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風疹の予防接種後に妊娠が分かったら・・・?

榊原 洋一 (CRN所長、お茶の水女子大学大学院教授)

2013年4月19日掲載

今回は日本中で成人の間に流行している風疹について急いでお話しなくてはならないと思い、筆をとりました。楽しい話題は次回までお預けにします。

風疹は別名「三日はしか」とも呼ばれます。はしか(麻疹)は、高熱や全身の発疹が1週間以上の経過で続くのにたいし、風疹は発熱も微熱程度ですし、発疹も麻疹ほど目立たない軽症のウイルス感染症です。「三日はしか」と呼ばれるのもそのためです。軽症ですむこともあって、予防接種をせずに自然にかかった方がいいと思うひとも多いようです。専門家である小児科医の中にも、ごく少数ですが、そうした意見を持っておられる方がいるほどです。とは言え数は少ないのですが後遺症が残ることがある脳炎を引き起こします。昔、私自身も風疹脳炎による後遺症に悩むお子さんを受け持ったことがあります。

しかし風疹流行の最も大きな問題は、妊娠初期の妊婦さんが風疹にかかることによって、胎児に難聴、視力障害や知的障害をきたす先天性風疹症候群を起こすリスクが生じることです。かつては風疹の予防接種を女子中学生に行っていたのも、この先天性風疹症候群を防ぐことが目的でした。この予防接種法との関連もあり、風疹患者の7割以上は男性で、20代から40代が8割を占めるようです。

現在大きな社会・健康問題となっている成人での風疹の流行は、もちろん風疹にかかった方ご本人の健康問題もあるのですが、それ以上に風疹にかかった成人と接触することによって、予防接種を受けていない妊娠初期の女性が風疹にかかり、その結果として先天性風疹症候群の子どもの増加が予想されることです。

 

風疹は予防接種で防げますので、未接種の成人が予防接種をすれば、先天性風疹症候群の子どもの増加を防ぐことができます。要は、未接種の成人が風疹の予防接種を受ければいいのだ、ということになります。しかしここに、多くの皆さんが予期しない決して無視するわけにはいかない新たな問題が生じるのです。

 

それは、未接種の女性が風疹の予防接種を受けた後に、妊娠がわかるというケースがあるということです。風疹ワクチンは生ワクチンですので、弱毒化した(生きている)風疹ウイルスを注射して、ワクチンに含まれている弱毒化した風疹ウイルスに感染することによって免疫を獲得するのです。妊娠に気がつく前に風疹の予防接種をした場合、弱毒化したとはいえ、受胎したばかりの胎児に風疹のウイルスが感染することになります。妊娠がわかっている女性に対しては、風疹の予防接種は禁忌(行ってはいけない)となっているのも、そうした事情があるからです。

 

では、実際に妊娠がわかる少し前に風疹の予防接種を受けてしまった場合は、どうすればいいのでしょうか。

半年ほど前、私は次のようなメールを見知らぬ方からいただきました。

「先月、私は妊娠に気付かずに風疹の予防接種をしてしまいました。そして現在妊娠10週目ということが本日わかりました。子どもが先天性風疹症候群にかかるリスクはどれくらいなのでしょうか?かかりつけの産婦人科の先生は、中絶をしたほうがよいといっています。中絶で体に何らかの影響が残ることも心配で取るべき選択を迷っています。」

風疹のワクチンは妊婦さんへの接種は禁忌ですが、妊娠がわかるのは受胎数週間後ですので、このお尋ねのようなことが起こることは避けようがないのです。心配なら中絶をすればよい、という考え方もありますが、風疹ワクチンを妊娠初期に受けた場合、どのくらいの頻度で生まれてくる子どもに先天性風疹症候群が起こるのかといった情報があれば、悩む必要はないのです。

探してみると、そうした情報はちゃんとあるのです。私は次のようにお返事をしました。

「ご心配のことと存じます。 予防接種の教科書(Epidemiology and prevention of Vaccine-Preventable disease)に掲載されている次のような研究論文があります。 妊娠初期に気がつかずに風疹の予防接種をした321人の妊婦から生まれた子どもを調査したところ、先天性風疹症候群の発症はゼロだったというものです。 この教科書には、その結果に基づいて『妊娠が分かっている女性はワクチンは避けたほうが良い(理論上危険性はありうる)が、だからといって知らずにワクチン接種をしてしまった場合に中絶する理由はない』とはっきり書かれています。 日本の産婦人科医は、中絶を勧めることもあるようですが、アメリカではそうではありませんし、私も事実に基づいたアメリカの考え方のほうが合理的だと思います。」

そして、最近私はこの女性から次のようなメールをいただきました。

「お陰様で、元気な男児を出産しました。 榊原先生が見ず知らずの私の突然のメールに返信してくださったおかげで、この子が無事に生まれたも同然だと思います。ありがとうございました。」

成人への風疹ワクチン接種を推奨するキャンペーンの中で、このメールの主のような方がかならずおられると思いますが、ご紹介した研究論文の結果がそうした方へのご参考になればいいなと思っています。


【編集部より】

※風疹については厚生労働省ホームページもご覧ください。

※2013年5月20日、厚生労働省研究班は、妊娠中に風疹ワクチンを接種した場合でも中絶などを考慮する必要はないとの緊急見解をまとめました。詳しくは、こちらをご覧ください。
日本産婦人科医会ホームページ
妊娠中に風疹含有ワクチン(麻しん風しん混合ワクチン、風しんワクチン)を誤って接種した場合の対応について(pdf)
筆者プロフィール
report_sakakihara_youichi.jpg榊原 洋一 (CRN所長、お茶の水女子大学大学院教授)

医学博士。CRN所長、お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科教授。日本子ども学会副理事長。専門は小児神経学、発達神経学特に注意欠陥多動性障害、アスペルガー症候群などの発達障害の臨床と脳科学。趣味は登山、音楽鑑賞、二男一女の父。

主な著書:「オムツをしたサル」(講談社)、「集中できない子どもたち」(小学館)、「多動性障害児」(講談社+α新書)、「アスペルガー症候群と学習障害」(講談社+α新書)、「ADHDの医学」(学研)、「はじめての育児百科」(小学館)、「Dr.サカキハラのADHDの医学」(学研)、「子どもの脳の発達 臨界期・敏感期」(講談社+α新書)など。
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