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【イタリア】イタリア、ピストイア市の乳幼児教育から日本の保育を考える(第4回ECEC研究会講演録③)

星 三和子 (名古屋芸術大学教授)

2015年4月24日掲載
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独自の「教育憲章」に基づき、子ども主体の乳幼児教育を実践

ピストイア市はイタリア中部のトスカーナ州に属する人口9万人の中都市で、中世以来の歴史があり、電車の車両製造や観賞用植木の栽培を主な産業としています。私は、2007年から毎年のように同市を訪れ、乳幼児教育に関わっています。最近、ピストイア市の6か所の保育園・幼児学校の観察調査に加え、保育者や行政担当者、教育コーディネーターといった人たちにインタビュー調査を行いました。その概要をご紹介します。

同市の乳幼児教育について概観しましょう。イタリアは地方分権が強く、0~2歳児が通う保育園、3~6歳児が通う幼児学校の運営には自治体に大きな裁量権があります。そこで、同市では教育文化局が幼児学校、保育園、児童館を一体的に管轄し、教育職員は全て保育士と幼児学校の教諭免許の両方を持つ人を採用するなど、0~6歳の教育に統合性をもたせています。

また、同市では独自に「教育憲章」を作成しています。ここには、「市全体が教育のリソースであり、子どものためのサービスの場である」「乳幼児の教育にはその独自性があり、より上位の教育施設のための準備ではない」「教育は子ども主導でなされる」など、子ども主体の教育方針が謳われています。さらに、乳幼児教育の目標と基本理念として、「子どもを暖かく迎えるという基本の上に、探求心、好奇心をもち、自分の行動を決められると同時に協調性をもった子どもを育てる」と掲げています。

グループ活動の仕方に、日本の保育・幼児教育との違いを実感

保育園は、子どもの教育施設と位置づけられます。保護者が就労しやすいように子どもを預かる施設ではありません。保育園では、子どもを有能で周囲と能動的に関わり対話する存在として捉え、社会、情緒、身体、感性、知性などの包括的な発達を支えています。美的で落ち着いた環境の整備や家庭の参加に力を入れていることも特色です。

幼児学校も学校の準備段階ではなく、幼児期に適した教育を行う施設とされ、遊び中心のホリスティックな教育を行っています。国が示す乳幼児教育の5領域(「自己と他者」「身体と運動」「言語能力、創造性、表現力」「会話とことば」「世界を知る」)をベースとして、子どもの関心や知識への欲求、探索や学習への動機づけを大切にしています。さらに情緒的な心地よさや心の安定、質の高い空間、子どもの主体性の尊重なども重視する要素です。

保育園・幼児学校の1日の流れは共通しています。9時30分からの朝の会では、クラス全体でおやつを食べたり、歌を歌ったりして過ごします。その後、昼食までは小グループ活動を行います。小さい子どもは5人ほど、大きい子どもは10人ほどのグループをつくり、それぞれに保育者が付き添います。部屋や空間は遊びの目的や材料ごとに分かれており、各グループは興味に応じた場所で遊びます。ただ、グループが同じでも、子どもは1人ひとり好きなことをします。したいことの方向性が一致してはじめて、何人かで一緒に遊ぶのです。日本の保育・幼児教育におけるグループ活動に比べて、集団内で個が尊重されていることを実感します。

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小グループ活動:集団ではあるが、子どもは思い思いに好きなことをする

昼食では、花を飾るなど、美しいテーブルセッティングで生活を大切にすることを学びます。2歳児以上のクラスでは子どもが当番として配膳をします。保育者も職員も子どもと一緒に食事をして、会話を楽しみます。

午睡をするのは保育園・幼児学校ともに半数ほどの子どもです。ピストイア市では祖父母が近所に住み、子どものお迎えをする家庭が多く、子どもの半分ほどは昼食後に帰宅するからです。残った子どもは午睡後、帰宅まで自由遊びをします。

具体的な環境を通じて心の安定や心地良さを追究

保育園・幼児学校の乳幼児教育の特徴をより具体的に見ていきましょう。 まず心の安定や心地良さの追求が、人間関係だけではなく、具体的な環境によっても図られていることが挙げられます。例えば、落ち着いた色彩で統一した美しい空間、子どものペースに沿ってゆったりと設定された活動時間、騒がしくないように配慮された音環境、また学年や学校の移行に際しての連続性への配慮など、随所に工夫が見られます。また、子どもが落ち着くという理由から、私物を持っての登園・登校が認められています。これは、日本の園とは大きく異なる点ではないでしょうか。

