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【日本】夜間保育施設に求められる家庭支援(前編)

要旨:

本稿の目的は、全国夜間保育園連盟による実態調査から夜間保育施設に求められる家庭支援を考察することである。調査から、降園時間の深夜化に伴い、母子家庭の子育てに関する特記事項の増加が示され、親子の気になる姿として、親の養育力や家庭の孤立感、ひとり親家庭の子育て困難といった家庭の状況が浮上した。夜間保育施設に求められる家庭支援の役割の最重要事項の一つに、夜間保育を要する親子の子育てを含む生活の困難を軽減させ、親子ともに安心して生活することが保障される、地域のセーフティーネットとしての機能が示唆された。

キーワード:
夜間保育、家庭支援、夜間保育施設、実態調査、多様な保育
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研究の背景
1.夜間保育施設と夜間保育を必要とする児童注1の状況

1-1 夜間保育施設の現状

まず、夜間保育を行う主な保育施設には、認可保育施設としては夜間保育所および夜間保育を実施する認定こども園、認可外保育施設としてはベビーホテルがある。厚生労働省によると、全国に夜間保育所は81施設(2018年4月時点)、ベビーホテルは1,473施設(2018年3月末時点。届出対象外施設(当時)を含む)存在するという状況である。

夜間保育所は概ね11時から22時を標準的な保育時間注2とする認可保育施設であり、夜間の保育のみを実施するのではなく、昼間に加えて夜間の保育も行う保育施設である。みずほ情報総研の調査(2019)によると、約9割の夜間保育所が11時前からの午前の延長保育を実施し、約6割が22時以降の夜間延長保育を実施しているという実情が示された。それに対し、ベビーホテルは①夜8時以降の保育、②宿泊を伴う保育、③利用児童のうち一時預かりの児童が半数以上、のいずれかを常時運営している施設であると厚労省によって定義されている。そのため、ベビーホテルのすべてが夜間保育を実施しているわけではない。


lab_01_128_01.jpg 図1. 認可夜間保育施設とベビーホテルの開所時間別施設数


図1は認可夜間保育施設とベビーホテルの開所時間別施設数を、現在公表されている最新のデータを用いて示したものである。ベビーホテルのうち、42.6%(628施設)は20時までの保育実施であり、20時を超えて夜間、深夜、宿泊を伴う保育を実施しているのは全体の57.4%(845施設)である。図1の認可夜間保育施設の内訳は、全国の夜間保育所81施設のうち、全国夜間保育園連盟の名簿に開所時間が明記されている59施設をもとに作成したものである。しかし、未集計の22施設を鑑みても、夜間、深夜、宿泊、24時間のどの時間帯においても、圧倒的に認可外保育施設であるベビーホテルの施設数が認可施設を上回り、夜間保育を行う認可保育施設が非常に少ないことがわかる。


1-2 ベビーホテル問題と子どもの家庭福祉

日本の保育施策として夜間保育が1981年に開始された背景には、1980年当初にベビーホテルでの乳児の死亡事故が社会問題化した、いわゆるベビーホテル問題がある。垣内(1981)は、認可外保育施設において乳児の死亡事故が多発したことを始めとするベビーホテル問題は「国と自治体の保育政策の結果、構造的に生み出されたもの」であり、「ベビーホテル」の概念について「一応『営利主義的無認可託児企業(施設)』とおさえたうえで使うことにしたい(なお、ベビーホテルと呼ばれるもののなかには、非営利的・良心的なものが少数存在する。これらは、先の規定の範囲に含まれないと理解しておきたい。)」と述べている。そして「夜間保育か宿泊保育か時間預かりのいずれか一つ以上を行っているもの」といった厚生省(当時)のベビーホテルの定義づけは、調査上の定義として理解できなくはないが、あくまでも現象的な定義づけであり、ベビーホテル問題の本質を示す定義づけではないと指摘している。また、山縣(1983)は「ベビーホテル問題は、要保護児童の問題であり、その中でも要保育児童を中心として発生した問題」であると述べている。また「そこに巻き込まれた児童(とりわけ乳幼児)は、差しのべられるべき施策からはみ出した、あるいはそれが存在しないという状況の中で、ベビーホテルの利用を余儀なくされたものたち」であり、児童福祉施設である保育所が本来的な児童の福祉の立場に立った活動を行っているか、保育労働者、働く母親、企業といった大人の都合が中心となり児童が犠牲になっていないかを問い直し、保育施策の質的包括領域の問題としてベビーホテル問題を捉える必要性を指摘している。

