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【インドの育児と教育レポート】 第3回 インターナショナルスクールの学校生活

今回は、我が家の娘の通うインターナショナルスクールをご紹介します。

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まずは、インドの学校教育制度について簡単について説明します。

インドの学校教育制度

2002年のインド憲法(第21条A)改正に基づき、2010年4月に施行された無償義務教育権法(Right of Children to Free and Compulsory Education [RTE] Act, 2009)により、インドでは6歳から14歳の子どもの教育を受ける権利が保障されています。

各州政府の定めに従い、原則全ての学校は5年・3年・2年・2年・3年制の教育制度を施行しています。これは、小学校が8年間、中学・高校が4年間、そして大学が3年間、という教育制度です。小学校の8年間は前半5年間を前期初等教育、後半の3年間を後期初等教育とし、さらに中学校の2年間を前期中等教育、高校の2年間を後期中等教育、その後3年間の大学を高等教育としています。インドの高等教育を修了して、海外の大学に進学する生徒も多く、近年はIB(インターナショナル・バカロレア)と呼ばれる世界共通の大学入学資格を取得できるプログラムを取り入れた学校も増えています。

現在、インドには167校のインターナショナル・バカロレアの認定校(https://www.ibo.org/about-the-ib/the-ib-by-country/i/india/)があります。そのうち小学校は89校、私の暮らすムンバイには3校の認定小学校があります。
また、バカロレア認定校の他に私立小中学校は約80校あり、それぞれの創設者の志や伝統を守りながら子どもたちの教育に取り組んでいます。ミッション系の学校以外は、さまざまな宗教の子どもたちが同じ環境でお互いに尊重しあいながら学校生活を送っています。

インドの私立学校は財閥系の潤沢な資産に支えられているところが多く、校舎をはじめ施設内の電子機器から文房具などの備品に至るまで、その学校設備の充実度は日本と同等またはそれ以上であると感じます。

豊かな人材とプロフェッショナルな職業意識

娘の通うインターナショナルスクールはインド財閥系の幼小中高一貫校です。ムンバイ市内に2校あります。幼稚園年少から12年生まで全部で約120クラス、児童・生徒数2,000人以上の大規模校です。幼児・小学生の1クラスの人数は20名以下で中学・高校生は10名以下となっており、個別にも指導が行き届くよう学級編成がされています。また、全体の1割が駐在員や外国籍の子どもです。日本人はわずか4名のみで、9割がインド人というインターナショナルスクールです。

幼児クラスは担任と副担任2名の3人制です。小学校以上は担任と副担任の2人制で、必要に応じて特別支援の専門教員やチャイルドケアのシッターがサポートします。 チャイルドケアのシッターはインドでは専門の資格は不要です。一般家庭でのシッターの経験のある方が採用されています。幼児のクラスにはシッターが常時待機しており、体調不良時やトイレなどの付き添いをはじめ、けんかの仲裁をしたり泣いた子どもを抱っこしてあやしたりするなど、子どもに関わるトラブルのサポートをケアする支援員です。

インドならではの特徴は職員の数の多さです。教員をはじめ、事務員、保育士、看護士、医師、スクールバスの運転手、セキュリティースタッフ、カフェテリア(生徒用)のスタッフ、カフェ(教員・保護者用)のスタッフ、エレベーター案内スタッフ、清掃スタッフ、トイレの監視員、パーキングスタッフなど総勢400名ものスタッフにより子どもたちは毎日見守られ安全な学校生活を送っています。

これは、ただ単に安価な労働力や人口が多いインドの雇用促進のためというだけではなく、この国の課題を写し出す鏡であると感じます。ムンバイのスラムエリアでは、幼い子どもが行方不明になり、人身売買や臓器売買などの犯罪被害にあうことがあります。また、レイプや暴行、誘拐などがインド全土で頻繁に起こっているため、比較的治安の良いムンバイにおいても学校や保護者の「安全」に対する意識は非常に高いと感じます。このような事情から多くのスタッフが、各フロアーに数名ずつ常駐し、犯罪者やテロリストの侵入を防ぎ、また子どもたちの事故や怪我がないように、ある時は眼光鋭く、ある時は温かな眼差しで子どもたちを見守っています。

