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【日本】保育現場でのタブレット端末活用とこれからを考える~保育者主導の活用編~

中村 恵(畿央大学教育学部現代教育学科 准教授)

2020年10月30日掲載

要旨:

保育者がタブレット端末を活用する過程で、情報に対する認識(MediaAwareness)が変容したことにより、保育における位置づけが変化した。そのことは、ネオ・デジタルネイティブと呼ばれる子どもたちが主体的にメディアを選択し、遊びや活動に位置付ける素地を育むことにつながることを、明らかにする。さらに、参加(Participation)をキーワードとして新しい評価のあり方を検討する。

キーワード:
ネオ・デジタルネイティブ、保育におけるタブレット端末活用、MediaAwareness、 共有と対話、参加(Participation)
1. ネオ・デジタルネイティブと本稿の概要

アメリカで提唱された概念である「デジタルネイティブ」とは、生まれたときからインターネットやパソコンのある生活環境で育ち、生まれながらにデジタル情報機器に親しんでいる世代のことを言う。一方、1970年代以前に生まれてデジタル情報機器の知識を身につけたり取り込もうとしたりしている世代は「デジタルイミグラント」と呼ぶという。また、橋元ら(2010)は、日本では「ガラパゴス携帯」ともいわれる独自の携帯電話が広く普及し、世界とは異なった日本独自のネット世代が出現しているとして、デジタルネイティブを「76(ナナロク)世代」「86(ハチロク)世代」「96(キューロク)世代」の大きく3つに分類し、主に96世代以降をネオ・デジタルネイティブと呼ぶことを提案している。

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76世代は1976年前後生まれの世代で、PCをデバイスとしたインターネットリテラシーが高い傾向があり、多くのネット起業者やエンジニアなどが誕生しているという特徴がある。86世代は、1986年前後生まれの世代で、携帯電話という強力なデバイスを用いて、相互に情報発信を始めた世代である。96世代は、1996年前後生まれの世代で、複数のデバイスを必要に応じて使いこなすマルチデバイス世代である。彼らは、動画にも対応する音楽情報端末、ネット接続機能のあるポータブルゲーム機、様々な複合的機能を一つにまとめたスマートフォンなど、さらに多岐にわたる情報機器に囲まれた環境の中で育ち、直観的にそれらを使いこなしている世代である。このように、初めて接触したデバイスや、どのデバイスを重点的に用いてきたかにより、世代ごとのメディア・リテラシーが大きく異なるという。

翻って、保育現場において、園長や主任等の中堅保育者の多くはデジタルイミグラント、若い保育者や保護者はデジタルネイティブからネオ・デジタルネイティブに属し、子どもはまさにネオ・デジタルネイティブである。それぞれの世代によって、もっているメディア・リテラシーの程度が異なってはいるが、共通して重要なことはICTを主体的にツールとして扱うことではないだろうか。商用ベースの消費行動としてICTを扱うのではなく、それぞれの必要性や目的に応じて主体的に位置づけていくことは、保育者や保護者にとっても、子どもにとっても今後これらを扱っていくうえで非常に重要なことである。その際にキーとなるのが情報に対する認識(MediaAwareness1、以降はMAと表記)であると考えている。保育においては活動の「ねらい」として保育者の願いや思いは環境に込められているが、環境のひとつとしてのICTツールを遊びや活動の中でどう位置付けるか、どんな目的で利用するかは子どもが選択、決定する。そのプロセスにおいて保育者や保護者、子どものMAが相互的に高まることを明らかにしたい。

本稿では、主に保育者のツールとしてデジタル機器を位置付けた実践を報告するが、本研究の別の研究協力園では子どもが必要なときに自由に利用できる使い方や、基本的には保育者のみが操作するが必要に応じて子どもも操作するような使い方をする園もあり、活用の方法は実践園により様々であった。これは、幼児教育におけるICTの活用を検討した際に、保育者が「経験してほしいこと」と、子どもが「経験したいこと」との相互作用によって、活動が柔軟に変容し、保育実践が展開していくことで、ツールとしての位置付けも変化することを示している。時間割が定められた科目内で学習目標に沿った活用が主である学校教育と、幼児教育との大きな違いがここにある。

2. 共通体験活動でのタブレット端末活用(社会福祉法人K園での実践)
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図1:タブレットを活用した活動を行った部屋

