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研究室

Laboratory

【中国】新型コロナウイルスの発生以来、中国都市部の子どもたちがオンライン学習に費やす時間は増えたのか?

要旨:

1990年代後半、ネットワーク技術が普及したことによりオンライン学習が出現した。その後、オンライン講座を有料で提供する業者が急増し、2016年にはこうした業者が中国都市部の幼児教育市場に群がった。オンライン学習は2020年初めに新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大によって、ますます発展した。
本研究は、新型コロナウイルス感染症の発生以来、中国都市部の子どもたちがこれまで以上にオンライン学習に時間を費やすようになったかどうかを検証することを目的としたものである。筆者は子どものオンライン学習の実態を調べるために、中国重慶市に住む1,452人の親を対象にアンケート調査を実施した。
その結果、437人の子どもがオンライン学習を体験していること、そのうち過半数(64.5%)が新型コロナウイルス感染症の発生以後にオンライン学習を開始していたことが明らかになった。また、大半の子どもは1日当たり16~30分かけて読み書き(中国語・英語)や算数などをオンライン講座で勉強していたが、コロナ禍が収まってくると、オンライン学習に費やす時間が減少したことも判明した。ただし、大多数の親(72.5%)は、今後も子どもにオンライン学習を続けさせると答えている。
総じて、中国都市部の子どもがオンライン学習に費やす時間と機会は新型コロナウイルス感染症の発生以来増えたものの、コロナ禍が収まり学校が再開すると減少傾向に転じたこと、それにもかかわらず、大半の子どもは現在もオンライン学習を続けていることが明らかになった。こうした体験が子どもの学びと成長にどのような影響を及ぼすのか、また、子どもの学習形態や学習環境に重大な変化をもたらすのかどうかを知るためには、さらなる研究が必要とされる。

関連キーワード:
オンライン学習、子どもの学び、COVID-19、新型コロナウイルス感染症
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はじめに

デジタル世界の「ネイティブ」である21世紀の子どもたちは、インターネットが至る所にある生活を送っている。最近では、スマートフォンやタブレットが普及するにつれ、デジタル機器を扱うことのできる子どもの年齢がますます下がる傾向にあり、英国では3~4歳児の三分の一がデジタル機器を使っていることが報告されている。オランダでは78%、ベルギーでは70%、スウェーデンでは70%と、さらに高い比率が発表されている(Holloway et al., 2013)。こうした状況において、スマートフォン、タブレット、パソコンは就学前の子どもにとって重要な学習ツールとなってきており、学びの環境も従来の学習方法とデジタル学習とを組み合わせたものに変わりつつある。

同時に、子どもたちの学習形態も変わってきている。スマートフォン、タブレット、パソコンなどのデジタル機器を使用したオンライン学習が、学習方法のひとつとして未就学児の生活に入ってきた。2020年1月に発生した新型コロナウイルス感染症のパンデミックは幼児のオンライン学習の発展を加速化させた。学校や教育施設がコロナ禍によって閉鎖されたため、親たちは子どものためにオンライン学習を選択せざるを得なくなり、これを絶好の機会と捉えた未就学児向けオンライン講座を提供する業者も数多く現れ、幼児のオンライン教育が急速に発展することになった。2020年6月になると、中国のコロナ禍も次第に収束へ向かい、学校や幼稚園などの教育施設は通常の状態に戻った。従って、本研究は、新型コロナウイルス感染症の発生以来、中国都市部の未就学児がオンライン学習に費やす時間が増えたかどうかを調査することを目的とする。

幼児のオンライン学習

「オンライン学習」という用語は、「インターネット上で教育アプリを使いながら学ぶ方法、あるいは生徒が都合のよい時間に教師やほかの生徒と関わりあいながら学ぶことができ、全員が同時にオンライン上で、または物理的な空間で一堂に会する必要がない学習方法」を意味する(Singh & Thurman, 2019)。インターネットが出現した1990年代以降(Palvia et al., 2018)、オンライン学習が子どもに(特に幼い子どもに)どのような影響を及ぼすかが議論され続けており、数多くの学者が研究を行ってきた。

