CHILD RESEARCH NET

HOME

TOP > 論文・レポート > 子育て応援団 > 【スウェーデン子育て記】第35回 新型コロナウイルス対策 スウェーデンの小中学校

このエントリーをはてなブックマークに追加

論文・レポート

Essay・Report

【スウェーデン子育て記】第35回 新型コロナウイルス対策 スウェーデンの小中学校

English

2020年は世界中が新型コロナウイルスの感染・拡大で大騒動となりました。各国の対策には実施開始時期やその程度に違いはあるものの、外出は控えて自宅で自粛生活をするという対応については共通であると思います。そんななか、スウェーデンは他国とは違う対策を講じているということで注目されています。もともとインターネットの普及率が高いこともあって、テレワークが可能な職種では、ほぼ自宅で仕事をするようになりましたが、国家全体で集団免疫を獲得するという方針のもと、基本的には通常通りの経済活動が行われています。

子どもたちの生活に直接関係する教育機関については、2020年3月の初頭に高等学校と大学は校舎を閉鎖して休校になりました。授業がオンラインに移行されたので、教師はその対応で大変だったそうです。一方、スウェーデンの小中学校と保育園・幼稚園は一度も閉じることはなく、継続して開いています。近隣のノルウェーやデンマークでは3月の上旬からすべての教育機関の閉鎖を決定していたので、この点でもスウェーデンは独自の対応をしていると言えるでしょう。

日本の厚生労働省にあたるスウェーデンの Folkhälsomyndigheten(資料1)からの指導によると、体調の悪くない健康な子どもは自宅待機をする必要はない、とのことでした。細かい対応は各教育機関やコミューンに任されているそうですが、基本方針としては子どもたちの学業を中断させないこと、そして保護者の経済活動を止めないことを重視しているようでした。つまり高校生以上の子どもは一人で自宅待機も可能ですが、低年齢の子どもは自宅に一人で置いておくわけにもいかず、休校にすると保護者が経済活動を一時休業する必要が出てくるため、小中学校や保育園・幼稚園を閉じないことについては、それを回避するという目的もあるのかもしれません。さらに一般的な見解として、子どもは感染しても重症化しにくい、またはそもそも感染しにくいという考えが広まっているようです。

とはいえ、学校内では生徒への指導が細かく行われています。石鹸で手を洗って清潔に保ち、手で顔を触らないこと。床、机、コンピュータなどの学習用具の掃除と除菌はこまめにすること。人の密集を避けるために机の間隔をあけたり、各クラスの給食の時間をずらすこと、発表会や集会などは行わないなどの取り組みがされています。授業内ではウイルスについての説明がされ、衛生観念が教えられているとのこと。子どもは咳やのどの痛みなど、少しでも体調の変化がある場合は学校を休み、その症状が改善してから2日間をおいて登校するということになっています。

我が家の娘たちは小学校と中学校に通っています。他国の様子を見つつ、スウェーデンでもいずれ休校になるのかな、と思っていましたが、そのようなお知らせはありませんでした。もともとマスクを着用する習慣が無いうえに薬局では売られていないので、感染予防や感染拡大を防ぐ手立てがあまりにも弱くて不安になりました。新型コロナウイルスの正体がよくわからないことで不安になる保護者は、当然増えていきました。他国で休校や外出自粛が始まった3月初頭から、保護者の判断で子どもを休ませて自宅待機にしている家庭がいくつかありましたが、4月になるとそれも徐々に減少して、5月現在の今は、ほぼクラスの生徒みんなが学校に来ているそうです。ダンスやスポーツの習い事も、密集を避けるかたちで継続しています。新型コロナウイルスが騒がれ始めたころは、ウイルスへの恐怖や不安を口にしていた我が家の子どもたちは、最近はほぼそのようなことがなく、放課後はいつものようにお友達の家に行って遊んだりしています。もちろん手洗いは行い、衛生には常に気を付けるようにという指導は変わっていませんが、子どものことなのでどこまで守れているのかわかりません。

スウェーデンのコロナウイルス対策が妥当であるのかそうでないのかは、もう少し時間をおかないと判断は難しいのかもしれません。ただ、子どもの生活と学業に対しては最小限の影響で済んでいるのは間違いないようです。今後も長期間で続く新型コロナウイルス対策のなかで、スウェーデンの対策例がどのような役割を果たすのか興味深いところです。

report_09_363_01.jpg 中学校の放課後風景

資料1 https://www.folkhalsomyndigheten.se/

筆者プロフィール
下鳥 美鈴

東海大学文学部北欧文学科卒業。ストックホルム大学で修士課程を終え、ウメオ大学(スウェーデン)で博士課程を修了。言語学博士。
このエントリーをはてなブックマークに追加

TwitterFacebook

インクルーシブ教育

社会情動的スキル

遊び

メディア

発達障害とは?

論文・レポートカテゴリ

アジアこども学

研究活動

所長ブログ

Dr.榊原洋一の部屋

小林登文庫

PAGE TOP