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【日本】共生社会におけるECECのありかた:認可外保育施設スタッフのもつ保育哲学を踏まえて

大西 薫(岐阜聖徳学園大学短期大学部専任講師)

2019年11月22日掲載

要旨:

本研究の目的は、問題視されることの多い認可外保育施設スタッフのもつ保育哲学や理念を明らかにすることである。彼らの語りデータを保育哲学の観点から再分析した。認可保育所にアクセスできない社会的に不利な状況にある親子に対して、必要とされるケアを届ける、という彼らの保育哲学は、ECECの原点にも通じるものであった。これを踏まえて、共生社会におけるECECのあり方についてインクルーシブ教育の視点から考察を行った。

keywords:
共生社会、ECEC、認可外保育施設、 認可外保育施設スタッフ、 保育哲学、社会的に不利な状況にある親子、インクルーシブ教育
問題と目的

ECECの歴史を振り返ると、その原点にはペスタロッチJ. H.やオーウェンR.の保育哲学があり、そこで行われていた保育は、働く貧しい親に代わって子どもを養護し、子どもに適切な教育をするものであった。このような保育哲学が生まれた18世紀の社会的背景と状況は異なるとはいえ、現代の日本社会において、所得格差の増大や労働形態の多様化などがあり、1万人を超える待機児童の存在は、女性の就労抑制、子どもの貧困、少子化を招く深刻な問題であることが指摘されている(池本・立岡,2017)。また、OECDは、子どもに目が行き届かない状態および貧困は、子どもの発達を著しく害するとし、仕事と家庭の良好なバランスを見出すことは、子どもが良好に発達するための環境を確保するという点でも、親自身の労働と家庭の満足の実現を支援するという点でも重要であるとしている(OECD,2007)。

待機児童の受け皿の1つとして、認可外保育施設がある。認可外保育施設とは、児童福祉法に基づく都道府県知事などの認可を受けていない保育施設のことで、「ベビーホテル(①夜8時以降の保育、②宿泊を伴う保育、③一時預かりの子どもが利用児童の半数以上の施設のこと)」や「認証保育所」などの地方単独保育事業の施設も含まれている。待機児童の多い地域では、そもそも認可保育施設数が足りないことや、保護者が認可保育施設を利用するための基準を満たせないことによって、認可外保育施設が少なからず利用されている。ベビーホテルは、1970年代、夜間や休日などに就労する女性の需要にこたえるべく、都市部を中心に盛んに運営された。当初、これらのベビーホテルには十分な法的規制が設けられなかったため、1980年代、乳幼児の死亡事故が続発し、ベビーホテルを含む認可外保育施設に対する監督の強化が図られている。それにもかかわらず、保育施設における子どもの死亡事故は、認可外保育施設や一時預かりで発生率が高い。

筆者らは、待機児童がいない地域にある認可外保育施設、その中でも特に、ベビーホテルを中心に研究を行ってきた。そこで明らかにされた保育の状況は、認可保育施設では担えない保育要求に柔軟に対応し、就労支援(不定期雇用・夜間・祝祭日勤務、フリーランスなどイレギュラーな労働に対する保育支援)、ファミリーサポート(ひとり親世帯・外国籍・貧困・虐待リスクへのセーフティーネット)などの福祉的な機能を有していた(Onishi & Ohnishi, 2014, 2015, 2016, 2018)。しかも、単に親の就労のあいだ、家庭に放置される(可能性が高い)子どもを預かる施設ではなく、そのような子どもが施設を利用することによって、子ども同士で関わり、遊び、楽しむことを促進しようとしていた。毎日決まった子どもが利用するとは限らないという、一見すると不安定な状況を逆に活かして、個々の子どもがその時、その場でもった"やりたい"という思いを追求させる教育的環境を提供していた。それに加えて、自身の賃金が確保できない中でも、子どもと保護者を支え続ける認可外保育施設スタッフの思いが際立っていた。彼らへのインタビュー調査を重ねる中で、彼らの思いと責任感の強さが、上述した保育の原点ともいえる教育者の思想に通ずるものであるように思えた。そしてそれは、障がいをもった子どもの教育という文脈で語られることの多い、インクルーシブ教育の土台にある共生社会の考え方にも通じていると考えられた。

