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【被災地レポート】第7回 被災から数ケ月、子どもの心のケア-今からできることに目を向ける

要旨:

米国心理学修士で日本プレイセラピー協会の心理士である本田涼子さんの講演会に参加しました。特に就学前の子どもを対象とした心のケアについての実践的なお話を伺うことができ、非常に勉強になりました。『知ろう!小児医療 守ろう!子ども達』の会主催の「子どもの心のケア」では、多摩ガーデンクリニック小児科院長の杉原桂先生のお話を伺いました。「ショックというエネルギーにはプラスもマイナスもない。つまり、震災から受けたショックそのものよりも、それを生産的かつ建設的な力につなげるか、自分や他人を攻撃したりクサってしまったりという態度に出るかで、プラスの影響とマイナスの影響とが決まる。」そうおっしゃる先生のお言葉がとても印象的でした。
Child Life Specialistの観点から

6月17日、名古屋大学の山田肖子先生のお声掛けにより、米国心理学修士で日本プレイセラピー協会の心理士である本田涼子さんの講演会に参加しました。参加する学生たちが多国籍でグローバルなバックグラウンドを持つことから、全て英語で進められたこの会では、子どもの遊びを通じての心の癒しの取り組みが紹介され、学生さんたちとともに多くの学びを得る機会となりました。この場では特に就学前の子どもを対象とした心のケアについての実践的なお話を伺うことができ、非常に勉強になりました。就学児童に関しては学校のカウンセリングシステムがあり、より感情を言葉で表出しやすいのですが、まだ言葉でうまく表現できない幼児には年齢に合わせたケアが必要で、そのひとつがPlay therapyです。

被災され、家族を失った方やお子さんたちに、どのように接するのが良いのか、私たち復興支援に携わる者は相手を慮って表情から気持ちを汲み取ろうとし、慎重に言葉を選びます。お子さんのメンタルケアについて知ろうとする際、親御さんに質問することになりますが、その際、推奨される質問の仕方とそうではないものがあります。
例えば、
○: あなたのお子さんについて、気になることはありますか?
×: お子さんの態度について教えてくださいますか?
○の例のように一般的に聞いた方が、聞かれる側が「詮索されている」「調査されている」と感じなくて済むようです。

身近な人を失ったとき・・・子どもたちは、「私のせい(僕のせい)であの子(または家族)が亡くなったんだ。私は(僕は)なんて悪い子なんだろう」と思うことがあります。特に、自分が喧嘩をしたり、反抗したりした相手の人が亡くなると、自分の行為と関連付けて考えることがあるそうです。それは誰のせいでもない、自然災害のためなんだ、と教えてあげることが必要でしょう。

身近な人が亡くなった、そのことを子どもに知らせたくなくて大人が子どもに「帰ってこない」「どこに行ったかわからない」とごまかす場合があります。大人も、近しい人を亡くしたのが悲しくて、話せないのです。子どもは「何か隠されている」と本能的に気付くため、「何か悪いことが起こったに違いない、タブーなんだ」と感じ、知りたい気持ちを抑え、愛する人について聞きたい気持ちや、その人のことを慕っていた思い出や、いなくて寂しい感情を押し殺そうとします。それは結果として治癒のプロセスを遅延させます。
そのような時は、子どもに対し正直に心を打ち明けましょう。泣いても、悲しみに沈んでもいいのです。大人が強く見せなくてもいいのです。子どもに「お母さん(あるいは亡くなったほかの家族)はどこに行ったの?」と聞かれたら、本当のことを話しましょう。「あなたのお母さんは本当に素晴らしい人だった。私たちはみんな、彼女のことが大好きだった。」と言ってあげましょう。そのことで、子どもはようやく再生へのプロセスを始めることができるのです。隠されていると感じて、混乱し屈折した気持ちを抱えたまま大人になるよりもずっと前向きになれます。

