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【ニュージーランド子育て・教育便り】 第19回 新型コロナウイルス対策によるロックダウン後の保育園再開

要旨:

今回は、新型コロナウイルスの感染を抑え込むために保育園が閉鎖された際に、また保育園の再開後に、保育園の先生たちがニュージーランドの幼児教育カリキュラムであるテファリキをどう解釈して対応してきたのか、その様子について執筆します。警戒レベルが徐々に下がるにつれて、息子がどのように保育園に復帰したのかについてもお伝えしています。

前回と少々重なりますが、ニュージーランドでは、新型コロナウイルス感染症対策として、危機対応レベルを4段階に分けて対応してきました。レベル4のロックダウンが最も規制の厳しい段階であり、数字が下がるにつれて規制が緩くなっていきます。前回触れた通り、各警戒レベルに応じて小学校では子どもたちの生活様式が異なっていたのですが、幼児教育の年代の子どもたち自身には、あまり感染症予防ができるとは想定されておらず、ソーシャルディスタンスをとることも期待されていません。体調が悪い場合には休むということを徹底したり、手洗いの回数を増やすといったこと以外には、特に子ども自身への制約はありませんでした。分かりやすいように、小学校の場合と同様に表にまとめました。

警戒レベルと保育園の対応

 新型コロナウイルス感染症の蔓延状況保育園の対応
レベル4ロックダウン
2020年3月25日深夜~4月27日深夜
市中感染が発生している。
ウイルスの拡散、新規クラスターが発生している。
園の閉鎖
レベル3規制
2020年4月28日~5月13日深夜
市中感染がある可能性がある。
新規クラスターの発生の可能性があるが、検査や追跡によりコントロール下にある。
原則として家庭で子どもの面倒をみること。5月11日から必要な場合には登園可能。
レベル2規制緩和
2020年5月14日~6月8日深夜
家庭内感染の発生の可能性がある。
個別の単発クラスターのみが発生している。
5月18日から原則として子どもたちの登園が再開。
保護者同士の距離は確保する。
レベル1準備段階
2020年6月9日~
海外でのウイルス感染が継続している。
家庭内感染が発生しうる。
ほぼ通常通りの園生活。

4段階の警戒レベルに応じた保育園の対応

各レベルにおける保育園の対応としては、レベル4では保育園閉鎖です。レベル3の段階では原則は家にいることとされましたが、保護者が通勤しているなどで子どもの登園を希望する場合には、事前に申し出る必要があるものの通うことができました。この判断は保護者に委ねられており、登園が必要な理由を申告する必要はありませんでした。息子の保育園でも数名が戻っていたようです。(レベル4とレベル3の間の様子については第17回のレポートで取り上げました。)

息子は、レベル2になって保育園が再開した際に復帰しました。送迎する保護者が園に入る際に、備え付けのアルコール消毒剤で手を消毒すること、送迎時はなるべく速やかに園を出ること、といった大人への要請がありました。保護者同士は距離を保ったままでお互いに気を使い、普段のように先生と話しこんだりすることはしないようにしました。一方、小学校入学前の幼児教育の年齢の子どもには、友だち同士の距離を保つことも全く期待されておらず、息子は通常通り保育園に着くなり、大好きなお友達に駆け寄り、身体も顔もくっつけるようにして、お互いに満面の笑みで遊んでいましたが、先生からはお咎めなし。子ども同士はべったり至近距離、大人は少し距離を保つという関係が、理由は分かってはいても、少し不思議な感じがしました。レベル1になってからは、大人同士も通常通りの振る舞いができるようになりました。

保育園閉鎖時・再開時の対応について

レベル1になってから、ロックダウン中や復園にあたっての先生方の対応や考えていたことを記事として執筆したいとお願いしたところ、それらをまとめた資料をくださり、復帰後の対応の数々を教えて頂くことができました。先生の作成した資料によれば、息子の通う保育園では、新型コロナウイルスの大流行を間違いなく子どもたちが今までの短い人生で経験したことのない事態ととらえ、どのように子どもたちやその家族を支えるべきかを考えたそうです。その結果、息子の保育園では、ニュージーランドの幼児教育カリキュラムであるテファリキ(詳述はここでは避けますが、4つの原則と5つの要素を組み合わせたニュージーランドの幼児教育のカリキュラムi)で重視している5つの要素「心身の健康(Well-being)」、「所属感(Belonging)」、「貢献(Contribution)」、「コミュニケーション(Communication)」、「探究(Exploration)」のうち、先行きが不確定な現状において「心身の健康(Well-being)」「所属感(Belonging)」を重視することになったそうです。

