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【インドの育児と教育レポート】 第11回 新型コロナによる休校中のオンライン授業

深町 澄子

2020年6月12日掲載

3月24日にインド政府から発令されたロックダウンは、新型コロナウイルスの感染拡大を阻止するために強行されました。ロックダウンに先立ち、混雑する電車やバスなどの公共機関をはじめ、学校、ショッピングモールや劇場・映画館などは3月15日以前から徐々に運休、閉鎖されていました。その間も、生活必需品の買い出しは許されていたため、ロックダウンのニュースが流れるや否や街のスーパーマーケットには買い出しの人が押し寄せ、長蛇の列ができました。

ロックダウン初日、私が暮らすムンバイの街は、日ごろの喧騒は嘘のように、行きかう人々やオートリキシャ(三輪タクシー)や自動車の影もなく、街は静まり返っていました。

このムンバイの街がこんなにも美しい街だったのか、そして、コロニアル様式の建物がこんなにも凛とした表情をして、豊かな街の緑と調和してそびえ立っていたのかと、その姿に心を打たれました。これから始まるロックダウンの生活や未知なる新型ロナウイルスへの不安を抱きながらも、窓から見えるその景色に不謹慎ながらも感動して心が震える思いをしました。
(参照:ムンバイ市街の様子 https://youtu.be/cgUBLiF9LwU

当初4月14日までの予定で始まったロックダウンは、その後、3度の期間延期が発表され、現在は「ロックダウン4」という名称で継続されています。人々の生活や経済活動などに及ぼす影響や貧困層の救済のため、一部の地域で限定的な緩和措置が取られました。しかし、学校などの教育機関は5月末現在、休校のまま再開の目途は立っていません。今回は、そんなムンバイのロックダウン期間中の生活についてレポートします。

インターナショナルスクールのカフェテリアは命をつなぐ台所

休校となり、子どもたちも教職員もスタッフもいなくなった学校で、唯一稼働しているのがカフェテリア(学食)のキッチンです。そこには、一年分の豆や小麦やミルクやスパイスなどが備蓄されており、災害時や緊急時には国や(ムンバイのある)マハラシュトラ州政府の命令で学校近隣のスラム街に暮らす人々への食事を提供する役割を担っています。今回はロックダウンにより仕事を失い、収入を得ることができなくなった人々のための食事を提供しています。年間授業料に含まれている給食費は、休校中でも保護者に返還されることはなく、PTAの決議で、それらを無償提供することが承認されています。

娘の学校では、1日に4,000食が提供されております。市内にあるインターナショナルスクールの数校でこのような取り組みが行われており、ムンバイ市内だけでも2万食以上が貧困層の人々の命をつないでいます。

このようなインターナショナルスクールに通っている日本人の子女の多くは、このたびのロックダウンを受けて一時避難のために帰国をして、日本に滞在していますが、みなさんインドの時刻に合わせてオンラインの授業を受講し、課題は、メールやアプリを使用して提出しています。

家庭のインターネット環境の事前調査

インド全土での携帯電話の普及率は約70%ですが、そのうちスマートフォン普及率は3割弱です。私立学校に通う子どものいる家庭ではスマートフォンは100%の普及率となっています。これは、ペーパーレスを推奨する政府の要望で、学校と保護者間の連絡はメールもしくはアプリケーションを介して行うことになっているからです。保護者の保有するスマートフォンに加え、学校では、小学校4年生以上はパソコンかタブレットが必携で、子どもたち各自が持っているデバイスを利用して、日ごろから授業内で使用し、課題の提出に活用したりしています。

しかし、ロックダウン期間中にオンライン授業を受講するとなると、その環境を家庭で整えなくてはなりません。我が家の場合は、まず、学校から家庭のインターネット環境に関する調査がメールで届きました。Google Formsというアンケート調査のアプリを開き、そこに書かれている質問に答えていきます。

環境調査の内容は、①Wi-Fiに接続可能なデバイスを所持しているか、またその種類と台数、②家庭で常時使用できるWi-Fiネットワークが整っているか、また同時に接続可能なデバイス台数、③児童以外の兄弟姉妹でオンライン学習を予定している人数、④保護者の在宅ワーク時間帯、⑤オンライン授業が受講可能な、仕切られた個別の静かな部屋があるか、⑥オンライン授業開始に際し、不安なことや質問など(自由記述)、となっていました。これらの質問に全校の保護者が回答し、4日後には集計が終わりました。その集計結果の報告とともに、オンライン授業が可能であること、3月22日から開講することがメールで通知されました。