本研究の目的は、問題視されることの多い認可外保育施設に勤務するスタッフのもつ保育哲学や理念を明らかにすることである。これにより、保育とはどうあるべきか、特に、共生社会におけるECECを考えるうえで指針となるような保育のありかたを考えたい。

方法

地方都市に位置する認可外保育施設のスタッフ5名に対して、半構造化面接を行った。スタッフの内訳は、施設長2名、保育スタッフ3名である。面接内容は、「認可外保育施設の困難さ」「利用者の特徴」「保育のやりがい」などの質問項目であった(Onishi & Ohnishi, 2014, 2015, 2016, 2018)。本研究では、得られた語りに対して保育理念や保育哲学の観点から分析を行った。したがって、本研究で得られたデータは、施設スタッフに「あなたの保育理念は何ですか?」というような直接的な質問をして得られたものではない。

結果と考察

本研究の対象となった認可外保育施設のスタッフは、ECECのニーズをもつ人々であればだれでも支援するという基本的な哲学をもち、特に、社会的弱者とされる親がもつECECのニーズを支援することを重視している、という特徴が明らかになった(例えば、「私たちは、今、ここで、困難な状況にある家族を支援したい」、「もし、自分たちが子どもたちへのケアをしなければ、彼らはまさに、ネグレクトされるも同然だろう」「自分たちが見捨てたら、彼らは路頭に迷い、生活ができなくなってしまう」といった語り)。

例えば、飲食店やナイトクラブで働いていて、子どもをベビーホテルに預けている親は、就労時間内であっても、「お客が来ないからもう帰っていいよ」と雇用主に言われ、十分な賃金がもらえないケースが多い。同様に、パートタイムや非正規雇用の形態で勤務している場合など、働きたくても短時間労働を雇用主に強いられるケースもある。また、フリーランスのように、仕事の依頼があるときにのみ仕事をする在宅勤務者は、自宅で仕事をするという労働形態から、子どもの保育利用の必要性は低いとみなされる。さらに、ひとり親世帯や外国籍の親は、他の人が働きたがらない夜間や土日祝祭日に集中的に働くことで、短時間で高収入を得て生活を維持するしかない(大西・大西,2019)。このように、雇用形態からみると弱い立場にあるにもかかわらず、保育所入所のための選考基準得点が低ければ、認可されている保育所にわが子を入所させることができない(しかも、多様な雇用形態に応じられる認可保育施設はない)。しかし得点は低くても、そこには「保育を必要としている」という明確な事実がある。彼らの困難さを目の当たりにし、認可外保育施設のスタッフは見て見ぬ振りができないのである。

本研究にて対象とした認可外施設は、潤沢な資金を得て安定した保育運営をしている施設ではない。しかも、慢性的な保育士不足にあり、保育を行うことによって自分たちの経営を悪化させる(「0歳児をもう一人預かれば、保育士をさらに確保する必要があり、運営が厳しくなる」)状況でもあった。それでも、子どもの最善の権利を考え、子どもを安全で安心な環境で保育したいとスタッフは考えていた。施設長の1人は、公立の保育職を辞し現在に至っている。そして、「認可の人がやらない保育、制度に乗れない親子を対象とした保育をしている。そういう人こそ保育の利用が必要だ」と語り、働く親とその子どもが必要とし、望んでいる保育を実践している。また、その施設の利用者は「子どもがやりたいことを、とことんやらせてくれるので、『また行きたい』と、楽しみにしている」と話す。もちろん、全国にある認可外保育施設がすべて、このような教育・福祉的機能を有しているとは限らない。しかし、認可外保育施設で働くスタッフのこのような取り組みが明らかにされる機会はほとんどないに等しい。