K園では、安全教育として情報モラルの意識を幼児期から育みたいという意図のもと、運営母体である社会福祉法人が45台(園児40台、保育者5台)のモバイル端末を一括購入し、保育園での活用が始まった。タブレット端末を用いた保育は、年長クラスを対象に、1年を通して2週間に1回程度、年間計画に基づく共通体験活動として30分~45分程度の活動を行なった。年間計画においては、導入→共有→創造→試行錯誤と経験を広げられるように活動をデザインした。どの段階においても軸となるねらいは、活動の中で子ども自身が考えながら情報モラルの意識を高めることである。園ではタブレット活用の時間として共通体験活動を設定したので、保育室とは異なる遊戯室や会議室等にタブレットとプロジェクターを設置し、子ども1人につき1台のタブレットを準備していたが、活動する際には必ず5人前後のグループでお互いに相談しながら進めることとした(図1)。また、情報モラルに対する意識づけについても、保育者から何かを教えるというよりも、アプリ2を使いながら子どもと共に考え、お互いの思いをすり合わせながらルールを決めていくことを大切にした。

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図2:ルールの共有

初めてタブレット端末を使用する際には、どうすれば電源を入れることができるのか? どのアプリを使うのか? 困ったときは? 等を子どもたち自身が試行錯誤して発見し、それをお互いに伝えあうことを大切にした。保育の場でICTを活用する意義は、子ども自身が主体的に必要性を感じて試行錯誤をすることを通して学び合うことにある。タブレット端末のもつインタラクティブ性や即時性に助けられながら、最初から探索的にルールを学ぶことにより、「活動の中で考える」態度を育て、主体的に扱うツールであるという意識を育みたいと考えた。活動のプロセスにおいて、様々な疑問が生じ、葛藤が生まれた時に、「相手の立場に立って考える」経験の積み重ねが規範意識の生成に繋がっていた。その話し合いの結果をルールとしてクラスで共有できるように、決めたルールは壁に掲示して定着を図っている(図2)。そのプロセスで、「わかってほしいと思う気持ち」が生じて言葉を用いて対話が生まれ、わかってもらえた喜びやわかってあげた喜び等様々な喜びを感じることにより、主体的に環境と関わる姿が見られ、子どもたちの内にある情報に対する認識が鋭くなる様子が見てとれた。保育者によると、タブレット端末は保育者にとっても新しい保育教材であるため、子どもと一緒に考えようとする意識が高まった。また、普段の保育ではあまり発言しない子どもが自分の思いを発言したり、主体的に取り組む姿が見られ、この経験が日常生活においても自信をもって他者と関わる姿に繋がった、ということである。なお、ここで活用したアプリは、幼児期からの安全教育の一環として情報セキュリティーに対する感覚を育むために、筆者が参画する研究グループで開発したもので、あえてログイン機能を付与している。 lab_01_135_03.png まず、子どもたちがパスワードの重要さを幼児なりに理解できるように、子どもがログインというプロセスを経験する。このときに、子どもなりに「なぜパスワードが必要なのか?(ここでは秘密の絵がパスワードの役割を果たす)」「パスワードが知られるとどんなことが起きるのか?」といったことを考え、それぞれの思いを発言しあうことにより、学童期以降の「情報を扱う態度」の素地を育んでいる(図3)。

また、タブレット端末やアプリの操作ができるように繰り返し訓練するのではなく、「伝えたい」「知らせたい」という場面を切り取るツールとして扱う中で、結果的に操作スキルを身につけることを目指した。ログイン画面で使用するために自分の写真をカメラ機能で撮り、それをアプリに登録して、自己紹介を音声で録音する。その際は、GUI(Graphical User Interfaceグラフィカル・ユーザー・インターフェース)と呼ばれる視覚的な操作画面により、直観的に操作をし、お互いに教え合って登録作業を進める。さらに、「言葉で伝えあう」言葉の領域や「相手の立場に立って考える」という人間関係の領域、「思いを表現する」表現領域、等の経験をする。もちろんこれらの経験はタブレット端末やアプリを用いなくても幼児教育において実現は可能である。しかし、今幼少期から身近な環境として存在するタブレット端末を子どもたちが用いて経験することにより、子どもたちの中の「情報に対する認識(MA)」が顕在化してより鋭くなるプロセスを保育者が捉えていくことで、直接体験がより豊かになり非認知能力を育むことにもつながるのではないかと考えている。

子どもたちは、大切なものやお気に入りのものをタブレット端末のカメラ機能を利用して撮影する。そこには、様々な嬉しい思いがあり、それが原動力になって表現しようとする。また、自分の思いが可視化されることにより、他児や保育者に共感が広まり。さらにもっと伝えたい、表現したいという意欲が強まる。保育者は子どもが撮影した写真から、そこに込められた子どもの思いを理解して共感する。そしてそれらを更に保育活動の中で広げる援助を行う。また、子ども同士が伝えあうことを通してまた新たな提案や発見を共有していく姿が見られた。

