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【インドの育児と教育レポート】 第10回 ムンバイで活躍する日本人ボランティア(1)~女子・女性の視点で「性教育」を考える

深町 澄子

2020年4月24日掲載

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的な流行を懸念し、各国が様々な対策に苦慮しているというニュースを耳にする度、離れて暮らす日本の家族や親戚や友人などの安否が気になります。情報が世界を瞬時に駆け巡り、毎日のように感染者数が増加していくことに不安を覚える日々です。一方で正しい予防や対策などの情報がSNSなどを通して提供されており、3月25日にインド政府から発令されたロックダウンに入ってからは、マスク姿の人々を多く見かけるようになりました。

インドでは花粉症対策や咳などの拡散防止にマスクをつける習慣はありません。マスクは、よほど重大な感染症の患者さんに医師が施すものと思われており、私たち日本人が大気汚染時の外出や風邪をひいた際に、マスク姿で外出をすると、周りのインド人からはとても奇異な目で見られます。

インド人のほとんどの子どもたちや現地の大人たちは、手や服で被うこともせず、そのまま「ゴホッ ゴホッ」と咳をします。学校でもハンカチで口を被ったり、顔を横へずらし、腕を上げて袖の部分で口を被ったりして咳をするように教育されているようですが、娘の友人や私のピアノ教室に来ているインド人の子どもたちを見ていると、「咳エチケット」というマナーは身についていません。ですから、「マスク」をつけるという考えは全く浸透せず、地域の薬局にも日本のようなガーゼや紙製のマスクは売られていません。ムンバイに暮らす私たち日本人は、一時帰国の際に、マスクを箱で購入して日頃から常備しています。

我が家の隣人は、スマートフォンを手にSNSで拡散された新型コロナウイルスに関する情報を見て、「怖い!怖い!」と大騒ぎです。「あなた、子どものマスクなんて持っていないわよね?」と尋ねられ、ちょうど我が家の娘にはもうサイズが合わなくなった不要の幼児用マスクがあったので、それを箱ごと差し上げました。そうしたところ、「本当にありがとう、まさに神だわ! これは我が家の宝物にするわ。貴重過ぎて使えないわ!」とおっしゃったきり、本当に一度も使用していません。

3月3日、インドでは日本からの渡航者に対しインドビザの発給禁止と入国制限が出され、事実上入国禁止となり、私たち駐在員も一度インドから出国すると入国できなくなりました。春休みに日本への一時帰国を予定していた帯同家族もたくさんいらっしゃいましたが、今回はインド国内に留まるしかないと諦めざるを得ませんでした。ムンバイ日本人学校も休校のままです。しかし、4月11日から15日にかけて3便の一時退避用のチャーター便が運航されることになり、多くの駐在の日本人家庭は一時帰国をすることとなりました。海外からの帰国者ということで、日本に滞在するのも苦境ではありますが、医療崩壊の恐れのあるインドに留まることも未知の不安との戦いです。各企業や家庭において、相当な苦悩の上に決断をし、それぞれの環境や立場で、今できる最大限の身の守り方を苦慮して決断をしていると推察します。我が家も一時退避帰国をすることになりましたが、引き続きインド・ムンバイの情報をお伝えしたいと思います。

さて、前置きが長くなりましたが、今回はインドにおける女性の「地位」や「性」に関する視点から、ムンバイで活躍する日本人ボランティアの活動の様子をご紹介します。

生理の日でも外出できる! 届けよう、ムンバイ郊外の農村の女子たちへ

今回は女性の生理のお話です。インドでは、昔から宗教上の理由で「生理」を不浄とする観念があります。テレビで生理用品の宣伝が頻繁に流れ、スーパーマーケットには生理用品のナプキンが陳列されている現在のインド社会においても、その考え方は払拭されることなく、未だに強く根付いています。学校や家庭における「性教育」もタブーとされてきました。農村では、生理中の女性は外出できず、生理期間中は、他人との接触を避けるため、納屋やシェルターで過ごす人たちもいます。

