2020年から小・中学校を中心に本格化した文部科学省による「GIGAスクール構想の実現」により、教育現場において児童生徒(教職員も含む)に1人1台の情報端末(タブレット端末等)と高速なネットワーク環境が整備されました。 近年、園のICT環境も少しずつ整備されてきました。園内、どこでもインターネットに接続できれば、保育活動に変化をもたらすこともできます。また保育システムがIT化すれば、保護者とのやり取りをスムーズにしてくれるでしょう。ICTを活用することで、これまで手作業で行ってきた保育者の業務をデジタル化することもできます。それだけではなく、今まで気づかなかった新たなことにチャレンジもできるでしょう。
しかし、保育のICT活用を具体的にどのようにすればよいのか、その第一歩は各園手探りです。そこで、園のICT環境はどうすればよいの? 子どもたちにどのようなタブレット端末を使わせるの? など、先生方の困りごとを助けるために、「園と家庭をつなぐICT環境・活用ガイドブック」を作成しました。
成果1. 園と家庭をつなぐICT環境・活用ガイドブック
「園と家庭をつなぐICT環境・活用ガイドブック」は、以下で構成されています。
<園のICT環境整備>
- 園のICT環境は整っていますか?その1
- 園のICT環境は整っていますか?その2
- 動画配信・オンライン保育にはどんな効果があるのかな?
- 動画配信・オンライン保育にはどんな課題があるのかな?
- 保育者の情報活用能力って何?
- 保護者が園のICT化に期待すること
- 園はプライバシーポリシーをつくっているかな?
- 子どもや保護者にICT活用ルールを決めているかな?
<保育者と幼児のICT活用>
- ICTは子どもの問いを解決する手段だけでいいのかな?
- ICTで人と人がつながる喜びを経験させているかな?
- ICTで降園してからの生き物の動きを伝えているかな?
- ICTで年少さんのはじめての園生活の不安を少しでも解消しているかな?
- 写真で記録をして、振り返る時間を設けているかな?
- 撮影した写真が作品になっていく過程を大切にしているかな?
保育者のICT活用例のひとつには、幼児からの問いをインターネットで検索して解決する事例が見られます。ICTは幼児の問いを解決する手段だけでいいのでしょうか。幼児は、ICTは問いを解決してくれる道具だと学習するかもしれません。私は、保育でのICT活用は、幼児の興味・関心を解決するだけではなく、幼児に「問い」をもたせるのに使うことも大切だと考えます。さらに、幼児がアプリで遊ぶことで、何がどのように変化するのか、学びの過程を大切にしながら、保育活動を行うことも大切です。主体的な学びの過程、他者と伝え合ったり、考えを出し合ったり、協力したりして学ぶ過程、そして探究的な学びの過程が実現できているか、保育者が確認する必要があります。
「園と家庭をつなぐICT環境・活用ガイドブック」では、上記を含めまとめました。Webサイトで閲覧できますので、ご活用下さい。
http://hotta-lab.info/kids/2021/
成果2. 保育者の情報活用能力チェックリスト・園の情報化チェックリストと認定制度の開発
保育でのICT活用で求められるのは、保育者のICTに関する操作技能だけではなく、情報モラルなどに関する知識も必要です。そこで、保育者のICT活用全般を、保育活動においてタブレット端末やパソコンなどのコンピュータ等の情報手段を用いて、保育に必要な情報をインターネット等で収集し、それらを整理・編集・発信して、(保育活動に)活用することができること、さらに、子どものICT 活用にも興味をもつことで、その支援ができることを「保育者の情報活用能力」と定義しました。さらに、保育者の情報活用能力を確認するチェックリストを開発しました。
「保育者の情報活用能力チェックリスト」は、以下で構成されています。
- タブレット端末やパソコンを活用して、園だよりや資料を作成することができる
- ホームページを検索するなど、タブレット端末やパソコンを活用して、保育活動に役立つ情報を集めることができる
- いま現在(またはICT環境が整えば)、あなたが保育活動の振り返りに、タブレット端末やパソコンを活用して、大型テレビやプロジェクターに写真や動画を投影できる
