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【インドネシア】 インドネシアにおける幼児教育の発展について

アリ・ヌグラハ(Ali Nugraha)、ハニ・ユリンドラサリ(Hani Yulindrasari)(インドネシア教育大学)

2012年9月14日掲載

要旨:

本稿ではインドネシアにおける保育・幼児教育(Early Childhood Care and Education, ECCE)の発展に関する重要事項や課題を、7点にわたって述べる。これらは、保育・幼児教育について以下の5つの関連事情-①発展の歴史と経緯、②客観的状況や人的資源、③社会経済・文化的事情、④現政権の政策、⑤投資に対する楽観的な見方や確信-を過去3年にわたって徹底的に観察・分析した結果である。その中でも最も重要な事項はナショナル・グランド・デザイン(National Grand Design, NGD)の策定である。ナショナル・グランド・デザインの目標を達成するために政府は6つの方策を定めた。これら方策は、保育・幼児教育を国民全体の運動とすること、保育・幼児教育従事者の学歴向上、国による基準設定、保育・幼児教育の統合施設の設立、保護者の参加促進、そしてカリキュラムに人格形成を取り込むことである。本稿の主張は、これらの方策それぞれがインドネシアの保育・幼児教育の発展における課題にもなっているということだ。

Keywords;
ECCE, ECEC, アリ・ヌグラハ, インドネシア, カリキュラム, ハニ・ユリンドラサリ, 保育, 保育・幼児教育, 幼児教育, 教育者の資格, 育児
本稿は2011年7月11~12日にバンドンのインドネシア教育大学(UPI)で開催された2011年国際幼児研究学会(テーマ「幼児期の現状と課題」)でのアリ・ヌグラハ氏(本稿第一著者)の基調演説に基づく。

本稿では、インドネシアにおける保育・幼児教育(Early Childhood Care and Education, ECCE)の発展に関する重要事項や課題を、7点にわたって述べていく。これらは、保育・幼児教育について以下の5つの関連事情-①発展の歴史と経緯、②客観的状況や人的資源、③社会経済・文化的事情、④現政権の政策、⑤投資に対する楽観的な見方や確信-を過去3年にわたって徹底的に観察・分析した結果である。

1. 保育・幼児教育のナショナル・グランド・デザイン

最初に、インドネシアの保育・幼児教育の発展に関して最重要事項であるナショナル・グランド・デザイン(National Grand Design, NGD)の策定について述べる。ナショナル・グランド・デザインから分かることは、政府が保育・幼児教育の発展に注目をし、それに対する認識が向上している点だ。保育・幼児教育により留意し、資金を当てることは、実際に国の将来に大きな変化をもたらす投資であって、人的資源はインドネシアの向上の鍵であると政府は理解している。

ナショナル・グランド・デザインには保育・幼児教育発展のための長期的方策が盛り込まれ、2011年から2045年まで、保育・幼児教育発展のニーズに対応できるようになっている。目標は優れた人格、技能そして知的能力をもった質の高い世代を創ることだ。希望的かつ楽観的に見て、2045年のインドネシア独立100周年に向けて、保育・幼児教育は最高の世代を送り出せるだろう。ナショナル・グランド・デザインは今では利害関係者や政策決定者にとって、参考文献やガイドラインとなり、インドネシアの保育・幼児教育を大幅に改善していくための重要な足がかりだ。

ナショナル・グランド・デザインの目標達成のために、政府は保育・幼児教育発展への方策を定めている。その方策とは、国を挙げての運動、保育者の学歴向上、国による基準設定、保育・幼児教育統合施設の設立、保護者の参加促進、そしてカリキュラムに人格形成を取り込むことである。本稿の主張は、これら方策それぞれがインドネシアの保育・幼児教育の発展における課題となっているということだ。

2. 保育・幼児教育の国を挙げての運動

2つ目の論点は保育・幼児教育の国を挙げての運動である。これはインドネシア全土でより多くの児童が保育・幼児教育を受けられるようにするための取り組みである。この運動の影響は大きく、インドネシア政府内あらゆるレベルで、保育・幼児教育施設の創設・発展を促進していくこととなった。2009~2010年の就園率を見ると、インドネシアでは保育・幼児教育を受けている幼児は僅か53.7%だ(Ministry of National Education, 2010a)。他の東南アジア諸国と比べてみると、インドネシアの就園率はフィリピンの51%と並ぶ(UNESCO, 2011a)。この数字はタイの95%より少ないものの(UNESCO, 2011)、カンボジアの僅か20%よりは大きい(UNESCO, 2011c)。