こうした研究の中には、デジタル機器が子どもの身体的な健康に害を及ぼすと指摘する文献(Kardefelt-Winther, 2017、Cheung et al., 2017、Aston, 2018、Gottschalk, 2019)もあれば、精神面の健康に良くないと指摘する文献(Kardefelt-Winther, 2017、Gottschalk, 2019、 Dempsey et al., 2020)もある。例えば、英国における生後6~36ヵ月の乳幼児715人を対象とした研究では、デジタル機器の画面を見る頻度と睡眠の質との間には有意な関連性(全体的な睡眠時間の減少、夜間の睡眠が減り昼間の睡眠が増えるなど)があり、入眠時間が長くかかるようになったことが明らかになっている(Cheung et al., 2017)。米国小児科学会(AAP)は、2歳未満の幼児にはデジタル機器を使わせないように勧告することから始め、様々なガイドラインを打ち出している(American Academy of Pediatrics, 2001)。

その一方で、スマートフォンやタブレットなどのデジタル機器を使用したオンライン学習は子どもに学びと成長の機会をもたらし、能力の発達にポジティブな影響を与えると主張する学者も出てきた(成長過程である読み書きや言語の発達:Plowman et al., 2008、Hisrich & Blanchard, 2009、Lieberman et al., 2009、Plowman et al., 2010、Dore et al., 2019、Griffith et al., 2019、Neumann, 2014, 2018, 2020、算数的スキル:Plowman et al., 2008、Lieberman et al., 2009、Plowman et al., 2010、Griffith, 2019、社会的スキル:Kardefelt-Winther, 2017、Lawrence, 2018、精神面の健康:Plowman et al., 2008、Kardefelt-Winther, 2017)。また、この傾向は特に恵まれない環境にある子どもに顕著であることも指摘されている(Dore et al.,2019、Griffith, 2019)。さらに、英国の実験心理学者Przybylski教授と社会心理学者Weinstein博士は、デジタル機器を適度に使用しさえすれば有害にはならず、むしろ子どもの精神的な発達に良い影響を与えるとして、「ゴルディロックスの原理」を提唱している(Przybylski & Weinstein, 2017)。

今日でさえも、オンライン学習が子どもに与える影響について論争が途絶えることがないが、デジタルテクノロジーの発展に伴い、従来の学習方法とデジタル機器を使用した学習との組み合わせという新たな学習環境が出現していることは間違いないだろう。最近の研究によると、こうした矛盾の主な理由として、デジタル機器が均一的に使用される性質のものではないこと、また、異なるデジタル機器が同一の効果を生みだすとは限らないことを考慮していない点が指摘されている(Burns & Gottschalk, 2020)。

最近では、デジタルテクノロジーの使用が普及するにつれ、子どものデジタル機器使用に多くの注目が集まっている。しかしながら、研究者の大半は子どもがデジタル機器を使うリスクとメリットを調査するばかりで、デジタル機器の使用状況や画面を見る時間の違いに注目する研究は少なかった。これまでのところ、子どものオンライン学習の実態および学習時間については、あまり注意が払われてこなかった。また、子どものオンライン学習に関する研究は、英国、米国、オーストラリアなどの国で行われているものが多かった。従って、本研究では、こうした研究の不足を補うために、中国の子どもがどのようなオンライン学習を行っているのか、どれくらいの時間を費やしているのかを調査する。

コロナ禍における子どものオンライン学習

2019年末、中国の武漢市やその他の都市で新型コロナウイルスによる感染症が発生し、2020年3月には世界保健機関が新型コロナウイルス感染症の拡大状況をパンデミックであると正式に宣言した(WHO, 2020)。このパンデミックの発生により、社会のあらゆる要素が多大な影響を被った。OECDによると、世界のほとんどの国で学校教育が中断されることになった(OECD, 2020)。世界中で多くの学校が閉鎖されることになったため、オンライン学習は教育を続けるための重要な命綱となった。中国教育部は、学校が閉鎖となった後、「停課不停学(授業を止めても、学びは止めない)」という全国的なスローガンを掲げ、小中学校の生徒にあらゆるオンライン・プラットフォームとリソースを提供してオンライン学習を受けさせるためのガイダンスとサービスを実施するよう、広く呼びかけた(Ministry of Education of the People's Republic of China, 2020)。幼稚園等の未就学児向け教育施設はオンライン教育の提供を禁じられたが、こうした施設がことごとく閉鎖になったため、オンライン学習を利用する子どもの数とオンライン学習を提供する機関の数が急増した。2020年6月になると、中国国内のパンデミックは次第に抑えられ、幼稚園等の教育施設は通常の状態に戻った。こうした状況において、パンデミック発生以後の、子どものオンライン学習の実態および学習時間への影響を調査することが重要となった。本研究は以下の問いに取り組むことを目的とする。

中国都市部の子どもは、コロナ禍以後に、オンライン学習を体験するようになったか?
コロナ禍以後、中国都市部の子どもがオンライン学習に費やす時間は増えたか?
パンデミックが収まり学校が再開した後、中国都市部の子どもはオンライン学習を継続しているか? オンライン学習に費やす時間は変化したか?

