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【日本】秋田県の小・中学生はなぜ学力が高いのか -秋田県の子どもの生活習慣と就学前教育からの思案-

要旨:

秋田県の子どもたちは、全国トップレベルの学力を維持し続けています。それによりこれまで、秋田の子どもの学力の高さと学校教育、教師の授業力との関連について多く検証されてきています。本稿では、秋田の子どもの学力を、家庭教育や秋田の社会教育に目を向けて考察しました。はじめに、秋田県の生涯教育と就学前教育について概観し、次に幼児期の生活習慣について秋田県の子どもと関東圏の子どもの比較調査の結果から考察しました。その結果、子どもの学力を支えているのは、学校、家庭、地域が連携して子どもの学びを支える教育的風土と、生涯教育の一環として、家庭の教育力向上と所管の異なる教育施設に通う子どもの教育を一体的にとらえて就学前教育の推進に取り組んできたこと、家庭では子どもの時間も大切にしつつ、大人の時間も大切にして、家族で時間を共有する日常生活を続けていることも一要因となっているのではないかと考えています。

キーワード

学力、秋田県、幼児期、生活習慣、生涯教育、就学前教育
1.はじめに

秋田県の子どもたちは小学校、中学校ともに全国学力・学習状況調査では、全国平均を上回っており、全国トップクラスの学力を誇っています。しかし、昭和30年代(1950年代)は、秋田県は全国平均を大きく下回っており、特に、秋田市街地と農村部では学力格差がありました。秋田県出身の小説家、伊藤永之介が「山美しく人貧し」と表現したように、今から50年ほど前は秋田の農山村は貧しく、十分な教育が行き届かなかったという状況でした。しかし、2007年には秋田県全体として、学力が向上し、地域間、学校間の格差が縮小し、県内全域で学力水準保証がされ、現在でも、秋田県の児童・生徒の学力は全国トップクラスを維持しています。

ではなぜ、秋田県の子どもたちは、全国学力・学習状況調査で好成績を維持し続けているのでしょうか。秋田県の学力が高くなっている要因について、秋田県教育委員会(2021)『全国学力・学習状況調査の結果について』では、望ましい生活習慣・学習習慣が定着していること、一人一人への細かな指導と授業改善への取組みを行っていること、学校と家庭、地域と連携・協働して子どもを育てていることをあげています。

このように、秋田県では、学校教育、家庭教育、社会教育といった、教育の3領域がそれぞれ複合的に連携しながら、子どもたちの学力を支えているといえます。しかし、秋田の子どもたちが、小学校への入学を機に急に学力が向上するわけでも、落ち着いて学習が出来るわけはありません。そこには、小学校以降の学びの基礎を担っている幼少期の家庭や園、地域での教育があり、それらの幼少期の教育が積み重ねられた結果として、目に見える学力の向上へとつながっているのではないかと考えます。

本稿では、秋田県の就学前教育に関する取り組みと基本的生活習慣が形成される幼児期の生活習慣に焦点をあてて、秋田県の子どもの学力と就学前教育について考察したいと思います。

2.生涯教育と就学前教育の充実

秋田県では、1950年代の学力低迷期の後、当時の知事(小畑勇二郎)がいち早く生涯教育を推進しました。1965年にポール・ラングランがユネスコで「生涯教育」について初めて言及して、わずか5年後の1970年に、秋田県庁内に「生涯学習教育研究チーム」を編成し、生涯教育の推進をしています。秋田県生涯学習50年史(秋田県教育委員会,2021)では、小畑知事(当時)は、豊かな郷土秋田の創造には「万事、教育に始まり教育に終わる」という哲学をもっていたことが記されています。