2018年に幼稚園教育要領等が改訂され、幼児期においては特に「遊びを通しての総合的な指導」を行うとされているが、共通体験活動で継続的に領域のねらいに沿った活動を行うことにより、子どもの自発的な活動である「遊び」においても共通体験活動で培った学びに向かう力等の資質・能力を発揮する姿が見られるようになった。幼児教育においては特に、「タブレットの使い方が分かる」とか「アプリを動かすことができるようになる」ことが大切なのではなく、タブレット端末を用いて自分の思いを実現することや、他者と協働する体験が重要であり、タブレット端末は伝統的な保育遊具・教材と何ら変わりのないもの、あるいは環境の一つであると言える。さらに、タブレット端末の使用は、双方向的なかかわりを生みやすいので、より子どもの主体性を発揮できるツールでもある。そして今回は、協働・発表・共有の過程で、認知的スキルと社会情動的スキルが相互的に育まれる中で、その仲立ちとなるツールとして、「タブレット端末が位置付けられる活動」であった(図4)。

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図4:協働・発表・共有の過程で育まれたもの

3. 保育の可視化、ドキュメンテーションの作成に活用(奈良県K町立K幼稚園での実践)
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図5:保護者への掲示物

K幼稚園での実践は、保育者がタブレット端末を記録ツールとして位置付けて使用することからスタートした。保育者が、子どもの姿を保護者と共有するために、毎月玄関ホールに提示する掲示物を作成するために活用したのである(図5)。その際に、2018年の幼稚園教育要領改訂で新たに提示された「幼稚園の終わりまでに育てたい10の姿3」を軸に、資質・能力を視点として子どもの様子を捉えようとした。そのためには、一人ひとりの子どもの興味・関心や試行錯誤等を可視化する必要があることに気づき、まず日常的に保育中に撮影した子どもの姿から10の姿をみとるために、3つの資質能力4と10の姿をタグ付けにより分類する作業を行った。すると、視点ごとに分類することで、保育者それぞれの子ども観や資質能力の捉え方が浮かび上がってきた。それらを保育者同士が共有することで新たな気づきが生まれ、さらに再構築したものを掲示物としてクラスごとに作成した。ただし、掲示物は保護者への共有という性格上、一人ひとりの子どもにフォーカスするよりも、クラスでの活動を写真入りで伝えるという姿勢で作成した。結局、回数を重ねるうちに、行事ごとではなく、子どもたちがその時に熱中している活動毎に掲示を作成するという形に変化した。いわゆるドキュメンテーション(保育記録)の形に近づいてきたのである。ここでは、「ドキュメンテーションの作り方」を学んで実践したわけではなく、「保護者と共有することを続けていくうちにプロジェクトベースの情報を共有する」形に変容したということになる。アプリを活用することによって、結果的にプロジェクト活動における「子どもがモノやヒト、コトとかかわる姿や心の動き」が浮き彫りとなったともいえる。

また、保育者が保育を振り返るリフレクションのツールとして、タブレット端末を用いる際に、保育者が繰り返した問いが、「心に残っている場面は?」「環境構成や保育者の関わりはどうだったか?」「もっと掘り下げて考えると?」「明日の保育につなげるには?」というものだった。保育者は心に残っている場面を選んだ後に、環境構成や保育者の関わりはどうだったか? など、具体的な場面を見返しながら振り返る。それに対して同僚である他者から俯瞰的、客観的、そして共感的な振り返りを得て、更に分析的に掘り下げて考える。そのことにより様々な気づきが生まれ、されにそれを同僚と共有することで、明日の保育へのヒントを得て新たな環境構成に繋がった(図6)。

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図6:振り返りのプロセス

タブレット端末を活用した結果、保育者からは、「今まで見えなかったことを可視化でき、共有することによって意識化できたことがとても大きかった」という内容のコメントが多く挙げられた。この段階で、タブレット端末は情報を共有するツールからリフレクションのツールへと保育者自身が位置付けを変化させており、保育者のMAが高まったことを示している。幼児教育においても、アクティブ・ラーニングが注目され、主体的、対話的、深い学びが重要とされているが、まさにカリキュラム・マネージメントにおいてもアクティブ・ラーニングが実践されたことになり、それを手助けする役割をタブレット端末やアプリが担っていた。