すべての子どもの最善の利益を等しく保障するには、保育を必要とする時間帯によって享受できる保育の質に不平等が生じてはならず、子どもの人権が侵害されるような社会環境は容認できない。2017年4月~2018年11月にかけて実施された総務省行政評価局による調査(2018)からは、認可保育施設と比較した際の認可外保育施設での死亡事故件数が多いこと、また死亡事故以外の重大事故の報告件数が極めて少ないことが指摘され、認可外保育施設で多くの重大事故が報告されないままとなっている可能性への危惧が指摘されている。また、認可外保育施設に通う0歳児が夕刻に登園し、深夜に入眠してから2時間程度経過したお迎えの引き渡し時に心肺停止状態であった事例について言及している。死因は不明であるがSIDS(乳幼児突然死症候群)予防に対する認識が甘かったこと、および保育従事者全員への情報共有がなされていなかったことが記されている。加えて、2018年1月~12月末日までに報告のあった教育・保育施設等における事故報告の集計を示した内閣府子ども・子育て本部による文書(2019)においても認可外保育施設での死亡事故が多いことが示され、特に午睡中の死亡事故の多さが指摘されている。大人の論理ではなく、児童福祉および子育て家庭福祉の立場に立った保育施設のあり方を求めなければ、夜間保育を必要とする子どもと子育て家庭は行き場を失うこととなる。

「常に弱い者にしわよせはいきます。この法則が子どもたちの命をうばっていくのなら、なんとかして行政の立ち遅れを改めさせ、私たちの手で命を守らねばなりません。」

上記の言葉は、ベビーホテル問題が社会問題化する以前である1972年に、認可外保育施設で幼い命を失った夫妻を含むメンバーが立ち上げた「径一ちゃんの死をムダにしない為に保育を考える会」が、子どもたちの命が奪われることのない保育環境の整備を願い、作成した報告書に記されたものである。子どもとの家庭生活を維持するために保育施設を必要とする子育て家庭にとって、社会の中でわが子が安全に安心して過ごすことのできる保育環境が保障されていることは最重要事項であり、基本である。認可夜間保育施設の誕生は、児童のみならず子育て家庭の福祉を保障する福祉施設としての矜持に支えられたものである。

夜間保育が日本の保育施策として1981年にモデル事業で開始されてから約40年、1995年に正規事業となってから25年が経過した。現在、ベビーホテルで夜間保育を受けている児童数を厚労省の「認可外保育施設の現況取りまとめ」をもとに調べたところ、2007年度~2017年度に深夜、宿泊を含む20時以降の主に夜間の保育を受ける児童の年間平均人数は4,387人、24時間保育を受けている児童は年間平均302人であった(大江,2019)。このことは、夜間保育ニーズが一定数、確実に存在していることを示すと同時に、ニーズと制度があるにもかかわらず認可夜間保育施設は81ヵ所にとどまり、今なお認可外保育施設が夜間保育の多くを担っている実情を示している。


2.全国夜間保育園連盟の実態調査から浮上した家庭支援の課題

全国の認可夜間保育施設の多くが加盟する組織として、1983年に創設された全国夜間保育園連盟がある。「児童福祉法に基づく認可夜間保育園が、提携し協力して、夜間保育の充実をはかり、もって児童福祉の発展に寄与すること」(全国夜間保育園連盟,1984)を目的として、保育の質的向上や国の施策改善を含む夜間保育を取り巻く環境の改善を図るため、実態調査および調査研究を継続的に実施している。これまでの連盟による実態調査および調査研究に関する文献を確認すると、1988年以降、継続的に「家庭支援」が課題として指摘されていることが明らかになった(大江,2019)。また、夜間保育を必要とする子どもの家庭背景に、ひとり親家庭(なかでも母子家庭)、低所得層、長時間保育の傾向が高いことが示されており、このことからも夜間保育従事者には、子どもの最善の利益を保障するために、現在から将来を見通した上で、必要な保育と保護者への支援を構築する力が求められると推察される。

