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研究室

【インドネシア】 インドネシアの保育・幼児教育(ECCE):政策と課題-第2部

ハニ・ユリンドラサリ(Hani Yulindrasari)(インドネシア教育大学)

2012年12月 7日掲載

要旨:

本稿は「インドネシアの保育・幼児教育:政策と課題」の第2部である。第1部で説明した通り、インドネシア政府は保育・幼児教育施設への就園率増加に重点をおいてきた。第2部では、国の基準を定めて質の向上を目指す試みと、その実施における課題に目を向ける。最初に、保育・幼児教育の国の基準に関する省令No.58/2009について説明する。基準項目は子どもの発達、保育者の資格、学習内容、施設と設備である。最後に、インドネシア全土で基準を実施していく上での課題を挙げ、それぞれについて述べる。
English
本稿第1部ではインドネシアの保育・幼児教育の状況や保育・幼児教育施設を増やすための国の政策について説明した。第2部では、その質の向上と課題について述べる。
質的な面:保育・幼児教育の国の基準の確立と実施(保育・幼児教育の基準に関する省令No.58/2009)

保育・幼児教育の提供に関する最低基準、プログラム、モニタリングと評価、そして監督に関する政策の策定は、主に教育文化省(MoEC/旧国家教育省)が行う。同省は2009年に、省令No. 58/2009によって幼児教育・保育に関する国の基準を定めた。省令の規制する基準は(1)子どもの発達、(2)保育者と経営に関する資格レベル、(3)内容、学習過程や評価、(4)施設、設備、経営や予算といった項目からなる(Kemendiknas, 2009)。以下、それぞれの基準について簡単に説明する。

(1) 子どもの発達基準

政府は、連続性、多次元性そして個々人の固有性の原則に基づいた子どもの発達についてのガイドラインを作成した。基準は、0~2歳未満、2~4歳未満、4~6歳までと子どもの年齢別に設定されており(Kemendiknas, 2009)、子どもの発達と成長に関する5つの項目、道徳・宗教、認知、言語、身体・運動、そして社会的感情的発達からなる。また、読み書きの導入年齢は4~6歳である。

このような発達におけるスキルは多くの国の保育・幼児教育カリキュラムで設定されているものとかなり類似している(例:Finland National Board of Education, 2003、New York State Education Department, 1998、Victorian Curriculum and Assessment Authority, 2008)。他国との違いは、インドネシアの基準には幼児が習得すべきスキルとして宗教理解が挙げられていることだ。

子どもの発達基準は本来カリキュラムそのものではなく、保育者が幼児に発達を促す刺激を与える、最小限のガイドラインにすぎない。保育者はガイドラインをもとにして、自らの工夫で他のスキルや活動を発達・発展させてもよい。ところが、特に準都市部の保育者にはガイドラインの利用方法が分からない人も多い。従って、政府は大学や保育・幼児教育者の職業団体と協働して、絶えずガイドラインを推奨し、保育者向けにその利用方法に関する研修を行っている。

(2) 保育者の資格基準

この基準が示しているのは、保育・幼児教育施設の人的資源(園の保育者、託児所の保育者、園長、事務職員及び建物管理人)に求められる学歴及び能力の最低条件である。ここでは保育者の基準についてのみ説明する。保育者の学歴及び能力水準に関する国家教育省省令No.16/2007によると、ECECの保育者は少なくとも、4年制大学において認定されている保育・幼児教育、あるいは心理学の課程を履修し、その学位を保有していなくてはならない(Kemendiknas, 2007)。学位がなくても、高等学校修了以上の学歴を有し、保育・幼児教育研修修了証書を取得している者は保育補助員として働くことができる(Kemendiknas, 2009)。託児所の保育者は高等学校修了以上の学歴を有していなければならない(Kemendiknas, 2009)。

