CHILD RESEARCH NET

HOME

TOP > 論文・レポート > 子育て応援団 > 【カナダBC州の子育てレポート】 第10回 コロナウイルス状況下のオンライン学習~後編

このエントリーをはてなブックマークに追加

論文・レポート

Essay・Report

【カナダBC州の子育てレポート】 第10回 コロナウイルス状況下のオンライン学習~後編

高井マクレーン 若菜

2020年7月10日掲載

要旨:

カナダ・BC州の公立小学校でキンダーガーテン・クラスに在籍する娘とともに体験した、新型コロナウイルス状況下におけるオンライン学習について、よかった点や、気になった点についてご紹介し、その後の分散登校への移行についてレポートします。最後に、注目されているオンライン学習に対する考えをまとめました。
前編より
オンライン学習のメリット・デメリット

我が家は数年前までロー・テクノロジー家庭で、パソコンはありましたがテレビも携帯電話も車すらありませんでした。テレビを購入したのは、娘に日本のテレビを見せることで日本語を耳にする機会を増やしたいという理由からで、娘はスマホやタブレットにも最近まで触ったことがありませんでした。特に強い信念があってそのような生活を送っていたわけではないのですが、大きな必要性も感じなかったのです。娘もいずれはパソコンを使わなくてはならないだろうとは思っていましたが、キンダーガーテンレベルで、これほどオンライン学習をすることになるとは思ってもみませんでした。このたび新型コロナウイルス状況下においてオンライン学習への移行を余儀なくされ、娘をパソコンの前に座らせてみたことで、気づいた点をいくつかご紹介します。

メリット・よかったこと

■学習内容の透明度が上がる
学習内容が保護者に見えるようになることが、何よりのメリットです。日本のように教科書が存在しないBC州では、カリキュラムこそウェブサイトで公開されていますが、普通の書籍やオンライン・リソースを使って教員自らが授業を組み立てています。小学3年生までは法律上で宿題が禁止されている(とはいえ、多少の宿題を出す教員もいますが)ため、親からすれば、学習内容が不透明に思えます。時折持って帰ってくる宿題や作品を見たり、子どもが伝える学校の様子からしか学習内容を知ることができず、十分とは言えません。オンライン学習に移行し、娘のキンダーガーテン・クラスの場合は担任の先生がウェブサイトを立ち上げ、学習計画を毎週提案してくれたことで、内容がとても明確に見えるようになりました。保護者にとって子どもの学習の進捗状況がわかり、苦手な教科を把握したり、これまで気づかなかった子どもの興味を発見することにつながります。

■一人一人に見合った速度で、自由な時間に進められる
対面式の授業だと一人一人の学習速度に合わせるには限界があります。オンライン学習の場合、録画授業であれば、学習者が自由な時間に進めることが可能です。また課題も、家で時間に余裕があれば、いくらでも時間をとることができます。

■提出した課題が、ウェブ上に公開、シェアされてやる気が出る
娘のクラスの場合、子どもが課題に関する写真を担任の先生に送ると、先生がウェブサイトに載せてくれます。まず自分の提出した課題が、ウェブサイトという媒体に載っていることに娘は喜びました。次へのやる気にもつながります。また他の児童の同じ課題への取り組みが見える形になることで、つながりを感じることができます。

■デジタルブックが利用できたり、読み聞かせをしてもらえる
デジタルブックは、ないよりはあった方がいいと感じました。学校が購読している出版社のデジタルブックを公開してくれたため、図書館が閉まっている間でも読書をすることができました。また、担任の先生が出版社から著作権の許諾を得た本の読み聞かせを動画で撮り、YouTube動画としてウェブサイトに載せてくれることで、担任の先生が本を読んでくれるという喜びを娘は感じています。

デメリット・気になったこと

■保護者への多大な負担
この点は、メリットの一番目に挙げた学習内容の透明性が上がることと表裏一体です。子どもが低学年のうちは、保護者が教師役となって学習に共に取り組むことが必要であるため、当然ながら内容は把握できますが、その分負担が大きくなります。対面式授業がある場合は、宿題のみ一緒に取り組む(または横で手助けする)のであれば、時間も少なくてすみますが、すべての教科に毎日取り組むとなると、親がそれに費やす時間は膨大です。また、課題提出や、教材もオンライン上のものを使用するため、デバイスに慣れていない年齢の子どもの作業は、結局大部分を親が代わりにすることになります。

複数の子どもがいる場合、それぞれの担任の先生が使用するオンライン・プラットフォームが異なると、保護者がそれぞれに機能を学ばなければならず、大きな負担になります。また、指定された資料が掲載されているウェブサイトを探すのに時間がかかったり、指示された動画を観るのにがパスワードが必要だったり、手間取ることも多いです。

