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【ニュージーランド子育て・教育便り】 第17回 ロックダウン時の幼児の過ごし方

村田 佳奈子

2020年6月26日掲載

要旨:

ニュージーランドの新型コロナウイルス対策としてのロックダウン期間中、未就学児たちがどのように過ごしていたのかお伝えします。現在3歳の息子が、保育園の先生方や近所に住むお友達にどのように支えられていたかについても、一例としてご紹介します。

ニュージーランドでは新型コロナウイルス感染症を抑え込むため、2020年3月25日(水)深夜からロックダウンに入りました。教育施設の利用が再開される5月18日(月)までの間、10歳の娘だけでなく、普段は保育園に通っている3歳の息子も家で過ごしていました。今回は、この間、息子がどのように保育園の先生方、友達家族に支えられて過ごしてきたのかについて取り上げています。

ロックダウン下での過ごし方は、家庭によってもだいぶ違うとは思いますが、はじめに息子がお世話になっている保育園について、少しだけ説明しておきます。息子の通っている保育園は地域に根差した園で、ニュージーランドの大多数の私立の幼児教育施設とは少し異なる運営をしています。こちらの園では、子どもが1歳を過ぎて、枠に空きが出次第入園が可能で、だいたい4歳前ぐらいの年齢までの子どもが在籍していますi。大多数の保育園では保育料の支払いが求められますが、この園は寄付金で運営されています。保育士の先生方はご自身にもお孫さんのいらっしゃるような世代の方がほとんどで、大ベテランの先生ばかり。園児のほとんどは、車で10分圏内に住んでいる近所の子どもたちです。地元密着型の、穏やかでのんびりとした園といったところです。そのため私たちが個人的に仲良くしている家族も、だいたい徒歩圏内に住んでいます。

ベアハント

ロックダウン下において、公園の遊具が使用できなくなったこと、自然の中で遊べなくなったこと、車に乗って遊びに行けなくなったことで、息子の年代に限りませんが、徒歩圏内での散歩が唯一許される運動となっていました。息子は公園が大好きなので、遊具が使えなくなったことにがっかりしていました。そのような中で、散歩をする子どもたちを楽しませるために、家の窓辺にクマのぬいぐるみを飾る取り組みが、ニュージーランドをはじめ、世界各国に広がりました。イギリスの絵本 We're Going on a Bear Hunt.iiにヒントを得た活動です。この絵本の内容に合わせた、小さな子どもたちが大好きな歌があるのですが、この絵本や歌のように、クマがりにでかけるような気持ちで子どもたちが散歩できるように、という心遣いです。私たちの家が面する通りの家々も、一時は、歩けば窓辺にはクマだらけという状態に。息子は歌いながら歩き、窓辺にはかわいいテディベアが勢ぞろいという光景は、ロックダウン開始前から世界の惨状を見て気分が沈み込んでいた私を、だいぶ和ませてくれました。ところが困ったことに、1週間もすると息子は飽きてしまい、「くまさんだよ」と言っても、よほどのインパクトのあるクマでない限り見向きもしなくなりました。そこで私も通りから見える側の窓にはクマを飾っていたのですが、息子のようにクマだけだと飽きることもあるのかなと、我が家の隣に住む子どもたちを楽しませようと決め、私の気分で日替わりで犬、猫、ユニコーンなどのぬいぐるみや人形などを、時にはちょっとおもしろい恰好にさせたりして、その子どもたちがよく通る窓辺に飾っていました。時々反応してくれている声が外から聞こえると、とても嬉しく思えました。小さな子どもたちのために飾られたクマのぬいぐるみたちは、それらを飾っている側の大人の心を癒す効果もあったかもしれません。

report_09_367_01.jpg 近所の家の窓には大小さまざまなクマのぬいぐるみが飾ってありました。

チョークで書かれたメッセージ

ロックダウン開始からしばらくして、近所に住む友達親子からメッセージが届きました。といっても、紙などではなく、我が家の前の道路にチョークで書いてくれたものです。息子はとても喜んでいました。数日後、今度は息子がチョークを持って返事を書きに、その子の家の前まで行きました。

また、息子のその友達がロックダウン中に誕生日を迎えたときにも、その子の家の前まで息子と歩いていって、息子と私で道路にバースデーケーキの絵を描いて帰ってきました。このように、特定の人に宛てたメッセージの他にも、チョークのメッセージが、歩道のいたるところに書かれていました。ロックダウン開始時のアーダーン首相の会見の締めくくりに「お互いに助け合いましょう。近所の人と連絡を取り合って一緒に乗り越えましょう。心を強くもって。そしてひとに親切に」という言葉が人々の心に響いたのか、道路のいたるところに、「Be kind ♡」という文言が、ハートの形と並んで、チョークで書いてありました。窓辺に飾られたクマのぬいぐるみには早々に飽きてしまった息子ですが、様々なチョークのメッセージや絵には、常に興味津々でした。