方法論

調査対象者

本研究では、中国西南部にある重慶市の幼稚園等に通っている3~6歳児の親を対象にアンケート調査を実施し、1,452人から有効な回答を収集した。対象者の大半は母親(75%、n=1089人)で、最も多い年齢は30~40歳(60.1%、n=873)である。母親の学歴は中学卒業以下が最も多く(36.1%、n=524)、次に高校/中等専門学校卒業(24.7%、n=359)、4年制大学卒業(20.8%、n=302)となっている。彼らの平均世帯月収は10,000元未満が最も多い(70.2%、n=1019)。下記の表1は、調査対象者に関する基礎データをまとめたものである。


表1:調査対象者に関する基礎データ
調査対象者 N (%)
回答者 父親 311 (21.4)
母親 1089 (75)
祖父母 31 (2.2)
その他の保護者 21 (1.4)
年齢 30歳未満 456(31.4)
30~40歳 873(60.1)
41~50歳 95 (6.5)
51~60歳 25 (1.7)
60歳超 3 (0.2)
学歴 中学以下 524(36.1)
高校/中等専門学校 359(24.7)
短期大学 228(15.7)
4年制大学 302(20.8)
大学院以上 39 (2.7)
平均世帯月収 10,000元未満 1019(70.2)
10,000~50,000元 372(25.6)
50,001~100,000元 39 (2.7)
100,000元超 22 (1.5)

アンケート調査

本研究では、「子どものオンライン学習に関するアンケート」を作成し、幼児教育専門家の監修を受けた上で、保護者に事前ヒアリング(プレテスト)をしてもらった。アンケートは4つのセクションに振り分けた31の質問で構成されている。

パートI: 背景情報に関する7つの質問。親の性別、年齢、学歴などの基本的な属性データおよび子どもの基本的な属性データを収集する。

パートII: 中国における子どものオンライン学習に関する14の質問。子どもが利用しているオンラインコース、オンライン学習に費やす時間、オンライン学習の形態や効果など。新型コロナウイルス感染症のパンデミックの前後および学校閉鎖/再開時のオンライン学習の実態を調査する。

パートIII: オンライン学習が子どもに及ぼす影響に関する4つの質問。オンライン学習が子どもの発達、画面を見る時間、戸外活動に費やす時間、親子関係に及ぼす影響を調査する。

パートIV: 子どものオンライン学習に対する親の考えを調査するための6つの質問。

調査手順

2020年12月に匿名のオンライン調査を実施した。アンケートは重慶市都市部の幼児教育従事者に委託し、保護者に配布した。アンケート配布時、本研究の目的、回答時の注意事項を説明した。調査は中国で広く普及しているオンライン調査プラットフォーム「問巻星(Wenjuanxing)」を使用して実施し、保護者たちからの回答を収集した。また、保護者たちには、回答内容は機密として取り扱い、研究目的でのみ調査結果を使用することを保証した。

データの分析

本調査で収集したデータについてはSPSS 25.0(統計解析ソフト)を使用して分析を行った。

調査結果

1. 中国重慶市の子どもを対象としたオンライン学習の実態
(1)中国重慶市の子どもを対象としたオンライン学習の実態調査


表2:中国重慶市の子どもを対象としたオンライン学習の実態調査
3~4歳 4~5歳 5~6歳 合計
オンライン学習をしたことがない 29.5%(428) 18.8% (273) 21.6%(314) 69.9% (1015)
以前オンライン学習をしたことがある 3.4% (49) 3.8% (55) 3.8% (55) 11.0% (159)
現在、オンライン学習をしている 7.2% (105) 5.9% (85) 6.1% (88) 19.1% (278)