卒業研究のためのオンライン授業

我が家の娘は、現在小学5年生(ロックダウン開始時は日本では4年生)です。インドの小学校は5年制であるため、今年6月に小学校の卒業を控える最終学年であり、IB(インターナショナル・バカロレア)認定校(「第3回インターナショナルスクールの学校生活」参照)では、最終試験としてPYPX(Primary Years Program Exhibition)という卒業研究のプレゼンテーションのまとめを控えている時期でした。8月の新学期からは、Middle Years Programme(中学部)に進級するため、この最終試験を無事に修了しなくてはならない、とても重要な時期です。本来ならば、個別に担任や専門の教員との面談を重ね、アドバイスを受けながら進めていくものですが、今回ばかりは、世界的にIB校の高校生の最終試験も中止されていることから、IB校の小学校最終学年の子どもたちも特例としてリモートでの指導を受けることとなりました。

子どもたちの課題は、「健康」「経済」「人間科学」「社会科学」「化学」「技術」などの領域から一つ選択することになっています。グループに分かれて、担任の先生とは別のPYPX担当の教員が、テレビ会議のアプリを使用して指導を行っています。グループのメンバー全員が会議に参加して進捗状況を報告し合い、必要に応じてメンバーと教員との個人面談が行われています。それらのスケジュール管理には、すべてデバイスにダウンロードされている学校専用のアプリが使われます。その中の一部は、保護者も閲覧可能となっており、子どもたちがどんな活動をしているのかを自分のスマートフォンから見ることができます。

担任の先生とのコミュニケーションは、朝の会や帰りの会などで全員が顔を合わせて行う学級活動以外に、三者面談も2週間に1回のペースでテレビ会議システムを用いて行われています。私たち家族は、一時避難のため帰国をして、現在日本に滞在していますので、日本での生活様式や居住空間の特徴がビデオを通して伝わるようで、「日本の生活について教えて」とか「食事は何を食べているの?」など学習以外の話題で和ませてくれます。「何か不安なことがあればいつでも、何でも遠慮なく話してください」とおっしゃってくださるので、疑問点などはその都度、質問をして解消しています。我が家の一番の心配は、日本に一時帰国をしている間に、Primary Years Programme(小学部)を卒業できるか、また、8月にMiddle Years Programme(中学部)がスタートした場合、日本に滞在したままで進級ができるのかという点でした。それについては、校長から直々にメールを頂き、「何も心配いりません。安心してください。私は長年、各国でIB校の教師をしてきましたが、今回のようなシチュエーションは経験したことがなく、私たちにも未知の世界です。しかし、子どもたちに不利益にならないように最大限の努力をします」との返事に安心し、目頭が熱くなりました。こうして、オンラインの授業が始まりました。

家族を巻き込む怒涛の課題攻め~各教科の課題~

ビデオ通話を使うオンライン授業は、クラスルーム・チャットやPYPX(卒業研究)が中心で、それ以外のシングル・サブジェクトと言われる「単科」の授業については、ほとんどが各自で課題を制作し、作品の写真や動画を撮影し、それをクラスのフォルダーにアップロードして提出するというものでした。以下が、我が家の娘のクラスで出された各教科の課題の一例です。

教科 単元 課題 期限
英語 英作文
手順を示す説明文
DIY(手作りなら何でも可)の手順や方法についての説明文を作成し、ポスターやビデオとして仕上げる。 2~5日
ヒンディー語 物語文 課題の物語を読み、その要約をヒンディー語で作文する。 7日
スペイン語 あいさつ
色、スポーツ
趣味
身体の名称
文法(動詞)
家族の趣味について、スペイン語で話しているところを動画で撮影する。 7日
算数 立体図形
角度
対角線
四角形や多角形の柱体、錐体などの立体図形を展開図から作成し、それらを組み合わせて、オリジナルの「夢の街」のジオラマを完成させる。作品に使用した立体図形の説明と側面、上面から撮影した動画を提出する。 2~5日
体育 ダンス
フィットネス
トレーニング
配信された動画と同じトレーニングを音楽に合わせて行う日本の「タバタ式トレーニング」を行い、その動画を録画して提出する 7日
音楽 作曲
五線譜
図形楽譜
ウイルス対策のための「手洗い」を推奨する曲作りを行う。 7日
図工 tesselation
(モザイク模様)
一つの型紙から連続したモザイク模様を描き、色を付ける 7日
注:立命館大学スポーツ健康科学部の田畑泉教授が開発したトレーニングメソッド。