子どもが授業中にトイレに行くときにも1人で行くことは絶対に許されていません。トイレには専用の監視員がいて、たまに保護者として私がトイレを利用する際も、手洗いの後にペーパーを差し出してくださるなど、恐縮するほどです。保健衛生の観点からもカフェテリアやトイレ内での手洗いや消毒の推進をしており、教育現場としての学校における役割を果たそうとするそれぞれのスタッフの几帳面な仕事ぶりや気遣いに頭が下がります。

ひとつ、とても興味深いエピソードがあります。
ムンバイは交通渋滞がとてもひどい場所としてインド国内でも有名な街です。子どもたちはスクールバスで通学するか、自家用車による送迎か、保護者同伴の徒歩通学かを選ぶことができます。もともと時間にルーズなインド人が、この渋滞によって登校時刻が大幅に遅れることは日常茶飯事で、授業開始時に子どもたちがそろわないことは当たり前の光景だったそうです。3年前に校長先生が「定刻7時45分で校門を完全に閉めます」と宣言しました。

家族による送迎の子どもたちは、この時刻を1秒でも過ぎると校舎の中に入ることができません。例えば、家が近く徒歩通学している子どもが校門で忘れ物に気づき、それを取りに戻って1分遅れで到着しても、その日は校舎に入ることができず「欠席」となります。時間に正確な日本人から見ても少し厳しいようですが、これがルーズなインド人にとっては効果絶大だったそうです。初めのうちは多くの子どもや保護者が校門の前に居座り「開けて!開けて!」のクレームの大合唱だったそうです。いくら泣いても、正当な理由を述べても「No!」の一点張りで、校門を死守するセキュリティースタッフの仕事ぶりにも感心します。そして次第にこの取り組みが浸透し、半年後には「遅刻をする子どもはゼロになった」と校長先生が誇らしげに語った言葉にも重みがあります。朝の7時40分ごろになると、校門前はお菓子に群がるアリのような人だかりで、保護者も子どもも急ぎ足で校門を通り抜けていく様子がこの学校の特色です。「予測できない渋滞はこのムンバイにはありません。言い訳無用」という言葉が保護者間ではよく交わされるほど、この学校の時間に対する姿勢は厳しいですが、日本人の私にとっては懐かしく、心地よいものとなっています。

学校施設の充実

学校は、授業の行われる教室以外に専門教科用の特別教室があり、体育、美術、音楽、演劇、化学、外国語など各教科の専門教員が併設された準備室に常駐しています。これは日本の公立学校と同じです。しかし、家庭科室や技術室はありません。娘の通う学校に子女を通わせるご家庭では、家事や家庭生活のほとんどはメイドや使用人、コックなどが担っているため、教科としてこれらを学校で教えることはありません。また、街には「テーラー」と呼ばれる仕立て屋がたくさんあり、インド服の仕立てから制服のサイズ直し、ボタン付けまでほとんどが専門の職業の人に任されています。

日本ではとても高価なイメージのオーダーメイドの服も、インドでは女性のワンピースは2,000円程度でお仕立てできますし、子どもの制服のスカートの裾上げはわずか70円でその場で仕上げてくれます。

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街の仕立て屋さん(テーラー)

学習発表会やコンサートが近づくと校内に仕立て専門の方が常駐し、子どもたちの衣装を採寸から仕上げまで何百枚も縫製して当日の舞台に間に合わせるよう調整します。教師や保護者が衣装を購入したり制作したりする必要はなく、こうした費用もすべて学費に含まれています。