■親が先生役をする難しさ
親が教師役をすることになり、親子関係が教師と児童という関係へシフトすることになりますが、なかなかスムーズにいかないと感じました。BC州では学校に行かずに家で学ぶホームスクーリングも公立学校等と同等扱いになっているので、自宅で両親が教師代わりになってカリキュラムをこなしていく家庭も存在します。ただし、これは子どもの性格や家庭環境が許す場合です。たとえば我が家の場合は、私はホームスクーリングに興味をもっていましたが、娘は社交的で友達とともにいることを好み、学校環境の方が向いていることは歴然としていたために、公立学校のキンダーガーテンに通うことに決めました。親子だと、どうしても甘えが生じ、特に机上の学習は困難になることが多いと感じています。

■スケジュール管理の難しさ
高学年であれば自分で1日の学習計画を組むことができますが、キンダーガーテン・クラスや低学年の子どもの場合、毎日一定の時間に長時間のオンライン授業でもない限り、予定を組むことが難しいです。学校に行けば、朝礼に始まり、リーディング、外遊び、算数、昼休み、再び外遊びといった具合に、担任の先生の号令や学校のチャイムに合わせて動いたり、クラスメート全員が同じ行動をとるので時間を守れます。しかし自宅にいると、毎日紙に1日の予定を書き出させてはみたものの、その通りにいくことはほとんどありませんでした。

■コミュニケーション不足による担任やクラスメートとのつながりの希薄化
Zoomなどのビデオ会議システムを使った担任の先生やクラスメートとのやりとりは、ないよりはあった方がいいという印象を受けています。ビデオ会議システムは、事務的な通達をするために仕事上で使用するには、場所を問わずにやりとりができるという大きな利点がありますが、子どもたちが社交性を身につけるには足りない面があると感じました。担任の先生に会える、クラスメート数人の顔を見られるということで、娘は嬉しそうにしていますが、誰かが発言していると、他の人はミュートになるため、会話が弾まず不自然な集会のように見受けられます。普段会って話すのと違い、子どもたちどうしで会話が弾むということもあまりありません。対面での会話なら同時進行で交流ができても、ビデオ通話だとできないのです。一人一人にとって発話などのアウトプットをする機会も少なくなります。Show and Tellが終わると、「自由に話してください」と最後に担任の先生が言うのですが、結局おしゃべりを楽しむ形にはなりません。

report_09_370_01.jpg
Show and Tell で発言する娘

また、コミュニケーションは、発話される言葉だけで成り立つものではありません。コミュニケーションにおける非言語の比重は大きく、それがビデオ通話では伝わらないというのを改めて感じました。この非言語の部分が、低学年の児童にとっては、コミュニケーションの中でつながりを感じるのに大人よりももっと重要な役割を果たしているのかもしれません。

■デバイスへの興味による欠点
未就学児や低学年の児童だと、学習内容よりも使用中のデバイスやプラットフォームについている機能に興味をもってしまい、学習や作業が滞ります。また、珍しいデバイスに惹きつけられ、長時間スクリーンを見ていることで目への影響が心配されます。

■情報過多
よかれと思って教員や学校が紹介していても、受け取る側である保護者には、授業計画があっても情報が多すぎる、選択に困る、責任が丸投げされているという印象を受けました。実際に手に取ることができる媒体の教材は数に限りがあります

■デジタル教材として向いているもの、向いていないもの
たとえばデジタルブックは手に取れないためにページ数がわかりにくい、語彙の説明等の機能がついていると内容を追っていく読書ではなく、その都度ハイパーリンクをクリックしていく作業が増え、子どもにとって内容を把握する読書とは別物になってしまいます。また、ビデオや動画も多すぎます。低学年で使用される頻度の高い、実際に手で触れることのできる教材(ものの重さなどを理解する)はデジタルでは表現不可能です。
デジタルに向いていない教材は、学校の対面式授業であれば、直接供給されますが、自宅学習で使うとなると、各家庭が揃えなくてはなりません。ホームスクーリングであれば、州から補助金がおりますが、そうでない場合に自宅でオンライン学習となると、自費負担となります。

■家庭環境の差による影響
自宅にインターネット環境があり、パソコン等のデバイスがなければ成立しません。パソコンについては私自身が仕事に使用しているため、共用にしなくていいように、子ども用にパソコンの支給を学区に申請しました。しかし、申請者が多い、あるいは自宅にパソコンが1台もない家庭、高学年の生徒等を優先しているためか、我が家にパソコンが届くことはありませんでした。高価なものなので、子どもが使用して壊れたりしても、すぐには買い直せませんし、1台では、子どものオンライン授業中に保護者がパソコンを使って仕事をすることができません。

