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【カナダBC州の子育てレポート】第9回 コロナウイルス状況下のオンライン学習~前編

要旨:

いまだ終息の見えない新型コロナウイルスによるパンデミック。今回のレポートでは、カナダ・BC州の公立小学校でキンダーガーテン・クラスに在籍する娘とともに体験した、新型コロナウイルス状況下におけるオンライン学習についてご紹介します。無期限の学校休校に始まり、オンライン学習への移行、その後学校が再開してからは、分散登校での対面式授業とオンライン学習を並行して行うという、新型コロナ状況下における学びとしてBC州の公立小学校で行われた一連の取り組みをご報告します。

Keywords:
新型コロナウイルス、オンライン学習、キンダーガーテン、テクノロジー、デジタル教材、オンライン・プラットフォーム、対面式授業
オンライン学習までの流れ
3月11日 WHOによるパンデミック宣言
3月17日 BC州教育省による無期限の休校措置
3月18日 BC州による緊急事態宣言
3月31日 BC州第22学区注1オンライン学習リソース公開
4月15日 BC州第22学区内各校 オンライン学習への移行開始

WHOがパンデミック宣言を出し、中国から欧州へとパンデミックの中心が移行していく中、春休みに海外等へ旅行に出かける児童生徒や家族を懸念したのか、3月13日に娘の学校のある学区から手紙が届きました。内容は、不要不急の国外旅行を控え、もしも国外に出た場合には14日間自宅で待機するように、というカナダ保健機関からの通達です。この時点では、休校の必要性はないとの見解でした。しかしその数日後の3月17日、教育省からBC州内全校の無期限休校の連絡がメールで届きます。翌18日には、公共交通機関で働く人や水道・ガスなどのライフライン関係者、医療関係者や食料品にかかわる人々といったエッセンシャルサービス(生活に必要不可欠な業務)従事者の家庭の子どもたちを学校が預かるための調査書が送られてきました。

BC州の公立小学校は、本来3月半ばから2週間ほど春休みがあります。今年は春休みと休校がほぼ同時に始まり、何もなければ春休みデイキャンプや友達と遊ぶ約束などをして過ごす予定でしたが、デイキャンプはキャンセルされ、公園や図書館、プールも閉鎖され、春が遅い北国ではまだ時おり雪がちらつく季節に外に出かけることもできず、2週間の春休みが終わるころには、この先いつまでこの状態が続くのだろうかと大いに不安になりはじめました。それと同時に、学校に対する要望などにも考えを巡らせるようになっていました。

春休みが明ける直前の3月26日、学区から今後についての連絡が届きました。そこには、オンライン学習を実施する段取りが記載されていて、3月31日には学区のウェブサイトにオンライン学習リソースを公開すると予告があり、実際に期日通りに公開されました。

春休みが明けた4月初めに校長先生からのメッセージと学校からのニュースレターがメールで届き、担任の先生から翌週に各家庭に電話がかかってくるとのことでした。学校からの連絡には、「今後もオンラインで学習を継続していくが、これは生徒にとっても教員にとっても初の試みで本格的に運用するには時間がかかるため、保護者には根気よく付き合ってほしい。また非現実的な目標を掲げたりせず、誰にも負担がかからないようにしたいと考えている。オンライン・プラットフォームは一律ではなく、使い手(各教員)によって多様になる。オンライン学習は教室内での授業に代わるものではないことを学校も教員も十分に理解している」といった内容が記載されていました。

4月2週目に娘のキンダーガーテン・クラスの担任から連絡がありました。その電話の主な目的は、新型コロナウイルスの影響によって生活に困っていないかどうか(すでに多くの業種が営業停止、膨大な数の労働者が解雇されていました)、自宅のWi-Fi環境やパソコンその他デバイスの所持確認、生徒への声掛けでした。担任の先生から電話で、保護者である私にもオンライン学習への要望を訊ねられましたが、即答はできなかったため、その晩私はさまざまな案をメールで送りました。この背景には、3月末に立ち上げられた学区のオンライン・リソースをもとに4月初めの1週間、私自身がホームスクーリングを試みて感じたことが多くあったからです。私自身がかつて教える立場にあったこともあり、また、その頃には私が教える日本語継承語クラスもオンラインで始動していて、ウェブ上で公開されている日本の学習リソースを見ながら教案や宿題を考えていて、思い当たることが多々ありました。