そして秋田県では、1970年以降、学校教育のみならず、あらゆる機会を通じて、いつでもどこでも学びあう、新しい教育風土の醸成に取り組んできています。生涯教育の概念が行政施策に1971年から盛り込まれ、1972年には生涯教育推進本部が設置され、幼児教育分野では、課題となっていた幼児教育の普及・振興のため、幼保の一層の連携強化が推進されました。現在、幼少期の教育の大切さや、幼稚園と保育所という所管の異なる二つの教育・保育施設の一体的運用を図ることの重要性は当たり前のことのように語られます。
しかし、1970年代に、学校教育のみならず、就学前教育の重要性に目を向け、所管の異なる教育施設に通う子どもの教育を一体的に考えるということは、先進的な試みだったといえるのではないかと思います。

さらに、生涯学習を推進した1970年代は、秋田県内の出稼ぎ者数は年間6万人を超えており、家庭の教育力の向上が課題となっていました。そして、半年もの間、父親のいない家庭の教育力を、親の会や子ども会等を発足させて地域ぐるみで支える取り組みも行われていました。現在、多様化する家族形態や子どもの貧困が問題視されており、地域で家庭の教育力を支える取り組みが行われています。

秋田県では全国に先駆けて、「いつでも、どこでも、誰でもが学べる環境整備」だけでなく「いつでも、どこでも、誰でも、皆で家庭や子どもの教育を支える環境整備」つまり、地域コミュニティの形成がされていました。地域で家庭の教育を支えざるを得ない状況下ではありましたが、秋田県の地域全体で家庭や子どもを支える取り組みもまた先進的であったといえるのではないかと思います。

加えて、秋田県では1971年に生涯学習を推進する上で、乳幼児の教育に力を入れていた大曲市、地域主体に生涯教育を推進し幼児相談所を開設していた北秋田市鷹巣町、成人教育、特に女性の教育に力を入れていた西目村(現・由利本荘市西目町)の3市町村を、生涯学習推進パイロット市町村として指定しました。ここで注目すべき点は、生涯学習を推進する上で、乳幼児期の教育や家庭で子どもの教育を主に担っている母親(主婦)への教育に力を入れて取り組んでいる地域が指定されているという点です。様々な知見で、養育者の関わりが子どもの成長発達に影響を与えることが明らかになっています。

また、改正教育基本法では、学校、家庭及び地域住民等の連携協力、第13条「学校、家庭及び地域住民その他の関係者は、教育におけるそれぞれの役割と責任を自覚するとともに、相互の連携及び協力に努めるものとする」が新設され、学校、家庭、地域の連携が重要視されています。秋田県では、半世紀以上前から、乳幼児期からの教育、家庭教育と学校、家庭、地域の連携を重視した取り組みをしており、教育に関して先見性をもっていたといえるのではないでしょうか。

そして、秋田県では、2004年に幼稚園と保育所の行政窓口を教育委員会に一本化し、これらを所管する「幼保推進課」を創設しました。長きにわたって、幼稚園と保育所が一体となって乳幼児期の教育を提供する準備を進めていたこともあり、平成18年(2006年)に全国で最初の認定こども園が秋田県で誕生しています。

このように、秋田県では、公立・私立、幼・保・こども園を問わず、子どもの居場所がどこであっても、全ての子どもに質の高い教育・保育の機会を提供するよう、生涯教育の推進を提唱して以降、一貫して就学前教育の推進に取り組んできています。

2018年の同時期に幼稚園教育要領、保育所保育指針や幼保連携型認定こども園教育・保育要領が改訂・改定され、内容の整合性が図られ、現在、就学前教育が行われています。そして全国的に、子どもの居場所がどこであっても質の高い教育・保育の機会を提供することは実現されています。しかし、子どもの学びや育ちを支えるのは就学前の教育・保育施設だけではなく、子どもを取り巻く環境全てです。このように考えると、学校、家庭、地域が連携して子どもを支える環境整備を進めることが、子どもの学力を下支えすることにつながるのではないかと考えます。