■教員による内容の差
学区や学校が一律のオンライン・プラットフォームを使用するという決定がない限り、教員によって内容に大きな差が生まれます。娘の担任の先生はキンダーガーテン・クラスにもかかわらず、豊富な教材提供、わかりやすいプラットフォーム(ウェブサイト)を作成してくれましたが、すべての先生にこれがあてはまるわけではありません。実際に友人に問いかけてみたところ、担任の先生がウェブサイトを立ち上げるということはなく、週に1度おしゃべりをする場を設ける、課題がいくつか出る程度のところもあれば、高学年であれば週に数回1時間程度のオンライン授業に出席し、オンライン・プラットフォームを使って課題を提出するというところもあり、その内容はまちまちです。

分散登校とオンライン学習を並行するハイブリッド形式で学校が再開
5月半ば BC州教育省が分散登校を決める
(キンダーガーテン・クラスから5年生までを半数に分けて週2日登校。6年生以上は週1日登校)
5月20日 子どもを登校させるかどうかのアンケート調査を学校が実施
6月1日 分散登校の対面式授業とオンライン学習の併用を開始
6月25日 夏休み前最終登校日
9月8日 新学期
通常通りの登校予定(その時点での制限を厳守しながら)

 

5月半ば、BC州は6月1日から公立学校で分散登校を行うことを決定しました注1。BC州は通常6月第4週目から夏休みに入るため、なぜわずかな期間で子どもたちを登校させて実験台にするようなことをするのか、といった登校再開を疑問視する声もあり、保護者の意見は賛否両論です注2

5月20日、学校から「6月に学校を再開させたら、子どもを登校させるかどうか」についてのアンケートが届き、同日、担任の先生からメールも届きました。そこには「20人のクラスを半数に分けて、月・火、木・金と分散登校をさせる、水曜日はオンライン学習とする」とあり、登校してもできないことの長いリストが記されていました。休憩時間なし、体育館・図書館・ロッカー等の使用禁止、屋外での遊びはお昼に15分程度は確保されているが、他のクラスと重ならないようにする、教室内でも生徒同士、先生と生徒は2メートルのソーシャルディスタンスを保つ、ペアワークやグループワークはなし、学習に使用する教材(文具などを含む)の共有はなし、保護者はお見送り、お迎えの際にも学校の敷地内には入れない、基本的に児童は、トイレの時以外は自分の席から立つことを許されないなど、新しいルールが細かく記載されていました。最後に、学校へ来ることは他の児童と交流する場ではないこと、また、教室内の学習もオンライン学習と同内容で行い、児童は自分のパソコンまたはタブレット端末とヘッドフォンを持参すること、と書かれていました注3

BC州は、欧州や米国に比べると緩めのロックダウンを8週間ほど行ってきましたが注4、感染者数・死者数ともに現時点では他州や他国と比べると少なめです。6月からの学校再開に娘を登校させるかについて夫と話し合ったところ、行くメリットよりもデメリットの方が多いのではという話になり、悩みました。新型コロナウイルスに感染するリスクは、今のところ大きくはなさそうですが、これまでの学校と全く様相が異なり、たかが5~6回ほど登校させることで、娘が困惑したり、つらい思いをすることにすらなるのではないかと懸念したのです。娘は社交的で、学校へは友だちに会いにいく目的が大きく、「学校へ来ることは他の児童と交流する場ではない」と明言された、制約だらけの状況で登校しても、娘にとって学校へ行く意味がないのでは、と感じました。BC州のカリキュラムでは、キンダーガーテンの学習を"Learning through Play"と謳っていて、キンダーガーテン・クラスは、児童がクラスメートや先生との集団行動の遊びの中で学んでいく場所です。小学校課程内に位置する特別な最初の一年に、良くないイメージを抱いて終わらせることに、保護者である私たちの方がしり込みをしていました。もしかしたら子どもの方は、それほど苦に感じることなく、この状況をすり抜けていくのかもしれませんし、秋になっても事態が改善せず、同じ状況で学校が再開するのであれば、今から慣れてもらうしかないという見方もあります。

先日オンラインで開催された、PACミーティングと呼ばれる保護者会で、「児童や生徒に対する精神面の負担は考慮していますか」という質問を校長先生に投げかけたところ、「それはもちろん衝撃的(traumatic)な状況であることには変わりない。そして児童・生徒に限らず教員にとっても同様だ」という返事があり、メンタルヘルスサポートのリソースを紹介されました。担任の先生に、「登校しても、できないことが多いようだが、それならキンダーガーテン・クラスの児童は何ができるのか」と尋ねたところ、「わからない」という答えが返ってきました。正直に答えてくれたことには感謝しているものの、教員にもどうなるか予測がつかないという現実が目の前にあるということがわかりました。

