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【インドネシア】 インドネシアの保育・幼児教育(ECCE):政策と課題-第1部

要旨:

インドネシア政府は2001年から、保育・幼児教育施設への就園率が増加するよう重要視してきたが、保育・幼児教育の量的な面を強調するあまり、質的な面については顧みられてこなかった。このため、2009年に政府は質の向上を目指して、保育・幼児教育を標準化すべくある一定の基準を定めた。本稿ではインドネシアの保育・幼児教育の発展、特に量的及び質的向上を目指す政策とその実施における課題について述べる。2部構成となっており、第1部ではインドネシアの保育・幼児教育の状況について説明する。続いて、政府のインドネシア全土にわたって保育・幼児教育施設の数を増加させる取り組みについて説明する。第2部では施設の質の向上を図る政府の取り組みについて説明し、基準を実施していく上での主要課題5つについて述べる。
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序論

インドネシア政府は2001年以降保育・幼児教育(ECCE)を重要視するようになった。画期的であったのは、国家教育省(現教育文化省)の非公式部門に保育・幼児教育総局(Direktorat Pendidikan Anak Usia Dini)が創設されたことである(UNESCO, 2005)。当局の創設以来、非正規の保育・幼児教育施設も政府計画において重視されるようになり、その結果、非正規の保育・幼児教育施設が充実しはじめた。

状況を少し説明すると、インドネシアは33州から成り、2010年国勢調査人口は2億3,987万人である。幼児人口(0~6歳児)は3,180万4,759人、総人口の13.26%である。都市部の幼児人口は1,538万1,471人(48.36%)、農村部は1,642万3,288人(51.64%)である(BPS, 2011)。インドネシアは2011年の国内総生産が8,468億3,228万3,153米ドルであり、低中所得国に位置づけられる(World Bank, 2012a)。貧困レベルは2010年の13.3%から2011年の12.5%と若干減少しているものの(World Bank, 2012a)、わずか3.8%のマレーシアと比べると依然として非常に高い(World Bank, 2012b)。インドネシアの人間開発指数の教育指数は187カ国中119位であり、アジア太平洋地域では24カ国中12位である(World Bank, 2012)。インドネシアの国家予算のうち教育に対する予算は2012年で全開発予算の20.2%に達したが(Nurdiansah, 2012)、保育・幼児教育に割り当てられているのはわずか1.08%にすぎない(各資料より計算:Nurdiansah, 2012 & Mulia, 2012)。

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図1 インドネシア地図

保育・幼児教育を政府が重要視するようになってから、就学前教育における就園率は2000年のわずか15%(UNESCO, 2005)から2009年には53.7%に増加した(Kemendikbud, 2012)。だが、その増加も十分ではなかったため、2010年から政府は保育・幼児教育により力を入れるようになった。2010~2014年の教育長期計画において政府の最優先事項である。中心となっているのは、すべての州、郡、市で公平に、より多くの幼児が最高の質の保育・幼児教育を受ける機会をもてるようにすることだ(Kemendiknas, 2009)。これに関して以下のような3つの目標が設定されている。

  1. 国全体の保育・幼児教育施設への就園率を72.9%まで上昇させるために、少なくとも75%以上の州で最低(でも)60%の就園率、75%以上の市(都市部)で最低75%の就園率、75%以上の郡(準都市部)で最低50%の就園率を達成する。
  2. 正規の保育・幼児教育施設の保育者の少なくとも85%が学士資格(4年制大学学位)を保有し、さらに少なくとも85%が有資格者であること、一方、非正規の施設の保育者のうち少なくとも55%が研修・訓練済みであるようにする。
  3. すべての正規保育・幼児教育施設で、誠実さ、社会的感受性、責任感や忍耐といった人格形成のための教育プログラムを実施し、この活動の多くは子どもにとって楽しく遊んで参加できるものとする(Kemendiknas, 2009)。これら3つの目標は、保育・幼児教育の量と質を向上させるという2つの主要目標に分類できる。

政府が目標達成のために実施した重要事項のひとつは、保育・幼児教育に関わる官僚機構の改編だ。2011年までは教育文化省内に2つの異なったタイプの保育・幼児教育を管轄する機関として、2つの局があった。正規の施設である通称Taman Kanak-Kanak(TK)は、初等教育も管轄していた幼稚園-小学校総局の管轄下にあった。一方、非正規の施設は保育・幼児教育局の管轄下にあった。2011年、政府はdirektorat jenderal Pendidikan Anak Usia Dini, Non Formal, Informal(PAUDNI)という名称の保育・幼児教育、非正規及び私的教育の総局を設置し、正規、非正規両方の保育・幼児教育を一括管理することとなった。従って、今では正規、非正規両方の施設がひとつの調整委員会のもとに置かれている(Kemendiknas, 2011)。

国家の教育システムに関するインドネシア共和国法2003年第20号では、正規教育は構造化された段階的な教育であり、非正規教育は正規システム外のあらゆる構造化・組織化された教育形態とされる(UURI No. 20/2003)。同法は保育・幼児教育を正規の教育システムから除外し、初等教育への準備段階と見做している。

しかしながら、保育・幼児教育は、正規、非正規、私的施設に分類できる。正規の保育・幼児教育には幼稚園(Taman Kanak-Kanak:TK)とイスラム教幼稚園(Raudlatul Athfal:RA)の2形態がある。非正規の保育・幼児教育には、プレイグループ(kelompok bermain:KB)、託児所(Taman Penitipan Anak:TPA)、プレイグループに類似したその他施設(Satuan Paud Sejenis:SPS)がある。私的保育・幼児教育とは家庭やコミュニティベースのものである。これら3つの形態の他に、インドネシアには統合保健ポスト(pos pelayanan terpadu:posyandu)や乳児・幼児のいる母親向けのプログラム(Bina Keluarga Balita:BKB)がある(UNESCO, 2005)。これらは小さな子ども向けの保健サービスと両親向けの育児に関する教育を合わせたサービスである。以下の表に保育・幼児教育の各形態についてまとめた。