これまで、多くの場合、秋田県が高い学力水準を維持している要因について、教師の授業力、指導力について注目されてきました。そして、秋田県の子どもの学力を支えているものとして、探求を重視したアクティブラーニングの授業「探求型授業」や教師の力量をあげる「共同研究」があげられ、これらについて高い評価を得ています(e.g., 阿部,2018;阿部;2020)。しかし、秋田の子どもの学力を支えているのは、学校教育のみならず、半世紀以上にわたって、乳幼児から高齢者まで、すべての県民に、「従来の学校中心の与えられた教育から『求められる教育』『開かれた教育』『みたされた教育』を生涯にわたって保障する」(秋田県教育委員会,2020)教育を提供していることが結実したものではないかと推察します。

秋田県では、全国に先駆けて1970年から生涯教育を推進していますが、予てから全国に先駆けて、いつでも、どこでも、学ぶ教育的風土があったように考えます。秋田県では、全国的に見ても早期(1899年)に秋田県立図書館を設置しており、日本初の巡回文庫を実施しています。巡回文庫とは、ある地域の中でいくつかの閲覧所を設けて、そこに100冊ほどの書籍を詰め込んだ「文庫」を送り、数か月間地域の人に無料で閲覧させたものです(新藤,2011)。そして巡回文庫の運営を担っていたのは、小学校関係者や青年会を中心とした団体であり、地域コミュニティが人々の教育力の向上に深くかかわっていることが分かります。このように、秋田県には、元来、地域コミュニティが教育の重要な役割を果たし、そこに、行政が積極的にかかわって生涯学習を推進し、学校に通う子どもたちのみならず、すべての人に質の高い教育の機会を提供してきたことが、子どもの学力の底上げにつながっているのではないかと推察しています。

ここまで、秋田県の行政の取り組みから、生涯教育と幼児教育の充実について述べ、子どもの学力について考察してきました。次に、秋田県の子どもの家庭での生活、特に幼児期の子どもの生活習慣から子どもの学力について考えてみたいと思います。

3.子どもの生活習慣-秋田県の子どもは早寝・早起き・朝ごはん?-
(1)秋田県の子どもの生活習慣

秋田県の子どもの学力が高い要因の一つとして、安定した家庭の教育力、保護者の協力があげられています。秋田県教育委員会では、2015年に、児童生徒を主体とした授業づくり,家庭学習の習慣,家庭や地域の教育力等,本県の財産とも言えるオール秋田でつくるすばらしい教育環境を、「秋田わか杉 七つのはぐくみ」として発信しています。その第一にあげられているのが、「早寝 早起き 朝ごはん 生活リズムは全ての基本」です。また、秋田県教育委員会(2008)では、「秋田わか杉っ子 学びの十か条」を作成しています。

この学びの十か条は、全国学力・学習状況調査の質問紙調査において、秋田県の児童生徒が全国平均を上回った項目を組み合わせて作成されています。ここでも第一にあげられているのは、「早ね早おき朝ごはんに家庭学習」です。これは、「『午後10時前に寝る』『午前7時前におきる』『朝食を毎日食べる』『家で学校の授業の復習(予習)をする』といった項目が、全国の平均値を上回っており、本県児童生徒が、規則正しい生活をしながら家庭学習にしっかりと取り組んでいる姿を反映したものとなっている」と記されています(秋田県教育委員会,2008)。

このように、現在、秋田県の子どもは生活習慣がよく、「早寝・早起き・朝ごはん」が定着しているというように捉えられています。しかし、このような生活習慣も小学校への入学を機に身につくものではなく、基本的生活習慣が確立される幼児期の生活習慣が反映されたものであると考えます。それでは、基本的生活習慣が確立される幼児期の秋田県の子どもの生活習慣の実態は「早寝・早起き・朝ごはん」なのでしょうか。秋田県の中央部にある園に通う子どもと関東圏(東京都・千葉県)に通う子どもの生活習慣の調査結果から考えてみたいと思います。