また、夜間保育の子どもへの影響に関する調査研究からは、子どもの発達には「保育の形態や時間帯」ではなく「家庭における育児環境」、「保護者の育児への自信やサポートの有無」などの要因が強く関連していたことが示されている(安梅・呉,2000)。そのため、夜間保育施設における家庭支援は、子どもの発達を保障する上で、非常に重要な要素として位置づけられる。

しかし現状は、公的な補助が得られにくく、家庭支援を行う人的環境も決して十分とは言い難いような認可外保育施設が夜間保育の大半を担っている状況がある。そこで、約10年ぶりに実施された全国夜間保育園連盟の実態調査から、あらためて夜間保育施設に求められる家庭支援について考察したいと考えた。


注1:学校教育法の「児童」ではなく「児童福祉法」の定義による「児童(0~18歳)」を指す。
注2:基本保育時間を11時から22時とするところが多いが、地域の実情に応じて11時半~22時半、13時から24時、14時から25時を基本保育時間と設定している園もある。



(後編に続く)
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引用文献

  • 安梅勅江・呉栽喜(2000)夜間保育の子どもへの影響に関する研究.日本保健福祉学会誌第 7巻1号、7-18.
  • 垣内国光(1981)最近の保育政策の特徴とベビーホテル問題.鈴木政夫編.『ベビーホテル ―その実態と問題点―』ささら書房、138-167.
  • 径一ちゃんの死をムダにしない為に保育を考える会(1982)『径一を返せ№9. 130の小さな叫び 保育施設での事故例調査報告書』径一ちゃんの死をムダにしない為に保育を考える会.
  • 厚生労働省(2018)平成30年度 夜間保育所の設置状況(平成30年4月1日時点).
    https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/H30tyousakekka.pdf(情報取得2019/4/26)
  • 厚生労働省(2019)平成29年度認可外保育施設の現況取りまとめ.
    https://www.mhlw.go.jp/content/11907000/000522194.pdf(情報取得2019/7/22)
  • みずほ情報総研株式会社(2019)夜間保育の運営状況等に関する調査研究.
    https://www.mizuho-ir.co.jp/case/research/pdf/h30kosodate2018_04.pdf(情報取得2019.4.24)
  • 内閣府子ども・子育て本部(2019)「平成30年教育・保育施設等における事故報告集計」の公表及び事故防止対策について.
    https://www8.cao.go.jp/shoushi/shinseido/outline/pdf/h30-jiko_taisaku.pdf(情報取得2020/1/30)
  • 大江まゆ子(2019)夜間保育の歴史的変遷と夜間保育を取りまく環境の考察 ―夜間保育をめぐる文献研究から―. 人間環境学研究第17巻 第2号、127-138.
  • 総務省行政評価局(2018)子育て支援に関する行政評価・監視 ―保育施設等の安全対策を中心として― 結果報告書.
    https://www.soumu.go.jp/main_content/000583885.pdf(情報取得2020/1/30)
  • 山縣文治(1983)ベビーホテル対策をめぐる評価 ―夜間保育所を中心として―.社会福祉学第24巻2号、127-152.
  • 全国夜間保育園連盟(1984)全国夜間保育園連盟規約.夜間保育所に入所している子どもの家庭およびその生活調査.資料Ⅳ 109.


付記
ここで報告される内容は、全国夜間保育園連盟による実態調査報告書「2019年度全夜間保育園 利用児(者)実態調査―子ども・子育て支援新制度下での夜間保育園―」の一部に加筆したものである。なお上述の調査分析および報告書執筆は、連盟顧問である櫻井慶一氏(文教大学名誉教授)と筆者が共同で行った。
本稿は2019年10月26日~27日に開催された第16回子ども学会議(於:首都大学東京)において発表した内容に加筆したものである。

筆者プロフィール
oe_mayuko.jpg 大江 まゆ子(おおえ・まゆこ)

芦屋大学准教授。保育者としての現場経験の後、聖和大学大学院教育学研究科幼児教育学専攻博士前期課程修了。その後、保育者養成に従事。現在、武庫川女子大学大学院臨床教育学研究科博士後期課程在籍。認可外24時間保育施設に就職した卒業生の相談をきっかけに、認可外24時間保育施設および認可夜間保育施設を見学、各施設長から実情を伺う。保育を必要とする時間帯により享受できる保育の質に公平性が保たれているとは言い難い状況を感じ、現在、夜間保育施設の存在意義と現代社会の子育て観をテーマに研究を行っている。
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