上の表2は、中国重慶市における子どものオンライン学習の実態をまとめたものである。概して、回答者の過半数(69.9%、n=1015)が自分の子どもは「オンライン学習をしたことがない」と答え、オンライン学習の経験があると答えたのは回答者の30.1%(n=437)のみであった。このことから、オンライン学習は十分に普及していないものの、中国で子どもが学ぶために重要な手段となっていることが伺われる。また、オンライン学習の経験が全くない子ども(n=1015)のうち、42.1%の子ども(n=428)が3~4歳児であったことから、子どもの年齢が低いほどオンライン学習の経験者も少ないことがわかる。一方、オンライン学習の経験がある子ども(n=437)のうち、63.6%の子ども(n=278)がオンライン学習を継続していることから、子ども(特に3~4歳児)はオンライン学習を一度体験すると概ね好意的に受け入れていることを示している。ただし、3~4歳児は4~6歳児よりもオンライン学習を開始した時期は最近であるため、この実態を確認するためには、さらなる調査が必要である。

(2)子どもが利用しているオンライン講座

図1:子どもが利用しているオンライン講座
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注:これはオンライン学習を体験したことがある子どもの親からのみ収集した回答データのワードクラウドである。(※もとは中国語で分析が行われた。筆者による英訳。)

図1で明らかなように、重慶市の子どもが利用している主なオンライン講座は読み書き、中国語、絵画、英語、算数、プログラミング、論理的思考などである。多くの子どもが読み書き、中国語、算数、英語を選んでいることから、中国の親たちはオンライン学習を受けさせるにあたり子どもの知育を重視していることが伺われる。


(3)オンライン学習を始めた時期とやめた時期

表3:オンライン学習を始めた時期
3~4歳 4~5歳 5~6歳 合計
2020年1月より前 9.2% (40) 13.3% (58) 13.0% (57) 35.5% (155)
2020年1月~6月の間 13.0% (57) 13.0% (57) 14.0% (61) 40.0% (175)
2020年6月より後 13.0% (57) 5.7% (25) 5.7% (25) 24.5% (107)

表3は、子どもがオンライン学習を始めた時期についてまとめたものである。2020年1月より前に始めたと答えた回答者の割合は35.5%(n=155)、2020年1月~6月の間に始めたと答えた回答者は40%(n=175)となっており、残りの24.5%(n=107)は2020年6月より後に始めたと答えている。オンライン学習の経験がある子どもの大多数(64.5%、n=282)が新型コロナウイルス感染症パンデミックの発生後にオンライン学習を始めていることから、パンデミック発生と学校閉鎖によってオンライン学習をする子どもの数が急増したことが伺われる。同時に、2020年1月以前にオンライン学習をしていた子どもが35.5%も占めていることから、子どものデジタル学習環境においてオンライン学習が普及しつつあることも伺われる。


表4:オンライン学習をやめた時期
3~4歳 4~5歳 5~6歳 合計
現在もオンライン学習を続けている 24.0% (105) 19.5% (85) 20.1% (88) 63.6% (278)
2020年1月より前 2.1% (9) 1.1% (5) 2.1% (9) 5.3% (23)
2020年1月~6月の間 2.7% (12) 6.4% (28) 3.2% (14) 12.4% (54)
2020年6月より後 6.4% (28) 5.0% (22) 7.3% (32) 18.8% (82)

表4は、子どもがオンライン学習をやめた時期についてまとめたものである。現在もオンライン学習を続けていると答えた回答者の割合は63.6%(n=278)、2020年6月より後にやめたと答えた回答者は18.8%(n=82)、2020年1月~6月の間にやめたと答えた回答者は12.4%(n=54)、2020年1月より前にやめたと答えた回答者は5.3%(n=23)となっている。表4のデータを見ると、新型コロナウイルス感染症の感染拡大が収まり、幼稚園等の教育施設が通常通りに運営されるようになった2020年6月以降にオンライン学習をやめた子どもの数の方が、6月以前にやめた子どもの数よりも多いことがわかる。また、現在もオンライン学習を続けている子どもが63.6%を占めていることで、親も子どももオンライン学習を高く評価していることが伺われる。

(4)オンライン学習に費やす時間(学校の再開前後)