保育者に求められる能力は、個人的、職業的、教育的、社会的能力の4種類である。個人的能力においては、子どもの発達ニーズに従って前向きに対応できること、宗教的・文化的価値観をもち、人格的にも立派であることが求められる。職業的能力とは、子どもの発達段階や原理について理解できており、教育的・発達的にいい刺激を与えながらケアができること、そして子どもを守り力づけることができる能力である。教育的能力とは、学習過程を計画、実施、評価し、さらに子どもの発達段階を評価できるスキルである。最後に、社会的能力とは適応能力やコミュニケーション能力である。

政府は2007年から、保育者の資格認定プログラムを通して、保育者の職業的、教育的能力を向上させようとしてきた。資格認定プログラムでは、保育者はポートフォリオで評価される。ポートフォリオ評価で合格しなかった者は、10日間の保育者職業研修(Pendidikan dan Latihan Profesi Guru - PLPG)を受けなければならない。ポートフォリオ評価合格者や研修(PLPG)修了時の能力テスト合格者が保育者資格を取得できる。資格保有者には、公務員の月給と同額程度の能力給を加算して受ける資格が与えられる。(能力給は定額給与次第である。インドネシアの保育・幼児教育者の定額給与は、勤務施設によって異なり、月額50,000インドネシア・ルピア(6米ドル)から2,000,000インドネシア・ルピア(210米ドル)だ。総収入は定額給与と能力給を合わせたものになる。)

2012年、保育者資格についての教育文化省省令No.5 /2012で、政府は保育者資格認定方法を変更した。認定の第一段階は能力予備テスト(Ujian Kompetensi Awal)である。これである一定の点数に達した者は、ポートフォリオ評価によって資格を取得することができる。合格点に達しない者は研修(PLPG)を受けなければならない。研修は講義、ワークショップ、ピア・ティーチングと能力テストから構成される(Kemendikbud, 2012)。

現在のところ、保育者資格プログラムは幼稚園やイスラム教幼稚園といった正規の保育・幼児教育施設の保育者にのみ適用されている。非正規の施設の保育者はインドネシア語で教員を意味する「グル」(guru)ではなく、チューター(tutor)と呼ばれている。政策レベルでは誰が教員(グル)であるかないかについて一貫しておらず、国家教育省省令No. 58/2009では、正規、非正規両施設の保育者が両者とも教員(グル)とされている。しかしながら、教員や講師に関するインドネシア共和国法No. 14/2005によると、正規の保育・幼児教育施設の保育者のみが教員(グル)とされる。また、この法律によって、非正規の施設の保育者は保育者資格プログラムから除外されてしまっている。このため、彼らは正規の施設の保育者のように能力給を受けることができない。とはいえ、非正規の施設の保育者(チューター)も、地方政府の財政力にもよるが、月ごとに100,000インドネシア・ルピア(11米ドル)から300,000インドネシア・ルピア(33米ドル)の能力給を受給できる。もちろん、この額は幼児たちへの責任と比べると非常に小さいものだ。ムハンマド・ヌー教育文化大臣によると、教員と講師に関する法律は改訂される予定で、改訂法においては非正規の保育・幼児教育施設の保育者も規制の対象になるということだ(Akuntono & Wedhaswary, 2011)。

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写真1 研修(PLPG)ワークショップ:学習教材の製作

(3) 学習基準:内容、過程、評価

学習基準とは、プログラムの構成、サービスの形態、時間配分、1教員当たりの幼児数、学期の予定、学習計画、学習の実施、評価についての基準である。本稿ではプログラムの構成、学習指針、評価についてのみ簡単に説明する。

保育・幼児教育プログラムの構成には、基本的な5つの発達の側面について、適切な刺激を与え育成することを含めることとする。発達に伴って習得すべき基本的スキルとは子どもの発達基準で述べた5つの項目のことである。次のような6つの指針を学習の過程を通して実行することとする。①子どもの発達ニーズや興味への配慮、②健康、栄養、教育、ケア、保護の総合的な実施、③楽しみながらの学習、④段階的アプローチ、連続性と習慣化、⑤活動的、創造的、相互作用的、効果的で楽しめる学習、⑥子ども中心(Kemendiknas, 2009)、である。

