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バイスタンダーサポートを視野に入れた校内救急体制について ~「アクションカード」を使った救急体制を取り入れる~

要旨:

校内救急体制を見直すにあたり、「アクションカード」を取り入れた体制を考えてみることにした。その過程で知ったバイスタンダーサポートの視点は校内救急体制の中でも取り入れるべき視点であると思い、実践を試みた。
1 はじめに

私は香川県丸亀市立飯山中学校の養護教諭として勤務している。学校は既往歴のない発作や骨折、大出血など緊急に対応しなければならないことが多く、「とっさの対応ができる教職員集団になるための救急体制」を作っておく必要がある。教職員がすぐに動ける体制として「アクションカード」を使った救急体制に成果があったという実践を養護教諭の専門誌や研究収録集など読むたびに、本校でも取り入れてみたいと強く思うようになった。アレルギー対応の給食を必要とする生徒や、アナフィラキシーショックを起こした際の補助治療剤であるエピペンを所持する生徒が入学するのを機に、改めて校内の救急体制について見直すことにした。

「アクションカード」とは、災害現場で活用されている「行動指標カード」のことで、限られた人数と資源の中、できるだけ効率よく緊急対応することを目的として作られたものである。

2 実践内容・方法

(1)「アクションカード」を作成するにあたって

「アクションカード」には、役割に対する具体的な指示が書かれてあり、その役割を担った人がカードを読めば、とるべき必要のある行動が分かるようになっている。最初は、このたび救急体制を見直すきっかけとなった食物アレルギー対応を中心とした「アクションカード」の作成を考えていた。しかし、役割ごとの行動指標を考えていくうちに、食物アレルギーだけに特化したものではなく、いろいろな場面の対応を想定したものを作成した方がよいのではないかと思い始めた。何かに特化しすぎたために「○○対応用」など、カードばかりが増えてしまうのは、かえって混乱を招く懸念があったため、様々な緊急場面の初動対応を想定した「アクションカード」の作成をめざした。

(2)「バイスタンダーサポートカード」とは

「アクションカード」のことを調べていると「バイスタンダーサポートカード」という耳慣れないカードのことを知った。「バイスタンダー」とは救急現場に居合わせた人のことを指し、「バイスタンダーサポートカード」とは、救急現場で救急車が到着するまでの間に応急手当を行ってくれた人に対して配布されているカードで、表面には、協力に対する感謝の言葉、裏面には、対応後に不安や悩みを抱えていたら相談できる窓口等の連絡先が書かれている。これは、事故現場に直面したことによる心の問題を抱える人が増えてきたのを緩和するために、平成23年から岡山赤十字病院の協力を得て岡山市消防局が始めた活動だと知った。このような背景を知ると、「アクションカード」対応の中にも、バイスタンダーサポートを提供することを視野に入れなければならないと思うようになった。 学校の場合、救急時に対応する教職員やその場に居合わせてしまった生徒がバイスタンダーになることが想定される。その人たちが受ける可能性のある心の痛みに配慮した行動指標となるように、「アクションカード」対応の中にバイスタンダーサポートを視野に入れたカードの作成を考えることにした。

(3)「アクションカード」の作成

私が参考にしたいと思っていた取り組みで紹介された「アクションカード」は、役割名をわかりやすく明示し、その役割のするべき内容が箇条書きでコンパクトにまとめられているものが多かった。これは、「アクションカード」本来の目的に沿ったもので、自分の役割を素早く認識し、その役割に集中できる利点があると思われた。しかし、この文字だけの指示書を本校の現状で取り入れるには、世代交代が急速に進み、経験の浅い教職員が増えて緊急場面に遭遇したことがないことも予想され、文字だけの指示で伝わるのかなどの理由から、もう少しカードの工夫が必要だと感じていた。

そこで、自分の役割がすぐにイメージできるように、イラストを使った「アクションカード」の作成に取りかかった。カード作成の大枠は、表面には上部に役割名、中央部に役割が一目でわかるイラスト、下部に役割を行う際の注意点があり、裏面には、その役割の流れに沿った具体的な指示があるような、両面仕様とした(図1、図2)。これは、緊急場面に一斉に人が集まれるわけではないので、後から駆けつけた人にも表面を見れば役割がわかること、またカードを受け取った際に、たとえ気が動転している状態でも、イラストを見て自分が担当する役割のイメージを直感的につかみ、その役割を認識してから裏面の指示する流れに沿えるだろうと考えたからである。

いろいろな場面を想定しながら、その場を取り仕切る「リーダー」のカードを含めて「AED」「エピペン」「手当て・観察」「記録」「生徒対応」「保護者連絡」「119番通報」「救急車誘導」係用に9つの役割カードをそれぞれ作成した。「記録」や「119番通報」など、その場での記録が必要な役割カードには、ラミネート加工の上からシールを貼って直接記入できるようにした。