災害の後は、子どもがおもちゃを使って気持ちを表出し、子どもたちの中にある苦しみや傷を癒す過程を尊重しましょう。心に受けたダメージを表現し、発散させるには、家のおもちゃや人形を壊したり、同じストーリーを繰り返すことも必要です。そのことで、子ども自身が自分の中にある感情を見つけることができるのです。二匹の魚が一緒に泳ぐ、ごっこ遊びをして亡くなった友人や父親との思い出を疑似体験する子も、ある程度時間が経つと、それぞれの魚にはそれぞれの帰る場所があると納得します。怪獣や恐竜のおもちゃを戦わせてばかりいた子も、地震や津波ごっこをしていた子も、自分の怒りや攻撃性を表出すると気が済んで落ち着くことがあります。これが、子どもたちにとっては、過去のショックを乗り越える一つの方法なのです。ただし、無表情で同じ行為を繰り返す、他人や自分を傷つけようとする、好きだった遊びを楽しまない、無口になる、などの変化が見られたら専門家のフォローアップが必要となりますので、注意が必要です。


小児科医の観点から

7月10日に開催された『知ろう!小児医療 守ろう!子ども達』の会主催の「子どもの心のケア」では、多摩ガーデンクリニック小児科院長の杉原桂先生のお話を伺いました。日曜日でしたが、無料の託児を利用できたため、子供4人を連れて勉強させていただくことができました。
そこでは、大震災や放射能の子どもへの影響に関し、たくさんの不安や悩みを抱える親が集まって小児科医のお話を伺いました。中でも、親が自分の不安を伝えるのはOKだというアドバイスがありました。子どもの不安を消したいからといって無理に「大丈夫!」と言うよりも「お母さんも不安なの」でも、「あなたたちを安心させたい」「自分も頑張りたい」と言ってみては、とのお話に、みんな、正直でいいんだとホッとした表情を見せました。

また、ついつい、安心しようとして情報を求めてしまいがちだというお母さんからの訴えに対し、「情報は時として混乱の種にもなり、安心には役立たない。要は、母親が子どもとどのような関係を作りたいのか。母親が安定して子どもを信頼し、成長を育むにはどうすればよいのか。子どもにより良い未来を残したいのであればどうすればよいのか、ということ」「たとえば、放射能による影響を考えるとき、その確率はゼロか1ではない。放射線被ばくによって死に至る確率は、帰宅までに交通事故に合う確率よりも低い。としたら、その情報には現実味がありますか?」という言葉には、ハッとさせられました。

今は、周りを見渡せばどこでも「不安」「絶望」という言葉があふれています。 ただ、その中で、原点に立ち返って考えなければいけないのは、シンプルに「こうありたいという未来を手に入れるにはどうすればよいか、より笑顔が増えるようにするにはどう対応すればいいか」であり、何も考えずにただ反応するのではなく、自分で選んで考えて対応することなのです。

私たちは大きなショックを受けた場合「どうしたらいいのか分からない」という点で立ち止まりがちですが、杉原先生が講演の中でおっしゃっていたように、「地震があったことは取り消せない、今からできることに目を向けよう」「自分が力を貸し、皆と協力する方向に進もう、そのために自分ができることと協働してくれる仲間を探そう」「震災や事故などの恐怖体験を乗り越えた人はどのようにしたのか、前例から学ぼう」と考えれば、一歩、前進したことにつながります。

杉原先生はこうおっしゃっていました。「ショックというエネルギーにはプラスもマイナスもない。つまり、震災から受けたショックそのものよりも、それを生産的で建設的な力につなげるか、自分や他人を攻撃したりクサってしまったりという態度に出るかで、プラスの影響とマイナスの影響とが決まる。」 このメッセージが、私がずっと抱いてきた「物事の受け止め方は自分で選べる」という考え方と共鳴し、不安と迷いの中で過ごしている全国の親のみなさんに伝えたい、と思いました。