私がキンダーガーテン・クラスに在籍する児童の保護者として担任の先生にもっとも希望したのは、娘のクラスメートや担任とのつながりを感じられる機会を設けてほしい、そして、保護者がオンライン・リソースから学習内容を選ぶのではなく、ある程度体系化された学習案を生徒のこれまでの学習を把握している担任に作成してほしい、ということでした。オンライン・リソースははじめの頃こそ少ない印象を受けたものの、次々にアップデートされていって、その内容は多岐に渡り、同じようなテーマでもリソースの元(出版社など)によって内容が異なるといったことから、これまでの学習内容も把握していない保護者にとって、膨大な情報の中から基準を定めて適度な内容をバランスよく選択する作業は困難だと感じていました。

ところが、リクエストが多すぎたのか、そしておそらく他の保護者からも同様の要望メールが届いたのか、よかれと思って送った保護者の声は、ただでさえ新しいことに挑戦して混乱している担任の先生に対しさらに圧力をかけることとなったようです。担任の先生からのメールには、「保護者の心配はよく理解できるが、学区の教育委員会からは4月15日までにオンライン学習を開始することを求められているため、しばらく待っていてほしい」とあり、それまでに自宅でできる内容として、従来の教室で使用していた運動用ウェブサイト、リーディング(日本の国語に相当)用ウェブサイトなどをとりあえずの案として、紹介・発信してくれました。

オンライン学習内容(キンダーガーテン・クラス)
  • リーディング・ライティング
  • 算数
  • 理科/図工/STEM
  • 体育
  • Show and Tell注2(オンライン会議用のアプリZoomを使用)

学区の教育委員会の要請に沿い、4月14日には担任の先生によるキンダーガーテン・クラスのウェブサイトが立ち上がりました。本来教室内で行っている教科であるリーディング・ライティング(レベル別読解注3、書き取り、サイトワード注4、日記)、算数(数字や簡単な計算)、理科・図工・STEM、体育といった科目ごとに、良質なオンライン・リソースのリンクやアクティビティの説明が目に見える形になりました。同時に、毎日の学習のやり方を詳細に説明した1週間の学習計画表が毎週ウェブサイトからダウンロードできるようになりました。ただし、あくまで案であり、全部する必要はないという点が添えられていました。

教科ごとに1週間の学習計画があり、フルタイムで勤務をしている保護者、あるいは在宅勤務となっている多くの保護者にとっては、手が回らないだろうことが予想されるような分量です。私は1週間分の学習計画から、娘が好んで取り組みそうなもの、保護者として取り組んでほしいものなどを1日1つ選ぶようにしていますが、それでも終わらない週の方が多いです。

たとえば我が家の場合、日本から取り寄せている通信教材に国語と算数があり、娘は毎月その教材で学習していて、そちらの算数の方が進んでいる印象を受けたため、キンダーガーテン・クラスの算数の課題は割愛しています。

その代わり、読書には日ごろから力を入れているため、リーディングの課題には取り組むことが多いです。普段から教室内で使用していたオンラインのレベル別読解(Leveled Readers)のサイトに自宅からアクセスし、娘のレベルに適した書籍が並ぶ部屋(ページ)に進みます。その中から娘に読みたい本を選ばせ、まずはオーディオで聞き、次に自分で音読します。音読はサイト上で録音すると、担任の先生に聞いてもらうことができます。最後に読解問題があり、これを解くと、その本はクリアしたこととなりポイントがもらえるという、ゲームのような一面ももっている教材を使っています。自分で録音した音読の声を担任の先生が確認してくれ、それに対してメールでコメントを返してくれることも、娘は気に入っているようです。