女性の生理にまつわる課題を抱える国は、インドだけでなく世界中にたくさんあります。こうした人々を支援する「Day For Girls」(https://www.daysforgirls.org/)というボランティア団体を通して、ムンバイでも女子への支援が行われているそうです。このボランティア団体はアメリカに本部があり、世界中に活動拠点をもっています。日本には公式な支部はありませんが、アジア地区だけでも中国、フィリピン、タイ、ミャンマーなどと、インドのコルカタ(旧カルカッタ)とムンバイ(旧ボンベイ)を含め9都市に拠点があります。

ムンバイのポワイという地区にある支部で、外国籍の人たちに混ざってこの活動を続けている、たった一人の日本人である田中絢子さんを取材しました。

彼女の活動は、ムンバイ郊外の農村の学校を訪問し、女子に生理周期の説明と生理用品の使い方を教授するために、その生理用品キットを製作することから始まります。インド人を含む外国籍の女性ボランティア23名とともに、毎週木曜日の13:00~16:00の3時間、支部の代表者のご自宅に集います。

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分担しながら作業している様子
 
子どもたちへの教育の学習会
        

生理用のナプキンは紙製の使い捨てが一般的ですが、それらは安いものでも7枚入りで30ルピー(約45円)もするので、貧困層の子どもたちが毎月の生理の度に購入できるものではありません。このため、使い捨てではなく、洗い替えの可能な布製の生理用品がボランティアの方の手によって製作されます。経血の吸収のために良質で肌触りのよいネルの綿生地を裁断し、ミシンで丁寧に縫って成型していくそうです。

日本でも「布ナプキン」として普及しているので、ご存知の方も多いかもしれません。これは、下着に取りつけられる外側の本体と中に入れるライナーとに分かれていて、一日に何度か中のライナーだけを取りかえれば、清潔かつ快適に過ごせるという、機能性の高いものになっています。この製品の規格は、「Day For Girls」の世界中どこの拠点でも統一されているそうです。

これらの作業は、当日集まったボランティアの皆さんで分業し、先輩のボランティアの方々から手ほどきを受けながら、初めは簡単な直線縫い、慣れてきたら、少し難易度の高い丸いカーブの部分を仕上げていくなどの過程を経て、丹念に製作しているそうです。

こうして出来上がった布製ナプキンは、洗い替え用の予備8枚とともに、洗濯用の石鹸が添えられ、手作りの巾着袋に詰め合わされます。これで生理用品キットが完成です。

次に、この生理用品キットをムンバイ郊外の農村の学校に届けに行きますが、ここで大きな壁にぶつかります。先にも記したとおり、インドの都市部から離れた郊外の地域に行けば行くほど、女性の生理を理解し、受け入れることができる人が少なく、難しくなります。この「Day For Girls」の活動を理解し訪問を受け入れてくれる農村地域の学校が、ムンバイにはどのくらいあるのでしょうか。こうした活動を受け入れ可能な学校を探し出すことも、このボランティア活動の一つであるそうです。みなさんの地道な製作活動や学校訪問に漕ぎつけるまでの長い道のりは、半年に一度、車に揺られて、ムンバイから農村まで往復8時間かけてキットを届けに行く大変さをはるかに超える、茨の道であると想像できます。そのボランティア活動を支える皆さんの思いや、日々の生活の中から定期的に時間を作り、地道にボランティアとして活動を継続されていることに驚き、感動しました。

学校訪問へ

実際に、田中さんたちがムンバイ郊外の農村地区の学校へ生理用品キットを届けに行く日がやってきました。早朝6時前に家を出て、数台の車を連ねて農村部へつながる道を進みます。郊外に入ると携帯電話の電波も届かなくなってしまうため、道中は、車で隊列を組んで進みます。そうしないと迷子になってしまうからだそうです。

訪問先では、7歳から15歳の女子学生約200名を対象に、生理周期の正しい理解及び生理用品の扱い方について講義をした後、生理用品キットを1人ずつに手渡します。

女子学生たちは、教育を受けることを望んでおり、生理期間中は学校にも行けず、農作業の手伝いもできないことを憂いていたそうですが、生理周期を学び、この布製生理用品を使うことで、これからは学校や農作業を休まなくても良くなると嬉しそうに話してくれたそうです。ボランティアの田中さんはこれを受け、より多くの学校に対し、この活動を行っていきたいとご自身の思いを語っています。

