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【日本】夜間保育施設に求められる家庭支援(後編)

要旨:

本稿の目的は、全国夜間保育園連盟による実態調査から夜間保育施設に求められる家庭支援を考察することである。調査から、降園時間の深夜化に伴い、母子家庭の子育てに関する特記事項の増加が示され、親子の気になる姿として、親の養育力や家庭の孤立感、ひとり親家庭の子育て困難といった家庭の状況が浮上した。夜間保育施設に求められる家庭支援の役割の最重要事項の一つに、夜間保育を要する親子の子育てを含む生活の困難を軽減させ、親子ともに安心して生活することが保障される、地域のセーフティーネットとしての機能が示唆された。

キーワード:
夜間保育、家庭支援、夜間保育施設、実態調査、多様な保育
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本稿の目的(前編より続く)

本稿の目的は、約10年ぶりに実施された2019年度の全国夜間保育園連盟の実態調査から、夜間保育施設に求められる家庭支援について考察することである。

方法

全国夜間保育園連盟に加盟する60園(認可夜間保育施設)を対象に質問紙調査を実施した。回答者は原則として園長で、実施時期は2019年5月1日~6月15日、および7月1日~8月15日である。本研究で分析対象とした項目は、園児の育ちと家族の子育てで気になることに関する特記事項と児童データ、夜間保育利用の親子の姿で気になる点や心配な点についての自由記述であり、今回の調査で新たに追加された項目を本稿の分析対象とした。分析方法について、自由記述の分析は得られたテキストデータを内容ごとに切片化し、グループ化の後、グループから浮上する内容の概念化を行った。

なお、倫理的配慮として、連盟会長から各園長に対し、研究の目的や方法、個人情報の取り扱い等の説明を事前に口頭で行い、参加・協力は任意であることの同意を得て行われた。

結果

質問紙の回収率は55%(33園)であり、その内、特記事項の記載があったのは76%(25園:園児のみ4園、家族のみ2園、両方19園)、回収児童データは1,105件であった。

1.特記事項のある児童状況

特記事項のある児童は158名(14.3%)で、得られた特記数は177(園児の育ち:81、家族の子育て:96)であった。なお、特記事項と保育終了時間、家族形態の関連の検討を本研究の目的としたため、園児の育ちや家族の子育て以外の状況のみが記載された23名は、分析対象から除くこととした。

・特記事項の有無×保育終了時間×家族形態

表1は保育終了時間別の利用家庭類型と特記事項の数と割合を示したものである。全体の約半数が20時までに降園している。22時超はひとり親家庭の特記ありの増加率が高くなる。また、特記事項のある割合を家族形態別にみると、両親家庭が12.5%に対し、ひとり親家庭は24.8%と両親家庭の約2倍となっている。

表1. 保育終了時間別の利用家庭類型と特記事項の数と割合

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・特記事項の内容×保育終了時間×家族形態

表2は保育終了時間別の利用家庭類型と特記内容の状況を示したものである。「園児」の育ちに関するものよりも「家族」の子育てについての特記数が上回っており、降園の深夜化に伴い、母子家庭の子育てに関する特記事項が多い傾向が示された。

表2. 保育終了時間別の利用家庭類型と特記内容の状況(データ数)

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2.特記事項の概要

特記事項のうち、「園児の育ちで気になること」として記された自由記述をグループ化したものが図2注1、「家族の子育てで気になる点」の自由記述をグループ化したものが図3である。ここでは認可夜間保育施設を利用する園児と家族に関する特記内容の検討を目的としたため、表1および表2では除外していた家族形態の記載がない5件に記載されていた特記事項も含めて分析を行った。

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図2. 園児の育ちで気になること(件数)    図3. 家族の子育てで気になる点(件数)


「園児の育ちで気になること」として最も多く記されていたのは「発達障がい」で全体の35.8%(29件)であり、「発達障がいの懸念」が21.0%(17件)であった。また、「家族の子育てで気になる点」として最も多かったのが「虐待懸念」で全体の33.3%(32件)、次いで「養育者の心身の疾病」が18.8%(18件)、「子育て姿勢」が9.4%(9件)、「精神的不安定さ」、「家庭の複雑さ」、「外国籍」がそれぞれ7.3%(7件)などとなっていた。なお、図3で5.2%(5件)示された「要保護児童」は、地域にショートステイ、トワイライトステイが利用できる乳児院や児童養護施設などがなく、行政から保護者の状況を鑑みて受け入れ要請が認可夜間保育施設になされた児童のことであり、子育てに困難を抱える家庭を支える夜間保育施設の実情が示されたと考えられる。