キンダーガーテンであれば、学習面に関して心配になる必要もあまりありません。親である自分が直接教えられるという面もあり、これから気候のよい季節には机上の勉強ではなく、裏庭やハイキングで出かけた先の山やビーチが十分に学びの場にもなります。また分散登校中にもオンライン学習が週に1日といえど、併用されるのであれば、学校とのつながりも全くないわけではありません。もともと私は在宅勤務であり、フルタイムで働いているわけではないので、結局娘はオンライン学習を夏休みまで続けています。

最後にオンライン学習全般について

突然のオンライン学習への移行は、進捗情報がその都度、教育省、学区の教育委員会、学校から保護者に共有されたことで透明性がありました。学区からの移行が発表されてから実際に学校・担当教員がオンライン学習を実践するまでを振り返ると、2週間ほどを要したのですが、それでも対処は速かったという印象を受けています。また、デバイスやインターネット環境を確認し、そろっていない家庭にはデバイスを提供したり、紙の媒体で課題を伝え届ける動きも的確でした。児童を思って教員が編集した学校スタッフ全員によるビデオや、音楽の先生のイースターのメッセージなど、コミュニティの温かさを感じさせてくれる気づかいもありました。また、担任の先生が娘の希望に沿ってビデオ通話で会話するリクエストを聞き入れてくれたり、もしも6月に学校へ戻らない場合でも、授業後に娘が顔を見に行くことを許可してくれたりと、児童を思いやる対応をしてくれたことに感謝しています。

ただし、オンライン学習の内容については各教員にまかされたため、内容や質にばらつきがあり、すべての保護者が満足しているとはいえません。学校や学区内で統一されたオンライン・プラットフォームがあるとまた違うのかもしれません。

ないよりはあった方がいいという意味ではオンライン学習に移行したことはよいとは思うのですが、キンダーガーテン・クラスを含む低学年の児童、あるいは中学生くらいまでの子どもにとっては、適切な学習方法だとは思えないというのが、キンダーガーテン・クラスに通う娘をもつ、保護者である私の感想です。特にキンダーガーテンは学習の場ではなく、クラスメートと一緒に遊びながら学ぶ入り口に立つことを目的としているため、横のつながりをなくしてしまうと存在意義すら成り立たなくなってしまいます。学校という場は、児童にとっては学習内容をインプットするだけの場所ではありません。

オンライン学習はインプットをする授業には向いていますが、やはりアウトプットの機会は少なくなります。生徒が講義を聞き、情報をインプットすることを目的としているのであればオンライン授業でも問題はありません。むしろ自分のペースでできることに利点の方が多いかもしれません。しかし低学年に向けた授業、アウトプットやコミュニケーションが多く求められる授業、グループワークが必要な授業、少人数制の語学の授業、多言語でのコミュニケーションがカギとなるイマージョン授業注5などは、どちらかというとオンラインには適さないのではないでしょうか。学習内容によってオンラインか、対面式授業か、どちらが適しているかを判断する必要があると思います。

そして、新型コロナウイルスの影響下で、休校措置に加え、在宅勤務等で家族が全員自宅で長時間を過ごす状況が続きました。現在、BC州は多くの制約がある中での新たな日常を迎え、経済を再開させていますが、在宅勤務もさまざまな職種で続いています。特に低学年の児童の場合、オンライン学習は保護者が一緒に取り組む部分が多く、在宅で保護者がフルタイムの仕事をしながら子どものオンライン学習を同時進行させるのは不可能です。

今回の状況で教育のオンライン化の利便性が大きく注目されていますが、そこにはメリットだけが存在するのではありません。今後コロナウイルスの状況が改善されたとき、従来の対面式授業が通常通りに再開される中、オンライン学習も平行して存在するためには、教科、対象、学習目標を見極め、すべてのバランスをみながら整備していく必要があるのではないでしょうか。



筆者プロフィール

wakana_Takai_profile.jpg

高井マクレーン若菜

群馬県出身。関西圏の大学で日本語および英語の非常勤講師を務める。スコットランド、アイルランド、オーストラリア、ニュージランド、カナダなど様々な国で自転車ツーリングやハイキングなどアクティブな旅をしてきた。2012年秋、それまで15年ほど住んでいた京都からカナダ国ブリティッシュ・コロンビア州ビクトリア市へ、2018年には内陸オカナガン地方へと移住。現在、カナダ翻訳通訳者協会公認翻訳者(英日)[E-J Certified Translator, Society of Translators and Interpreters of British Columbia (STIBC), Canadian Translators, Terminologists and Interpreters Council (CTTIC)]として 細々と通訳、翻訳の仕事をしながら、子育ての楽しさと難しさに心動かされる毎日を過ごしている。

このエントリーをはてなブックマークに追加

TwitterFacebook

遊び

メディア

特別支援

論文・レポートカテゴリ

所長ブログ

Dr.榊原洋一の部屋

小林登文庫

PAGE TOP