この学校では技術家庭科に相当する活動は、中・高等部で年に2回ほどキャリア教育の一環としてワークショップが行われています。学校に専門講師を招いて60種類余りの職業の中から「料理」「クラフト」「デザイン」「縫製」「保育」などを選択することができます。

学校の授業は、ホワイトボードの壁面への板書とプロジェクターにより行われており、教師や子どもたちが英文を手書きで壁面に書き込みながら授業を進めます。また事前に各自ワークシートを使用して、自分の考えを整理したりみんなの前で発表するための下書きを書いたりするなど、一斉授業に備えた個人やグループの学習時間が多くとられているようです。学習に必要なノートや筆記用具などの文房具、教材などは年間の授業料に全て含まれているため自宅から持っていくものはほとんどありません。制服やバッグも全て学校から年度初めに支給されます。

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学習課題の振り返りシート 2年生
 食育の授業での課題について発表する前のメモ 4年生

吹き抜けのロビーだけでなく、人工芝の校庭、幼児の水遊びプールなども全て屋内にあります。日差しの強いインドでは幼児期に強い紫外線を浴びたり、大気汚染の激しい戸外に出たりすることを避けています。

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吹き抜けのロビー

屋上には人工芝のグラウンドとプールがあります。小学校高学年や中高生が使用するプールは、50メートル×10レーンと大きく、2クラス合同の体育に4人の教員と10名の監視員が付きます。
体育館は、バスケットボールのコートが4面とれる広さです。パーテーションで仕切ると2クラスが同時に授業を行うことができます。また、昨年、壁面にロッククライミングの設備が完成しました。我が家の娘は今まで郊外の有料施設に車で1時間以上かけてロッククライミングに出かけていたので、学校で挑戦することができるようになり、大喜びをしていました。

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屋上の人工芝のグラウンドでサッカーの授業

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校舎の屋上にある50メートルプール

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体育館の壁面に設置されたロッククライミングの施設

また、カフェテリアは、吹き抜けの広く開放的なスペースです。オープンキッチンからベジタリアン料理が、毎日日替わりで提供されます。パンをこねたり焼いたりするところもガラス越しに見ることができ、ちょっとしたリゾート施設のカフェテリアのようです。各自、トレーを持って好きなものをお皿に取り、自由に席を選んで友だちとランチを食べています。日本のような給食当番はなく、ここでもスタッフが全て取り分けてくれます。

図書室は、多くの蔵書とインターナショナルスクールならではの各国の絵本や児童書が並んでいます。寝っ転がって読書できるスペースやノートPCを持ちこんで調べ学習をするスペース、ソファーなど子どもたちがリラックスできる空間が広がっています。
図書館司書の方がお勧めの本にPOPをつけていたり、子どもの貸出記録はIDカードによって管理されていたりと、そのシステムは日本の図書館と同じです。

私たち保護者にとって嬉しいのが、自由に使用できる校内のカフェです。いわゆるスターバックスのようなインドのコーヒーショップが出店していて、ソファー席やテーブル席でチャイやコーヒーを飲みながら保護者会やママ同士の会話を楽しむことができます。私たち外国人にとっては、生活に必要な情報やインドの習慣などを知る良い機会であり、子どもに持たせるインドスナックの作り方などを教えて頂くなど、貴重な交流の場となっています。

このように、教員や子どもたちにとって快適な空間で学習活動が行われている点は、私立学校の利点ではありますが、至れり尽くせりの環境に慣れてしまうことに対する危惧もあります。日本のように、自分の机の整理整頓や友だちと協力して清掃活動を行うなど、ここではほとんど経験することがありません。せめて家庭では、自分のことは自分でやりましょうと声をかけるようにしています。

