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第1回「放射線と子ども~正しく恐れるための知恵を学ぶ~」研究会:講演1「放射線による健康被害のとらえ方」②

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チェルノブイリの健康被害

次に1986年のチェルノブイリです。こちらは地上で核爆発が起きました。そのときに何千人もの原発職員や消防士がいたわけで、この人たちは主に外部被ばくにより、直接放射線を浴びています。30人ぐらいの方が数か月以内に亡くなっています。

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外部被ばくした原発職員や消防士に、白血病やがんは今のところは増えていませんが、結論を出すのは早過ぎるかもしれません。というのは、広島では、白血病は比較的早く現れましたが、固形がんが本格的に増え始めたのは20年~25年後からなのです。チェルノブイリの原発事故からちょうど25年ぐらい経っているのですが、今から増えてくるのかもしれません。

それから、もう皆さん大体ご存じのように、放射性物質は地上の核爆発でモワモワと上がりまして、それが落っこちてきたわけです。フォールアウトと言っていますが、特に雨や雪があると落ちてきて、牧草が汚染され、それを牛が食べて、ミルクに出てきて、汚染されたミルクを何十万人の市民が飲んでという、典型的な内部被ばくのパターンが生じたわけです。

内部被ばく自体では、数か月以内の死亡者はありません。ただし、チェルノブイリの大問題は、小児を中心として、甲状腺がんが増加したということです。これも正確な数はわからなくて、数千人とも言われています。

それでは、福島はどうなのか。福島はご存じのように核爆発ではなく、水素爆発の結果、放射性物質が飛散しました。今までのお話からおわかりのように、福島は広島・長崎よりはチェルノブイリに近いのですが、福島とチェルノブイリは随分と規模が違います。

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左の地図は皆さん、何度もごらんになっていると思いますが、福島の汚染された場所が出ています。右側もごらんになった方が多いと思うのですが、チェルノブイリの汚染地図です。実はこの2つの地図は縮尺が相当違うのです。

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縮尺を合わせると大体このようになります。ロシアは大きな国なので、こんな違いがあります。縮尺を合わせてごらんになる方はあまりいらっしゃらないので、この地図をお見せすると皆さん、大変驚かれます。福島の事故というのは、チェルノブイリの事故と随分と規模が違うということをご理解いただければ幸いです。そもそも水素爆発と核爆発というのは全然違うのだそうです。私はこの辺はあまり専門ではありませんが、原子炉の構造も随分違うのだそうでして、福島の放射性物質の放出量自体は、チェルノブイリに比べるとあまり多くないとのことです。

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これまでお話ししましたことをまとめてみますと、広島・長崎というのは主に市民の外部被ばくでした。そして、とてつもなく高い線量で、20万人以上の急性期の死者を出し、白血病やがん患者が数万人は増加しました。

チェルノブイリに関しては2種類あって、職員や消防士の外部被ばく、これは死者30名を出しています。とりあえず白血病、がんの著しい増加はない。まだ25年しかたっておりませんので、この先どうなるかはわからないのですが。市民のほうは内部被ばくなのですが、急性障害による死者は出ておりません。甲状腺がんが今のところ、特に小児を中心に数千人発生している状況です。

これに対して福島の場合には、パターンとしてはチェルノブイリと似ているのですが、汚染の規模や被ばく線量から推定するに、恐らくはっきりとした白血病やがんの増加が認められる可能性はほとんどないだろうと、私どもは考えているわけです。この考えは、去年の5月、6月あたりから放射線医科学の専門家の一致した意見となっていまして、一貫して今でもそのように思っております。


「線量率」と「線量」は混同されやすい

それでは次に、「線量率」と「線量」についてお話をしたいと思います。

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「線量率」と「線量」を区別することによって、今後の福島の問題、放射線の健康影響についてかなり明らかになる部分がありますので、今日はぜひこのことをおわかりになってお帰りいただければと思います。専門家と称している人の中にも、「線量率」と「線量」をゴチャゴチャにしゃべる人がいまして、この人わかっていないなと思うことがあります。

「線量率」というのは速度に相当すると考えてください。一方「線量」というのは移動距離、つまり「線量率」に時間を掛けたものであると考えるとわかりやすいと思います。喩えて言えば、「高線量率」は新幹線や飛行機。長距離でも短時間で移動できますし、短距離なら一瞬で通過してしまうわけです。それに対して「低線量率」は、歩きやママチャリです。遅いので時間がかかるのですが、すごく時間をかければ長距離を行くこともできます。

この関係をしっかり頭に置いてください。「高線量率」というのは広島・長崎がそうですし、チェルノブイリもそうです。実は、X線撮影やCTスキャンも低線量ですが「高線量率」です。レントゲン写真を撮るとき、息を吐いて、吸って、そのまま止めて、パシャッというふうにごく短い時間しかかかっていない。「高線量率」なのですが、ものすごく時間を短くして、線量を低くしているのです。

それに対して「低線量率」というのは、僕らの日常がそうです。世界には、結構有名になりました高自然放射線地域というのがあります。インド、イラン、中国にもありますし、ブラジルにもありますが、バックグラウンドの放射線が地球の平均よりも5倍、10倍近く高い。しかし、こういうところも「低線量率」です。そして、福島も「低線量率」ということになります。

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確認のためにもう一度、図にしましたが、要するに「低線量率・低線量」というのは自然放射線で、これは基本的に、私たちは安全だと考えているわけです。そして、線量率をガーッと上げますと、「高線量率・低線量」というところに入ってきます。これはまだ私たちの日常の続きでして、X線撮影やCTスキャンがこのグループになります。これは安全と言ってもいいかもしれませんが、一応は注意しておこうという領域になります。ここからさらに、線量をどんどん上げていきますと、広島・長崎、チェルノブイリ、あるいは、がんの放射線治療も入ってきます。これは「高線量率・高線量」で、完全に赤信号の領域になります。100ミリシーベルトが境界であると言うのは、この「高線量率」の話なのです。

それに対して、福島は、実は「低線量率・中高線量」。ちょっと話が違うのですね。歩きがママチャリになったぐらいで、少し速いのですが、飛行機なんかとは桁が違う。ただし、10年、20年たてば、わずかの差が大きな差としてあらわれて、線量が増えてしまうかもしれないという話です。高バックグラウンドの地域と共通ですが、これをどう考えるか。青信号なのか、黄色信号なのか、赤信号なのかという話で、もし赤信号だったとすると、どこからが危険なのかというのは、これから述べますように、実は「高線量率」から類推できる話ではありません。

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【第1回「放射線と子ども~正しく恐れるための知恵を学ぶ~」研究会】
1.研究会の4つの方針
2.講演1「放射線による健康被害のとらえ方」(稲葉 俊哉氏)①  
3.講演2「放射性物質の乳製品への影響」(眞鍋 昇氏)①  
4.コメンテーターからの発言
5.フリーディスカッション①   
筆者プロフィール
稲葉俊哉先生稲葉 俊哉 (広島大学原爆放射線医科学研究所 副所長)

医学博士。広島大学原爆放射線医科学研究所副所長。東京大学医学部卒。埼玉県立小児医療センター、St. Jude Children‘s Research Hospital、自治医科大学講師などを経て、2001年広島大学原爆放射能医学研究所教授。2009年から現職。専門は血液学(白血病発症メカニズム、小児血液学)、分子生物学、放射線生物学。
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