インドネシアの既存の保育・幼児教育施設の中でも、子どもコーラン学習センター(インドネシア語ではTaman Pendidikan Al-Quran:略称TPQ)は就園率が最も高く、25.66%である(Ministry of National Education, 2010a)。この数字は驚くべきものでもない。というのは、インドネシアの人口の大多数はイスラム教徒であり、自分の子どもにイスラム教に則った学校や教育施設を選択する親が多いからである。子どもコーラン学習センターはコーランを読む学習をし、同年代の子どもたちと遊ぶ機会も提供する場だ。この施設のコンセプトは、プレイグループと似たようなものだが、この施設ではコーランを読む力とイスラム的価値観の教育が重視されている。

就園率を上げるために、政府は既存の保育・幼児教育施設が受入幼児数を増加できるように支援や奨励を行っている。しかしながら、既存施設は有資格者の人数、設備やインフラが限られているところばかりだ。このため、就園児数の増加は今後も大きな課題として残る。

3. 保育・幼児教育従事者の教育資格の向上

3つ目の論点は保育・幼児教育の人的資源である。保育・幼児教育従事者(以下、保育者と訳す)で、それに相応しいと思われる高等教育を受けている人はあまりいない。国家教育省(the Ministry of National Education)(2010b)のデータによると、保育者の60.6%が高校卒業もしくはそれ以下の学歴だ。学士資格のある保育者は全体の僅か15.7%である(Ministry of National Education, 2010b)。この状況を改善すべく、政府は関係する大学を指定して、保育・幼児教育の学士コースを創設するように奨励している。また、学士資格のない保育者たちにも早急に学士を取得するよう勧めている。

これはある程度、保育者にとって(頭の痛い)問題となっている。学士取得には多大な費用が必要であるが、彼らの給与は依然として非常に低い。このため、目標に定めたように保育者の誰もが学士資格を取得するのは難しい。政府はこの問題を克服すべく、一定の学習コースや養成訓練コースでも保育者の能力を向上させようとしている。これを補足する形として、政府は学習コースや養成訓練コースが学士課程の一部として評価されるシステムを提案した。しかしながら、これもまた大学にとっては厄介なこととなった。大学は養成訓練コースを大学の学士単位に変換するシステムを構築しないといけないのだ。また養成訓練コースを単位認証するとなると、そうした保育・幼児教育の高等教育の質が疑問視されてしまう。

4. 保育・幼児教育の国家基準

4つ目の論点は保育・幼児教育の国の基準である。現在、保育・幼児教育施設には非正規、私的、正規施設で5つのタイプがある。幼稚園(Taman Kanak-Kanak:TK)、プレイグループ(Kelompok Bermain:KB)、託児所(Taman Penitipan Anak:TPA)、家庭をベースとした施設(PAUD Berbasis Keluarga:PBK)、そしてプレイグループに類似したその他施設(Satuan PAUD Sejenis:SPS)である。各施設タイプは対象年齢や内容、運営形態によって異なる。これらについて以下の表にまとめた。

施設タイプ 年齢 内容 運営形態
幼稚園(Taman Kanak-Kanak:TK) 4~6歳 - 就学準備
- 初期識字
- 発達を促す刺激
- 構造化された学習
正規施設:構造化・組織化された学校制度の一部
プレイグループ
(Kelompok Bermain:KB)
2~4歳 - 発達を促す刺激
- 初期識字
- 半構造化された学習
非正規施設:構造化・組織化はされているが
学校制度外の施設
託児所(Taman Penitipan Anak:TPA) 3ヶ月~6歳 - 保護者が働いているなど子どもの面倒を見ることができない間の保育
- 発達を促す刺激
非正規
家庭ベースの保育・幼児教育施設(PAUD Berbasis Keluarga:PBK) 0~4歳 - 発達を促す刺激
- 初期識字
私的、家庭で保護者によって行われる
プレイグループに類似したその他施設(Satuan PAUD Sejenis:SPS) 2~4歳 - 発達を促す刺激
- 初期識字
地域施設に統合されている施設
- Posyandu (地域保健所)
- Bina Keluarga Balita (5歳未満児のいる家庭向け地域施設)
- コーラン学習センター(Taman Pendidikan Al-Quran/TPQ)
- 日曜学校(キリスト教徒)


