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[日本] 保育料無償化に対する保護者の意識 ―保護者の望みに見られる地域差ー(後編)

関 容子(東京福祉大学保育児童学部 講師)

2019年6月 7日掲載

要旨:

保育料無償化の実施が目前に迫っている。首都圏の3地域を対象に行った調査から、保育料無償化は、保護者の「いつから子どもを預けたいのか」、「いつまで自分の手元で育てたいのか」という子育て観に変化を与え、それは、保護者の働き方やライフコースの考え方にも影響を与えることが明らかになった。保護者が思い描く子育てや働き方は、それぞれが抱える問題や生活条件のなかで、自分のスタイルに合うものを「選択」していくことになる。そしてこの「選択」の背景には、居住地特有の問題が影響していることも明らかになった。
後編は、0~2歳児も無償化された場合の、地域による保護者の意識の違いについて述べる。

キーワード:
保育料無償化、子育て、入所時期の選択、ライフコースの選択、比較調査
結果と考察 (前編より続く)

【0~2歳児も無償化されたらいつから保育施設に入れたいか】

次に、0歳から2歳についても無償化が実施された場合、子どもをいつから保育施設に入れたいかについての回答を地域別にまとめてみた。(図4)

その結果、第2子入所時期(実績) との比較においては、3地域とも0歳から入れたいと考える世帯が減り、1歳から入れたいと考える世帯の割合が増えることがわかった。

第1子入所時期(実績)との比較では、産休明けから入所を希望する世帯は、3地域ともほぼ同じ割合(地域A:14%、地域B:11%、地域C:12%)で、全ての地域において、第1子入所時期(実績)より増えていた。しかし、1歳未満で保育施設に入れたいとする世帯の割合は、地域Aにおいては、32%から39%と、実際の第1子入所時期より増加するが、地域B、地域Cでは、保育料が無償化された場合の希望は、実際に第1子を1歳未満で入所させた世帯の割合より減っている(地域B:39%→31%、地域C:56%→52%)。したがって、無償化された場合は、1歳までは自分で育て、1歳のお誕生日を迎えてから保育所に預けたい、という世帯の割合が地域B、地域Cにおいては、実際の第1子入所時期より増加するという興味深い結果となった(無償化になったら1歳以降に預けたいとする割合の変化、第1子入所時期との比較、地域A:7%減、地域B:8%増、地域C:4%増)。この結果は、他の2地域に比べて世帯年収の低い地域Aでは、保育料が無償化されることで、少しでも早くから預けて働きたいという保護者の意識の表れであり、比較的年収の高い地域B、Cでは、保育料を支払うという負担がなくなったことで、「どう育てたいか」、「いつまで自分の手元で育てたいか」と考えるゆとりと「選択」の意識が働いたものと思われる。本調査の対象者は、現在子育て中の保護者であるため、次に子どもが生まれて保育料が無償化されたら、今よりももっと長く子どもと一緒にいたいという意識が働いたとも考えられる。



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図4 無償化されたらいつから保育施設に入れたいか


冬木(2015)注1は、保育所の利用に関する選択とその関連要因を明らかにする中で、「子どもが3歳くらいまでは、母親は仕事をもたずに育児に専念したほうがよい」と考える保護者層においては、保育所を利用するか否かの選択に「3歳児神話」の影響が出ることを示唆している。厚生白書(1998)注2では、「3歳児神話(子どもは3歳までは、常時家庭において母親の手で育てないと、子どものその後の成長に悪影響を及ぼす)には、少なくとも合理的な根拠は認められない」と否定された。本研究においては、保育料が無償化された場合、3歳とまではいわないが、1歳くらいまでは、子どもと一緒に過ごしたいという願いがあることが、特に地域B、地域Cの回答者から示された。

一方、2歳未満で入所を希望する世帯の割合は、3地域とも80%前後で、地域差は認められなかった。したがって、0歳から2歳についても無償化が実施された場合、0歳での入所が減り、1歳からの入所が増える地域があっても、入所希望全体の80%程度の世帯は、2歳未満での入所を希望しており、これまで通り、低年齢からの入所を望む世帯が多いことが予想される。また、地域Aのように、保護者(主に母親)の職業形態が非常勤職員で世帯年収の比較的低い地域においては、0歳、1歳からの入所希望が現在よりも増加することが予測できる。しかし、第1子入所時期(実績)においては、他地域では見られない7%程度あった地域Aにおける4歳からの入所が、無償化によりなくなる。このことは、金原(2011)注3が指摘する、保護者の収入や就労形態といった属性によって、就学前児童施設利用が妨げられているケースとしての可能性が伺える。

