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【インドの育児と教育レポート】 第1回 語るに難しい国、インド

深町 澄子

2019年4月26日掲載

はじめまして。夫のインド駐在を機にムンバイに移り住み3年目となりました。日本で暮らす16歳の長女とムンバイでインターナショナルスクールに通う10歳の二女を育てる母です。ムンバイでは、教育環境の研究調査などを行い日本人及び海外駐在員のご子息や近所のインド人の子どもたちにピアノを教えています。近年、インドの経済発展は目を見張るものがあり、我が国もメトロ開通やIT産業への協力や研究を行っています。金融、サービス、メーカーなどの多くの日本の企業がインドの企業と提携して参入し、拠点を設けています。インドは歴史や文化や宗教に生活の様式が大きく影響され、他民族・他言語の人々がお互いを尊重しあい、融合しながら暮らしています。しかし、古くから残る身分制度や貧富の差は、通りを歩けばすぐに目の当たりにすることができるほど顕著であり、多くの人々がひしめきあって暮らしている様は日本では決して見ることができない光景です。この国の子育て事情は、その子どもが生まれた環境によって大きく異なります。日本のように義務教育で皆が同じ条件で学ぶことやケアされるということはありません。日本では想像できないようなことが家庭や学校の教育現場で行われることもしばしばです。このような事情が日本で紹介される機会は少ないと思われます。私自身は、児童学を専門としており特に音楽教育を中心にインドの幼稚園、保育園、そしてスラムの子どもたちと関わりながら研究をしつつ、わが子の子育てをしています。文化や宗教など、日本とは多くの違いのある国で環境に適応するまでの苦労や戸惑い、またそれに対する対策や工夫などをご紹介していきたいと思います。


インドについて

正式名称はインド共和国といい、首都は北部に位置するニューデリーです。

パキスタン、中国、バングラデシュ、ネパールなどに国境を接しており、国土面積は約329万平方キロメートルと日本の約9倍の広さをもちます。人口は中国に次ぐ世界第2位の約13億人を擁する多民族国家です。全部で29の州と7つの連邦直轄領から成り、私が暮らすムンバイは、マハーラーシュトラ州にあります。

気候は冬期(1月~2月)、プレモンスーン期(3月~5月)、南西モンスーン期(6月~9月)、ポストモンスーン期(10月~12月)に分かれ、地域により気温・湿度の差が非常に大きいです。インド北部国境付近のカシミール地方は冬期には雪が降りますが、ムンバイは冬期でも日中は28℃近くまで気温が上がるので年中半袖を着ています。

言語は、連邦公用語のヒンディー語、準公用語の英語・タミール語などを加えて22の公用語が憲法で公認されており、各州で言語が異なる多言語国家です。しかし、高等教育や行政、ビジネスにおいては共通言語として英語が用いられています。したがって私たち外国人が生活するうえでは、100%ではありませんが英語でのコミュニケーションが可能です。

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タージマハル

宗教はヒンドゥー教、イスラム教、キリスト教、シク教、仏教、ジャイナ教など多岐に渡ります。それぞれの宗教ごとに祭事や祝日が異なるため、カレンダーには全ての宗教行事が印字されており、毎週のように街のどこかで宗教行事が行われています。

ムンバイはインドの西海岸アラビア海に面したインドの最大都市で国内経済の中心都市として重要な拠点となっています。また娯楽文化においても国内の中心地です。「ボリウッド」で有名な映画産業、また主要なテレビ局、出版社などは全てムンバイに本社を置いています。

家庭環境の違いによる子育ての違い

日本とインドでの子育ての違いを語るのはとても難しく、インドでは基盤となるその家庭の経済状況によって妊娠出産から成人するまでの親の関わり方が大きく違います。現在、娘が通うインターナショナルスクールはインドの財閥系の学校のため、ムンバイでも限られた富裕層の子どもたちが在籍しています。入学式で校長先生から送られたメッセージの要約を参考にしてみてください。

「子育てをするのは両親の役目です。子どもの世話をするのは教師でもなく祖父母でもなくベビーシッターでもなくドライバーでもなく家の使用人たちでもなく、あなた方両親なのです。朝晩、子どもと会話をしてください。どんな些細なことでもその変化に気づき耳を傾け一緒に笑い、喜び感動を共有してください。スマートフォンに子守をさせてはいけません。親同士がコミュニケーションをとる目的で開設したSNSグループで些細な問題を大きく拡散したり情報に惑わされて真実を見失ったりすることがないよう、理性をもって親としての務めを果たして下さい」