学校から出された課題は、上記のように、とても子どもたちが一人で、2日から1週間でこなせるようなものではなく、保護者の援助が必要なことは明らかです。子どもたちの中には、期限を守ることができずにオンラインでクラスメイトの前で担任の教員から叱られる子や、教員から一方的に課題が提示され、その内容や方法がよくわからず、戸惑ったりしている子どもも多くいました。

report_09_364_01.jpg   report_09_364_02.jpg
英語 娘が作った「オリジナルキラキラソープの作り方」
 
英語 手順:好きな色やデザインでポスターを製作
(※一部スペルミスがあります)

report_09_364_03.jpg   report_09_364_04.jpg
算数 立体図形を作ってその性質を調べよう
 
算数 オリジナルの夢の街ジオラマ

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図工 連続する模様 モザイクの描き方
 
図工 波形のモザイク
ロックダウン下のストレスと家族の変化

スマートフォンのメッセンジャーアプリ内のママ友グループチャットでは、「毎日、毎日、メイドもいないから、家事は全部私がやらなくてはならないし、その上、子どもたちの課題に付き合わされて、もう!本当に気が狂いそうだわ!」という愚痴や悲鳴が日に日に多くなり、筆者の娘も初めは日本人特有のまじめさで、コツコツ課題をこなして期限を守って提出していましたが、2週間を過ぎたあたりから音を上げはじめました。

ちょうどロックダウンが始まり2週間が経過し、人々のストレスも溜まってきたころでした。保護者からの要望やクレームを受けて、学校側からは、「いまこそ親子のコミュニケーションを大切に、一緒に苦境をのりこえましょう」という内容のメールが届きました。しかし、実際には各教科担任に子どもたちへの課題提示の方法やタイミングを任された結果、他教科とのバランスを図ったり、十分なフィードバックがなされなかったりしたことが、子どもたちの不満の原因だったのではないかと推察できます。とはいえ、今回のような突然の休校措置からのロックダウンという事態を考えると、学校側の余裕のない状況や教員間のコミュニケーション不足にともなうこのようなトラブルも理解できます。あまり、学校を非難しても仕方ないと保護者が悟るまで、時間はそれほど長くはかかりませんでした。こうして、親も子どもたちも気を取り直して、それぞれの保護者の得意分野を活かして子どもと共作の課題を提出する日々が続いています。

ちなみに、我が家は私の得意な音楽を活かして、娘が作詞作曲した「手洗いの歌」に、即興でピアノ伴奏をつけて動画を撮って、アップロードしました。英語で韻をふむように歌詞を作るところに苦労したようです。次から次に提示される課題に追われ、短時間で完成させたドタバタ劇が透けて見えるような作品ですが、本人はとても楽しそうに取り組んでいました。

ITによる子ども支援

娘の学校では、学年末に子どもたちによるミュージカルの上演を予定していましたが、残念ながら講堂での上演は中止となりました。娘は、全校オーディションを受けて念願の主役を射止めていただけに、その練習に打ち込む姿は、かつてないほどの熱心な様で、それを思うと親としてはかわいそうでなりませんでした。ところが驚いたことに、インドはさすがIT大国とあって、学校のIT専門の教員チームと音楽科教員チーム、そして演劇科の教員がタッグを組んで、バーチャルミュージカルを完成させることになったのです。一人一人のセリフや歌を各自別撮りしてアップロードすると、それをIT専門教員が、実際のミュージカルの台本に沿ってつなぎ合わせ、一つの作品にするとのことです。それに加え、オンラインでのセッションで全員の合唱を録音したり、カーテンコール用の動画をオンラインで役ごとに撮影するなど、膨大なデータの中から選別してつなぎ合わせるという、気の遠くなるような作業を請け負ってくださる先生方には頭が下がる思いです。

