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ウイルス感染と抗体産生ならびに集団免疫

成田 雅美(東京都立小児総合医療センター アレルギー科医長) 

2020年8月 7日掲載

最近、新型コロナウイルス感染症の流行でウイルスへの関心が高まっていますが、もともと人間は様々なウイルスに対して自分の体を守るメカニズム(免疫反応)を備えています。ここでは一般的なウイルスへの免疫反応について解説します。

自然免疫

ウイルスは、それ自体では増えることができず、ヒトの細胞に侵入してその機能を利用して増殖します。これがウイルスに感染した状態です。感染初期に働く免疫反応とは、ウイルスに感染した細胞をみつけて、この細胞をウイルスごと除去するもので、「自然免疫」と呼ばれます。これは感染後、数時間で発動しますが、特定の抗原にだけ反応する「特異性」は低く、正常な細胞にもダメージを与えることがあります。例えば、ウイルスに感染する(風邪をひく)と発熱するのもこのためで、ヒトは免疫反応により体温を高くすることでウイルスの増殖を抑制しています。発熱はつらい症状ではありますが、解熱剤などで無理やり熱を下げても、風邪の本態であるウイルス感染そのものを抑制しているわけではないので、むしろ風邪の期間そのものを延長させるとも言われているのはそのためです。少し話がそれましたが、この「自然免疫」はその場しのぎの防御機構で、後で述べるような免疫的な記憶はありません。

獲得免疫

ウイルス感染後、「自然免疫」の次に誘導されるのが「獲得免疫」と呼ばれるもので、それぞれのウイルスに特徴的な成分を認識して、感染した細胞を特異的に破壊したり、ウイルスに特異的に結合して増殖を抑制する抗体を産生したりします。抗体が産生されるまでには2週間程度かかりますが、抗体ができれば感染は終息に向かいます。回復した後も抗体は血液中に存在し、次の感染を防ぎます。感染後、時間がたてば血液中の抗体も少なくなりますが、抗体を産生する免疫細胞は記憶されて生き残り、再び同じウイルスに感染した場合には、速やかに増殖して抗体産生が誘導されるために感染が体全体に広がらず、発症が抑制されます。はしか(麻疹ウイルス)、水ぼうそう(水痘ウイルス)、風疹(風疹ウイルス)などは、一度かかると二度とかからないといわれるのは、このためです。これらの疾患に子どものときに感染したかどうかわからない場合でも、ウイルスごとの抗体の有無については、血液検査で調べることができます。十分な抗体量がある人は周囲で感染が広がっても、そのウイルス感染症にはかかりません。これを「個人免疫」と言います。

これに対してインフルエンザウイルスには、一度かかっていてもその後何度も感染してしまうのはなぜでしょうか? これは抗体が産生される仕組みと深く関連しています。抗体はウイルスの成分タンパク質の一部を認識しているにすぎず、同じウイルスに感染した患者さんでも、ウイルスのどの部分を認識する抗体がどの程度できるかには個人差があります。インフルエンザウイルスは、種類が多いうえに同じ種類でも増殖の過程で変異しやすく、抗体が認識するタンパク質が別のものに変わってしまうと、感染を予防できません。

外部から侵入したウイルスを認識して抗体を産生し、次の感染を予防するという獲得免疫のメカニズムを利用したのが予防接種です。予防接種では感染力を弱めたウイルスや感染力をなくしたウイルスの成分の一部をヒトに投与して、免疫反応によりその成分への抗体を産生する免疫細胞を誘導します。実際にウイルスに感染した場合と比べると、免疫細胞への刺激が少ないため免疫反応が弱く、ほとんどの予防接種は2回以上の投与が必要とされています。

集団免疫

予防接種の目的は、接種した個人の感染予防です。一方、社会全体でみると、あるウイルスにすでに感染したことがある、または予防接種を受けたことにより抗体をもっている人が多くなると、その社会における感染症の流行がおこりにくくなります。これを「集団免疫」と言います。はしか(麻疹ウイルス)を例に説明します。麻疹ウイルスは感染力が強く、感染すると高熱や発疹だけでなく肺炎や脳炎を合併した場合、生命にかかわることもあります。2000年代初めまでは、日本でも毎年のように流行していました。予防接種の推奨により2004年ごろから感染者が減少していましたが、2007年に10~20歳台を中心に大きな流行が見られました。2006年に麻疹・風疹混合ワクチンの2回接種が定期接種になる以前の世代では、十分な抗体をもたない人たちがいて、その集団で感染が広がったと考えられました。そこで2008年から5年間中学1年生、高校3年生に2回目の麻疹ワクチン接種を推奨したところ、2009年以降は若年層の麻疹患者が激減し、日本全体での感染も減少しました。予防接種の推奨により抗体保有率が高くなり、集団免疫により社会全体での麻疹の流行が抑制されたのです。その後2015年には世界保健機関(WHO)西太平洋地域事務局により、日本は麻疹の排除状態にあると認定されました。

集団免疫について風疹の特殊な事情を反映した流行が2012~13年に起こりました。風疹は、「三日ばしか」とも呼ばれるとおり、発熱、全身の発疹など、はしかと似たような症状がみられますが全体として軽症で、不顕性感染といって症状が認められない場合もあります。しかし妊娠初期の女性が感染すると、胎児にも感染して先天性風疹症候群を発症し、難聴、白内障、先天性心疾患、発達発育遅滞などを引き起こすことがあります。先天性風疹症候群の予防のために、日本では1977年から中学生の女子のみを対象に風疹ワクチンの集団接種が開始されました。その後1995年以降は、男子も含めて個人接種となり、さらに幼児期の2回接種が定期接種となりました。このような風疹の予防接種制度の変遷に伴い、集団接種以降の女性の抗体保有率が95%程度であるのと比べて、女子中学生のみが接種の対象であった年代(30~50歳代)の男性の抗体保有率は80%前後でした。風疹が2012~13年に大流行した時には、感染者のほとんどがこの世代の男性であり、さらに抗体のない20~30歳代の女性(妊婦)に感染したために、先天性風疹症候群の新生児の出生が、急激に以前より増えました。抗体をもたない人たちがいると集団免疫が機能せず、感染が拡大してしまうのです。

社会全体の抗体保有率がどの程度あれば集団免疫が有効になるかは、ウイルスの感染力の強さ、抗体の性質や持続期間なども関係します。新型コロナウイルスについては、社会全体の60%の人が抗体を獲得すれば感染は広がらないとも言われています。一方で、新型コロナウイルス感染者では産生された抗体が短期間で減弱した、抗体に感染予防効果が認められなかったなどの報告もあり、集団免疫の獲得が可能なのかどうかがわかっておりません。今後の調査結果にも注意する必要があるでしょう。

筆者プロフィール
成田 雅美
東京都立小児総合医療センター アレルギー科医長。
医学博士。小児科医。東京大学医学部卒業、東京大学大学院医学系研究科修了。東京大学医学部附属病院(小児科)、国立成育医療研究センター(アレルギー科)などを経て現職。専門は小児アレルギー学。小児アレルギー疾患(アトピー性皮膚炎、食物アレルギー、気管支喘息)患者や家族のアドヒアランス向上、QOL改善にも配慮した診療を心がけている。そのために医師、看護師、薬剤師、栄養士、心理士などの医療関係者だけでなく、保育園、幼稚園、学校の職員、保健師など子どもを取り巻く多職種が協力する体制の整備にも関心がある。一方でアレルギー疾患発症予防に関する研究にも従事してきた。

※肩書は執筆時のものです

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