これらの施設は国の基準に従う義務がある。国の基準には発達目標、保育者の基準、内容・過程・評価基準や施設・インフラ・経営・財務基準が含まれている。我々はこれらの基準で保育・幼児教育の状況がよくなっていくと信じている。一方、現在のすべての施設に基準に従うことのできる能力や資源があるわけではない。この意味で、国の基準は資源の限られている施設にとっては負担にもなっている。幸運なことに政府はこの状況に気が付き、6百万人もの幼児のために、2012年には施設の運営費用に資金援助がなされる予定だ(Rubiantoro, 2011)。

5. 保育・幼児教育統合施設システム

5つ目の論点は保育・幼児教育が統合された施設である。これはインドネシアのどの村にも大抵は設置されている既存の公衆衛生施設に、保育・幼児教育を統合するというシステムだ。こうして、村や僻地でより多くの幼児が保育・幼児教育を利用できるようになる。就園率も増加していくだろう。しかし、これらの統合施設に適切な設備やインフラを整備するのも、やはり大きな課題の1つとして残る。さらに、このような状況の施設に資格を満たしている人的資源を配備するのも困難なことである。

6. 保育・幼児教育への保護者参加

6つ目の論点は、保育・幼児教育への保護者参加である。保護者はその子どもの発達に非常に重要な役割を果たす。保護者や育児介助者と家庭での時間を過ごしている幼児が大多数なので、保護者の参加は非常に重要だ。保護者参加によって、施設で受けた教育や刺激が家庭でも継続される。事例観察や経験から分かっていることは、自分の子どもへの教育や刺激を教育者に任せきっている保護者が多い。どのように教育や刺激を継続したらいいのか分からない人も多い。このため、保育・幼児教育への保護者の参加を増やすために、政府は育児プログラムのパイロットプロジェクトを始めた。このパイロットプロジェクトの内容や奨励内容は次の通りである。

  1. 各施設に保護者会組織(Kelompok Pertemuan Orangtua:KPO)を設立する。保護者会は定期的に育児講座を開催することになっている。
  2. 各施設で保護者相談日を創設する。保護者相談日には、保護者が個別に先生や小児発達の専門家に子どもの成長について質問や話をしたり、意見を求めたりできる。
  3. 保育・幼児教育の体験学習に保護者を関与させる。例えば、子どもたちの料理体験学習の際に保護者が食材準備で参加したり、「職業の日」として自分の仕事を子どもたちに紹介したりするなど、体験学習に保護者が参加する。
  4. 保育・幼児教育の体験学習計画・準備に保護者を関与させる。例えば、遠足の計画に保護者が参加する。
  5. 家庭訪問を奨励する。教育者は時折、家庭訪問して、家庭での様子を見るように勧められている。目的は保護者と教育者との間に良好な関係を築き、保育・幼児教育の目標がより容易に達成されるようにするためだ。


7. 人格形成の統合されたカリキュラム

7つ目の論点は、保育・幼児教育カリキュラムに人格形成を取り込む必要性である。インドネシアの現世代は道徳の荒廃という大きな問題に直面している。若者たちはドラッグ・麻薬・向精神剤の乱用、ポルノ、HIV/エイズや暴力といった問題に直面している。麻薬・向精神剤の乱用件数は比較的高く、データによると2008年だけでも19,791件もの乱用が報告されている(BNN, 2009)。さらに懸念されているのは、インターネット上の「sex」のキーワード検索でインドネシアが上位5位であることだ(Okezone.com, 12 October 2011)。インドネシアには既にポルノに関する規制があるとはいえ、この規制の運用は未だ充分でなく、難しい状況にある。ポルノ出版物、海賊版や漫画販売者のアダルトビデオのような制限付きサイトを、子どもたちは携帯電話やインターネットカフェで容易に閲覧することができる。また、インドネシアの子どもたちの多くはメディアを通して暴力にさらされているが、実際に身の周りでも暴力にさらされている子どもたちもいる。それ故に、ポルノ、麻薬や向精神剤の乱用や暴力、いかなる悪影響からも子どもたちは保護される必要がある。

保護をするための方法の一つは、子どもたちを教育し、健全な人格と価値観を身につけさせることだ。こうして、子どもたちは環境の悪影響を自然な形で自分自身で選別し、自分を守ることができるだろう。最も効果的に、健全な価値観を内面に取り込むことができるのは幼児期であるので、保育・幼児教育カリキュラムに人格形成を取り込むことは非常に重要だ。このようにして、小さな子どもたちを、これからの人生で直面するであろう困難な状況に対し、準備をさせて立ち向かわせるのが一番得策であろう。

我々は保育・幼児教育の発展において多くの困難な問題に直面しているとはいえ、ナショナル・グランド・デザインがインドネシアの保育・幼児教育の現状を改善していくだろうと楽観的に見ている。
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