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ラオスの子どもの死亡原因と健康課題

堀内 清華(小児科医)

2019年6月28日掲載

要旨:

東南アジアに位置するラオス人民民主共和国では、子ども(5歳未満児)の死亡率はいまだに高く、1日あたり日本の3倍も多い子どもが亡くなっています。その原因も、新生児期の死亡、肺炎、下痢など、適切な介入がされれば防げるものがいまだに多いとされています。予防や治療方法が分かっているにもかかわらず、対策が進まない原因について概説します。

keywords: ラオス、5歳未満児死亡率、5歳未満児の死因、医療アクセス、保健医療サービス
English

私が約4年間働いてきた、東南アジアにあるラオスという国の、子どもたちの健康についてお話ししたいと思います。ラオスは、正式にはラオス人民民主共和国といい、周囲を中国、ベトナム、カンボジア、タイ、ミャンマーに囲まれた内陸国です。たった700万人の小さな国家ですが、言葉も習慣も異なる40を超える少数民族が生活しています。自然豊かで、雄大なメコン川が流れる地域に暮らすラオス人は穏やかな性格で、訪れた人を素敵な笑顔で迎えてくれます。穏やかで平和そうに見えるラオスですが、まだまだ周囲の国に比べて貧しく、不十分な衛生環境、脆弱な保健医療のサービス提供体制など、子どもの健康について多くの課題が残されています。

国ごとの健康の度合いを比較するために、健康寿命や死亡率などが良く使われます。子ども、特に5歳未満の子どもの健康については、5歳未満児死亡率、という指標が一般的に用いられます。国際連合児童基金(ユニセフ)が2018年9月に出した報告書によると、2017年のラオスにおける5歳未満児死亡率は1000出生あたり63人でした。ラオスでは年間約18万人の子どもが生まれているので、年間約1万人、つまり1日27人の5歳未満児が亡くなっている計算になります。これが、どのくらいの数値なのかを確認するために、日本のデータも見てみたいと思います。日本では、2017年には、5歳未満児死亡率は1000出生当たり3人、年間約3000人、つまり1日8人亡くなっています。1日でみるとラオスでは日本の約3倍の子どもが亡くなっていることがわかります。

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では、原因は何でしょうか。なんと、実際のところは良く分からない、というのが現実です。なぜなら、子どもの死因に関する統計データを集める仕組みがなく、病院の外で亡くなる子どもも多いため、正確なデータを集めることが難しいからです。では、全くわからないかというと、そうでもなく、これまでの各国のデータと統計モデルから予想された死亡原因は知ることができます。予測によると、ラオスにおいて、2017年では、5歳未満児の死因の1位は新生児死亡(35%)、2位は肺炎(24%)、3位は下痢(9%)でした(Institute for Health Metrics and Evaluationより)。新生児死亡と下痢や肺炎などを含む感染症を合わせると、死因の約8割を占めることになります。新生児死亡や感染症に関しては、すでに有効な予防対策や治療法があり、死亡数を劇的に減らすことができることが分かっているにもかかわらず、です。ところで、新生児死亡は、生まれた時の低酸素や感染症などが原因で、多くが出産1日後に起こります。また、感染症で亡くなる要因として、もともと栄養状態が悪く、体力がないことも要因として指摘されています。こういった状況は、先天奇形や不慮の事故が子どもの死因の上位を占める日本とは大きく違います。

有効な手段があるのに、なぜラオスではいまだに多くの子どもが予防可能な理由で亡くなっているのか、ということを、保健医療サービスへのアクセシビリティ、アクセプタビリティ(受容)、アベイラビリティ(利用可能性)の面からお話ししたいと思います。一つ目のアクセシビリティとは、保健医療サービスに実際に到達可能かどうか、ということで、物理的なものと金銭的なものを含みます。ラオスでは、40以上の少数民族が、山岳部に散らばって暮らしています。山岳部の道は舗装されておらず、何日も歩かなければたどり着けない村も多くあります。また、雨季には道が寸断され、年の半分は通行できない場所もあります。そういったところに住む子どもたちは、定期的な健診や予防接種を受けることが難しく、病気になったときにすぐに医療施設に行くこともできません。また、移動手段をもたず、交通費として支出するお金を十分にもたない家庭は、医療施設に行くことができません。もちろん、遠い村に住む子どもたちのために、医療従事者が出張して健診や予防接種を届けるサービスもありますが、医療従事者の数も限られ、山岳部に散らばった全ての村に何度も足を運ぶのは容易なことではありません。いかに辺境に住む子どもたちの健康を守るか、ということは、ラオスでの大きな課題です。

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二つ目のアクセプタビリティは、医療の受け手となる子どもやその家族の保健医療サービスに対する受容度です。十分な教育を受けておらず、病気の予防や早期治療などの必要性を理解していなければ、適切なタイミングでサービスを受けることは困難です。せっかく、医療従事者が予防接種のために村を訪問しても、農作業のために村に不在だったということも多くあります。特に少数民族ではもともとの伝統的な習慣や治療を好む傾向が強いですし、副作用などの悪いうわさが広がれば村全体が医療を拒否する場合もあります。多くの医療従事者は主要民族である低地ラオ族であり、少数民族とは違う言葉を話すため、意思疎通が時にうまくいかず、なおさら説得することは難しくなります。ラオスは何年も住民の健康教育や啓発に力を入れてきていますが、まだまだうまく普及しているとはいいがたく、今後理解を促すためのコミュニケーションの方法を工夫していく必要があります。

最後の、アベイラビリティです。これは、サービスを受けたいと思い、アクセスできたときに、実際にそのサービスが利用できる状態にあるかどうか、ということです。これは、医療サービスの質の問題でもあります。例えば、せっかく何日もかけて医療施設にたどり着いたのに、医療従事者が一人もいなかった、薬がなかった、長時間放っておかれたなどという話は時々耳にします。これでは、施設に来ても来なくても結果は同じ、移動の分、時間もお金も無駄になり、この患者さんは二度と医療施設に来てくれないかもしれません。医療施設では、いつ患者さんが来てもサービスを提供できるように、職員を配置し、薬や器材を整備する必要があり、また、職員は即座に適切な対応ができるだけの知識と技能をもたなければなりません。ラオスでは、徐々に職員の数を増やそうとしていますが人手が足りないため、一度に全施設に十分な数の職員を配置することは難しく、資格がなくてもできる医療サービスは、他の職種にさせるタスクシフティングなども行われています。また、医学教育の改善や職員に対するトレーニングの実施、医療施設の質評価システムの導入なども進められてきています。

すべてのことを一気に解決するのは難しいですが、ラオス保健省が中心になり、他の援助機関などと協力し、できることを少しずつ実現させています。ラオスに住む多くの子どもが健康に暮らすことができることを願ってやみません。

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筆者プロフィール
堀内 清華(ほりうち・さやか)

小児科医。2007年医学部卒業。小児科研修を終了後、2012年より約4年間、国際協力機構(JICA)の長期専門家、世界保健機関(WHO)母子保健コンサルタントとして、母子の死亡率の高いラオス国において母子保健や医療サービスのプロジェクトに従事。母子の健康を守るために、母子に届ける保健・医療サービスの改善を目指し、ラオス国保健省や行政機関と連携して、母子保健戦略の改訂、計画作成やモニタリングなどの行政機関の能力強化や、病院での医療サービスの質改善などの支援を行った。2017年より、国内の研究機関に所属しながら、ラオス国の新生児ケアの質改善に取り組んでいる。
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