(2)秋田県と関東圏(東京都・千葉県)の子どもの起床時間と就寝時間

私は、4歳から6歳の幼児期子どもをもつ母親553名(秋田県;202名,関東圏;351名)を対象に、子どもと母親の起床時間、就寝時間、食事の状況、つまり幼児期の生活習慣について調査を行いました。なお、秋田県の子どものうち79名が幼稚園に、123名が保育所や認定こども園に通っており、関東圏の子どものうち250名が幼稚園に101名が保育所に通っている子どもを対象としました。

図1は、秋田県と関東圏の子どもの起床時間について示したものです。6時半頃以前に起きている子どもの比率は、秋田県は48.2%、関東圏は22.8%であり、秋田県の子どもの方が早起きであることが明らかになりました。ベネッセ教育総合研究所の「第5回 幼児の生活アンケート」調査(2016)でも、6時半以前に起きている子どもは28.9%となっているが、それと比較をしても秋田の子どもは早起きであることがわかります。

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図1 秋田県と関東圏の子どもの起床時間(%)

次に、子どもの就寝時間について、秋田県と関東圏の子どもの比較をします。図2は子どもの就寝時間について示したものです。22時以降に就寝した子どもは、秋田県は26.3%、関東圏では19.4%であり、秋田県では4人に1人の子どもが、関東圏では5人に1人の子どもが10時以降まで起きていることが明らかになりました。ベネッセ教育総合研究所の調査では、22時以降に就寝した子どもは24.9%となっており、秋田の子どもは、早寝とはいえないことがわかります。

以上の調査結果から、秋田の子どもは早起き傾向ですが、早寝というわけではないことが明らかになりました。

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図2 秋田県と関東圏の子どもの就寝時間(%)

(3)秋田県と関東圏の母親の起床時間と就寝時間

次に、主に子どもの養育を担っている母親の生活習慣についての調査結果を報告します。表1は、今回対象とした母親の職業について示したものです。常勤で働いている割合は、秋田県で30.7%、関東圏で21.4%となっており、秋田県では約3人に1人が、関東圏では約5人に1人が常勤で働いている母親を調査対象としています。

表1 今回対象とした母親の職業(人・%)
  秋田県 関東圏
常勤 62(30.7%) 75(21.4%)
パート・アルバイト 73(36.1%) 45(12.8%)
契約社員 9(4.5%) 9(2.6%)
在宅 1(0.5%) 6(1.7%)
雇用主 2(1%) 3(0.9%)
自営業 7(3.5%) 25(7.1%)
農林漁業 1(0.5%) 2(6%)
主婦 40(19.8%) 178(50.7%)
その他・無回答 7(3.5%) 8(2.3%)
合計 202 351

図3は、秋田県と関東圏の母親の起床時間について示したものです。6時頃より前に起きている母親の比率は、秋田県は73.7%、関東圏は54%であり、秋田県の母親の方が早起きであることが明らかになりました。NHK放送文化研究所の2020年の調査では、30代で約35%、40代で約半数が6時頃には起きていることが示されています。これらの結果と比較しても、秋田県の幼児期の子どもをもつ母親は早起きであるということがわかります。

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図3 秋田県と関東圏の母親の起床時間

次に、母親の就寝時間について比較したいと思います。図4は、秋田県と関東圏の母親の就寝時間について示したものです。23時頃までに就寝している母親の比率は、秋田県は71.8%、関東圏は58%であり、秋田県の母親の方が早寝であることが明らかになりました。NHK放送文化研究所の2020年の調査では、30代で約50%、40代で40% が23時頃には就寝していることが示されています。これらの結果と比較しても、秋田県の幼児期の子どもをもつ母親は早寝であるということがわかります。