今回、田中さんはご自身の活動への思いや、ムンバイの同世代の子どもたちの現状をわが子に伝えるのに良い機会だとお考えになり、中学生と小学生の二人の娘さんを学校訪問に同行させたそうです。ムンバイから遠く離れた土地に向かうのは、とても勇気が必要だったことだと思います。

しかし、日本人の同世代の子どもたちが、ムンバイの村に「女の子」として新しい知識と素敵なプレゼントを届けにきてくれたことは、農村地域に暮らす子どもたちにとっても、新しい世界に一歩踏み出す勇気となったことでしょう。

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ボランティアの方より説明を受ける子どもたち
 
キットを受け取り喜ぶ子どもたち

世界各国から駐在員の妻として帯同している人々は、ビザの都合上、ムンバイで働くことができませんが、多くの人々がご自身の時間を誰かのために使いたいという思いで、このような様々なボランティア活動を行っています。みなさんの思いがきっとインドの人々にも届いていることだと思います。このような地道な活動により、インドの農村地域の女性たちが、社会とのつながりを閉ざすことなく、明るく生きていけるような支援の輪が広がることを願います。

次は日本人高校生による「女子支援」のボランティア活動のご紹介です。ムンバイ市内のインターナショナルスクールに通う日本人高校生の田中ももさんにインタビューしました。ももさんは、昨年の8月にお父様の転勤に伴いムンバイにやってきました。ムンバイに帯同したのには、大きな理由があったからだそうです。

ももさんは、日本で過ごす学生時代は楽しかったけれど、お金、時間、食べ物など全てを消費するだけで何も生み出さず、誰かの役に立つこととは無縁な生活だと感じていたそうです。とにかく何かしたいと以前から考えておられ、お父様のインドへの転勤を聞いた時に、環境を変えて何か行動を起こす絶好のチャンスだと思ったそうです。まさに、「インドでのボランティア」に魅力を感じて、帯同を決意したとのことです。

ムンバイに来て間もなくの頃に、私の元を訪ねてきました。「何かをしたい、だけどその何かが見つからないのでアドバイスを下さい」とノートパソコンを手にプレゼンテーションをされました。インドについて、宗教、文化、経済など様々な視点で、自身の意見をまとめてあり、私も大学生のゼミを見ているような気になるほど感心したのを覚えています。さて、そんなももさんの活動の様子について聞いてみました。

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ダラヴィの川沿いの家屋
スラム街に暮らすティーンエイジャーとともに
 

ここは、ムンバイ随一のスラム街「ダラヴィ」という地区です。そこに行くまでの車窓からの景色には驚きを隠せません。大量のゴミが浮いている川に沿って、トタン屋根の家が密集して建ち並んでいます。その一角に、貧困などが原因で親からネグレクトされてしまった女の子たちが集まるガールズシェルターがあります。約20人の少女たちが集団生活をしているそうです。このアパートは、スラムの中でも比較的きれいで、このような建物に住めるのは、恵まれていると思えるほどだそうです。

このガールズシェルターは「Sharanam」と呼ばれ、インド人とアメリカ人の支援により設立された施設です。毎週土曜日に1時間、ももさんが1人で計画し、切り絵、ちぎり絵、折り紙、ミサンガ作り、習字、万華鏡作りなどのアート創作活動をシェルターの女性たちと一緒にしているそうです。材料持参で子どもたちにやり方を教えながら製作します。年齢層は6歳から17歳と幅広く、ボランティアをする側とされる側という関係ではなく、友達という感覚で活動しているそうです。積極的に活動に参加する子もいれば、ただその場にいるだけの子もいますが、何かを強制することはなく、のんびりとした雰囲気の中で活動しており、あたたかく居心地の良い時間と空間になるよう心がけているそうです。