ヒンディー語の授業

学校の一年間は8月に始まり、翌年6月に修了します。学校の授業は1日は7時間で1コマは45分です。

語学は4年生から「フランス語」と「スペイン語」が必修です。一般の授業は全て英語で行われ、日常会話においてもヒンディー語の使用は認められていません。しかし毎日、1時間のヒンディー語の授業があり、そこでその子どもの学習レベルに合わせて指導を受けます。インド人の中には、海外駐在をしたことで英語のみで育っている子どももおり、母語がヒンディー語ではない子どももいます。そのようなインド人の子どもたちは、娘のような外国人と一緒に文字の読み書きを遊びながら学びます。例えば、表面には名詞や動詞がヒンディー語とイラストが書かれ、裏面にはその意味が英語で書かれたピクチャーカードを順番に引いて意味を言い当てるゲームや歌遊びで数字や体の部位を覚えてジェスチャーゲームをするなど、簡単な内容を遊びながら楽しく学んでいます。

このヒンディー語のクラスはインドのお祭りや神話などを題材として、年間を通してインドの習慣を学ぶ時間でもあります。毎年、秋頃(10月または11月)には「ディワリ」というインドのお正月休みがあります。

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各家庭の玄関に手作業で描かれるディワリを祝う砂絵(ランゴーリ)

それは2週間の長期休みで、1年の中でも一番楽しみなお祭りだそうですが、お祭りの期間は真夜中まで花火や太鼓や笛の音が鳴り響き、もはや騒音レベルなので、私たちはゆっくり眠ることもできません。

娘のクラスはほとんどの子どもたちがインド人のため、ムンバイに残って家族や親戚とともに「ディワリ」を楽しむのが当たり前のようです。昨年度、我が家はディワリ休暇にフランスへ旅行に出かけたのですが、それを娘が友達に伝えたところ「なぜ、ディワリなのに旅行にいくの? あなた何を考えているの?おかしいんじゃないの?」と驚かれたそうです。そのぐらいインドの祝日は大切なものであると子どもたちに浸透しています。ディワリ休暇の前日には、学校でお祝いの行事があり、子どもたちはインドの伝統的な民族衣装やドレスを着て登校します。我が家の娘も「レンガ・チョリ」というスタイルで登校しました。学校の教職員もサリーやインドドレスを着て、キャンドルを灯して歌を歌ってお祝いをします。

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伝統衣装(レンガ・チョリ)を着て子どもたちのアート作品の前で記念撮影

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我が家のベランダから見える賑やかな通り

他にも、ヒンドゥー教やイスラム教など主な宗教のお祭りの日には、学校は休校となります。

学校の年間出席日数は186日と日本に比べると休日がとても多いと感じますが、このように宗教や伝統文化を学校教育の場でも大切にしていることがわかります。

ヒンディー語の学習を通して、インド人の心を理解し、文化や習慣を受け入れる大切さを娘は学んでいます。友だちと意思の疎通をはかり、コミュニケーションをとるためには必要な学習だと、知らず知らずのうちに柔軟性を身に付けたようです。今では、インドのことは私よりもよく知っており、「こんな時はどうするの?」と私が娘に質問をして周りのインド人とお付き合いをしています。

インターナショナルスクールに通う利点は、生きた英語に触れ語学力を高めることだとはじめは思っておりましたが、このような学校生活や友達との交流を通して、それ以上に実感しているのはコミュニケーションの力や想像力のたくましさです。様々な文化や宗教に触れ、お互いを尊重することや理解することを学んでいる娘を追いかけるように、私もインド生活を充実して送ることができるよう努めています。

次回は、インドの「算数」「数学」についてレポートします。

筆者プロフィール
sumiko_fukamachi.jpg 深町 澄子 静岡大学大学院修士(音楽教育学)。お茶の水女子大学大学院博士課程(児童・保育学)にて発達支援及び読譜を中心とした音楽教育の研究中。
約30年間、子どものピアノ教育及び音楽教育に携わり、ダウン症、自閉症、発達障害の子どもたちの支援を行っている。2016年12月よりムンバイに移住。
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