母親の起床時間と就寝時間の調査をした結果、秋田県の幼児期の子どもをもつ母親は早寝早起きであることが明らかになりました。

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図4 秋田県と関東圏の母親の就寝時間

(4)秋田県と関東圏の子どもの共食状況

誰かと一緒に食事をする「共食」の大切さが謳われており、第4次食育推進計画でも朝食、夕食共に共食の回数を増やすことが目標としてあげられています。特に、基本的生活習慣の形成期である幼児期に、子ども一人で、あるいは子どもだけで食事をするのではなく、大人と一緒に食事をすることで、食に関するマナーや文化の伝承といった意義を理解することや、生活リズムや食生活に良いことが報告されています(e.g., 会退・市川・赤松,2011 瀬尾,2020)では、幼児期の子どもたちは、大人と一緒に食事をしているのでしょうか。

表2は朝食の共食状況を、表3は夕食の共食状況を示したものです。はじめに朝食の共食状況を比較すると、秋田県の子どもの74.5%、関東圏の子どもの50.1%が、親と一緒に食事をしていることが示されました。次に、夕食の共食状況を比較しても、秋田の子どもの99%、関東圏の子どもの86.2%が、親と一緒に食事をしていることが示されました。これらの結果から、秋田県の子どもは、親と一緒に食事をしている割合が高く、秋田県の方が,親と同じ時間を共有して過ごす時間が長い傾向があることが示唆されました。

表2 秋田県と関東圏の子どもの朝食における共食状況
  秋田県 関東圏
親と一緒に食べる 149 175
(74.5) (50.1)
子どもだけ・一人で食べる 51 174
(25.5) (49.9)
合計 200 349
注)上段は人数を、下段( )は%。なお、無回答に関しては母数から除外。

表3 秋田県と関東圏の子どもの夕食における共食状況(人)
  秋田県 関東圏
親と一緒に食べる 200 301
(99.0) (86.2)
子どもだけ・一人で食べる 2 48
(1.0) (13.8)
合計 202 349
注)上段は人数を、下段( )は%。なお、無回答に関しては母数から除外。

(5)秋田県の子どもは遅寝早起き?

これまでデータをもとに結果をまとめると、調査対象となった秋田県の子どもは,関東圏の子どもより遅寝早起きであり、秋田県の母親は,関東圏の母親より早寝早起きであるということが示されました。また、秋田県の子どもの方が共食状況が良いことが明らかになりました。これまでの研究では、起床時間が早い方が朝食時間も早く、朝食をゆっくりとることが出来、朝の排泄が習慣化されることが明らかになっています(篠原・長野・堀内,2021)。また、共食をすることで生活リズムが整うことが明らかになっています(江田,2006)。これらのことをふまえると、早起きであることと共食は、幼児期の望ましい生活習慣の形成に寄与していることが、推察されます。

この調査は大規模調査ではないため、一般化したものとして扱うことはできませんが、この調査から推察されることは、秋田県の子どもの方が、家族で親と一緒に過ごす時間が長い傾向があり、関東圏の子どもの方が、子どもだけで食事をとるなど、子どもの時間と大人の時間は別々にする傾向があることが推察されます。

秋田県の子どもの学力が全国と比較して高い要因の一つとして、望ましい生活習慣があげられています。本調査の結果から、子どもが早寝早起きであることは示されていません。しかし、本調査では、家庭において、子どもの時間を考慮しつつ大人の時間に合わせる生活スタイルをとっている傾向が示されました。また、朝食も夕食も、秋田の子どもの方が親と一緒に食事をとっている共食率が高く、家族団らんの食事をしていることが分かりました。

国立教育研究所の質問紙調査結果(2007,2019)では、毎日朝食を食べる、家族との対話が多い子どもの正答率が高い傾向にあることが報告されています。また、子どもたちを取り巻く人間関係の豊かさや信頼関係といった、人間関係が生み出す力である「社会関係資本」が、学力に大きな影響を与えていることが考察されています(濱田,2022)。以上のことを踏まえると、秋田県の子どもは、家族と共に過ごす時間が多くある中で、生活の基盤を形成していることが、学力を高める一要因になっているのではないかと考えます。