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折り紙や切り絵などの製作の様子

シェルターにいるほとんどの子どもが英語を話すことができるため、コミュニケーションには不自由しないそうですが、インド訛りの英語はかなり聞き取りにくく、苦労しているようです。ももさんの学校のインド人の友達はみんな第一言語が英語なので、訛りがなく問題なく聞き取れますが、中心部を離れるとヒンディー語と英語どちらを話しているかわからないというようなこともあるそうです。これには、筆者も同感です。3年以上ムンバイに暮らしていても未だに大げさな身振り・手振りのジェスチャーと単語を大声で叫びながら現地のインド人とコミュニケーションを取ることもあります。日本からムンバイに来てわずかな期間の高校生が果敢にもインドのスラム社会に挑んでいくそのパワーに感心します。若さと柔軟性をもってインドのティーンエイジャーたちの乙女心をつかんでいく彼女の活動を応援し、見守りたいと思います。

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ももさんとインド人の少女たちの語らい
 
出来上がった作品とともに

今回、二つの「女性」に関するボランティアを取り上げました。インドでは、現代社会においても女性の地位が低いと言われています。農村地域だけでなく、ムンバイのような大都市においても、結婚した女性は嫁ぎ先の家族のために働くことを強いられて、自由に過ごす時間がもてない人もいるそうです。また、実際にムンバイの我が家の近くにも生理中の女性たちが避難するためのシェルターがあることがわかりました。

インドの家庭や公立の学校では、「性教育」は授業の中で扱われておらず、正しい知識を得ないまま結婚や出産を迎える女性も多くいます。

こうした背景から、娘の通うインターナショナルスクールでは、5年生(11歳)の学年間で担任が入れ替わり、「性教育」の授業が行われました。男性と女性の身体の違いや生殖・出産のしくみ、また身体を清潔に保つことの大切さや心の健康などについて、図解入りのテキストを用いて学びました。そのうえで、「思春期とはなにか」「自分自身について考えてみよう」というテーマが与えられ、子どもたちは自尊心や葛藤、命の重みや健康など各自で探究する学習をしました。このような「性教育」の学習は、インドではごく稀なことで、保護者はとても驚きました。 それに先行して保護者向けの勉強会があり、男女の隔てなく行われる「性教育」の必要性について語り合う父親や母親たちでしたが、白熱した議論の末、「頭では理解しているけれど、それを子どもに伝えることには抵抗がある」という結論に達しました。

このように子どもへのアプローチに戸惑う保護者や教師のために、それを代行する企業がムンバイにあります。2011年に設立された「untaboo」です。

この企業では、小学生から大人までそれぞれの対象者にわかりやすく、演劇や絵本などを用いた「性教育」に取り組んでいます。古い考えを捨て、正しい知識や認識をもつことが性犯罪やセクハラの防止につながると考えられています。また、少数派である性的マイノリティーへの偏見や差別などにも配慮した書籍の紹介などもしています。 日本のような「保健体育」や「家庭科」のような授業がないインドの教育下では、保護者と教師が協力し、外部の専門家の助けを借りて教育をしていくという考えも、少しずつ芽生えています。

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思春期の男子向けの性教育ワークショップのチラシ 費用1人 約4,000円
出典:Untaboo

                             

「性教育」といっても広義にわたるため、身体のしくみや妊娠、人としての本能や生き方などそれぞれの側面から年齢に合わせた教育が行われることが理想だと思います。せめて、女性の生理の期間中に納屋やシェルターに閉じ込められて手当もされずに過ごす少女や女性たちがいなくなることを願いたいと思います。

次回は、ムンバイの小児がんの子どもたちをサポートする活動や、老人ホームでのボランティアについてご紹介 します。


筆者プロフィール
sumiko_fukamachi.jpg 深町 澄子 静岡大学大学院修士(音楽教育学)。お茶の水女子大学大学院博士課程(児童・保育学)にて発達支援及び読譜を中心とした音楽教育の研究中。
約30年間、子どものピアノ教育及び音楽教育に携わり、ダウン症、自閉症、発達障害の子どもたちの支援を行っている。2016年12月よりムンバイに移住。
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