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【ニュージーランド子育て・教育便り】 第18回 新型コロナウイルス対策によるロックダウン後の小学校の再開

要旨:

ニュージーランドでは、新型コロナウイルス感染症への警戒段階を4段階に分けて対応してきました。それぞれの段階に応じて、学校での生活様式も変わります。本稿では、各段階における小学校の生活様式についてご紹介しています。また、学校閉鎖を体験した娘が実際に小学校に戻った際の様子についても触れます。

ニュージーランドでは、新型コロナウイルス感染症対策として、危機対応レベルを4段階に分けて対応してきました。レベル4のロックダウンが最も規制の厳しい段階であり、数字が下がるにつれて規制が緩くなっていきます。各警戒レベルに応じて、小学校での生活様式も異なった対応となり、徐々に子どもたちの生活の制限も少なくなっていきました。なお、ニュージーランドの小学校の様子を紹介する時に、毎回と言ってよいほど、学校による差が大きいことをこれまで前置きしてきましたが、今回の警戒水準の各レベルにおける生活様式に関しては、他の学校の様子に関する報道や知人に聞く限り、概ねどの学校でも対応は同様のようです。尚、レベル4とレベル3の間の遠隔学習の様子については第16回のレポートで取り上げています。

警戒レベルと小学校の対応

 新型コロナウイルス感染症の蔓延状況小学校の対応
レベル4ロックダウン
2020年3月25日深夜~4月27日深夜
市中感染が発生している。
ウイルスの拡散、新規クラスターが発生している。
学校閉鎖
レベル3規制
2020年4月28日~5月13日深夜
市中感染がある可能性がある。
新規クラスターの発生の可能性があるが、検査や追跡によりコントロール下にある。
原則として家庭に待機。
5月11日から必要な場合には、通学が可能。
レベル2規制緩和
2020年5月14日~6月8日深夜
家庭内感染の発生の可能性がある。
個別の単発クラスターのみが発生している。
5月18日から原則として子どもたちの登校が再開。
ただしいくつかの制約がある。
レベル1準備段階
2020年6月9日~
海外でのウイルス感染が継続している。
家庭内感染が発生しうる。
ほぼ通常通りの学校生活。

4段階の警戒レベルに応じた小学校の対応

まず、各レベルにおける学校の対応について紹介します。レベル4は学校閉鎖です。

レベル3の段階では、原則は家にいることとされました。ただし、保護者が働いているなどの理由から子どもの登校を希望する場合には、事前に申し出れば学校に通うことができました。通学させるかどうかの判断は親に委ねられており、登校が必要な理由を申告する必要はありませんでした。小学校では、予め学校側で決めた学年混合の10名以下のグループを一人の先生が担当します。兄弟姉妹がいる場合には、同じグループに入れられます。自分の属しているグループ以外の子どもとの交流は許可されておらず、共用施設の利用もできないので、子どもたちは基本的に教室内で過ごしていたそうです。登校時に、校門の前にソーシャルディスタンスをとって並び、声をかけてもらった子どもから順に、直接割り振られた教室に直行して過ごしていたようです。レベル3における学習内容は、学校に行っても、行かずに遠隔教育だったとしても、受けられるものに差はないということでした。法律上、大人がいない家でひとりで過ごすことのできない年齢の子どもたち(14歳になるまで)を安全に預かるということが最優先された形だと思われます。この段階では、例え小学校で新型コロナウイルスに感染したとしても、グループを固定して小さく保つことで、接触した生徒を追跡できるような形を目指したようです。

レベル2になり小学校が再開する際には、原則として登校するということだったので、レベル3とは逆に、登校を控える場合には小学校への連絡が必要でした。当時の報道によれば、レベル2となり学校が再開した初日には、8割ほどの子どもたちが教育機関に戻ったそうです。この段階では、子どもたちが一緒に過ごすことのできる人数に制限もなくなり、通常通りの担任の先生がクラスの子どもたちを受け持つという形で再開しました。ただし、いくつかの規制がありました。一つは、小学校への送り迎えは、高学年と低学年では異なる時間が設定されました。登下校時に、人との距離が一定以上保てなくなることを防ぐためです。

