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【インドの育児と教育レポート】 第12回 ムンバイで活躍する日本人ボランティア(2)~小児がんの子どもたちや高齢者を支援

新型コロナウイルス感染回避のため、ムンバイに駐在中の日本人家庭のほとんどが、一時的に日本へ退避帰国をしました。現在、インドは感染者数が急増していますが、3月~4月頃は新型コロナウイルス感染症への感染確率が日本よりも低いと考えられていました。しかし、6月28日にマハラシュトラ州政府は、ロックダウンを7月31日まで継続すると正式に発表しました。モール、映画館、複合施設、学校、プールなどは州全体で閉鎖が継続されます。買い物や屋外での運動などの外出は、自宅から2キロ以内の範囲で許可されますが、それを超える長距離の移動には警察の許可が必要となっています。

このように長期化するロックダウンによる食料や水の調達不安、外国人の医療機関受診不可、スラム街での感染発症に加え市民の暴動などへの危機感から、企業からの命令で退避した人々も多くいます。その一方で、インドへの残留を決めた日本人家族もいます。そうした方々は、不便な生活を強いられている中、同じくムンバイ駐在員である外国人家庭や近隣インド人家庭と協力し、SNSを活用し情報交換をしながら生活をしています。
今回は、第10回に引き続き、ムンバイで活躍するお二人の日本人を紹介します。

小児がんの子どもたちへ ひと針 ひと針 心をこめて

はじめに、小児がんの子どもたちへの支援活動をしている団体の紹介です。
ムンバイ市内で活動するHook a Stitchという日本人ボランティアグループは、かぎ針で毛糸のニット帽を編んで、ムンバイ市内にある小児がんと闘う子どもたちをサポートする施設にニット帽を寄付している団体です。

この施設では、療養している子どもたちだけでなく、その両親や家族も一緒に共同生活をしています。患者は、手厚い医療や援助を受けるために、充分な施設がない郊外の都市から、ムンバイに集まっているそうです。その為、施設での食事の準備や掃除などの生活介助は、施設スタッフだけではなく、療養中の子どもたちの家族もともに担っています。

3月の取材時には、こちらのボランティアグループには約12名のメンバーが在籍していました。全員で集まって行う活動は不定期で、新しいメンバーが加入した際に、編み方のレクチャーやランチを共にするなどして交流を図っているそうです。それぞれが各自のペースで空いた時間を利用して自宅などで編み、1~2ヶ月に1回のペースで代表者が完成したニット帽を編み手から回収したり、新しい毛糸の受け渡しをしているとのことです。 編み上がったニット帽は、グループ全員で数ヶ月に一度、施設を訪問して子どもたちへ手渡します。筆者の友人たちも、このボランティア活動に取り組んでいます。

療養中の子どもたちができるだけ快適に過ごせるように、肌ざわりのよい素材を選んだり、編み方などを工夫し、また、鮮やかな色合いの毛糸で編むなど子どもたちが少しでも明るい気分になれるよう、そして子どもたちの笑顔に繋がるようにと、それぞれが気持ちを込めてひと針、ひと針を大切に編んでいるそうです。

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かぎ針編みのニット帽
 
カラフルな色使い

    report_09_371_03.jpg メンバー揃って施設へニット帽を寄付

今回、私がお話を聞いた友人の一人は、数年前に桜会という日本人会の婦人会(※現在は日本人会に統合)を通して、外国人の駐在帯同者のボランティア活動グループがあることを知ったそうです。現地の方たちの何かお役に立てる事ができればと思い参加し、その後、日本人だけのグループを作られたそうです。前々回ご紹介した、農村に女性の生理用品キットを届けるボランティア活動と同様に、インド人やその他の国の人たちの中で日本人がたった一人で活動を始めるのは、とても勇気のいることだと思います。こうした活動の輪を広げ、日本人だけのグループを立ち上げたことにより、インドに来てまだ日が浅い人も一人で不安に思うことがなく、気軽にボランティア活動に参加できるようになり、また友人と一緒に楽しく参加できるようになったそうです。

活動の中心となってきた友人は、

「私がボランティアを始めて感じたことは、日本人と比べ、その他の国から来ている奥様方がボランティアにとても積極的だということです。
駐在中、当地ではビザの関係で配偶者が働くことはできず、家庭ではメイドさんが掃除など家事を全て担ってくれるため、妻は時間を持て余すことが多々あります。
習い事をしたり学校へ通ったり、自身のために時間を費やすことも素敵ですが、せっかくならその時間を使って当地に住んでいる方のために少しでも役に立ちたい。そのような気持ちをもっている方がとても多く、このグループ以外にも様々な活動に従事している方がたくさんいらっしゃることを知り、私自身もそれを見習いたいと思いました」
と、ボランティア活動への思いを語ってくれました。

この友人は、今年3月末に日本へ完全帰国しましたが、今後もこの活動が発展していくことを願っていました。このような先輩方の思いを、きっとムンバイで暮らす日本人が引き継いでいくことと思います。