この連載の17回目で取り上げたテレビ電話ですが、それは先生方がニュージーランドの幼児教育カリキュラムであるテファリキを解釈して作り上げたものだったのだと初めて知りました。「所属感(Belonging)」を意識して、離れていても繋がっていることを重視して考えた末、ビデオ電話、動画ファイルの送付などをすることになったわけです。このことを知ってから改めて考えてみると、先生が会話の中で息子のお友達の名前を頻繁に出していたことや、「息子のことが好きなお友達がビデオ電話をしたがっているんだけれど電話番号を教えてもいい?」などと聞かれたことなど、繋がりを意識した会話が多かったようなことも思い出しました。また、ロックダウンが明ける前に、ロックダウン中の子どもたちの写真を送って欲しいというメールも来ていました。この際に親から保育園に送られた写真は、再開後の保育園の壁に飾られていました。また、保育園に行けない間、街にクマのぬいぐるみがいっぱい飾られていた様子についての写真も同様に保育園の壁に飾られていました。ロックダウン中の過ごし方を、保育園と切り離された経験として捉えるのではなく、保育園の生活の中に組み入れていることがよくわかりました。

report_09_375_01.jpg 登園できなかった期間の写真展示コーナー
(レベル4、レベル3の間は、同居している人たちをシャボン玉の泡(Bubble)が囲っているようなイメージが国内で共有され、原則としてそのBubbleの外の人とは接触しないということになっていました。園児たちもそれぞれのBubbleの中で生活していたので掲示が「Bubble Lifeの写真」となっています)


report_09_375_02.jpg 散歩している時に何を見た?(ロックダウン中の街の風景が飾られています)


「心身の健康(Well-being)」については、保育園復帰後、子どもが主体的に自身の健康を守れるような経験をすることを通して、その大切さを教えたいと書かれていました。少し体調が悪かったら家にいることにしたり、頻繁に手を洗ったり、咳やくしゃみをするときには肘で口を覆うといったことが自分の健康を守るのだということを、楽しくポジティブな経験として教えたい、と書いてありました。もともとランチの前には列になって手を洗う園ではありましたが、確かに息子は以前にも増して誇らしげに手を洗うようになりました。

更に、息子の保育園のある先生が作成した「We all stayed home」と題する15ページほどの冊子に沿って、ロックダウンから保育園の再開までの流れが園児に説明されました。この冊子は、保育園が再開したとしても、以前とは生活ルールなどが少し変わっているので、その理由を子どもたちが理解できるレベルで説明する必要があるということで作られたそうです。幼児にコロナウイルスについて教える教材が各種存在しますがii、保育園の先生が作成したものは、より保育園や地域に即した内容や写真が満載です。先生に説明して頂いたことで、まだ語彙の限られた息子ながらも「新型コロナウイルスのせいで保育園が閉じて、今はもう大丈夫になって、また開いた」という単純な流れを理解することができたようです。


report_09_375_03.jpg 再開した保育園にて


ロックダウン明けの保育園での生活の、息子の楽しみようは想像を上回るもので、毎日大はしゃぎしていました。特に最初の数日は、迎えに行っても遊びの真っ最中で、がっかりされました。他の子どもたちも、保育園の終了時刻になっても帰りたがらない子どもたちばかりでした。ロックダウン中、息子はまだそれほどの言語力もなく、大人のような深い理解力もないだろうから、コロナウイルスに際した心理的な負の影響は、大人と比べたら小さいのではないかと思っていました。しかし、この子どもたちの喜び方を見て、ロックダウン中は相当つまらなかったのかな、ストレスが溜まっていたのかな、逆にもう少し気をつけてあげたらよかったなとも思いました。別の見方をすれば、ここまで多くの園児が保育園再開後の毎日を楽しめたことは、先生方が懸命に心を繋ぎとめてくださっていたからのようにも思います。

先生方の温かい対応は、テファリキを先生方なりに解釈して作り上げた教育だったのかと思うと、改めてテファリキの良さを感じた次第です。とはいっても、テファリキの自由度の高さを先生方が最大限解釈した結果として、息子の保育園にもたらした良さでもあり、園によってはそこまで良さを発揮しなかったケースもあり得ただろうなということも推察します。先生方から見せていただいた書類の中に、子どもが不安にならないように「保育園もこの世界も安心していられる場所なのだと感じられるようにサポートしたい」という趣旨のくだりがあり、大人の一人である私にも突き付けられた難題のように思えています。



9月4日追記:
ニュージーランドでは5月上旬から市中感染者が確認されず、日常生活に制約のない状態が続いていました。本稿は、その間に書いたものです。その後、オークランドで8月11日に市中感染者が確認されたことから、8月12日正午~8月30日深夜まで、再びレベル3にオークランドの警戒レベルが引き上げられました。8月31日からはレベル2になっています。保育園では前回のレベル3、レベル2の時と同様の対応がとられています。
(オークランドを除く他の地域は8月12日正午から現在までレベル2です。)


筆者プロフィール
村田 佳奈子

東京大学大学院教育学研究科修士課程修了。幅広い分野の資格試験作成に携わっている。7歳違いの2児(日本生まれの長女とニュージーランド生まれの長男)の子育て中。2012年4月よりニュージーランド・オークランド在住。
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