また、保護者も通常は子どもを教室まで送り届けることができていたのですが、規制が設けられ、校門から先には入れないことになりました。学校内で過ごす際にもソーシャルディスタンスが意識されていました。また頻繁な手洗いやアルコールなどの手指消毒剤の使用も推奨され、集会や身体的な接触があるようなスポーツについても実施が見送られました。

レベル1になってからは、ニュージーランド国内の生活に制限はなくなったためi、集会や各種スポーツなども再開しました。レベル2の段階では、持病のある子どもたち、不安の残る家族や子どもたち、高齢者と同居している子どもなどで登校を控えている子どもも残っていましたが、レベル1になった際には全ての子どもたちの学校への復帰が推奨されました。

学校生活も、少しでも体調が悪かったら家にいること、頻繁な手洗いをすること、といったこと以外は通常通りです。なお、臨時開設されていた教育テレビiiも、6月11日に終了しました。

娘の小学校の再開

ここからは、娘(10歳)が通っている小学校の対応や、娘が小学校に戻っていった際の様子について、少し触れたいと思います。娘は、警戒水準がレベル2になって、学校が再開されると同時に小学校に戻りました。娘のクラスでは、まだ登校できなくてオンラインでしか参加できない人がいたら、登校している子どもたちにも、これまでと同じようにオンラインで課題を出すと先生がおっしゃってくださっていましたが、結局クラスメイト全員がレベル2の段階から登校しました。

レベル2となり学校を再開するにあたり、学校から次のようなお知らせが来ていました。①教師が子どもたちと向き合うことを重視するので、学習様式はいつもと同じとは限らない。②まずは、学校のルーティーンに沿った生活に子どもを慣れさせることを重視するため、特に最初の1週間は学習することは重視しない。③半年に一度出している、(日本の通知表に相当するような)評価レポートについては簡素化する。それを補うために、ターム(学期)の最後に先生、子ども、保護者を交えた面談を実施する。

私自身も、学習の遅れよりも、先生や子どもたちが元の生活に戻れるのだろうかということの方が気がかりでしたので、これらの方針には賛同できました。そして今の状況では、従来通りの学習を最優先しなくても良いなと思っていました。ところが、学校が再開した時の娘の感覚では「前よりたくさん勉強しているような気がする」とのこと。とはいえ、プレッシャーを感じるようなものでもなければ、宿題がたくさん出されるということもありませんでした。イベントがなくなり、身体的な接触が制限された中では、なんとなく勉強がいつもよりはかどっているように感じられたのかもしれません。この頃、学校生活で普段との違いを大きく感じたことは、それほど厳密ではなかったものの、クラスメイト同士でも少し距離をとるようにしていたことと、教室から廊下に出入りするたびに、教室の入り口に設置された手指消毒剤で手を消毒をすることの2点だったそうです。

小学校が再開して2週間ほどした頃、担任の先生が、各子どもの様子について書いたメールを保護者宛に送ってくださいました。娘の場合「ロックダウンの前と変わらない様子で過ごしています。彼女がクラスの一員としていてくれることがとても嬉しいです」といった簡素なものでした。先生から見ても学校での娘の様子が変わっていないことを知ることができて、より安心することができました。

レベル1になった初日には、担任の先生とハイタッチをして、クラス全員で喜びあったそうです。また、たまたまその日にリーディングの授業を頑張ったということで、娘は一緒に勉強していた友だちと二人で校長室に呼ばれたそうですが、そこでも校長先生からハイタッチで激励を受けたと喜んで帰ってきました。この日以降は、廊下に出るたびに手を消毒するルールもなくなり、友だちとも距離を取らずに普通の生活を送ることができています。

