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オンラインシンポジウム「遊びを止めない!~ウィズコロナ時代の子どもとメディア~」レポート

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遊びを止めない!~ウィズコロナ時代の子どもとメディア~

昨今、スマートフォンやタブレット端末などのデジタルメディアは生活の隅々まで浸透し、子どもを取り巻く環境の一部となっています。加えて、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、園や家庭においてもデジタルメディアの必要性が高まっています。そこで、チャイルド・リサーチ・ネット(以下、CRN)では、2020年8月30日(日)に、ウィズコロナ時代において、園や家庭でどのようにデジタルメディアを活用すべきかを考えるため、最新の知見と園などでの実践を共有するオンラインシンポジウム「遊びを止めない!~ウィズコロナ時代の子どもとメディア~」を実施しました。その発表や議論の様子をお伝えします。

(プログラム)
第1部 研究と実践の発表
① 小学校教育を意識した保育でのタブレット端末などの活用事例
堀田博史(園田学園女子大学教授)
伊藤浩一(芦屋市こども・健康部 子育て推進課 主幹)
② コロナ禍での保護者のリアル(現実)とメディア活用
佐藤朝美(愛知淑徳大学准教授)
坂本篤郎(保護者)
③ 障害のある幼児のメディア活用
榊原洋一(CRN所長、ベネッセ教育総合研究所常任顧問、お茶の水女子大学名誉教授)
質疑応答
   
第2部 ディスカッション「遊びを止めない!~コロナ禍での保育現場からの現状と課題~」
(シンポジスト)
堀田博史(園田学園女子大学教授)
伊藤浩一(芦屋市こども・健康部 子育て推進課 主幹)
佐藤朝美(愛知淑徳大学准教授)
坂本篤郎(保護者)
榊原洋一(CRN所長、ベネッセ教育総合研究所常任顧問、お茶の水女子大学名誉教授)
佐藤鮎美(島根大学 講師)
奥林泰一郎(認定こども園 石切山手幼稚園)
勝見慶子(認定こども園 エンゼル幼稚園)
※発表順
(司会進行)
CRN 劉 愛萍

協働の場面など、デジタルメディアの活用の場が広がる

はじめに、本シンポジウムの主催者を代表してCRNの榊原洋一所長が挨拶をしました。「新型コロナウイルス感染症の拡大により、家庭や園におけるタブレット端末やスマートフォンなどのデジタルメディア利用が、より加速していると言える。今回は、ウィズコロナ時代における『乳幼児期の生活とメディア』について考えていきたい」とシンポジウムのテーマを紹介しました。

続いて、長年にわたり幼児教育とメディアに関する研究に取り組む園田学園女子大学の堀田博史教授による発表がありました。堀田教授は、2018年から実施している「黎明期を迎える幼児教育でのタブレット端末活用に関する研究」の調査結果を紹介。「保育においてタブレット端末を活用するメリットとして、保育者は『知識が豊かになる』『小学校以降の学習で役に立つ』などを挙げているが、一方で、『視力低下が心配』『友達と関わって遊ぶことが減らないか心配』といった不安も感じている」と述べました。その上で、堀田教授は、保育におけるタブレット端末の活用場面を「個別」「園務」「協働」「親子」の4つに整理。それぞれの場面における園での実践事例を紹介しました。

例えば、「協働」の場面では、タブレット端末を活用している園の実践事例として、兵庫県芦屋市こども・健康部子育て推進課主幹の伊藤浩一氏が、芦屋市立精道こども園の取り組みを紹介しました。同園では、タブレット端末にインストールしたアプリケーション「ピッケのつくるえほん」を用いて、年長児が仲間と協働しながら絵本を創るという活動を年3回実施しました。伊藤氏は、「子どもたちが協働的に取り組む様子が見られ、その過程でお互いの気持ちを伝え合うなどのよさも見られた」と活動の意義を語りました。ただ、タブレット端末を活用した活動と従来の活動のバランス、保護者とともにタブレット端末を活用する上でのルールを考える必要があると述べました。

メリットは大きいが、園や家庭での活用ルールを決めることが課題

次に、愛知淑徳大学の佐藤朝美准教授から、家庭でのデジタルメディアの普及における問題点について発表がありました。佐藤准教授は、「第2回乳幼児の親子のメディア活用調査(2017)」(ベネッセ教育総合研究所)のデータを踏まえ、園と同様に、保護者もデジタルメディアの利用について、メリットだけでなく、デメリットも感じていると述べました。

また、米国小児科学会などが発表した幼児のデジタルメディア利用に関する提言を紹介。最近、デジタルメディアの利用によって、日常での家族の対話が中断され、生活に悪影響が及ぶ「テクノフェレンス(Technoference)」が問題になっていることを説明しました。「(新型コロナウイルス)感染拡大の影響で、家族が家で過ごす時間が増え、保護者はデジタルメディアを頼ることが多くなった。デジタルメディアとのつき合い方が、より議論されるべきだ」と佐藤准教授は話しました。

そこで、本シンポジウムでは、家庭でのデジタルメディア活用の実態や課題を共有するため、保護者にも登壇してもらいました。家庭の様子を報告してくれたのは、夫婦共にベネッセコーポレーションに勤務する坂本篤郎氏です。