  幼稚園(TK/RA) プレイグループ(KB) 託児所(TPA)
子どもの歳(年齢) 4~6歳 2~4歳 3ヶ月~6歳
対象 子ども 子ども 子ども
重点 就学前教育、子どもの発育、就学準備 子どもの発育 両親共働きの子どもの保育、子どもの発育も補助的に行う
利用可能時間 週5~6日、1日あたり150~180分 週2日以上、1日あたり150~180分 週5~6日、1日あたり8~10時間
担当省庁 幼稚園は教育文化省、イスラム教幼稚園は宗教省 教育文化省-政策及びガイドラインの作成 社会福祉省-ケアや社会サービスに関する部分、監督
教育文化省-政策及びガイドラインの作成
  その他のプレイグループ(SPS) 統合保健ポスト(Posyandu) 乳児・幼児のいる母親向けのプログラム(BKB)
子どもの歳(年齢) 2~4歳 0~6歳 0~5歳
対象 子ども 子どもと母親 母親
重点 子どもの発育、補助的な追加プログラム 保健サービスと両親向けの育児に関する教育を合わせて提供する 両親向けの育児に関する教育と、その実施時に子どもの発育促進のための活動を合わせて行う
利用可能時間 週2日以上 月2日、1日あたり2時間 月2日、1日あたり2時間
担当省庁 教育文化省-政策及びガイドラインの作成 保健省-技術的サポート、監督
内務省は「家族福祉のエンパワーメント運動」と協働
女性エンパワーメント/子ども保護省-政策
国家家族計画調整委員会(Badan Kependudukan dan Keluarga Berencana Nasional:BKKBN)

表1 インドネシアの保育・幼児教育施設(各種資料より:UNESCO, 2005; Ministerial Decree No. 58/2009)

その他のプレイグループ(SPS)にはPos PAUD、Taman Asuh Anak Muslim(TAAM)、Bina Anak Muslim Berbasis Masjid(BAMBIM)、PAUD Taman Pendidikan Al-Quran(TPQ)、PAUD Pembinaan Anak Kristen(PAUD-PAK)やPAUD Bina Iman Anak(PAUD-BIA)といったものがある(Kemendiknas, 2011)。これらの施設は様々な省庁や自治体によって運営されている。重点は、子どものケアや保健から、宗教や教育まで様々である。教育文化省は施設の教育サービスの規制に取り組む予定だ。例えば、Pos PAUDはposyanduやBKBの両方が行う、保健、教育、ケア、育児や児童保護を統合した保育・幼児教育サービスである。Pos PAUDに関与している省庁は、保健省、内務省、女性エンパワーメント/子ども保護省と教育文化省及び国家家族計画調整委員会(Badan Kependudukan dan Keluarga Berencana Nasional - BKKBN)である。

上記以外の保育・幼児教育の形態には、国家開発庁(Badan Pembangunan Nasional)によって創設された総合/統合的保育・幼児教育(Holistic Integrative ECCE)がある。これはPos PAUDと類似のもので、教育、ケア、保健、児童保護や育児サービスを統合的に行う。ただ、未だ試行及び開発段階にあり、現時点では広く実施されてはいない。また、「総合/統合的(holistic integrative)」という言葉の定義についても、それが(様々なサービスが)一つの機関への統合を指すのか、保育者の能力がそのようなものであることを指すのか、いまだ議論中である。

量的な面:保育・幼児教育施設への就園率増加

保育・幼児教育施設への目標就園率を達成するために、政府は保育・幼児教育を提供するプロバイダーの多様化、及び統合化方策をとっている(UNESCO, 2005)。保育・幼児教育施設を設立するために、NGO、親や地域共同体、民間機関や地域・地方政府を支援し、活用してきた。統合化方策のおかげで、保育・幼児教育は地域保健所(Pos Pelayanan Terpadu:Posyandu)や乳児・幼児のいる母親向けのプログラム(Bina Keluarga Balita:BKB)といった既存の地域サービスに統合されるようになった(UNESCO, 2005)。地方政府は各村に少なくとも1か所の保育・幼児教育施設を整備するよう義務づけられている。こういった方策は2002年前後から実施されており、就園率を上げるのに非常に効果的であったことが分かっている。

しかしながら、質に関しての取り組みはなかった。村部にある施設は設備や保育者の資格に関して最低基準を満たしていないものが多い。もう一つの問題は多数の施設が未登録であるということだ。教育文化省は現在、保育・幼児教育施設の登録方法を見直しているところだ(Akuntono & Wedhaswary, 2011)。施設の運営者に登録を促すため、できるだけ簡素な登録方法になる。この点は重要で、なぜなら登録済み保育・幼児教育施設だけが政府の補助金を受けることができるからである(Akuntono & Wedhaswary, 2011)。

本稿Part2では、インドネシアの幼児教育・保育の質の向上に関する政策や課題について説明する。


参考文献

筆者プロフィール
ハニ・ユリンドラサリ(Hani Yulindrasari)(インドネシア教育大学)

ハニ・ユリンドラサリ氏はインドネシア教育大学、保育者養成課程の講師で、政府の保育者の力量向上プログラムの公認査定者・指導者でもある。研究分野は幼児教育及びジェンダー研究である。また、同大学女性研究センターの活動メンバーで、教育、子どもの権利擁護や人身売買反対キャンペーンにおけるジェンダー・メインストリーミングの活動に従事し、幼児教育とジェンダー間の公平/平等の改善に尽力している。
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