 

【0~2歳児も無償化されたらいつから保育施設に入れたいかの主な理由】

表2は、無償化ならいつから保育施設に預けたいかについての自由記述から、回答の多い理由をまとめたものである。地域Aでは、117名中、48名の自由記述があり、そのうち、25名が「職場復帰。仕事のため」、「保育料が無償なら、早く働いて家計を助けたいから」、「子育てにお金がかかり、働かなくてはならないから」といった経済的理由をあげている。これは、入所理由の52%を占めている。地域Bにおいては、106名中、64名の自由記述があり、17名が「職場復帰」、「仕事のため、家計を助けたい」などの経済的理由をあげ、これは、入所理由の28%にあたる。また、地域Cでは、86名中、37名の自由記述があり、8名が「仕事復帰のため」、「早く仕事に戻りたい、社会復帰し、働きたい」、「収入が少ないから働きたい」といった経済的理由をあげており、これは22%を占める。地域Aは他の地域よりも経済的理由を入所理由としてあげる人の割合が多く、特に産休明けから、という月齢が小さい場合で多く認められた。一方、「できるだけ長く子どもと一緒にいたい」、「自分で面倒をみたい」、「成長をみたい」、「小さいうちはなるべく自分で育てたい」といった、ある一定の年齢までは自分で育てたいとする理由も、3地域に亘って一定数見られたが、特に地域Cの割合が多かった(地域A:48名中8名17%、地域B:64名中23名36%、地域C:37名中14名38%)。

今回の調査で、さらに地域差が見られた理由としてあげられるのは、「自分のための時間が欲しい」という理由である。地域Cで見られた「自分の時間がほしいから」という入所理由は、地域A、 地域Bには見られなかった。反対に、「親とずっと一緒にいるより、子ども同士で遊ばせたい」、「社会性を身に付けさせたい」といった、集団生活で社会性を身に付けさせたいという理由は、地域A、 地域Bのみに見られ、地域Cには見られない興味深い結果となった。地域Cは、3地域のなかで最も人口数が高く、待機児童がいる地域である。


表2 無償化された場合,子どもを保育所に預けたいと思う月齢・年齢の主な理由(地域別)

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結論

今回の調査結果においては、保育料が無償化されることで、産休明けから保育所に入れたいと考える保護者と、1歳までは一緒に過ごしたいと考える保護者が増える傾向にあった。無償化される分、できるだけお金を稼ぎたい、と産休明けからの入所を望む人がいる一方で、早く預けて働くのではなく、自分が入所させたい時期に確実に保育施設に入所できるなら、子どもが幼いうちは、子どもと一緒にいたい、と望む保護者の声が地域B,地域Cにおいては35%を超えた。

保護者は、これまでの働き方を続けながら、希望する保育施設へそれぞれが希望する時期に子どもを入所させたいと望んでいる。育児・介護休業法が改正注4され、保育園に入れない場合の育児休業期間の延長が最長2歳まで延長された。しかし、現在の職場において育児休業を確保できるかどうか、という問題もある。

本研究結果では、保育料が無償化されることによる保護者の思いに、地域による違いがみられた。これは、職業形態や育児休業制度の利用の有無、子どもの人数、世帯収入などの影響が考えられる。非常勤職員の割合の多い地域では、正規職員として働くことを望みつつ、「小さいうちは、なるべく自分で育てたい」といった保護者の子育て観と、「子育てにお金がかかる、将来のために貯蓄をしたい」という、現実的な問題をまえに子どもの将来を見据え葛藤する保護者の思いが表れた。非正規雇用の子育て中の保護者が、希望に叶う職場を得ることは容易ではない。

施(2015)注5は、日本国内における出生数の地域格差と子育て環境との関連を明らかにするなかで、母親がパートタイム勤務の場合、専業主婦よりも子どもの数が多く、専業主婦はフルタイム勤務の母親よりも子どもの数が多いことを明らかにしている。そして、鎌田・岩澤 (2009)注6は、居住地域による出生率の違いについて、女性の就業率や保育所数などの居住地域要因に着目して検討するなかで、全国を一律に扱うことのできない地域的な特色があることを明らかにし、子どもを生み育てることのような歴史的、文化的側面と大いに関わる行動を扱う際には、行政区分や慣例に基づく地域ブロックが、様々な現象の地域性の境界として常に適切とは限らず、グローバルモデルが、局地的に当てはまらないことが少なくないと指摘する。