表5:学校の再開前にオンライン学習に費やしていた時間
3~4歳 4~5歳 5~6歳 合計
0分 6.2% (27) 5.5% (24) 5.7% (25) 17.4% (76)
1~15分 12.6% (55) 9.4% (41) 7.1% (31) 29.1% (127)
16~30分 13.0% (57) 11.9% (52) 13.5% (59) 38.4% (168)
31分~1時間 2.5% (11) 4.1% (18) 6.2% (27) 12.8% (56)
1時間超 0.9% (4) 1.1% (5) 0.2% (1) 2.3% (10)

表6:学校の再開後にオンライン学習に費やしていた時間
3~4歳 4~5歳 5~6歳 合計
0分 8.0% (35) 6.2% (27) 8.2% (36) 22.4% (98)
1~15分 10.3% (45) 10.3% (45) 7.8% (34) 28.4% (124)
16~30分 14.0% (61) 11.9% (52) 11.7% (51) 37.5% (164)
31分~1時間 2.3% (10) 2.7% (12) 4.3% (19) 9.4% (41)
1時間超 0.7% (3) 0.9% (4) 0.7% (3) 2.3% (10)

表5と表6は、子どもがオンライン学習に費やす時間をまとめたものである。1日当たりに費やす時間は「1~15分」と「16~30分」というのが最も多く、そのうち過半数が16~30分を費やしている。1日当たりに費やす平均時間について表5と表6を比較してみると、「1~15分」、「16~30分」、「1時間超」については幼稚園等の教育施設が再開する前と後ではあまり変化が見受けられない。一方、教育施設の再開後、オンライン学習に費やす1日当たりの時間が「0分」の子どもの割合は5%増加し、「31分~1時間」の子どもの割合は3.4%減少している。このことから、教育施設の再開後に子ども(特に5~6歳児)がオンライン学習に費やす1日当たりの平均時間がやや減少していることがわかる。

2.オンライン学習が子どもに及ぼす影響
(1)オンライン学習が子どもの成長に及ぼす影響


表7:オンライン学習が子どもの成長に及ぼす影響(親の意識)
運動能力の発達 認知スキルの発達 情緒面の発達 個性の発達 言語スキルの発達 合計
3~4歳 7.2%(64) 11.6%(103) 4.2% (37) 3.5%(31) 10.2%(91) 36.6%(326)
4~5歳 5.3%(47) 11.2%(100) 3.7% (33) 2.5%(22) 9.3% (83) 32.0%(285)
5~6歳 4.7%(42) 9.7% (86) 3.8% (34) 3.1%(28) 10.0%(89) 31.3%(279)
注:子どもの成長に及ぼす影響については、回答を3つまで選べたため、合計の比率が100%を超える場合がある。

表7は、オンライン学習が子どもの成長に及ぼす影響についての親の意識をまとめたものである。これによると、オンライン学習が子どもの認知スキルの発達にポジティブな影響を及ぼすと考えている回答者の割合は32.5%(n=289)、言語スキルの発達にポジティブな影響を及ぼすと考えている回答者の割合は29.6%(n=263)となっている。従って、オンライン学習は子どもの認知スキルと言語スキルの発達にポジティブな影響を与えると親は考えている一方、運動能力、情緒面、個性の発達にはほとんど影響を与えていないと親は考えていることがわかる。ただし、こうしたデータは、子どもが選ぶオンライン講座の種類にも左右される可能性がある(図1を参照)。

(2)オンライン学習を始めてからデジタル機器を使う時間がどう変化したか

表8:オンライン学習を始めてからデジタル機器を使う時間がどう変化したか
3~4歳 4~5歳 5~6歳 合計
かなり増えた 7.6% (33) 4.3% (19) 5.0% (22) 16.9% (74)
少し増えた 13.3% (58) 10.5% (46) 11.4% (50) 35.2% (154)
変化なし 10.5% (46) 10.1% (44) 11.4% (50) 32.0% (140)
少し減った 3.0% (13) 4.6% (20) 3.2% (14) 10.8% (47)
かなり減った 0.9% (4) 2.5% (11) 1.6% (7) 5.0% (22)
注:上の表は、オンライン学習以外で、子どもがデジタル機器の画面を見る時間を調査した結果である。