5.おわりに

本稿では、秋田県における就学前教育に関して園での生活と家庭での基本的生活習慣からから考えてきました。ここまでのまとめとして、秋田では一人ひとりにきめ細かな授業が高く評価され、全国各地から秋田型の授業を学ぶために多くの人が視察に訪れています。もちろん、教員の指導力の高さが直接的に子どもたちの学力向上を促していますが、人生の豊かな始まりは、幼児教育・保育といわれるように、就学前教育もまた子どもの学力を支えているといえるのではないかと思います。そして、それは、直ぐに達成できるものではなく、子どもの教育を県民全体で支える教育的風土が根付いていることにあるのではないかと考えています。

秋田県では、1902年に日本で初となる巡回文庫を開始し、巡回文庫の運営は地域コミュニティが行い、人々の教育力の向上を地域の人々が支え、1965年には当時の秋田県知事(小畑勇二郎)の強いリーダーシップの下で、行政が中心となって生涯教育を推進し、1972年には幼保の連携の強化を図り、さらには、家庭での子どもの世話や教育を主に担っていた女性の学びを積極的に支援していました。小畑(1978)の著書『秋田の生涯教育』では、生涯教育の必要性を感じた理由の一つは幼児教育であると記されています。そして、幼児教育の振興のために「幼児のための教育の充実」と「幼児を持つ親のための教育の充実」を図ることの必要性が述べられています。

幼稚園と保育所の充実のために、幼稚園と保育所の増設を行い、現行法上に基づく範囲内で一体的運営を考え、研究指定施設を設定し、解決法を探る取り組みを実践し、その実践を実践事例集として関係者に紹介していました(秋田県生涯教育推進本部,1980)。具体的には、同一敷地内に建設されていた大曲市立大曲南幼稚園と大曲中央保育所の両園の園長を兼務として、行事や給食など出来る限り共同で行い、出来るだけ同一の経験と活動をさせて格差のない教育をうけさせるように取り組んでいました。制度上幼稚園は文部省、保育所は厚生省と所管が分かれており、秋田県でも幼稚園は教育委員会、保育所は民生部と所管が分かれていた当時、幼稚園と保育所の園長を兼務したり、幼稚園に通う子どもも保育所に通う子どももできる限り活動を一緒にする取り組みは画期的だったといえると思います。

また、町立飯田川保育園と町立若竹幼稚園を1973年に飯田川町立若竹幼児教育センターに名称変更を行い、幼稚園と保育所の一体的運営を行っています。そこでは、2、3歳児は保育所保育指針を参考に保育計画を立てて、4、5歳児は幼稚園教育要領を参考に保育計画を立てて保育実践を行っており、職員には幼稚園教諭と保育所保母の両方の資格を持っている人を充てていました。幼保連携型認定こども園では、2015年からスタートした「子ども・子育て支援新制度」において、旧来の認定こども園法を改正し、「学校及び児童福祉施設としての法的位置付けを持つ単一の施設」として創設され、幼保連携型認定こども園で働く「保育教諭」は幼稚園教諭と保育士資格の両方を有することを原則とされています。若竹幼児教育センターではその40年以上も前から両方の資格をもつ職員が子どもの保育にあたっていた事もまた画期的なことだったといえるでしょう。

さらに、小畑は、生まれたときから教育を始めなければならないという教育観に立ち、0歳から教育をはじめるには、乳児をもつ母親の教育に力を入れることが課題であると述べています(1978)。実際には、西ドイツの「ペリカン通信」をモデルとして、赤ちゃんが誕生すると「誕生おめでとうの」のカードと一緒に、赤ちゃんの育て方や発達に応じた注意点を往復はがきに書いて出して、育児の相談に必ず返事をしたり、子育て相談の巡回指導を行ったりしていました。加えて、0歳児から4歳児の子どもをもつ保護者に対して「スギの子通信」を発送し、乳幼児の教育に関する資料提供をしたり、「スギの子ひろば」といったテレビ放送を通じて、3歳児を中心とした子どもの特徴や行動の諸傾向など、事例を通してわかりやすく解説指導を行ったりしていました。

