用では、富田林幼稚園でも、「その日のうちに子どもの様子を可視化し、保護者に教育内容を説明できる」と保育者から評価をいただいている。保育評価でのタブレット端末活用については、数年にわたってタブレット端末を保育に活用している幼稚園で見られる。多く見られるのは、保育者がその日の保育全体を振り返って評価する「保育ドキュメンテーション」の作成に子どもが撮影した写真を用いてより豊かな記録にすることである。タブレット端末の活用が園にとって自然なことになるにつれ、「保育ドキュメンテーション」では表しきれない子ども一人ひとりの「ポートフォリオ」を作成し、多面的な保育の振り返りを行うことで保育の質を高めようと試みた園も見られた。

しかしながら、以上のような成果は、タブレット端末を保育で活用すればすぐに出るとは限らないことを最後に付け加えておきたい。普段の保育実践の延長上で、子どもの自主性や対話、協同性が可視化された結果、より学びが発展したことを踏まえると、保育者がねらいに沿って、子どもと一緒になってタブレット端末を活用することで、普段の保育実践や子ども理解の重要性が高まることが、子どもの学びを促進し、より豊かな保育実践につながると考える。

4.保育現場で子どもがタブレット端末を活用するためのアプリ開発に向けて

保育現場では小学校教育のように教科ごとに授業を行うわけではなく、遊びを通して「健康」「人間関係」「環境」「言葉」「表現」という5領域の視点で総合的に学びを発展させていくという特性をもっている。何か1つのねらいや活動に的を絞ったアプリで遊ぶ方がよいのか、各保育現場の子どもの姿やその時のねらいに応じて柔軟に対応できる活用がよいのか、各園でも考え方が異なってくる。今回の事例として挙げた富田林幼稚園は公立幼稚園であり、子どもの姿からとらえられた興味・関心を学びに活かす保育を行っているため、ねらいが定められたアプリが入ったタブレット端末で遊ぶという活用方法ではうまくいかなかったと思われる。

ねらいや活動が明確な場合や、全員が確実に知識や技術等を習得する必要がある場合は、逆にアプリ側で明確にねらいや活動を設定し、個別に対応できる方がよいと思われる。そのようなねらいや活動が明確なアプリは家庭用アプリだけではなく、保育現場用に開発されたものも登場してきているが、今後は、ねらいや活動に柔軟に対応できる、オーサリング・ツール注2のようなアプリの開発が望まれると考える。

今回の実践では、オーサリング・ツールとして、写真撮影機能と保存、印刷、共有及びタグ付け機能などを1つのアプリ上でできるように、筆者をはじめとした研究グループで開発したアプリ「ASCA (Archives Sharing and Creating Anytime for preschool)」を用いて実践しようとしたが、実際には使われなかった。その理由は、セキュリティを高めるために園内のLAN上のみでアプリが作動するというASCAの現在のシステム構成では、園外での使用ができなくなるからである。

また、今回の事例の幼稚園では、実際にタブレット端末を活用していた時に「写真が時系列で出てくるので子どもたちと一緒に後から見返した時に分かりやすかった」という振り返りを保育者から得ている。これは、ASCAがもつ「サーバ上にある子ども一人ひとりの個別フォルダに写真を振り分ける」という機能では、かえって使い勝手がよくなかったことが推測される結果であった。今後も、事例研究を進め、幼児教育における多様な子どもの活動を、必要以上に制限せず、子どもの心の動きに即した活動の流れを止めることがなく、かつ保育に有効に活用できるようなアプリの開発が求められる。

他にも、保育現場で子どもがタブレット端末を活用する事例として、何度か保育交流をしている同じ富田林市内の公立幼稚園2園が、各園にあるビオトープを中心に学びを深めたことを互いに報告しあうような遠隔交流実践も行った。保育室内だけではなく、園庭や園外での実践にも対応したセキュリティを備えながら、安全に、より快適に、子どもたちの学びを支えるツールとして活用することができるようなアプリの開発や、保育現場のインフラストラクチャーの整備も必要だと考える。

さらに、活用する保育者、アプリの開発者、研究者等が共に保育現場におけるICT活用について話し合い、今後の活用可能性を検討する機会をもつことも必要であろう。

謝辞:
富田林市立富田林幼稚園 二木雅代園長先生はじめ、すべての先生方に改めてお礼を申し上げます。

本研究はJSPS科研費 JP26350351,JP17K01166,JP20K03139の助成を受けたものです。


  • 注1)虫籠窓:厨子(屋根裏部屋)の明かりとりと、風通しのために設けられたもの。江戸時代は木瓜型、幕瓜型、幕末は扁平型。明治以降は長方形になっている。(富田林市教育委員会作成『富田林じないまち散策絵図』より)
  • 注2)オーサリング・ツール:オーサリング・ソフトともいう。文字や画像、音声、動画などのメディア要素や素材を編集したり統合したりして一つの作品に仕上げるための機能をもった専用のソフトウェアやアプリケーションのこと。特に、プログラムなどのコード記述を伴わずに行うことが可能なソフトウェアなどを指す。


参考文献

  • 松山由美子(2017)「タブレット端末は、子どもの主体的な遊びを支えるツールとなり得るのか(特集:子どもをはぐくむ主体的な遊び)」『発達 150』2017 SPRING Vol.38, 62-67.
  • 松山由美子ほか(2018)「子どもの学びと保育者の援助を支援するアプリ「ASCA」の開発―アプリ開発から見えた保育現場におけるICT環境及び活用―」『第15回子ども学会議プログラム・抄録集』43.
  • 松山由美子(2019)「ASCA開発を通して見えた保育とメディア」『学習情報研究』2019年9月号(通巻270号), 52-53.

筆者プロフィール
松山 由美子(まつやま・ゆみこ)

四天王寺大学短期大学部保育科 教授。大阪教育大学大学院 教育学研究科修了、大阪大学大学院 人間科学研究科博士後期課程満期退学。
専門は、幼児教育学、教育工学、教育方法学。特に、保育におけるカリキュラム開発と保育におけるICTの活用に関する研究を行なっている。
現在は「幼児教育における幼児及び保育評価システムの構築」(JSPS科研費)の研究代表者として、子どもの学びの可視化と保育者も含めたクラス全員の学びの共有を可能にするタブレット端末アプリ「ASCA」の開発及び実践研究を進めている。
主な著書は、「タブレット端末は、子どもの主体的な遊びを支えるツールとなり得るのか」『発達150』2017 SPRING Vol.38(ミネルヴァ書房)など。

※肩書は執筆時のものです

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