子どもの目線で考えられた居心地の良い空間の中でこそ、子どもは心が安定し、大事にされていると感じ、仲間との共同生活が促され、好奇心や探索心が生まれて創造や想像をしたくなる。こうした考えに基づいた、環境づくりが行われていることが分かるでしょう。

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さらに、美的感覚を育む環境づくりにも、私は注目しています。美しく落ち着ける空間をつくることによって、他者とつながりたいという欲求や、深く追求したいという欲求を子どもにもってほしいという狙いがあります。また、子どもの中に美に対する感覚と親しみの芽を育てることは、基本的な生きる力や人格を育むと考え、3歳児以上のクラスでは保育空間における物や素材、活動などが美的に配慮され、芸術作品との触れ合いも重視されています。

遊びにおいて市販の玩具ではなく「素材」を重視するのも特徴です。先ほどお話ししたように、部屋や空間は遊びの材料によって分かれています。私が観察した限りでは、大きな遊具や運動遊びは少なく、素材を教材として、イマジネーションを引き出す活動に力を入れています。またそこには、素材や形の性質を知ることが認知発達を促すという考えがあるでしょう。どの子どもも創意工夫をする姿、異なる年齢の子どもが同じ素材を用い、別の活動を生み出している姿が、とても印象的でした。

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合議制に基づく柔軟な運営体制

ピストイア市の乳幼児教育では、カリキュラムや保育計画の作成過程が非常に柔軟です。

保育園に関しては、国にも市にも指針はなく、職員の話し合いにより計画が作成されます。最初に年間プログラムを決めず、子どもたちの観察をもとに毎週のプログラムを決めるという方法が採られているのです。幼児学校に関しても、おおまかな国の指針はあるものの、それに従うかどうかは自治体に委ねられています。市には指針やカリキュラムはなく、やはり職員の話し合いが基本となります。最初に年間プロジェクトの大きなテーマを決め、以後は子どもの行動や発言の観察をもとに柔軟に設定されるのが特徴です。

保育園・幼児学校ともに運営においては職員チームの協働が重視されており、園長は存在せず、全員が施設の責任を分担し、あらゆることが合議で決定されます。それを市の教育コーディネーターが支えます。こうした体制が、専門性の高い保育者が生き生きと働く姿につながっていると、私は考えています。合議制というと意思決定などに苦労しそうなイメージをもつ方がいらっしゃるかもしれませんが、保育者にインタビューしてみると「そのほうが上手くいく」という声がほとんどでした。また、外部評価は実施されず、自己評価と協議によって評価や改善が行われています。

保護者は日常的に活動に加わり、家庭から様々な物を持ってくるなどして園運営に協力しています。保育者は対話の他、ドキュメンテーションを通して保護者と情報を共有し、協働を心がけています。また、保護者が参加するイベントはあくまでも保護者同士が仲良くなる機会と捉えられており、保育者が育児について保護者を指導するという姿勢はないとのことでした。

以上、同市の乳幼児教育の理念や実践について述べてきましたが、日本の園との共通点や相違点を踏まえて参考にしていただけると幸いです。

※この原稿は、第4回ECEC研究会「世界の保育と日本の保育~遊びの中に学びを探る~」の講演録です。

編集協力:(有)ペンダコ

筆者プロフィール
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星 三和子(ほし みわこ)
名古屋芸術大学人間発達学部及び同大学院教授。専門は発達心理学。保育者から乳児への文化的価値の伝達に関する日仏共同研究、乳児同士のコミュニケーションについての研究等、保育園をフィールドに研究を行ってきた。また最近は子育ち・子育て支援についての4か国共同研究も行っている。東京大学教育学研究科教育心理学博士課程満期修了。著書にJeux et culture préscolaire.(2010)Institut National de Recherches Pégagogiques, Lyon, France(共著)、イタリア、ピストイア市の統合的な乳幼児教育:「素材」を使った教育活動の発達的意義(2014)名古屋芸術大学研究紀要 35巻 pp.313-330.(上垣内伸子、向井美穂と共著)など。

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