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図1「アクションカード」記録係の表面 図2「アクションカード」記録係の裏面


(4)「アクションカード」を使ったシミュレート研修

こうして作成した「アクションカード」を使ったシミュレート研修を、本校の教職員を対象に実施した。食物アレルギーをもつ生徒への対応を想定し、エピペンの使用、救急搬送までを行った。その説明の中で、「バイスタンダーサポートカード」の説明もした。「バイスタンダーサポートカード」は消防局などを中心に導入されているものであり、学校現場での認知度が低いことは予想していたが、いざ研修をしてみると「バイスタンダーサポートカード」だけでなく、「アクションカード」の認知度も同様に低く、エピペンの使用を練習できるエピペントレーナーにも触れたことがなかったという感想に驚いた。そのため、この、「アクションカード」を使った救急体制が、実際に校内で活用できるのかどうかを考えるよい機会になった。

「アクションカード」を使用しての救急体制については、「緊急事案が発生すると、やるべきことがたくさんある中で、あれこれ考えず指示書を見て動けるのがよい」と参加者からも概ね好意的な意見がでた。その結果、校内各階のわかりやすい場所に、「アクションカード」を設置することにした。一方で、カードの紛失、管理方法の心配や心肺蘇生の方法、AED、エピペンの使用手順も救助する現場には欲しいなどの意見も寄せられ、課題も残された。

(5)「アクションカード」の改善

シミュレート研修後の反省から、車いすや担架、毛布などの保管場所と使用方法、心肺蘇生の方法、AED、エピペンの使用手順などを「ヒントカード」としてまとめ、救急対応時の施策として付け加えることにした。

「アクションカード」は、シミュレート研修でわかりやすく説明するためにA3サイズで作成していた。研修の際、「大は小を兼ねる」の意見があり、当初はA3サイズのまま校内に設置していたが、「ヒントカード」も増えたことから、重くかさばってしまったのが気になっていた。幸いなことに、設置して1年経過しても実際に「アクションカード」を使用する場面はなく、それから1年をかけて徐々にA4サイズにまで変更していったものの、カードが増えて煩雑になったこのままの状態では「アクションカード」があっても校内の救急体制はうまく機能しないのではないかと思うようになり、別の方法を考えることにした。その結果、「アクションカード」の行動指標部分は残しつつ、役割や「ヒントカード」の内容をA5サイズの小冊子にまとめて教職員に1冊ずつ配布することにした。「アクションカード」を作成した時に考えた両面使用の良さはなくなるが、行動指標部分の邪魔にならない範囲でイラストや注意点が目立つように紙面の構成を考えてまとめた。

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写真1 救急箱近くの写真写真2 小冊子の中身「記録」の部分


(6)「小冊子」を使ったシミュレート研修

小冊子を作成、設置した後、さらに小冊子をテキストにして、シミュレート研修を行った。食物アレルギーによるアナフィラキシーショックを起こした生徒が出た事案を想定し、エピペンの使用、救急搬送までの研修を行った。その後、追加した内容である、車いすや担架の使用方法、安静の体位についても研修を行った。実際にやってみることで、担架や車いすを扱う時、操作する人のちょっとした配慮や言葉かけで、救助される側の不安が軽減されることがわかった。救助される側からすれば見通しがついて安心できるし、救助する側からしても、段差でつんのめったり、ドアにぶつかったりして起こってしまう可能性がある救助される人の二次的なけがを回避できると考えた。もし、二次的なけがが起こってしまったとしたら、救助した側の心の負担はますます大きくなってしまう。これは、シミュレート研修によって、救助される側と救助する側、両方の立場の話が聞けたからわかったバイスタンダーサポートを考える上での新たな気づきである。

小冊子は、プリンターの小冊子印刷機能を使ってA4サイズに両面印刷したものを半分に折ってA5サイズにした。表紙を入れて16ページにすると、印刷用紙8枚ほどの厚さになる。このサイズになると保存版のイメージが増すのか、職員室のデスクマットに挟んでいたり、職員室内の黒板に張りつけてあったり、こちらから声をかけなくても目につくところに置かれているのを見かけるようになった。校内で教職員一人ひとりの救急体制への意識が高まっているように感じられてうれしかった。

(7)小冊子の改善

本校の場合、ただ「アクションカード」を校内に設置するよりも、持ち運びしやすい小冊子にする方が使い勝手がよさそうだったので、これ以後の救護関係資料は小冊子にして配布することに統一した。校内で小冊子にした救護関係資料を教職員に配布すると「これは保存版ですね」と声をかけられるようになり、これまでに配布している救護関係資料とまとめて目につく場所に置かれている。

2020年度に作成した救護関係資料は、(5)や(6)で作成した小冊子に新型コロナウイルス感染症に関する対応の仕方などをつけ加えた「とっさの対応マニュアル(2020年度)」(図3)、地区交流大会時の休日当番医、会場の救護用品の設置状況、近隣の医療機関の連絡先一覧、起こりそうな症状の対応の仕方などをまとめた「交流大会救護資料」(図4)、新しく購入した担架の使い方を研修するのに合わせて、身近にあるもので応急手当てができる方法(例1、例2)をまとめた「こんな時どうする?」の3冊である。