日本のECEC施設の大多数である認可保育施設は、保育の本質である「ケア」を、保育を必要とするすべての人に届けることができているのだろうか。本来、ECECは全ての子どもに対して平等に開かれているはずである。しかし、認可保育施設が国の基準を満たした施設であり続けるならば、様々な理由によってその基準から外れざるを得ない人々を見て見ぬふりをするほかない。それができない一部の保育者たちによって、「ケアを、それを必要とする全ての人に届ける」という保育の創始者たちの理念は辛うじて維持されてきたともいえる。これに対して我々ECEC研究者や保育行政は、この問題に向き合ってきたのだろうか。認可外保育施設を認可保育施設になれない不完全な存在として、見て見ぬふりをしたり、蔑視したり、排除したりして来なかったか。認可保育施設のみを対象とし、そこにアクセスできるマジョリティのみを想定して保育のあり方や制度を探求し、それをそこにアクセスできないマイノリティにも届けることを怠ってきたのではなかろうか。

インクルーシブ教育は、サラマンカ声明(1994年)によって、その対象を、障がいをもつ人から、英才児、ストリート・チルドレンや労働している子どもたち、人里離れた地域の子どもたちや遊牧民の子どもたち、他の恵まれていないもしくは辺境で生活している子どもたちなどに広げ、不利な状況にある、あらゆる人々に開かれるようになった。共生社会を目指しインクルーシブ教育が広まりつつある中、「ケア」を掲げているECECこそ、すべての人々を包摂するものであらねばならない。


引用文献

  • 池本美香・立岡健二郎(2017)保育ニーズの将来展望と対応の在り方.日本総合研究所JRIレビュー,Vol.3, 42,37‐65.
  • OECD(2007)"Babies and Bosses‐Reconciling Work and Family Life: A Synthesis of Findings for OECD Countries". ( OECD編著 高木郁朗(監訳)熊倉瑞恵・関谷みのぶ・永由裕美(訳)(2009).国際比較:仕事と家族生活の両立 OECDベイビー&ボス総合報告書 明石書店)
  • Onishi & Ohnishi(2014)The educational function and welfare role of the unauthorized day care center (UDCC) in Japan (2): Research findings from interview with and observation at UDCC. 24th European Early Childhood Education Research Association Annual Conference.
  • Onishi & Ohnishi(2015)The educational function and welfare role of the unauthorized day care centers (UDCC) in Japan (3): What are "Baby hotels" in Japan? 25th European Early Childhood Education Research Association Annual Conference.
  • Onishi & Ohnishi(2016)The educational function and welfare role of the unauthorized day care centers (UDCC) in Japan (4): What do the parents expect of "Baby hotels" in Japan? 26th European Early Childhood Education Research Association Annual Conference.
  • Onishi & Ohnishi(2018)How do "Baby hotels" in Japan support families with special needs: The educational function and welfare role of the "Baby hotels" in Japan (1) 28th European Early Childhood Education Research Association Annual Conference.
  • 大西 薫・大西将史(2019)現代日本社会における待機児童問題と多様化する保育の必要性 ‐ベビーホテル利用者の調査へ向けた課題整理‐. 岐阜聖徳学園大学短期大学部紀要,51,31‐40.

付記
本原稿は、2019年7月12~14日に台湾で行われた第20回環太平洋幼児教育学会において発表した内容を大幅に加筆・修正したものです。
本研究は、JSPS科研費17K04662の助成を受けたものです。

筆者プロフィール
大西 薫(おおにし・かおる)

岐阜聖徳学園大学短期大学部専任講師。奈良女子大学大学院人間文化研究科博士課程修了。博士(学術)。専門は、子どもの保健・発達心理学。認可外保育施設における保育を通じて、多様な保育のありかたについて研究している。また、保育者養成校の教員として、保育者へ向けた保健の知識の構築や、学生が学ぶ地域子育て支援に関する研究を行っている。
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