どの地域も一律に無償化することで、少子化問題が解決し、経済が発展するとは考えにくい。子育て家庭が生活する地域ごとの特色に加え、一人ひとりの保護者が抱える問題もさまざまである。保護者は、いま何を望んでいるのか。どうしたいのか。どうしたらもっと子育てが楽しくなるのか。子育て中の保護者は、目の前にさしせまる一つひとつの問題を片づけ、生きることに精一杯で立ち止まる余裕があまりないように見える。本調査の自由回答において、「保育施設に、希望する時期に必ず入所できるのであれば、小さいうちは子どもと一緒に過ごしたい」、「かわいい時期の子育てをもっと楽しみたい」、「家事をする時間がほしい」、「もっとお金を稼ぎたい」、という保護者の声が聞かれた。希望する収入が得られる働き口の確保や、正規職員として働き続けながらも、育児休暇を取得し、子どもともっと一緒に過ごせる生活がしたい、と願う保護者がいることもわかった。そしてこのことは、現状では、実際に入所する際に、いつまで子どもと一緒に過ごしたいか、という保護者の気持ちよりも、確実に職場復帰するために、保育所に入所しやすい時期を優先しているということでもある。

今後は、さらなる待機児童問題の解決や、十分な育児休業制度の活用、勤務時間調整が可能な職業形態を選択できる環境など、子育て中の保護者のニーズが満たされるような地域ごとの課題に取り組む必要がある。 保育料無償化の実現が多くの保護者にとって、子育てを「楽しい」と感じ、自身が望むライフコースの選択の助けとなるものとなってほしい。

本調査では、我が子の保育所への入所を望む保護者がいる一方で、子どもが小さいうちは一緒にいたいと望みつつ、仕事や自身のスキルアップなど、社会ともつながっていたいと考える保護者の要望が聞かれた。こうした子育て中の新たな働き方に対する施策についても、保護者の夢の実現に向けて検討されることを願っている。



謝辞

本調査については、西脇二葉(東京福祉大学 保育児童学部)・戸次佳子(東京福祉大学 保育児童学部)両氏の多大なるご協力を得ました。ここに記して御礼申し上げます。本稿は、第15回子ども学会議ポスター発表(関容子・西脇二葉・戸次佳子, 2018)および「保育料無償化に対する保護者の意識-入所時期の選択における3地域比較から-」, 東京福祉大学・大学院紀要第9巻(2018)(印刷中)(関容子・西脇二葉・戸次佳子, 2018)において発表されたものを部分的に加筆・修正しました。



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  • 注1. 冬木春子(2015)「就学前保育施設の選択傾向と満足感に関する調査研究」,文部科学省 共同利用・共同研究拠点事業 社会調査・データアーカイブ共同利用・共同研究拠点, 2015年度 参加者公募型二次分析研究会子育て支援と家族の選択, pp.39-9.(2016.3)
  • 注2. 厚生労働省(1998)「厚生白書(平成10年版)」,
    https://www.mhlw.go.jp/toukei_hakusho/hakusho/kousei/1998/dl/04.pdf
  • 注3. 金原あかね(2011)「子育て家庭の環境変化と就学前児童施設の選択」, 明治安田生活福祉研究所, 生活福祉研究(77),pp. 26-41
  • 注4. 厚生労働省「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」
    https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000165876.pdf
  • 注5. 施利平(2015)「家族形成と地域性-子育て環境と子ども数との関連-」,文部科学省 共同利用・共同研究拠点事業 社会調査・データアーカイブ共同利用・共同研究拠点2015年度 参加者公募型二次分析研究会子育て支援と家族の選択, pp.241-251(2016.3)
  • 注6. 鎌田健司・岩澤美帆(2009)「 出生力の地域格差の要因分析-非定住性を考慮した地理的加重回帰法による検証-」,日本人口学会,10.24454/jps.45.0_1
筆者プロフィール
Yoko_Seki.JPG 関 容子(せき ようこ)

東京福祉大学保育児童学部 講師。
大妻女子大学大学院 人間文化研究科人間生活科学専攻修士課程修了。元幼稚園教諭、元YMCA2・3歳児クラス講師、元群馬県子育て・青少年課保育係保育指導員。主な担当科目は、保育内容総論、保育内容(環境)、保育実習指導等。
著書に「保育料無償化に対する保護者の意識―入所時期の選択における3地域比較からー」東京福祉大学・大学院紀要第9巻、
論文「保護者はどのように保育施設を選択しているのか」International Journal of HUMAN CULTURE STUDIES大妻女子大学人間生活文化研究所2018、「保育施設の選択要因となる情報入手法」International Journal of HUMAN CULTURE STUDIES大妻女子大学人間生活文化研究所2017などがある。
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