- いま現在(またはICT環境が整えば)、タブレット端末やパソコンのアプリやインターネットを活用して、子どもの興味・関心を高めることができる
- インターネットで、著作権や肖像権などの情報モラルについて、保育者として知っておくべきことを調べることができる
- いま現在(またはICT環境が整えば)、保育活動をタブレット端末やデジカメで写真や動画撮影し、インターネットを活用して保育者と共有することができる
- いま現在(またはICT環境が整えば)、子どもがタブレット端末やデジカメで、写真を撮ったり、アプリで遊んだりする機会をつくることができる
- いま現在、子どもがタブレット端末やデジカメを使用する時、ルールやマナーを知っている
- いま現在(またはICT環境が整えば)、子どもがタブレット端末などを活用する時、使用時間や目との距離など健康面への配慮項目が分かる
- 子どもの発育・発達状況データをタブレット端末やパソコンを活用して、ファイルに保存している
- いま現在(またはICT環境が整えば)、タブレット端末やデジカメのカメラ機能で、保育活動を撮影した写真や動画を、お迎えの時などに保護者に見せることができる
- いま現在(またはICT環境が整えば)、保護者に対して、保育の様子を録画して保育者で協力すればクラウドで、動画配信できる
- いま現在(またはICT環境が整えば)、保育者で協力すれば、オンラインで保育の様子を配信できる
- タブレット端末やパソコン活用時の簡単なトラブルには対処できる
保育でのICT活用を進めるためには、園のICT環境が整備されていないと実現しません。園のICT環境が整備され、情報化が推進されることで、園と家庭とのコミュニケーションも円滑になると考えられます。そこで園の情報化を確認するチェックリストを開発しました。
「園の情報化チェックリスト」は、以下で構成されています。
- 保育システムが導入され、業務の効率化につながっている
- 園内にWi-fi環境が整備され、職員室を中心に活用している
- 担任1人1台のパソコンまたはタブレット端末が整備されている
- 園のホームページを開設して、定期的に更新している
- 現在、保育の様子を録画して、家庭などに動画配信している
- 現在、オンライン保育を学芸会などの行事にだけ実施している
- 園の情報化に関わる個人情報や著作権の取り扱いなどの指針を定めている
- 教職員と兼用でもいいが、幼児が使用できるタブレット端末がある
- インターネットを活用して、子育て講座や子育て相談などの支援を年に数回実施している
- インターネットを活用して、保護者からのアンケート収集を実施している
- 保育者間で、子どもたちの活動の様子を撮影した写真や動画をクラウドで共有するドキュメンテーションを行事ごとに取り入れている
- ICT活用するための、職員研修を年に数回実施している
- 動画配信やオンライン保育などICT活用時の担当者が決まっている
さらに、「保育者の情報活用能力チェックリスト」及び「園の情報化チェックリスト」を利用することで、保育者の情報活用能力を認定する制度、及び園の情報化を認定する制度を立ち上げました。ぜひ、ご興味のある保育者・関係者の皆さんは、ご参加ください。
詳細についてはこちらからお願いします。
http://hotta-lab.info/kids/2021/nintei.html
<認定の流れ>
- サイト内の「保育者の情報活用能力チェックリスト」または「園の情報化チェックリスト」に回答
- 回答が、研究代表者(園田学園女子大学・堀田博史)に送信、数値化されて、一定の値を上回っていれば、メールで、認定者または認定園に連絡(下回っていても連絡します)
- 連絡メールに、チェックリストで実現していない項目について、今後できるようになる見通しなどを書いて返信
- 認定
今後、「保育者の情報活用能力チェックリスト」及び「園の情報化チェックリスト」の内容を学ぶ動画教材を作成して公開いたします。
<研究組織>
- 園田学園女子大学 堀田 博史
- お茶の水女子大学 榊原 洋一
- 愛知淑徳大学 佐藤 朝美
- 大分大学 吉崎 弘一
- 明星大学 今野 貴之
- 大阪大学 奥林 泰一郎
- 京都教育大学 田爪 宏二
- 島根大学 佐藤 鮎美
- チャイルド・リサーチ・ネット(CRN)劉 愛萍
- チャイルド・リサーチ・ネット(CRN)小川 淳子
- 認定こども園エンゼル幼稚園 勝見 慶子