また、保育実践におけるタブレット端末の取り扱いへの保育者の意識にも変化が見られた。最初は「保育時間中に子どもが使うことには抵抗がある」という意識が強かったが、保育者がタブレット端末を日常的に使用することで、保育者なりに保育やリフレクションのツールとして位置付けて、その良さを自ら見いだした時に、保育をより豊かにするツールとして「子どもが使っても良いかもしれない」という認識に変容していった。それは保育者自身のMAが鋭くなり、より良い活用方法を自ら見いだした瞬間である。そのような意識の下で環境構成の一つとしてタブレット端末を位置付けた時、保育者は子どもなりにメディアを意識していることに気づき、更には今まで気づかなかった子どもの視点に保育者が新たに気づくという姿が見られた。すると、子どもの主体的、対話的、深い学びにさらに気づき、それらをドキュメンテーションとして再構成するという流れが、タブレット端末の使用により加速するのである。保育者自身のMAが鋭くなると、情報として可視化された子どもの姿から子どもの内にあるMAを見出すことができ、そこから子どもの思いを読み解くことができる。ネオ・デジタルネイティブの子どもたちは、就園前から家庭で日常生活の一部としてスマートフォン等のデジタル端末に親しんでいる。しかし保育現場では、ただ単なる知育玩具として扱うのではなく、子ども自身が主体的に遊ぶためのツールとして位置付けていくことができる環境を整え、子どもの内にあるMAを敏感に捉えながら、援助を行うことが可能になると考える。

4. 21世紀型保育への期待

今後への期待として、OECDが重視する「参加(Participation)」をキーワードに挙げたい。今後は、主体となった子ども自身が自分事として保育に参加する仕組みが重要ではないかと考えている。これまでは、ドキュメンテーションの作成は保育者が主体として行う行為であったが、子どもが紡ぎだすドキュメンテーションがあっても良いのではないだろうか。ポートフォリオはどちらかというと個人の成長記録だが、日本の保育の場合は「集団としての成長」も大切にしているので、個人とクラスとしての学びや成長を併せたドキュメンテーションを子どもが主体的に参画して作成するという視点を大切に育みたい。また、評価についても、満足度評価として子どもや保護者が参加するのではなく、成長の方向性を一緒に確認しながら進んでいくというスタンスで捉えていくことも重要だろう。そのために、デジタル技術を活用して、子どもや保育者が複雑な作業をしなくても、ポートフォリオやドキュメンテーションなどの個人やクラスとしての成長記録につながる情報の整理が、柔軟にアプリ内で自動生成される仕組みを、今後も提案していきたい。


  • 1-MediaAwarenessとは、メディアとどう接していくかといった、今後育って行くであろう「情報を活用する」態度の基礎となる「素地」のようなもので、筆者による造語である。
  • 2-松山由美子を代表とする研究グループで開発したiosアプリ「ASCA(Archives Sharing and Creating Anytime for preschool)」で、写真撮影機能と保存、印刷、共有及びタグ付け、音声録音機能などを1つのアプリ上で子供や保育者が操作することができる。
  • 3-幼児期の終わりまでに育ってほしい子どもの姿を、「健康な心と体」「自立心」「共同性」などの10個の具体的な視点から捉え、より明確化したもの。幼稚園教育要領、保育所保育指針、幼保連携型認定こども園教育・保育要領の2017年の改定で重要なポイントとして位置づけられ、2018年4月より施行された。
  • 4-「知識・技能の基礎」「思考力・判断力・表現力等の基礎」「学びに向かう力、人間性等」

参考文献:

  • 橋元 良明, 奥 律哉, 長尾 嘉英, 庄野 徹, ネオ・デジタルネイティブの誕生―日本独自の進化を遂げるネット世代, ダイヤモンド社, 2010.
筆者プロフィール
megumi_nakamura.jpg 中村 恵(なかむら・めぐみ)
畿央大学教育学部現代教育学科 准教授。奈良教育大学大学院 教育学研究科修了。専門は、幼児教育学、教育工学、幼児教育評価論。特に、保育におけるICTの活用とカリキュラムの開発に評価を絡めた研究を継続して行なっている。「社会情動的スキルと認知的スキルを相互的に育む日本版エシコウルの開発」(JSPS科研費)の研究代表者として、フィンランドの幼児教育システムについての研究を進めている。主な著書は、「新・保育実践を支える保育内容総論」(福村出版)編著、「新・保育実践を支える保育原理」(福村出版)共著、「子どもと教師のための教育原理」(保育出版社)共著など。

※肩書は執筆時のものです

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