ターム2(2学期)は7月3日に終わりました。ターム2の娘の様子を振り返ると、そのうち5週間はレベル4、3の期間の自宅学習、3週間はレベル2としての学校生活、4週間がほぼ通常どおりという構成でした。ターム2の最後にもらった評価レポートは、予め言われていた通り、極めて簡素化されたものでした。通常であれば、リーディング、ライティング、算数について、各々先生によるコメントや今後の課題が書かれているのですが、今回は各教科に関するコメントは一切なし。A4サイズ1枚の紙の上部は娘自身が書いた振り返り、下部には先生が娘の様子について書いた文章というものでした。評価というよりは、今までの振り返りと励ましの言葉とでもいうのでしょうか。各教科の評価については、評価表の不足を補うために実施された面談で、娘の学習について説明がありました。通常は、いくつかの外部試験の結果と、普段の学習の様子も勘案した上で、先生が評価表を書いているそうですが、今回は外部試験の結果をそのまま、娘本人とその保護者である私に見せて頂く形でした。

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左が昨年(2019年)同時期の評価レポート。右が今年(2020年)の簡素化された評価レポート。

保護者として、この間娘に関わってくださった先生方の一連の対応には感謝し満足しています。ただし、それは娘の年齢がたまたま入学年度でも卒業年度でもなく、もともと学習の遅れに緊張感をもつほどの年齢ではなかったことも大きいと思いますiii。今回の学校閉鎖により、大きな影響を受けてしまった子どもたちがいることも想像に難くありません。更に、より根本的には、この原稿を執筆している現在は、ニュージーランドが幸運にも感染者を順調にコントロールすることができており、ロックダウン以降警戒レベルが一貫して下がっていっていることも、子どもの生活の質が上がっていることを実感させてくれているのだと思います。一方で、学校が再開して明らかになってくる課題も少しずつ見えてきています。例えば、留学生の受け入れによる収入が見込めなかったり、寄付金を募るようなイベントが開催できなかったことによる収益減で、学校の資金が減ってしまったりしています。学校の中に入って先生方や他の保護者と話す機会がほとんどなくなってしまったことで、まだ見えていない学校への影響が、これから徐々に明らかになる可能性も大きいのだろうと考えています。

保育園に通う息子(3歳)の保育園復帰の様子も心に残るものでした。保育園の先生方が子どもたちをどのように迎え入れてくれたのかについて、次回ご紹介します。


  • i 国境の管理は残っていますが、国内の生活は制限がありません。ただし、体調が悪いときは家にいること、風邪のような症状がある時にはコロナウイルスの検査をうけること、手を頻繁に洗うこと、などといった10の基本ルールが国内で共有されています。ニュージーランドのコロナウイルス関連の情報はこちらのウェブサイトで最新の情報が随時更新されています。
    https://covid19.govt.nz/
  • ii 詳しくは第16回のレポートを参照してください。
  • iii ニュージーランドでは中学校や高校への進学時に受験がありません。私立の学校に進学する場合にも、受験があることが一般的ではありません。またカリキュラムも連続的なもので、もともとそれぞれの子どもが学んでいる内容は異なることが多々あります。日本のように分野ごとに習得すべきことが決まっているようなものではないことや、中学校や高校に入る段階でも受験を控えていないということが、小学校世代の多くの子どもたちにとって、今回、学習面でのプレッシャーが少なく済んだ要因のようにも思えます。

8月21日追記:
ニュージーランドでは100日以上に渡り市中感染者が確認されず日常生活に制約のない状態が続いていましたが、感染源不明の感染者が4名確認されたことを受けてオークランドは8月12日正午よりレベル3に、オークランドを除く他の地域はレベル2に警戒レベルが引き上げられました。現時点では8月26日午後11時59分までこの警戒レベルが続く予定です。これに伴いオークランドの小学校もレベル3として対応しており、娘は再び遠隔教育を受けています。


筆者プロフィール
村田 佳奈子

東京大学大学院教育学研究科修士課程修了。幅広い分野の資格試験作成に携わっている。7歳違いの2児(日本生まれの長女とニュージーランド生まれの長男)の子育て中。2012年4月よりニュージーランド・オークランド在住。
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