老人ホームでビンゴ大会

2人目は、日本でも介護施設などでボランティアの経験のある木村さほさんです。ムンバイでお子さんを出産した数少ない日本人の一人です。お子さんの通うインターナショナルスクールの韓国人保護者のお誘いを受けて、ムンバイ市内の老人ホームでボランティア活動をされています。そこでは、日本人を含む海外出身者ら7名の方々が交代で月に1回、約1時間半の活動に携わっているそうです。

活動の内容は、ホームに集うインド人の高齢者の方々とビンゴゲームをして楽しむことがメインだそうです。ボランティアの方々は、ゲームの進行や参加者へのサポート、また会場の雰囲気を盛り上げるなど、明るく楽しい時間が過ごせるように配慮しながら活動しています。

1年のうち1、2回はランチを楽しむ会も開催されます。老人ホームにケータリングでお食事を用意したり、市内のクラブハウスに出かけていき、そこでビンゴゲームをした後にランチをしたりするそうです。こうしたイベントで食事をとる際には、参加者の食事の制限に留意することはもちろんですが、木村さんが同行された際も、必ずお一人ずつに「ベジタリアンですか? ノンベジタリアンですか?」と確認していて、日本との違いを痛感されたそうです。

また、高齢者の方のほとんどは英語を話しますが、中にはヒンディー語やマラティー語(マハラシュトラ州の公用語)などの現地の言葉しか話すことができない方がおられ、そうした方々と意思の疎通を図るのはなかなか困難です。木村さんはじめボランティアのスタッフは、身振りや手ぶりや顔の表情などで、高齢者の気持ちを推察し、お互いの心が通うように努めていらっしゃいます。

だれでもウェルカム! 尊重される高齢者の人権

ムンバイは、インド随一の商業都市であり、多くの出稼ぎ労働者を抱える都市として有名です。人々の流出入は他都市と比較しても非常に多く、自由な街という印象があります。そうした中で、このような老人ホームに入居しているのは、比較的裕福な家庭の高齢者が多く、広く社会との接点をもっている方も多いため、外国人のボランティアスタッフを快く受け入れます。このようなボランティアは登録不要で、だれでもいつからでも活動を開始できることから、木村さん曰く、日本よりもボランティア活動を始める際のハードルが低いように感じるそうです。

また、木村さんが携わっている老人ホームの高齢者の方は、とても自立していると感じるそうです。お世話をする人は、高齢者に対して対等に接しており、幼稚な扱いはもちろん、逆にお客様扱いのような対応もすることなく、人として一対一で向き合っている姿を見ることができます。それは、この老人ホームには、身体機能の状態が良好な方が多いことも、理由の一つだと思います。そして、認知症と思しき方も含め、みなさんが生き生きと明るい表情で過ごされていることが、人権や人としての尊厳を守り、対等に接することを意識させるのだろうと推察します。

そして、インドには、高齢者を大切に敬う習慣があります。招かれたご家庭に高齢の方がいらした場合は、必ずその方の足元に膝まずいて右手で高齢者の足先に触れてから、その手を自身のおでこや胸に当てて尊敬の念を表します。このお作法は目上の人や「グル」と呼ばれるインドの民俗文化の師匠に対しても、同様に行われます。以前に、筆者がスラムで研究調査を行った際、協力者の方々へ薄謝を手渡したときに、このお作法を初めて受けて、飛び上がって驚いた記憶があります。「とんでもないことでございます」と、お互いに膝まずき合って敬遠したのを記憶していますが、インド人の高齢者の方々は、こうしたお作法に対し、静かにそして堂々と慈悲深い笑みで応えられています。その姿はとても美しく、一瞬で辺りが荘厳な雰囲気に包まれます。老人ホームにおいても、高齢者の尊厳を大切にしてボランティア活動が行われている様子が木村さんのお話からも伝わってきました。

 
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老人ホームで過ごす高齢者たち

今回ご紹介した2つのボランティアは、支援を要する人々に対し、身体介助ではなく、心に寄り添う活動を行っています。専門的な知識や技術がなくても誰かの役に立てることがたくさんあるのだということに気づかされます。以前にご紹介した「ムンバイで活躍する日本人ボランティア(1)」と合わせて、4つのボランティア活動の取材を通して最も印象的だったのは、全員が「自分の時間を誰かのために費やしたい」とおっしゃっていたことでした。これがボランティア活動の原点なのだと改めて思いました。

新型コロナウイルスの流行が収束すれば、多くの日本人が再びムンバイに戻ることができます。筆者も含めその時を静かに待ちたいと思います。また、ムンバイに残留している友人たちにも心からエールを送りたいと思います。 "Stay Home, Stay Safe."

筆者プロフィール
sumiko_fukamachi.jpg 深町 澄子 静岡大学大学院修士(音楽教育学)。お茶の水女子大学大学院博士課程(児童・保育学)にて発達支援及び読譜を中心とした音楽教育の研究中。
約30年間、子どものピアノ教育及び音楽教育に携わり、ダウン症、自閉症、発達障害の子どもたちの支援を行っている。2016年12月よりムンバイに移住。
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