report_09_367_02.jpg 友だちの家の前に書き残した返事

保育園の先生とのテレビ電話

子どもたちが家で過ごすようになって1週間ほど経った4月1日。慣れない街の静けさに加えて、ロックダウンを開始してからもまだ感染者数が増え続けて先行きが不安だったころ、保育園の先生から「もしよかったらテレビ電話をしようと考えているのですが、いかがですか?」というメッセージが、私の携帯電話に届きました。そして、スカイプを介してのテレビ電話での面談が実現しました。ほぼ毎日顔を合わせていた人の顔をお互い久しぶりに見られたことに加えて、息子が大喜びしている様子を見て、先生と私が感動して涙するというスタートでした。息子の様子に加えて「きちんと買い物はできている? 仕事はできている? 上の子(娘の名前)の様子はどう? 家族みんなで元気にしている? 眠れている? 連絡できる友達はいる? 情報は得られている?」など、家族のことについても、たくさん尋ねてくれました。私も先生に同じようなことを伺い、お互い無事でなんとか過ごしている様子が分かって、ほっとしました。その後、息子は歌が好きだからということで、先生がギターを片手に歌を歌ってくれて、息子はそれに合わせて踊りました。先生も子どもたちの顔が見たいと思っているそうで、これからも時々テレビ電話による面談をやっていこうと思っているという話で、初回は終了しました。後に知ったところによりますと、我が家は同じ保育園の30人弱いる子どもたちの中でも、だいぶ初めの頃にテレビ電話をかけていただいたようです。今考えると、先生は息子の心配というよりは、息子の園では珍しく英語が母語ではない、母親である私の心配をしてくださっていたような気がします。

report_09_367_03.jpg 先生の歌に合わせて仕草を真似る息子

この日を境に、保育園からは続々と先生方の動画が届き始めました。動画の内容は、手遊び、歌、絵本の朗読、体操などなど。保護者の中にICT技術の専門家の方がおり、サポートしてくださったそうです。また、普段保育園で作っているという、小麦粉で作る粘土のレシピも送られてきました。更に先生と各家庭とのテレビ電話のセッションも時間割を組むことにしたとのこと。週に2度、1回あたり30分程度のテレビ電話の中で、近況報告、私の子育てに関する雑談、絵本の読み聞かせ、歌を歌ったり、手遊びなどをして頂くことができました。先生は他のご家庭とも、同じようにテレビ電話を通じて話していますので、息子の友達の家の前の道路に私たちがチョークで描いたバースデ―ケーキの絵を、その子がとても喜んで先生に見せたという話も聞きました。私が先生に話した子育ての悩みとして今覚えていることをいくつか挙げると、「10歳の娘が学校の勉強などでタブレットを使うことが増えた影響で、息子もタブレットを使う時間が増え過ぎてしまっている。息子を静かに過ごさせる手段として、どうしても使いがちになってしまう」「娘のやるべきことの方が多いので、息子が放置されがちになってしまう」「息子はそれほど散歩が好きではない様子。どうしたらいいか」といったようなことです。先生の答えは「どこの家庭も同じような状況だと思うから、保育園が再開したらしばらくタブレットなどは使わせないつもり。子どもが保育園に戻ることができたら、身体を使って思いっきり楽しんでほしいと思っている。今の状況は一時的なものだから考えすぎないように」「小学生はいろいろやることがあるから、今は多少(息子が)一人で遊ぶようなことが増えてしまっても大丈夫」「無理に連れ出さなくても、保育園に戻れば身体を動かせるから大丈夫」などと、全体的にあくまでこの状況は一時的なものだし保育園もすぐ再開されるからあまり考えすぎなくてよいという方向で回答してくださっていたように思います。

テレビ電話の最終回は、5月8日(金)でした。「多分、来週から保育園が完全に再開されると思うけれどiii、来週から来られる?」と聞かれ、行かせると思う旨を伝えると、ロックダウン開始前に、保育園で息子がいろいろな遊びをしている様子や、たくさんの友達と遊んでいる様子を先生が撮った写真16枚を、次々と送付してくれました。先生と一緒に写真を見ながら、息子は今すぐ行くといわんばかりに気分は盛り上がり、その後も保育園に戻る日を楽しみにしていました。保育園の先生の方も、非常時に、子ども1人とその母親に、1週間に1時間をテレビ電話の面談のために割くことは大変なことだったと思います。今回ご紹介した事例は、ニュージーランド特有の園の特徴というよりは、息子が通う園の先生自身のご厚意からの対応になってしまうのかもしれませんが、大いに支えられました。

本原稿の執筆からほどなくして子どもたちは小学校、保育園に戻りました。次回は、10歳の娘と3歳の息子、それぞれが、どのように小学校と保育園に復帰したのかについてお伝えしたいと思います。



  • i ニュージーランドの仕組みでは、5歳の誕生日前後に子どもたちは小学校に入学します。以前は、誕生日を迎えるごとに入学していたのですが(「第4回 小学校への適応(ニュージーランドならではの課題)」参照)、現在は、入学のタイミングは1年間に8回(各タームで2回)となっています。それぞれの入学タイミングの前後に5歳になる子どもたちが一斉に入学します。
  • ii ロックダウン時に家の窓辺にクマのぬいぐるみを飾ろうという取り組みは、誰がニュージーランドで最初に提案したのかは分からないのですが、私自身は地元のFacebookページで提案されているものを見て初めて知りました。ニュージーランドでは通常時でもベアハントをアレンジした幼児向けアクティビティは人気があります。日本でも、マイケル・ローゼン再話・山口文生訳(1990)『きょうはみんなでクマがりだ』評論社として出版されています。原書はRosen,M. Oxenbury,H. (Illustration), (1989). We're Going on a Bear Hunt. Margaret K. McElderry Booksです。
  • iii 当初は5月11日に警戒レベルを変更するかどうかの決定がなされる予定になっていました。しかし、その前の週の時点で、既に感染者数が減っていることから、恐らく翌週には教育機関、各種サービスが再開されるだろうという期待が高まっていました。

筆者プロフィール
村田 佳奈子

東京大学大学院教育学研究科修士課程修了。幅広い分野の資格試験作成に携わっている。7歳違いの2児(日本生まれの長女とニュージーランド生まれの長男)の子育て中。2012年4月よりニュージーランド・オークランド在住。
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