表8は、オンライン学習を始めてから、オンライン学習以外で子どもがデジタル機器を使う時間がどう変化したかをまとめたものである。これによると、オンライン学習をするようになってからデジタル機器の画面を見る時間が「増えた」と答えた回答者が過半数(52.1%、n=228)を占める一方、「変化なし」と答えた回答者の割合は32%(n=140)、「減った」と答えた回答者の割合は15.8%(n=69)となっている。このことから、オンライン学習を始めてから子どものデジタル機器への依存度が大きく高まったことが伺われる。

(3)オンライン学習を始めてから戸外で費やす時間がどう変化したか

表9:オンライン学習を始めてから戸外で費やす時間がどう変化したか
3~4歳 4~5歳 5~6歳 合計
かなり増えた 5.9% (26) 2.7% (12) 3.9% (17) 12.6% (55)
少し増えた 9.4% (41) 6.9% (30) 7.1% (31) 23.3% (102)
変化なし 15.1% (66) 15.8% (69) 15.1% (66) 46.0% (201)
少し減った 4.8% (21) 5.5% (24) 5.9% (26) 16.2% (71)
かなり減った / 1.1% (5) 0.7% (3) 1.8% (8)

表9は、オンライン学習を始めてから子どもが戸外で過ごす時間がどう変化したかをまとめたものである。これによると、オンライン学習をするようになってから子どもが戸外で過ごす時間は「変化していない」と答えた回答者が多く(46%、n=201)、戸外で過ごす時間が「増えた」と答えた回答者は35.9%(n=157)、「減った」と答えた回答者は18%(n=79)のみであった。ここで留意すべきことは、表5、表6、表8では子どもがオンライン学習やデジタル機器に費やす1日当たりの時間が増えている一方、表9ではオンライン学習を始めてから戸外で過ごす時間が変わらない子どもが46%、戸外で過ごす時間が増えた子どもが35.9%もいるということである。すなわち、デジタル機器を使う時間が増えたために戸外で遊ぶ時間が減ったという子どもは少なく、戸外で遊ぶ時間が増えている子どもさえいることから、子どもがデジタル機器に長い時間を費やす時は、戸外で遊ぶように親が気を付けていることが伺われる。

3.子どものオンライン学習に対する親の考え

表10:パンデミックが収束した後も子どもにオンライン学習を続けさせるか
3~4歳 4~5歳 5~6歳 合計
続けさせる 27.0% (118) 22.9% (100) 22.7% (99) 72.5% (317)
続けさせない 8.2% (36) 9.2% (40) 10.1% (44) 27.5% (120)

表10は、パンデミックが収束した後も子どもにオンライン学習を続けさせるかどうかについて親の意見をまとめたものである。大半の回答者(72.5%、n=317)が「続けさせる」と答えており、オンライン学習が親(特に3~4歳児の親:27%、n=118)から高く評価されていることが伺われる。一方、オンライン学習を続けさせないと答えた回答者の割合は27.5%(n=120)にとどまった(多かったのは5~6歳児の親:10.1%、n=44)。

表11:子どもにオンライン学習を続けさせる理由
オンライン講座の質が保証されている 子どもが気に入っている 便利 安価 パンデミックに不安を感じるため その他 合計
3~4歳 4.4% (27) 13.3%(82) 9.1% (56) 3.9%(24) 3.6%(22) 2.4%(15) 36.6%(226)
4~5歳 4.2% (26) 11.7%(72) 10.2%(63) 2.9%(18) 2.4%(15) 1.1% (7) 32.6%(201)
5~6歳 4.7% (29) 10.4%(64) 9.7% (60) 2.3%(14) 1.9%(12) 1.8%(11) 30.8%(190)
注:表のデータは、子どもにオンライン学習を続けさせる親のみ回答したものである。理由については選択肢から3つまでに限られているため、合計の比率が100%を超える場合がある。

表11は、親が子どもにオンライン学習を続けさせる理由をまとめたものである。全体的にみて、「子どもが気に入っているから」と答えた回答者が最も多い(35.3%、n=218)。このことから、親が子どもにオンライン学習を続けさせるかどうかは、子どもが気に入っているかどうかが決め手になることが伺われる(特に3~4歳児の親)。4~5歳児と5~6歳児の親については、「子どもが気に入っているから」という理由の次に、「便利だから」という理由を挙げるものが多かった。このことから、親が子どもにオンライン学習を続けさせるかどうかは、子どもが気に入っているかどうかに加え、その便利さも考慮されていることがわかる。一方、「パンデミックに不安を感じるため」と答えた回答者はわずか7.9%(n=49)となっており、オンライン学習の継続に関する親の決断に新型コロナウイルス感染症パンデミックがある程度影響を及ぼしているものの、その影響度は小さいことが伺われる。