このように、学校はインドの子育て事情に一歩切り込んだ、厳しくも真っ当な提言をしています。これは日本人にとっては当たり前のことと受け止められるかもしれませんが、インドの富裕層では、子どもたちは幼いころから「帝王学」を学び、将来人を動かすことを目的に育てられるため日常生活のほとんどを他人の手にゆだねられています。例えば、学校の行き帰りはドライバーさんによる送迎、荷物は自分ではなくベビーシッターが持つ、雨の日は傘を横からさしてもらいメイドさんはずぶ濡れとなる、幼児期には四六時中子どものそばにべったりとベビーシッターが付き添い、子どもがおやつを食べたい時には顔を斜めにあげて口を開けるとベビーシッターが口元にクッキーやチョコレートをそっと入れてあげるというような光景がしばしば見られます。また、シャワー時も服の着脱から体や髪の洗浄まで全てベビーシッターが行うため子ども自身は黙って立っているだけです。こうした幼児期の過保護から徐々に学童期に向けて自立させるために、学校から保護者に対して、まずは両親が子どもの世話をしましょうというメッセージを伝えるのです。10歳の下の娘が友達の誕生会に招待され私が付き添ったことがあるのですが、呼ばれた子どもの半数くらいはメイドさんかベビーシッターさんに送迎されたり付き添われたりしています。

一方、スラムで暮らす子どもは、多くはその宗教ごとに開設された保育園のような預かり所に、朝早く母親に連れて行かれます。母親はメイドとして他の富裕層のインド人家庭を何軒か掛け持ちして働いており、それが終わると夕方保育園に子どもを迎えに行きます。子どもたちは、寄付された古着を着て、サイズの合わない靴やサンダルをつっかけて不安定な足取りです。しかし母親が迎えに来るとその手をぎゅっと握りしめて、1日の報告を嬉しそうに話す様は日本もインドも変わりなく、とてもほほえましく思えます。子どもの笑顔には貧富の差や生活への不安や不満などは、みじんも感じられません。こうして保育園に通わせることができるだけでも幸せだと、彼女たち母親は言います。というのも、ムンバイでは高速道路の下や道路脇、また川の土手で多くの路上生活者が生活しており、彼らはスラムよりももっと過酷な生活をしているからです。そこで生まれ学ぶ機会も得られず、物乞いとして生きるすべを習得する子どもたちの姿があることも、インドの現実です。

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緑豊かな市街地
 
富裕層の暮らす住宅街
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スラムの街並み
 
モンスーンの時期はスラム一帯が
雨よけのブルーシートで覆われます

先日、日本人駐在員の妻として帯同している私の友人が、インドで出産をしました。インドで出産するのは、安全面や衛生面や乳児の子育ての面からも、とても勇気がいることと思われています。ほとんどの方は日本に一時帰国されて赤ちゃんの予防接種なども終えられてからインドに戻られることが多いのですが、数名の方はこちらで産み育てていらっしゃいます。インドの人口の多さはあらゆる場面で実感しますが、今回はお話を聞いて出産時のスタッフの多さに驚きました。まず、産婦人科医師2名、同助手医師2名、麻酔科医1名、そして小児科医が3名、看護士6名が同じ分娩室でずっと出産を見守ってくれ、とても安全に安心して出産することができたと喜んでいました。友人は誘発分娩で、日本よりもかなり強力な薬剤を使用してのお産だったそうですが、無事に出産を終え赤ちゃんもインドですくすくと育っています。インドのお産は通常1泊2日で、帰宅後はベビーシッターがついて世話をしてくれることがほとんどです。ベビーシッターは、赤ちゃんが泣き始めると、「おくるみ」でかなりきゅうきゅうと身体を固定させて包んで、手足が不安定にならない姿勢を保持させているようです。日本では見慣れない光景でしたが、こうすると安心してすやすやと寝入るそうです。シッターさんが目の前で手際よく赤ちゃんを包むインド式のベビーケアを見せてもらい感心しました。

このようにインドの出産・育児は、その家庭の経済状況に応じて様々です。悲しいことですが路上で誰の手も借りずに出産する女性もいれば、手厚く看護されて出産する女性もいます。インドで暮らしていると、こうした現実から目をそむけることはできません。私たちに何ができるか、どんな価値観や人生観をもってこのムンバイに暮らすかということが最大の課題であることは言うまでもありませんが、この環境で子どもを育てるということは、子どもたちの素朴な疑問にも答えていかなくてはなりません。物乞いの子どもたちを「どうしてあの子たちは学校にいかないの?」「どうして裸足なの?」「どうしてあんなに貧しそうなのにいつも笑っているの?」と訝しげに見つめるわが子の素直な言葉にも寄り添っていく必要があります。語るにはとても難しい国、インドではありますが、陽気で人々の活気あふれる商都ムンバイの良さをお伝えしながら、こちらの子育て事情を少しずつご紹介していきたいと思います。

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スラムの幼稚園にて

筆者プロフィール
sumiko_fukamachi.jpg 深町 澄子 静岡大学大学院修士(音楽教育学)。お茶の水女子大学大学院博士課程(児童・保育学)にて発達支援及び読譜を中心とした音楽教育の研究中。
約30年間、子どものピアノ教育及び音楽教育に携わり、ダウン症、自閉症、発達障害の子どもたちの支援を行っている。2016年12月よりムンバイに移住。
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