3. 夜間保育利用の親子の姿で気になる点や心配な点

園児や家族についての特記事項とは別に、「夜間保育を利用する親子の姿で気になる点や心配な点がありますか」との質問に対し、33園中29園(87.9%)が「はい」、3園(9.1%)が「いいえ」と回答し、記載なしは1園であった。表3は「はい」の回答に続く「親子の気になる姿、心配な点などについてご記入ください」で得られた自由記述の分析結果である。

【親の養育力】についての指摘が37.1%と最も多く、次いで【家庭の状況】、【子どもの生活リズムの形成】、【親子関係の希薄さ】などが示された。

表3. 夜間保育利用の親子の姿で気になる点・心配な点

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認可夜間保育施設に通う児童の約半数は20時までに降園しており(表1)、園児の育ちおよび家族の子育てへの特記事項が認められたのは回収された児童データのうち、14.3%という結果であった。

全国保育協議会の保育施設への実態調査(2017)において、生活面・精神面などで支援の必要な家庭の状況があるとの回答が62.9%であるのに対し、今回の夜間保育施設を対象とした調査で回答が得られた園の75.8%に特記事項の記載がある状況は、保育施設の中でも夜間保育施設に求められる家庭支援ニーズは高いことが考えられる。しかし、回収率が55%であることや特記事項の記載を控えたケースも考えられるので留意する必要がある。

今回、親子の姿で気になる点として最も多く指摘された項目は【親の養育力】(表3)であり、子どもの育て方がわからず園任せになる傾向などの<養育能力の乏しさ>や<親の子どもへの関わり>がうまくいっていない心配などは夜間保育施設に限ったことではなく、近年のすべての保育施設に共通の大きな課題といえる。しかし、<家庭の孤立感>、<ひとり親家庭の子育て困難>、<複雑な家庭環境>などの【家庭の状況】や【子どもの生活リズムの形成】という点は、夜間保育施設に求められる家庭支援を考える上で特徴的で重要な事項と考えられる。

また、ひとり親家庭の児童は両親家庭の約2倍の割合で特記事項がある結果(表1)や、保育終了時間の深夜化に伴い母子家庭の子育てに関する特記事項ありの増加率が高い傾向が示された(表2)ことなどは、夜間就労を必要とするひとり親家庭の子育ての困難さが顕著に示された結果と考えられる。特記内容としては、園児の育ち(図2)では「発達障がい」、「発達障がいの懸念」の合計が過半数を占め、家族の子育て(図3)では「虐待懸念」が全体の33.3%を占める中、外国籍の親子への支援が求められている実情も示された。また、「養育者の心身の疾病」も多く示され、「子育て姿勢」、「精神的不安定さ」、「家族の複雑さ」や「若年養育者」など、子育てをしていく上で遭遇する様々な困難に家庭内だけでは対応できない状況の中で、夜間就労と子育ての両立に直面している保護者の実情がうかがえる。

考察

今回の調査結果から明らかなように、夜間保育を必要とする子どもと保護者のすべてが特記内容のような状況を有しているのでは当然ない。しかしその一方で、降園時間の深夜化に伴い、ひとり親家庭への支援の重要度が増していることや、園児の育ちや家族の子育てに関する特記事項に記された内容からは、夜間保育施設に求められる家庭支援内容に幅広い支援とより深い関わりが示されたと考えられる。

夜間保育を要する状況は親子の生活リズムにズレが生じやすく、夜間就労を必要とする保護者の心身の疲労や、ひとり親家庭の子育ての困難さなども含め、子育て環境としては生活の中で親子のコミュニケーションを楽しむ余裕をもちづらい状況に陥りやすいと考えられる。そのため、保護者の心身の不安定さが子どもとの生活そのものに影響を及ぼしやすい状況にあることがうかがえた。また、どうしても親の生活リズムが夜型になってしまうために、子どもの生活リズムを朝型に保つには格段の配慮が必要となる。そのため、子どもの育ちを中心とした子育て環境を、保護者とともに形成していけるよう保育士による細やかな個別の配慮が肝要となる。