総合科目学習(STEMまたはSTEAM)は保護者にとって合理的かつ効果的です。例えば蝶といったテーマに沿った短い本の朗読をオンラインで聞きます(オンライン上でページがめくられ、朗読に合わせて文字の色が変わる)。さらに、本のアニメーションをオンラインで観ます(オンライン上で本が読まれ、挿絵が動く)。その後、図工の課題として、内容に沿った蝶の絵を描きます。また、実際に蝶の幼虫を飼ってその成長を見守り、担任の先生に写真で移り変わりを報告します。すると先生がウェブサイトにそれを載せ、クラスメートともシェアします。このように、一つのテーマからリーディング、理科、図工などと教科を超えた学習が可能で、子どもが特に興味をもった点には多くの時間を費やすこともでき、そこからまた別のテーマにつながりをもたせたりすることで、机上で終わらず生活の中で学びの場を作ることが可能だと感じました。

親としては、ライティングにも取り組んで欲しいと思っているのですが、アルファベットの復習を歌で行う、テーマを決めて日記を書く、粘土でアルファベットを作りそれを並べてサイトワードの単語を学んだり、大量の小麦粉や塩を皿に出して指でサイトワードを書いて学んだりする遊びに誘導してはみたものの娘のやる気が起きず、あまり触れていないものもあります。ただ、アルファベットの書き取りもサイトワードも、リーディングをするために学習するものであり、リーディングが滞りなく進んでいるのであれば問題ないととらえています。また、娘は日本語でひらがなとカタカナを使って絵日記や手紙などを書いているため、日本語か英語のどちらかができていれば、環境言語である英語がそのうち追いつくのではないかと楽観視しているため、娘が興味をもたないのであれば、なるべくその意思に沿いたいと考えています。

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Show and Tellをする娘

Show and Tellは、従来の対面式授業でも1週間に1度授業の一環として行っていたものですが、オンライン学習になってからは、ビデオ会議システムZoomを使って行われています。担任の先生が、学区に申請したzoomを使用するためのライセンス取得に時間を要したため、オンライン学習開始1か月後から始まりました。1週間に1度、30分弱かけて行われ、授業の時間帯を2つ設けることで、1回の児童の参加人数を減らして行っています。ときには音楽の先生やアシスタントの先生も加わるので、娘は○○先生がいる!と担任以外の先生の姿を目にしては、喜んでいます。

後編では、オンライン学習のメリットやデメリットなどについて、感じたことをお伝えしたいと思います。


  • 注1.BC州には60のディストリクトが存在し、小学校から高校まで1,600校が運営されている。市町村よりも広範囲で区切っていて、たとえばディストリクト22にはAlternative Schoolやフレンチイマージョン、留学生課等20校以上が所属している。日本の教育委員会に該当する組織。
  • 注2.児童一人がアイテムを一つ用意し、クラスメートと先生の前で見せながらアイテムについて説明、質疑応答を行うプレゼンテーションの練習のような学習。
  • 注3.学習者にあったレベルの本のリストの中で、さまざまなトピックをカバーする。
  • 注4.サイトワードは、フォニックスの規則通りに発音されない単語で頻出度が高いもののことで、フラッシュカードなどを使い、目で見て憶えさせる学習法。
    https://sightwords.com/sight-words/
筆者プロフィール

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高井マクレーン若菜

群馬県出身。関西圏の大学で日本語および英語の非常勤講師を務める。スコットランド、アイルランド、オーストラリア、ニュージーランド、カナダなど様々な国で自転車ツーリングやハイキングなどアクティブな旅をしてきた。2012年秋、それまで15年ほど住んでいた京都からカナダ国ブリティッシュ・コロンビア州ビクトリア市へ、2018年には内陸オカナガン地方へと移住。現在、カナダ翻訳通訳者協会公認翻訳者(英日)[E-J Certified Translator, Society of Translators and Interpreters of British Columbia (STIBC), Canadian Translators, Terminologists and Interpreters Council (CTTIC)]として 細々と通訳、翻訳の仕事をしながら、子育ての楽しさと難しさに心動かされる毎日を過ごしている。

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