表12:子どもにオンライン学習を続けさせない理由
オンライン講座の質に不満がある 子どもが嫌がっている 子どもの身体面の健康が心配 子どもの精神面の健康が心配 高額 国内のパンデミックが抑えられたため その他 合計
3~4歳 5.0% (10) 3.5% (7) 8.9% (18) 3.5% (7) 4.0% (8) 2.5% (5) 3.5% (7) 30.7% (62)
4~5歳 5.0% (10) 5.4%(11) 10.4%(21) 5.0%(10) 2.0% (4) 1.0% (2) 4.5% (9) 33.2% (67)
5~6歳 7.4% (15) 5.4%(11) 10.9%(22) 2.5% (5) 4.0% (8) 0.5% (1) 5.4%(11) 36.1% (73)
注:表のデータは、子どもにオンライン学習を続けさせない親からのみ収集したものである。理由については選択肢から3つまでに限られているため、合計の比率が100%を超える場合がある。

表12は、「子どもにオンライン学習を続けさせない」と回答とした親を対象に、親が子どもにオンライン学習を続けさせない理由をまとめたものである。全体的にみて、「子どもの身体面の健康が心配だから」と答えた回答者が最も多い(30.2%、n=61)。すなわち、3~6歳児の親がオンライン学習を続けさせない主な理由として、オンライン学習が子どもの健康に害を与えることを懸念していることが挙げられる。また、「子どもの身体面の健康」の次に、「オンライン講座の質に不満があるから」と答えた回答者が多かったことから、親がオンライン学習の継続について判断する際には、オンライン講座の質も考慮していることが伺われる。一方、「パンデミックが抑えられたから」を理由に挙げる回答者は少ない。このことから、オンライン学習継続の判断にはコロナ禍の要因はあまり影響を及ぼしていないことがわかる。

まとめ

本研究の目的は、新型コロナウイルス感染症の発生以来、中国都市部の子どもたちがオンライン学習に費やす時間および機会が増えたかどうかを検証することであった。調査の結果、パンデミックが抑えられ学校が再開した後にオンライン学習をする子どもの数が減少する傾向が見られたものの、大半の子どもは現在もオンライン学習を続けていることがわかった。本研究は、コロナ禍の影響下における子どものオンライン学習の実態について理解を深めるために、中国都市部の子どもを対象としてデータを収集したものであり、特にパンデミック後のオンライン学習の実態については初の調査となる。本研究はさらに、子どものオンライン学習について政策立案者や教育者に何らかの示唆を与えることも意図している。

ただし、本研究には次の限界点がある。第一に、本研究は重慶市の3~6歳児のみを対象としてオンライン学習の実態を調査したものであること。今後の課題としては、0~3歳児も含めて全国規模のサンプルからデータを収集し、包括的な調査を行うことにより、質の高いエビデンスを提示する必要がある。第二に、本研究はアンケート調査のみを用いたものであること。オンライン学習の実態をさらに掘り下げて理解するためには、複数の手法を組み合わせて調査する必要がある。

オンライン学習の体験は子どもの学びと成長にどのような影響を及ぼすのか、子どもの学習形態や学習環境に重大な変化をもたらすものなのかどうかを知るためには、さらなる研究が必要とされる。



参照文献
※編集部注:童話『三匹の熊』の中で、ゴルディロックスという名前の少女が、迷い込んだ熊の家で、お粥、椅子、ベッドを見つけ、それぞれについて選択肢の中から、自分にとってちょうどいい適度なものを選んだというエピソードから。
筆者プロフィール
gao_linlian1.jpg 高林蓮
現在、中国西南大学教育学部にて修士号コースを受講中。過去に英語教師として2年間、英語翻訳者として2年間務めた経験を有する。同大学にて英語学の学士号を取得。


su_guimin1.jpg 蘇貴民
中国西南大学准教授。また、中国幼児教育審議会およびOMEP(世界幼児教育・保育機構)中国委員会のメンバーも務める。専門分野は、幼稚園教員養成、メディア、子どもの発達など。

※肩書は執筆時のものです

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