全国夜間保育園連盟は2008年の「大阪宣言」において、親支援に専従できる主任級保育士の必要性や、社会的養護に関わる諸施設や地域の行政機関などとのネットワークの構築など、ソーシャルワーク機能を強化する必要性を明らかにした(櫻井,2014)。その後、約10年が経過した今回の調査からも、深夜におよぶ夜間就労を必要とする母子家庭の困難さを支えている認可夜間保育施設の実情が、より明確に示されたと考えられる。また、本稿で詳細に述べることはしないが、今回の調査における夜間保育利用者の保育料区分の全体的傾向として、1996年と2010年調査では54%前後だった保育料の最も高いD階層注2が今回は48.2%であり、ひとり親家庭ではA階層およびB階層の占める割合が66.3%と、ひとり親家庭の貧困の問題が顕著に感じられる結果が示された。これらのことから、夜間保育施設の家庭支援には、母子家庭をはじめとするひとり親家庭の貧困問題も視野に入れ、子育てを含む保護者の生活力を培う場、ひとり親家庭の貧困による社会からの孤立を防ぐ地域のセーフティーネットとしての役割が求められていることが明らかになったと考えられる。

保育施設は、子どもにとっては人生のはじまりの時期に、保護者にとっては親としての歩みのはじまりの重要な時期に、社会で他者と出会い、つながることのできる場所である。夜間保育を要する親子に対して社会がどのような環境を整備するかは非常に重要かつ喫緊の問題であり、今回の調査において示された、夜間保育施設に求められる家庭支援内容の質的な深まりと量的な広がりは、夜間保育を必要とする子どもたちからわれわれに突き付けられている課題であるといえる。

注1:図2は園児の育ちの特記事項として示された記述に従ってグループ化を行ったものである。上位概念、下位概念と考えられるグループが混在しているように見えるが、自由記述に則ってグループ化を行うにとどめ、主観的判断で構造化することを避けている。
注2:A階層は生活保護世帯、B階層は均等割非課税市民税所得割非課税世帯、C階層が市民税所得割課税額77,100円以下、D階層が所得割課税世帯77,101円以上と区分し、算出している。



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引用文献

  • 櫻井慶一編(2014)『夜間保育と子どもたち 30年のあゆみ』北大路書房.
  • 社会福祉法人全国社会福祉協議会 全国保育協議会(2017).『全国保育協議会会員の実態調査 報告書2016』社会福祉法人全国社会福祉協議会 全国保育協議会.
  • 全国夜間保育園連盟(2019)『全国夜間保育園 利用児(者)実態調査 -子ども・子育て支援新制度下での夜間保育園-【完成版】』全国夜間保育園連盟.


謝辞
全国夜間保育園連盟会長の酒井義秀先生をはじめ、お忙しい中、調査にご協力いただきました連盟の諸先生方に心より感謝申し上げます。また、連盟顧問であり調査報告書の作成をご一緒させていただきました櫻井慶一先生に深謝申し上げます。


付記
ここで報告される内容は、全国夜間保育園連盟による実態調査報告書「2019年度全夜間保育園 利用児(者)実態調査―子ども・子育て支援新制度下での夜間保育園―」の一部に加筆したものである。なお上述の調査分析および報告書執筆は、連盟顧問である櫻井慶一氏(文教大学名誉教授)と筆者が共同で行った。
本稿は2019年10月26日~27日に開催された第16回子ども学会議(於:首都大学東京)において発表した内容に加筆したものである。

筆者プロフィール
oe_mayuko.jpg 大江 まゆ子(おおえ・まゆこ)

芦屋大学准教授。保育者としての現場経験の後、聖和大学大学院教育学研究科幼児教育学専攻博士前期課程修了。その後、保育者養成に従事。現在、武庫川女子大学大学院臨床教育学研究科博士後期課程在籍。認可外24時間保育施設に就職した卒業生の相談をきっかけに、認可外24時間保育施設および認可夜間保育施設を見学、各施設長から実情を伺う。保育を必要とする時間帯により享受できる保育の質に公平性が保たれているとは言い難い状況を感じ、現在、夜間保育施設の存在意義と現代社会の子育て観をテーマに研究を行っている。
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