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写真2 保育者養成大学課程(PGPAUD)付属のプレイグループの子どもたち

子どもの発達状況の評価は自然な環境下で行われるべきである。その主な方法は3つあり、観察、子どもの作品を収集し記録すること(ポートフォリオ)、そしてインタビューである。情報源とするのは、子どもの行動や制作物、親の報告や保育者による観察である。学習の過程を通して評価を常に行うようにし、発達面に関しては全体的に評価されるべきである。評価の結果は定期的に親に書面及び口頭で報告することとし、その結果は今後の学習計画の基準としても利用すべきである(Kemendiknas, 2009)。

(4) 施設、設備、経営、予算の基準

この基準は保育・幼児施設の運営に必要な施設、設備、経営、予算の最低基準である。施設・設備基準は、面積、クラス、事務室、トイレ、園庭、屋外・室内遊び場、教育玩具、教材に関する最低基準である。経営基準とは、(教育)プログラムや施設の計画、実施、監督、評価についてである。予算基準は、予算項目、運用、収入源、監督、説明責任を定めるものである(Kemendiknas, 2009)。

保育・幼児教育基準の実施における課題

基準は国全体で適用されることになっているが、その実施は今だ難しい状況にある。課題となっているのは、①保育・幼児教育を受ける機会の地域的不均衡、②正規保育者と非正規保育者間の福利厚生の不均衡、③研修を受けていない非正規の保育・幼児教育施設の保育者が多いこと、④特に村部における学習用設備の不足、⑤親が保育・幼児教育を正しく認識していないことである。

①保育・幼児教育を受ける機会の地域的不均衡

各州間で経済的、教育的発展に不均衡があるが、これが保育・幼児教育を受ける機会の不平等にも反映しているように思える。2005年のユネスコの報告によると、保育・幼児教育を受ける機会の地域的不均衡は、地域の貧困レベルに関連している。最も不利な状況にある地域はパプア、ヌサ・トゥンガラ、マルク(UNESCO, 2005)といった東部や、バンテン、北スマトラである(Kemendiknas, 2010)。ユネスコの分析は、今もって現在の状況をあらわしていると率直に思う。ユネスコ(2005) によると、富裕層と貧困層、都市部と農村部の大きな格差は、正規と非正規、両者の保育・幼児教育においても明らかである。統合保健ポスト(posyandu)と乳児・幼児のいる母親向けのプログラム(BKB)に関しては格差が小さいことも分かっている。PosyanduとBKBは機会不均等問題を解決するための代替策となるかもしれないが、これらで保育・幼児教育を行うためには追加予算が必要である。これが意味するのは、親の追加料金負担だ。そうなると、貧しい家庭の子どもたちはやはり参加できない。ユネスコは、どんな子どもも保育・幼児教育を受ける機会をもつことができるように政府が介入、投資をするよう勧告している。以下の図に、地域別の保育・幼児教育施設への就園率を示した。

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図2 地域別の保育・幼児教育施設への就園率
資料:Rencana Strategis Departemen Pendidikan Nasional 2010-2014 (Kemdiknas, 2010: 20)

②正規保育者と非正規保育者間の福利厚生の不均衡

「教員(グル)」の定義が不明瞭で一貫していないために、非正規の保育・幼児教育施設の保育者への差別が生じている。正規施設の保育者は政府が全額出資する研修を通して職業能力向上のための便宜を常に受けることができ、公務員の給与と同等の能力給を受給できる。これに対し、非正規施設の保育者は職業協会や時に政府や大学の研修を受けられるだけだ。上述の通り、非正規施設の保育者は地方自治体から少額の能力給を受けるのみだが、それも地方政府の財政状況次第である。これ(非正規施設の保育者への能力給)に関しては何の基準もない。

