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流行はいつ収まるのか?

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新型コロナウイルス感染症の流行は、いつ収まるのでしょうか。

これは誰もが知りたいことです。もちろん私にも正解は分かりませんが、どのような条件が揃えば流行は終焉するのかについては、言うことができます。ここで、そうした条件がどういうものか解説します。

まず、もし新型コロナウイルスが、インフルエンザやロタウイルスのように、季節性のあるウイルスであれば、季節の変化によって自然に収まるか、あるいは流行が下火になります。普通の風邪を起こす旧型のコロナウイルスは、冬に流行する季節性のあるウイルスですから、新型にもその特徴が残っていれば、暖かくなると自然に下火になっていきます。ただ、新型コロナウイルスがこうした旧型コロナウイルスの特徴を受け継いでいるのかは、まだ未知です。また、すでに高温高湿度の国で流行していますから、残念ながらこれはあまり期待できないかもしれません。ただ、全く可能性がないわけではありません。

自然に下火にならなくても、クラスターによる感染の広がりを丁寧に潰してゆけば、国全体に広がる前にウイルスの伝播が止まる可能性もないわけではありません。中国では現在新規の感染者がとても少なくなっていますので、国民全体に感染が広がる前に封じ込めに成功したのかもしれません。ただしこの場合、国民の多くは感染していませんので、抗体を保持しておらず、将来外国などから新型コロナウイルスが持ち込まれれば、また感染の蔓延が始まる可能性があります。

上の二つの可能性は、感染経路のわからない新型コロナウイルス患者が増えている日本では、可能性はあるもののあまり期待できないかもしれません。その場合は以下に説明するシナリオになります。

一般的に伝染性の高いウイルス疾患は、一定以上の数の人が一旦かかって治るか、ワクチンによって抗体をもつようになれば収まります。例えば、麻疹は先進国では大流行することはありません。それは国民のほとんどが幼少時に予防接種を受けて、抗体をもっているからです。それでも麻疹ワクチンの予防接種が行き渡っていない開発途上国では、いまだにワクチン非接種の子どもの間で麻疹が流行し、多くの人が命を落としています。国際保健機関の調査では2001年に、世界で麻疹にかかった人(多くは子ども)は3,000万人から4,000万人いると推計されており、約75万人が命を落としているのです。

新型コロナウイルスは、究極的には国民の60%から70%が抗体をもつようになれば収まると試算されています。実際にドイツのアンゲラ・メルケル首相は、そのことを国民にむけたメッセージの中で述べています。

では、この新型コロナウイルスに対する抗体を70%の国民がもつようになるシナリオはどんなものでしょうか? 一つは無症状感染(不顕性感染)や様々な重症度の新型コロナウイルス感染症に、実際に国民の70%がかかるというシナリオです。治療薬のまだない(候補薬は複数見つかっていますが)現在の状態が続くと仮定すれば、1%から3%の重症感染による死亡者が出る計算になりますから、これはぜひ避けたい最悪のシナリオです。

もう一つのシナリオが、有効なワクチンの開発によって、麻疹のように死亡者をほぼゼロ近くまでもってくることができるというシナリオです。これが一番望ましいシナリオになります。

第3のシナリオはワクチンが開発されなくても、有効な治療薬と、重症者の人工呼吸器による治療とを合わせて、死亡者数を大幅に下げながら、軽症・中症の感染から回復して抗体をもつようになるというものです。

爆発的な感染による医療崩壊を避けて、最悪のシナリオにならずにこのパンデミックが収まるのを期待したいと思います。

筆者プロフィール
sakakihara_2013.jpg榊原 洋一 (さかきはら・よういち)

医学博士。CRN所長。お茶の水女子大学名誉教授。ベネッセ教育総合研究所常任顧問。日本子ども学会理事長。専門は小児神経学、発達神経学特に注意欠陥多動性障害、アスペルガー症候群などの発達障害の臨床と脳科学。趣味は登山、音楽鑑賞、二男一女の父。

主な著書:「オムツをしたサル」(講談社)、「集中できない子どもたち」(小学館)、「多動性障害児」(講談社+α新書)、「アスペルガー症候群と学習障害」(講談社+α新書)、「ADHDの医学」(学研)、「はじめて出会う 育児の百科」(小学館)、「Dr.サカキハラのADHDの医学」(学研)、「子どもの脳の発達 臨界期・敏感期」(講談社+α新書)など。
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