これまで述べてきたように、秋田県では全ての子どもに質の高い教育・保育の機会を提供するよう、就学前教育の環境を学校、家庭、地域を包括的に整備し、継続的に就学前教育の推進に取り組んできました。そして、その結果として子どもの学力に現れているのだと考えます。また、家庭での早寝・早起き・朝ごはんを推進し、型通りの生活習慣の確立を目指すことよりも、家庭では子どもの時間も大切にしつつ、大人の時間も大切にした日常生活、家族が共に過ごす時間を大切にした生活を続けていることが、子どもたちの学力向上につながっているのではないかと推察します。


引用文献
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    https://www.pref.akita.lg.jp/pages/archive/6620(2022年4月20日 アクセス)
  • 秋田県教育委員会(2015).秋田わか杉 七つの「はぐくみ」
    https://www.pref.akita.lg.jp/pages/archive/8526(2022年4月20日 アクセス)
  • 秋田県教育委員会(2021).令和3年度 全国学力・学習状況調査の結果について https://www.pref.akita.lg.jp/pages/archive/9914(2022年4月28日 アクセス)
  • 秋田県教育委員会(2021).秋田県生涯学習50年史,秋田県教育庁生涯学習課 https://www.pref.akita.lg.jp/pages/archive/56148(2022年4月28日 アクセス)
  • 秋田県生涯教育推進本部(1980).秋田県の生涯教育-10年の足跡-,秋田県生涯教育推進本部事務局 阿部昇(2018).トップレベルの学力を支える大きな柱は質の高い探求型授業と教師の共同研究,総合教育技術11月号,48-51.
  • 阿部昇(2020).目標・ねらいの明確化、教材研究の充実探求型授業により「深い学び」の実現を,総合教育技術4月号,48-51.
  • ベネッセ教育研究所(2016).第5回 幼児の生活アンケート調査
    https://berd.benesse.jp/up_images/research/YOJI_all_P01_65.pdf( 2022年6月2日アクセス)
  • 江田節子(2006).幼児の朝食の共食状況と生活習慣,健康状態との関連について,小児保健研究,65,55-61
  • 濱田眞(2022).社会資本としての教師力と家庭・地域,EN-ICHI FORUM, 377, 16-19.
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  • 国立教育政策研究所(2007).平成19年度 全国学力・学習状況調査 調査結果のポイント
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  • NHK放送文化研究所(2020)あなたの睡眠時間は平均より長い?短い?
    https://www.nhk.or.jp/bunken/yoron-jikan/column/sleep-2020.html (2022年4月28日 アクセス)
  • 農林水産省(2021).第4次食育推進計画
    https://www.maff.go.jp/j/press/syouan/hyoji/attach/pdf/210331_35-6.pdf (2022年4月28日 アクセス)
  • 瀬尾知子(2020).幼児の食事の意義理解の発達過程,風間書房
  • 新藤雄介(2011).本は巡回する 1900-10年代における巡回文庫の導入と普及,日本マス・コミュニケーション学会・2011年度春季研究発表会・研究発表論文,1-6
  • 篠原俊明・長野康平・堀内亮輔(2021).幼児の起床時刻別にみた生活習慣の特徴-東京都荒川区の保育園児を対象に-,東京未来大学研究紀要,15,69-77
  • 小畑勇二郎(1978).秋田の生涯教育,前日本社会教育連合会
筆者プロフィール
Tomoko_Seno.jpg瀬尾 知子(秋田大学教育文化学部 准教授)

お茶の水女子大学人間文化創成科学研究科博士前期課程修了。お茶の水女子大学人間文化創成科学研究科博士後期課程中退。修士(人文科学)。10年間の中学・高校での教職経験を経て、現在は秋田大学教育文化学部 准教授。専門は幼児教育、保育学。

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