このように校内で周知するマニュアルは年度当初に配布したら、年度途中には必要に応じて資料を追加していくことにした。そうすれば、年度末に次年度に向けて、作成した救護関係資料の中から内容を厳選して、次年度用として1冊にまとめる作業を繰り返していけば、年々ブラッシュアップされた本校独自の「とっさの対応マニュアル」が仕上がるのではないかと思い、取り組み始めたところである。

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図3「とっさの対応マニュアル」(目次) 図4「交流大会救護資料」例


lab_09_18_05.png 例1 ごみ袋(45ℓ)と新聞紙(1日分)を使って腕を固定する


lab_09_18_06.png 例2 新聞紙(1日分)、タオル、粘着テープを使って腕を固定する


(8)バイスタンダーサポートを意識したところ

緊急時のバイスタンダーサポート(救急現場に居合わせたことによる心の問題を抱える人のサポート)ということを考えた際、真っ先に考えなければならないと思ったのが生徒のことだった。救助現場に居合わせた時の不安や焦りの状態は、精神的伝染症状を誘発する恐れがある。学校現場の特性を考えると、生徒の移動が可能であるのなら、救助される者が見えないように現場から遠ざけ、その場に居合わせてしまった生徒たちの動揺を鎮めることが優先事項だろうと考えた。これは救助される側の生徒の気持ちを考えても、自分自身が救助される状態を周囲の生徒から見られていないということが、回復後はその場に居合わせた生徒たちの中にスムーズに戻りやすくなるように思うからである。

生徒をいつまで待機させておけばよいのかわからないので、生徒を移動させる場所の第1候補は、自分の机やいすなど、生徒自身の所持品の多い教室にしている(図5、図6)。

また、救助する側からしても救助現場の周辺が落ち着いた状態になれば、救護活動に集中することができる。

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図5「アクションカード」生徒対応係の表面 図6「アクションカード」生徒対応係の裏面


救助される生徒の中には、歩行に支障が出た場合の移動手段として車いすを勧めても、「恥ずかしい」という理由で車いすに座らせるまでに時間がかかる場合がある。この気持ちを軽減するために、長袖の体操服などで顔から上半身を覆いながら移動する場合が結構ある。このようなこともあって、救助時に移動する場合には、できるだけ全身を覆うことができる毛布のようなものを救助される生徒にかぶせて、見えない、見せない配慮をした移動を心がけている。

(7)で説明した身近な代用品を使った応急手当の資料を作成したのには、救助現場に居合わせても救護用品がないから何もできない、学校の救護用品を使ったので返却したいが汚れてしまっている、学校の救護用品を返却してほしいけれど催促しにくい、などの問題点を見聞きしてきた経緯がある。それらの解決策として、かねてより考えていた、身近な代用品を使った応急手当の方法を「こんな時どうする?」の冊子にまとめた。これは、身近にあるものを代用品として使えば、泥や血液などが付着したとしても惜しげなく処分することができ、衛生面だけでなく精神面にも配慮できることだと思ったからである。

3 成果と課題

約6年前から校内救急体制に「アクションカード」を取り入れたいと思い始めてから、何度も修正を重ねて、ようやく本校の現状に沿ったマニュアルになりつつある。シミュレート研修についても、本校の教職員は必要性を認識してくれており、何度も実施できている。繰り返し研修をしているので、実際の救助現場では研修を受けた教職員が率先して対応をしてくれるなど、研修の効果が実感できている。ただ、対応マニュアルが十分に活用できているかといえば、「マニュアルを持つより先に駆けつけてしまい、研修した時の記憶を頼りに対応した」など、なかなか難しい所もあり、今後も継続して対応しなければならない課題である。

とっさの対応が求められる事態では、救急搬送されるまでの間に、どんな役割があって、どのような手順で、何を行わなければならないかを、分かっているのといないのとでは全く動きが違ってくる。気が動転している時だからこそ、手順が確認できる指示書はとても大事なものだと感じている。

これからも校内の緊急時の救急対応体制への対応のレベルアップに励みながら、バイスタンダーとなる人たちの心身的な負担が軽減できるような視点も含めて、訓練やシミュレート研修を繰り返して修正していき、現場に沿った救急体制の整備に努めていきたい。

筆者プロフィール
宮川 和美(みやがわ・かずみ)
香川県内公立の中学校、小学校勤務を経て、香川県丸亀市立飯山中学校、養護教諭8年目。飯山中学校では、スクールカウンセラーや栄養教諭、図書館教育指導員などと協力しながら、保健室内コミュニケーションツール(掲示物)やミニレシピブックの作成にも取り組んでいます。
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