③研修を受けていない非正規の施設の保育者

就園率を増加させるために保育・幼児教育施設の数を重視したので、非正規施設においては保育者の要件が柔軟に適用されることとなった。 非正規施設の保育者には必要な教育を受けていない人が多い。さらによくないことに、中学校卒業資格のみで必要な研修を受けていない人も多い。こういった状況のために、指導力や子どもの発達に関する理解が不足している。そのため、特に村部の保育・幼児教育施設では幼児が小学生のように扱われて、小学生に対して行うような教育が施されている。その学習過程では遊びも少なく、適切な教材も使用されず、ただほとんどの時間を読み書きや計算の習得に使っている。私が行ったインタビューの中で、授業についていけないので子どもが保育・幼児教育施設に行きたがらないと、ある村の親は語っていた。一体どのくらいの施設がこのようなタイプであるのかについて、データを集めるのは難しい。だが、村々の非正規施設の視察や、西ジャワの様々な地域で保育者にインタビューをしてきた私の経験からして、これもまたインドネシアの保育・幼児教育の発展における課題であると思う。

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写真3 IndramayuでのNGO(Initiative for Golden Age Period)による非正規保育・幼児教育施設の保育者向け研修

④特に村部における学習用設備の不足

保育・幼児教育施設では学習用設備が不足しているところが多く、特に非正規施設や村部で顕著であることが問題である。予算不足というのが大抵の場合の言い訳だ。実際、保育者が教材を、リサイクルしたり、使いまわしたり、周りにあるものを利用したりしてうまく作り出すならば、この問題は解決できるだろう。お金もかからず、環境にもやさしいが、上述の通り、非正規施設の保育者には教育者としての力が足りないのである。このため、非正規施設の保育者に十分研修を受けさせることが問題解決に役立つと言ってもよいだろう。

⑤保育・幼児教育に関する親の認識

最後の課題は親の認識である。多数の保育者にインタビューして分かったのは、保育・幼児教育を学校のような教育機関として認識している親が多いということだ。多くの親は読み書きや計算を習得すべきと思っている。また遊びながら学ぶということを信じられない人も多い。これが保育・幼児教育にとってジレンマとなっている。保育・幼児教育においては、子どもの発達ニーズを優先させながら、早期の読み書きを遊びを通して教えなくてはならないのだが、一方、保育料を支払う側の親からは、できるだけ早く、子どもに読み書き、計算を習得させるようにとの強い要求があるのである。両親向けの育児に関する教育がこの問題へのよい解決策であろう。両親に育児に関する教育をし、子どもがどのように発達し学んでいくのかを理解してもらうのだ。

以上のような課題に対処するため、政府は様々な施策を策定してきた。例えば、非正規の保育・幼児教育施設の幼児のための運営予算、合法の非正規施設の新設予算、非正規施設への教育玩具の供給支援、年間最優秀非正規施設の表彰、経営情報システムの開発、監督、報告、モニタリング、評価である(Kemendiknas, 2010)。PAUDNI(保育・幼児教育、非正規及び私的教育の総局)は非正規施設の保育者のための教育や研修を計画しており、さらに施設での発達を促す刺激を家庭でも補助すべく、両親向けの育児に関する教育を推奨している(Kemendikbud, 2012)。以上から、保育・幼児教育の発展において様々な問題に直面しているものの、インドネシアの保育・幼児教育状況は向上すると信じている。


参考文献

筆者プロフィール

ハニ・ユリンドラサリ(Hani Yulindrasari)(インドネシア教育大学)

ハニ・ユリンドラサリ氏はインドネシア教育大学、保育者養成課程の講師で、政府の保育者の力量向上プログラムの公認査定者・指導者でもある。研究分野は幼児教育及びジェンダー研究である。また、同大学女性研究センターの活動メンバーで、教育、子どもの権利擁護や人身売買反対キャンペーンにおけるジェンダー・メインストリーミングの活動に従事し、幼児教育とジェンダー間の公平/平等の改善に尽力している。
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