我が家では、急遽、私のメイク道具や家にあるものを利用して、なんとか主人公になりきれるような衣装を整え、「海賊」に扮した娘の動画の撮影が始まりました。ひとつのセリフやダンス、歌ごとに「顔のアップ」「上半身」「全身」の3種類を撮影するので、長時間の作業になりますが、これもオンライン学習の一環だと考え、どんな風に仕上がるのかを楽しみに家族で動画撮影に勤しんでいます。

世間では、この状況をコロナ禍と呼んでいますが、教育の現場においては、今回の環境変化が子どもたちに与える影響を鑑みた対応が行われています。環境変化をもたらした原因を「禍(わざわい)」と呼ぶのではなく、むしろ成長の好機と捉えることが必要であるという思いが、日増しに強くなってきました。子どもたちは、意外とたくましく、忍耐強く、大きな力をもっていることを実感しています。早く、元の生活に戻ることを願いながら、子どもたちの成長を見守りたいと思います。次回は、ムンバイで活躍する日本人ボランティアについて、さらにレポートします。"Stay home and stay safe. See you next time!"

  

以下は、今回のロックダウンについて娘が記録したものです。

  春休みが始まるまであと1日の時に、緊急で休校になったので、悲しかったです。 友達や先生たちと突然のお別れでした。
いつ学校が始まるのか、分からないまま帰りの会が終わってしまいました。

  ロックダウンが始まってからは、日常生活と同じように、早寝早起きを心がけています。デバイスの勉強がほとんどなので、学校以外のスクリーンタイムをできるだけ短くしています。家のお手伝いは、洗濯をしたり、お皿を洗ったり、料理のお手伝いをしています。また、ストレッチングを家でしたり、音楽をかけて好きなように体を動かしてダンスをしています。家にいる分、動いていないので、お菓子を減らして体重管理をしています。

  学校のオンラインセッションが始まってからは、元々、私たちが学習しているデバイスでメールが出来たので、メールを使ってコミュニケーションを取っていました。
  そのあと、チャットのアプリケーションが学校によりインストールされ、電話や、ビデオ通話で交流をするようになりました。

  一週間に4回、クラスコールと呼ばれるホームルームがあります。そのほかにも、読み聞かせや、三者面談などもあります。今期は生徒会の役員をしているので、全校に向けたメッセージを録画して発信したり、休み時間にやっていたようなゲームやアクティビティを共有したりして楽しんでいます。テクノロジーが発達している今だからこそ、できることがいっぱいです。

  クラスの友達ともメールとチャットで交流しています。クラスの生徒全員のグループチャットで、週末のことや、作品などの写真やビデオを共有しています。そこで、私たちは、みんなの作品や努力を見て、影響されることがすごく多いです。
  デバイスによって、友達や先生と毎日、コミュニケーションをとるのに助けられています。また、手洗いの仕方についての話題や動画も共有しています。

  学校のお友達とは、チャットで連絡が取れるようになっていますが、私たちの先生から、学校関連ではないことでの交流を防ぐために、個人的なチャットで、学校関連以外のチャットをすることは禁止されています。

グループチャットでも同じですが、個人的なコミュニケーションのほうが、厳しく禁止されています。
学校の課題は、Itunes U というアプリを使っています。
  そのアプリでは、いろいろな教科の先生たちが学年の生徒に期限つきの課題を与えることができます。一人でできない課題があったときは、先生にメールやチャットで聞く前に、先にお友達に聞いています。ロックダウンになって学校がないとつまらないことや、テクノロジーですべての学習ができることに気付きました。
そして、私は絵を描くのが上手だったことに気づきました。

  現在は日本に滞在していますが、インドにいる時と全く変わらず、オンラインで毎日学習をして、クラスコールに参加しています。今は、ミュージカルに楽しんで取り組んでいます。インドの時間に合わせて生活しているので、夜寝るのが以前よりも遅くなってしまいました。でも、こうして離れていてもお友達や先生と会って一緒に勉強ができるのでとても楽しいです。

  これからも、もっとテクノロジーを使って人と交流したいと思います。


筆者プロフィール
sumiko_fukamachi.jpg 深町 澄子 静岡大学大学院修士(音楽教育学)。お茶の水女子大学大学院博士課程(児童・保育学)にて発達支援及び読譜を中心とした音楽教育の研究中。
約30年間、子どものピアノ教育及び音楽教育に携わり、ダウン症、自閉症、発達障害の子どもたちの支援を行っている。2016年12月よりムンバイに移住。
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