CHILD RESEARCH NET

HOME

TOP > 論文・レポート > 子育て応援団 > 【ニュージーランド子育て・教育便り】 第4回 小学校への適応(ニュージーランドならではの課題)

このエントリーをはてなブックマークに追加

論文・レポート

Essay・Report

【ニュージーランド子育て・教育便り】 第4回 小学校への適応(ニュージーランドならではの課題)

前回は、ニュージーランドの小学校入学時には、小学校生活に適応するために1人ひとり非常に手厚く対応してもらえるという良い点をご紹介しました。それも独特の誕生日順入学システムや少人数教育によるところが大きいのでしょう。今回はニュージーランドの小学校ならではの課題について書きたいと思います。

4月、5月、6月生まれの悩み

ニュージーランドでは、学年の前半生まれ(1月~通常5月)と後半生まれ(通常6月~12月)の月齢による差がとても大きくなってしまいます。前回も述べたように、ニュージーランドの新年度は2月にスタートで、その後1年を通して誕生日順に入学します。そして、5月末あたりを境に翌2月に進級する学年を変えている学校が多いようです *1。仮に、5月末を学年の境目とすると、5月31日生まれの子は入学した翌年の2月に2年生になります。6月1日生まれの子は翌2月に1年生になります。前半生まれの子どもは、1年生として過ごす期間が、短い子だと約半年のみになります。逆に後半生まれの子どもは、1年生を約1年半もする子もいることになります(正確には最初の半年は0年生とみなされますが、0年生と1年生で学習内容に違いが設けられているわけではありません)。つまり、半年しか1年生をできない月生まれの子どもは、次の学年では一番月齢が低くなるため月齢的にハンディがあるにもかかわらず学習期間にもハンディがあるわけです。そのため、前半生まれの子は、大きくなってから苦労をする傾向があるという人もいます *2。娘のクラスメイトの多くが一番悩ましい4月~6月生まれのためか、親たちは軒並みこの悩みを抱えています。このような中、学校の先生の中にもなるべく1年生の期間を短くさせたくないという考えの人がいるようで、入学後半年以上もたってから、娘の学校ではこの学年の境目の月をニュージーランドで一般的だと思われる5月末から数ヶ月も早めることになりました。結果、娘は入学前の想定に反し1年9ヶ月にもわたり1年生をすることになりました。1年生の期間が短いことを覚悟して小学校入学の何年も前から心づもりをしていたので、本当に驚きました。1年生の期間が短すぎるのを回避するのは、長期的にいい面もあるのかもしれませんが、正直なところ学習の仕方を見ていると、2年生にあがるまでに必要以上に時間をかけることにもあまりメリットを感じません。学年に関しては親の意向を反映する学校も多いのですが、これも学校によるようです。こうして境目の時期に誕生日がある子どもの親が気を揉む一方で、12月~2月生まれの子どもの親などは、0年生と1年生の境がどこにあるかも知らない人も多いほどです。

report_09_228_01.jpg


*学期の期間は目安であり、年によってずれることがあります。
多学年編成クラス

また、前回も触れた1人の先生あたりの生徒数が少ないという素晴らしい制度ですが、何人入学するか目途がつかない学校で更に少人数制であるということは、同じ学年だけでクラス編成できるとは限らないことを意味するようです。少人数編成の上に学年まで区切ってしまうと、その分先生の人件費が必要になるので、この異学年クラスは現実的であるとも言えます。敢えて1クラス内に複数の学年を混ぜて、生徒の能力に応じて幅広い学習ができる環境を作っている学校や、敢えて複数クラス合同にして複数担任で受け持つようにしている学校もありますが、誕生日順に入学してきた結果、先生対生徒の人数比が必ずしもどの学年もバランスがとれるわけではないことへの対応という面もあるようです。生徒の数が程よくならなかった場合は、例えば2年生と3年生の合同クラスなどが編成されます。望んでそういった学校に入学したなら良いと思いますが、こういったことが、毎年クラス替え時期になってみないと、親のみならず当の学校にも予測がたたないということは入学してから初めて知ったので驚きました。

性差特有の課題

日本でも性差によって違う問題が出現することがあると思いますが、それを公にはしない傾向があるのではないでしょうか。娘の学校では小学校入学時には女の子より男の子に先生のエネルギーが多く注がれていたように思いました。誕生日順に入学するとクラスでは男女比のバランスが必ずしも取れるわけではありません。娘は、男の子4人、女の子2人という状態で小学校生活をスタートしましたが、素人目にも明らかに女の子2人の方が小学校生活にすぐ適応していました。また、これを先生方がはっきりと口にして対応していることが印象的でした。曰く「男の子はじっとしているのが大変」、「男の子は読み書きの習得が遅い」、「男の子は手が出がち(女の子は口が出る)」などなど。これは、学校への適応期に関わらずずっと続くことのようですが、最初は特に際立っていたように思います。数年前には、ある小学校で男の子専用クラスを作り、男の子の学校での学習に良い環境をつくる試みをしているという報道がされたこともあったほどなので、ニュージーランドにおいて男の子と女の子には差があり、それに対応していくということはある程度共通認識として存在しているのかもしれません *3

親として女の子が伸びる時期に思う存分伸ばして欲しいなという思いがないわけではありませんが、男の子の課題を男の子の特有の問題として認識して対応する方法は、日本とは違うように思い興味深く思っています。


ニュージーランドにおいて、誕生日順入学システムは広く受け入れられている制度と思っていましたが、娘が入学した後多くの人と話す中で、ニュージーランド人でさえ、小学校入学時期は一斉にして欲しいと思っている人もかなり多いことを知りました。理由としては、制度が複雑すぎる、海外からの転入時に混乱する、4~6月生まれの悩み、などが多いようです。また、0年生と1年生の学年の境もニュージーランドで統一基準を設けて欲しいという人も多くいます。私自身は、せめて我が子の入学前には、子どもが何年生になるかを知っておきたいと思いました。娘の小学校入学1年目に関して言えば、誕生月で気を揉んだ以外は、良かったなと思うことが多いです。娘がもし他の誕生月であれば、深く考えることもなく、あまり問題も感じなかったかもしれません。多様な背景の子どもたちを小学校に受け入れるにあたっての、生徒1人ひとりへの対応の細やかさは素晴らしいと思いますが、入学時に直面する体験や、その良い面や課題も生徒1人ひとりによる差が日本より大きいのだろうなと感じています。


  • *1 2014年2015年と複数の学校に見学させて頂いて聞いた時には、5月末あたりが多い印象でした。
  • *2 最初の3年間はこうした点を考慮して、成績の評価は「小学校入学1年後」「入学2年後」「入学3年後」に行われます。以降はYear 4の終わり、Year 5の終わり、Year 6の終わり、の成績評価となっていきます。
  • *3 http://www.newshub.co.nz/nznews/primary-school-tries-out-boysonly-classes-2014052609#axzz4GnconFh3

筆者プロフィール
村田 佳奈子

日本で7年間企業に勤める。退社後、2012年4月よりニュージーランド(オークランド)在住。
このエントリーをはてなブックマークに追加

TwitterFacebook

インクルーシブ教育

社会情動的スキル

遊び

メディア

発達障害とは?

論文・レポートカテゴリ

アジアこども学

研究活動

所長ブログ

Dr.榊原洋一の部屋

小林登文庫

PAGE TOP