6歳と2歳の子どもがいる坂本家では、緊急事態宣言の発令後、夫婦ともにテレワークを開始。登園を自粛していた2人の子どもたちとの生活では、デジタルメディアを活用しました。「特に役立ったのは、プロジェクターだった」とのことです。坂本氏は、「タブレット端末では、子どもが奪い合ったり、使用ルールを守れなかったりしたが、プロジェクターを用いると、2人とも集中してアニメなどの映像を見ていた。さらに、映像を止めて手で影を作ったり、キャラクターにサングラスをかけさせたり、映像に合わせて身体を動かしたりと、私たちの想像以上に自分たちで遊びを深めていた。おかげで、私たちは仕事に集中できた」と説明しました。

佐藤准教授は、家庭における豊かなデジタルライフの実現に向けた課題として、①デジタルメディアを活用して園と保護者のつながりをより多様化させること、②より良いコンテンツを選択すること、③直接体験とのバランスを考えること、の3点を挙げました。

コミュニケーションが苦手な子どもの支援に、タブレット端末を活用

第1部の最後に、榊原所長が「障害のある幼児のメディア活用」をテーマに発表しました。発達障害の専門医である榊原所長は、自閉症などの発達障害を抱えた子どものコミュニケーションに、タブレット端末を活用する方法を研究しています。榊原先生が研究に用いたアプリケーションは、「VOICE 4U」です。これは、タブレット端末の画面に表示された行動や気持ちを示したアイコンを押すと音声が出力される仕組みになっており、自閉症などで言語表現を苦手とする人々が、自分の気持ちを他者に伝えるために役立つツールです。こうしたアプリケーションをインストールしたタブレット端末などが、保育現場でもますます活用されていくのではないかと述べました。

5人の発表後、島根大学の佐藤鮎美講師が、ご自身の研究を踏まえつつ、各発表に関する感想を述べました。佐藤講師は、「タブレット端末を園や家庭で使用する場合、個人での活用にとどまりがちだが、他者と共同で使用することで芦屋市の園や坂本さんのご家庭のようにメリットが生まれるのではないか」と、デジタルメディア活用の今後の可能性を語りました。

質疑応答では、通常保育とタブレット端末活用のバランスをどう取ればよいのか、個別や協働の遊びを深めるためにデジタルメディアをどう活用すればよいのかといった質問が挙がりました。登壇者に加えて、認定こども園石切山手幼稚園の奥林泰一郎先生や認定こども園エンゼル幼稚園の勝見慶子先生も議論に参加し、各園での実践が紹介されました。

デジタルメディアの活用には、保育者や保護者の情報リテラシーも必要

第2部のディスカッションでは、登園自粛期間中、各園でのデジタルメディアの活用法を具体的に挙げながら、保育現場の課題を中心に意見が交わされました。

勝見先生は、「臨時休園中、子どもたちのためにYouTubeでオンライン保育を実施したところ、保護者からの評価が高かった。引き続き、オンラインによる子育て支援を継続していきたい」と述べました。堀田教授は、オンラインによる園からの情報発信が拡大することにより、「保育者や保護者も情報リテラシーを身につけることが必要だ」と述べました。その意見を受け佐藤准教授は、「情報社会においては『デジタル・シティズンシップ』が求められている」と述べ、「初めてデジタルメディアを使う子どもを、どのように保育者や保護者が導くかが大事」だと話しました。すると、奥林園長は、「指導する側である保育者や保護者の情報リテラシーには差がある。園でも研修などで情報共有を行い、コンテンツ作りや情報発信に関する情報リテラシーを学ぶべきではないか」と述べました。

今回のオンラインシンポジウムでは、Youtubeチャット欄を活用して視聴者から意見や質問が寄せられ、登壇者と視聴者による双方向の意見交換も行われました。視聴者からは、「幼児の遊びそのものをより深めるためにデジタルツールをどう活用できるのか、そして、それが小学校以降の遊びと学びにどうつながるのかといった視点での意見を聞きたい」といった書き込みがありました。また、他の視聴者からは、「遊びの発展には1人ではなく、対話や協同が必要だと思います。言葉によるコミュニケーションをより豊かにして、遊びを豊かにするためのツールとしてICTを使うことに可能性があるのでないか」という書き込みがありました。これらの質問やコメントを受けて、榊原所長からは「子どもはタブレットを使う中で、自分たちで遊び方・使い方を探していくのではないか。もともと遊びは探究的で自由なものである。タブレットを渡したときに子どもたちがそれをどう使うのか、といった探索的な視点から見ていくとよいのではないか」とのコメントがあり、「探究」や「協働」が遊びでのタブレット活用のキーワードとして浮かびあがりました。

最後に、堀田教授からは「保育現場でメディアを活用する時には、子どもの好奇心を探究心に変える、という工夫やしかけを考えることが大切」との意見が聞かれ、佐藤准教授は「今回、園の現場と保護者、両方の立場から話ができたのは非常に意義深く、園や家庭、それぞれでメディアをうまく使い分けていく方法を模索できたらよい」とシンポジウムの感想を述べました。榊原所長は、「幼児がデジタルメディアを活用する際の様々な課題とメリットが挙がりました。イベントの最中に集まった視聴者からの意見も参考にしながら、今後もこのようなシンポジウムを開催し、課題に取り組んでいきたい」と語り、オンラインシンポジウムを締めくくりました。

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*デジタル・シティズンシップ......情報技術の利用に関する適切かつ責任ある使用。「情報を効果的に見つけ、アクセスし、利用、創造する能力であり、オンラインやICT環境で責任を持って参加する態度」として定義され、欧州評議会(2019)は、幼年期から生涯に渡り必要とされるものとし、家庭における教育の必要性も指摘しています。
Counsil of Europe (2019) Digital Citizenship Education Handbook.




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