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幼児の感情発達

平林 秀美(東京女子大学現代教養学部准教授)

2014年6月27日掲載

要旨:

幼児期の感情発達の特徴として、他者の感情理解と自己の感情調整がある。他者の感情理解では、「表出的手がかり」と「状況手がかり」に加えて、他者の内的特性を考慮するようになる。自己の感情調整は、社会的表示規則を学び、自分を取り巻く仲間・養育者・保育者(教師)との関わりを重ねることにより、身に付けていく。幼稚園で幼児がネガティブな感情を表出したときの、保育者(教師)の働きかけの様子を紹介した。

Keyword:
感情理解, 内的特性, 感情調整, 社会的表示規則, 保育者, 働きかけ
1. 幼児の感情発達

幼児期 *1の感情発達の特徴は、他者の感情を理解できるようになることと、自分の感情を調整できるようになることである。

1-1. 他者の感情理解

他者の感情を理解するために、幼児 *2が最初に使うものとして、「表出的手がかりと「状況手がかり」がある。「表出的手がかり」には他者の表情・音声・しぐさなどがあり、幼児は特に他者の表情に注意を向けるようになる。幼児は、口や目の部分に特に注目し、顔の表情がその人の気持ちを表すことを理解する。

「状況手がかり」とは、ある感情が起こりやすい場面を知ることである。他者の現在の場面から判断して、他者がどのような気持ちになるのかを幼児は推測する。その際には、もしも自分がその場面にいたら、どのような気持ちになるかを想像し、他者もきっと同じ気持ちになるだろうと考える。たとえば、アイスクリームを食べるときは、自分はうれしいので、他者もうれしいだろうと考える。

ところが、これらの手がかりを利用しただけでは、うまくいかないことがある。たとえば、自分はカブト虫が好きだけれど、友人はカブト虫が嫌いだとする。友人がカブト虫をもらう場面では、「イヤな気持ち」になることを推測できればよいのだが、3〜4歳児は、つい自分がカブト虫をもらう場面を想像してしまい、友人も「うれしい」気持ちになると誤って推測してしまうことがある。しかし、5〜6歳児になると、他者の内的特性(パーソナリティ、好みなど)を考慮して、他者の感情を理解するようになる(松永, 2005)。

また、他者が感情をそのまま表出するとは限らないことに、幼児は徐々に気づくようになり、「表出的手がかり」だけではなく、「状況手がかり」と他者の内的特性の手がかりを重視するようになっていく。

1-2. 自己の感情調整

幼児 *2は、自分の感情を調整するようになる。社会的表示規則(social display rules)の理解が進み、社会・文化に合わせて、ある場面ではどのような感情を表出すべきか・表出すべきではないかというルールを身につける(Saarni, 1984)。たとえば、「期待はずれのプレゼントをもらった場合でも、他者からプレゼントをもらったら喜ぶべきだ」である。これらのルールは、養育者・保育者など周りの人々と接しているうちに、幼児が学んでいくものである。

3〜4歳の女児20名を対象に、実際に他者から期待はずれのプレゼントをもらったときに、どのような表情や言葉を示すのかを観察した研究がある(Cole, 1986)。ひとりでプレゼントの包装を開ける場合、幼児はがっかりした表情を示すことが多かった。しかし、プレゼントを渡した人がいる前でプレゼントの包装を開ける場合、3歳児はがっかりした表情を表すのに対して、4歳児はがっかりしたのを隠して微笑んで「ありがとう」とお礼を言うことがあった。個人差は大きいものの、4歳頃から徐々に、自分の感情を調整するようになる傾向がある。

2. 幼児の感情発達と保育者の働きかけ

自分を取り巻く人々と関わりながら、日常生活で様々な経験を重ねることにより、幼児 *2の感情発達は促される。たとえば、「泣いてばかりいると赤ちゃんみたい」「すぐ怒ると友だちから嫌われる」などのように、仲間から直接言われたり、間接的な要請に気づいたりすることによって、幼児は自分の感情を調整していく。

幼稚園で3歳児がネガティブな感情を表出した際に、保育者(教師)が実際にどのような働きかけをするのかを観察した研究がある(平林, 2010)。3歳児が「泣き」「怒り」などネガティブな感情を表出した場合、保育者は、まず感情表出の理由を尋ね、状況やトラブルの相手の意図や気持ちを把握した上で、それを幼児にわかりやすく説明し、解決法を示すことが多かった。保育者は、ネガティブな感情の表出を頭ごなしに抑制するのではなく、幼児の気持ちを認めた上で、「泣き」「怒り」を表出しなくても、言葉や行動で解決できることを教えるものであった。

このような保育者の働きかけは、感情のコーチング(emotion coaching)とも呼ばれるものである(Gottman, 1997)。幼児は自分の感情に向き合い、それを適切に調整し、直面している問題を解決できるようになる。そして、いずれは、保育者の手助けがなくても、幼児自身で感情調整ができるようになっていくのである。


  • *1 幼児期:1歳半から6歳までの時期
  • *2 幼児:1歳半から6歳までの子ども

    引用文献
  • 松永あけみ 2005 幼児期における他者の内的特性理解の発達 風間書房
  • Saarni, C. 1984 An observational study of children's attempts to monitor their expressive behavior. Child Development, 55, 1504-1513.
  • Cole, P. M. 1986 Children's spontaneous control of facial expression. Child Development, 57, 1309-1321.
  • 平林秀美 2010 子どもの感情制御 菊池章夫・二宮克美・堀毛一也・斎藤耕二(編著) 社会化の心理学/ハンドブック 川島書店 pp.353-366.
  • Gottman, J. 1997 The heart of parenting: Raising an emotionally intelligent child. New York: Simon & Schuster. (戸田律子(訳) 1998 0歳から思春期までのEQ教育 講談社)
筆者プロフィール
平林 秀美(東京女子大学現代教養学部准教授)

東京女子大学文理学部心理学科卒業、東京大学大学院教育学研究科修士課程(教育心理学専攻)修了、同大学院教育学研究科博士課程単位取得満期退学。教育学修士(東京大学)。福島大学教育学部助教授を経て、現在は東京女子大学現代教養学部准教授。専門は発達心理学で、子どもの感情発達と社会性の発達について研究している。著書に、『心理学をつかむ』(有斐閣, 共著)、『社会化の心理学/ハンドブック』(川島書店, 分担執筆)、『乳幼児心理学』(北大路書房, 分担執筆)、『子どもの社会的発達』(東京大学出版会、分担執筆)などがある。
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