心のケアについてもっと学びたい人には

世界中に、心のケアのスタンダードとしてサイコロジカルファーストエイド(PFA)という資料があり、日本語訳されています。兵庫県こころのケアセンターのホームページでご覧になれます。
Inter-Agency Guidelines災害・紛争等緊急時における精神保健・心理社会的支援に関するIASCガイドライン(2007)は、被災者と関わりをもつ支援者(医療関係者、災害支援スタッフ、ボランティアなど)がPFA研修を受けることを推奨しています。研修の内容はWHO(世界保健機関)やその他国際的なガイドラインに基づき検証され、実際に使われているものです。
PFAは臨床的・専門家的な介入ではなく、緊急時における支援者として、どのように自分の役割を果たすべきかといった面からアプローチしています。支援者が対象者を傷つけることなく、安全でポジティブな環境の回復を促すための研修です。

多くの人々が災害支援にかかわり、被災地に足を運んで役に立ちたいと望んでいます。しかしながら、緊急事態に遭遇し苦しんでいる被災者とどのように接するべきか、支援する側が充分に理解していないこともあります。支援する側は、どのような言葉をかければいいか、また言ってはいけないこと、してはいけないことなど、自ら考える必要もあるでしょう。被災者とともにいることで支援者が傷つくこともあるかもしれません。また、個人情報の保護に関する問題を見落とし、被災者の写真を撮ったり、個人的な話の内容を第3者に伝えてしまうかもしれません。PFAは、支援者が被災者と関わる時、被災者が現状以上のダメージを受けることを防ぎ、どのように安全なサポートを提供するか、その準備をするための研修です。


PFA研修を受けるには

インターナショナル・メディカル・コープ(IMC)と 東京英語いのちの電話(TELL)の協働で、被災地の支援をする様々な団体を対象としたサイコロジカルファーストエイドの研修を提供しています。国際的な団体から国内の団体まで、また被災地で活動している支援者やいのちの電話相談員、その他の団体のスタッフを対象としています。

PFAは、対象者の立場を充分に配慮した心のケアをする方法で、対象者が必要としているサービスを受けられるよう手助けします。研修では、ストレスがかかった時の反応や、共感をもった話の聞き方、保護者は子どもをどのようにサポートできるかなどを学びます。また、被災者に必要なサービスを結びつける方法、深刻なストレスを抱えている被災者の緊急時の見極めと専門家への紹介についても学びます。さらに、支援者のためのセルフケアについての項目も含まれます。


自分が、今からできることに目を向けよう

まず、自分が頑張りすぎて疲れることがないように、また、震災の被害者を増やさないように、自分自身を安定した状態にすることが大切です。いつか巣立っていくわが子が、今後も様々な体験や苦難をうまく乗り越えられるように、独り歩きできるように、今、サポートしてあげるのです。いつか子供たちが巣立っていくための試練なのだと先のことまで考えると、少し視点が変わることがあります。震災後、安心と安全という言葉があちこちで聞かれますが、それが貴重だということが分かった今、十分な備えをすること、助け合うこと、人とのつながりを大事にすることならできます。私自身は、今後も、直接人と会って人と話して「私はどんなことでお手伝いできますか?」と聞き、自分ができる範囲で手助けを見つけて行きたいと思っています。


【被災地レポート記事一覧】
筆者プロフィール
report_yoshida_honami.jpg 吉田 穂波(よしだ ほなみ・ハーバード公衆衛生大学院リサーチ・フェロー・医師、医学博士、公衆衛生修士)

1998年三重大医学部卒後、聖路加国際病院産婦人科レジデント。04年名古屋大学大学院にて博士号取得。ドイツ、英国、日本での医療機関勤務などを経て、10年ハーバード公衆衛生大学院を卒業後、同大学院のリサーチフェローとなり、少子化研究に従事。11年3月の東日本大震災では産婦人科医として不足していた妊産婦さんのケアを支援する活動に従事した。12年4月より、国立保健医療科学院生涯健康研究部母子保健担当主任研究官として公共政策の中で母子を守る仕事に就いている。はじめての人の妊娠・出産準備ノート『安心マタニティダイアリー』を監修。1歳から7歳までの4児の母。
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