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【フィンランド】社会全体で育む情動的スキル~フィンランドの幼児教育システムからの示唆~

中村 恵(畿央大学教育学部現代教育学科 准教授)

2019年4月 5日掲載
はじめに

2018年実施の3法令改訂において、幼児教育において育みたい資質・能力の明確化がなされ、「知識及び技能の基礎」「思考力・判断力・表現力等の基礎」「学びに向かう力,人間性等」の3つが示された。また、「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」を明確にし、これを小学校の教師と共有するなど連携を図り、円滑な接続を図るよう努めるように示された。その中で、環境を通した教育が重要であることは従来から変わっていないが、実際に文化の異なる幼児教育と学校教育において一貫した学習環境を整えるためには、「情動的スキルを育む」という視点が重要である。

更に、2018年実施の幼稚園教育要領では、幼稚園教育において育みたい資質能力や、学校教育における「主体的・対話的で深い学び」に沿っての幼児の発達に即した指導改善などの、幼稚園教育の充実のための視点が示されている。また、「視聴覚教材やコンピュータなど情報機器を活用する際には、幼稚園生活では得難い体験を補完するなど、幼児の体験との関連を考慮すること」とし、必要に応じて幼児の体験と関連させながらICTを活用し、幼児の体験を豊かにしていくことも求められている。

そこで、フィンランドの教育施策が、子どもの情動的スキルを社会全体で育むシステムの中で機能していることを報告し、そこから得られた示唆についての検討を行う。また、日本より先行して改訂が行われたフィンランドのNational Core CurriculumにおけるICTの活用としてのメディア教育の位置付けを明らかにし、子どもの情動的スキルを社会全体で育むことに、それらがどのように有機的に機能しているのかを検討する。

1.フィンランドの教育システム
フィンランドの教育システムにおけるBasic education(日本の小学校から中学校にあたる7~16歳)では、横断的能力のための領域として、①思考と学びにつながる学習②文化的能力、相互作用および自己表現③自己管理・日常生活の管理④マルチリテラシー⑤ ICTコンピテンシー⑥働くための能力と起業家精神⑦社会参加、関与、持続可能な未来の構築 が示されている(図1)。Pre-primary education(6歳)では④⑤を統合した6領域で、ECEC(0~6歳)ではさらに⑥を省略した5領域で示されている。 lab_01_120_01.jpg
2.日本とフィンランドの比較

日本とフィンランドの二国間について、資質能力の捉え方、ナショナルカリキュラム・基準、メディア教育の比較を行った(表1)。

日本では、資質・能力の捉え方について、3つの柱を通し柱として捉えて、幼児期の終わりまでに育みたい10の姿(健康な心と体/自立心/協同性/道徳性・規範意識の芽生え/社会生活との関わり/思考力の芽生え/自然との関わり・生命尊重/数量・図形、文字等への関心・感覚/言葉による伝え合い/豊かな感性と表現)を通して就学前と就学後を繋げようとしている。

表1:日本とフィンランドの比較
資質・能力基準/カリキュラムメディア教育

就学前3つの柱の基礎
+10の姿
幼稚園教育要領
保育所保育指針
幼保連携型認定こども園教育・保育要領
セパレート型
学校内での情報活用教育
就学後3つの柱
学びに向かう力・人間性等
知識・技能
思考力・判断力・表現力等
学習指導要領






就学前6つの資質能力
(就学準備)
5つの資質能力
(就学前)
National Core Curriculum for Pre-Primary Education (2014)
National Core Curriculum for ECEC (2016)
一体型
学校・家庭・地域全体で共に考える
就学後7つの資質能力National Core Curriculum for basic education

資質能力を育む方法については、日本では、就学前教育において幼稚園・保育所・こども園がそれぞれに対応した要領・指針を参考にカリキュラムを編成しており、各管轄省庁からのトップダウンによる編成がされていると言える。その園種ごとの年間カリキュラムから、担任教諭が主となって作成する日案まで、クラス計画と園児一人ひとりの個人計画 は別物として扱われがちであり、小学校以降の集団指導を意識しているという背景もある。

メディア教育の捉え方について、日本では、学校において教科横断的におこなう情報教育として捉えがちで、地域や家庭から独立した「セパレート型」であると言えよう。

一方フィンランドでは、資質・能力の捉え方については、「人としてまた社会の一員としての育ち」を育むための資質・能力を一貫して捉えている。また、アウトカムとしての資質・能力の領域数は、発達段階に応じて、5→6→7と変容するものである。そしてカリキュラムについては、保育者(主任レベル)と大学の研究者が共同でカリキュラムを開発するなどし、ローカルカリキュラムにおける独自の評価プランがあり、現場では、National core curriculumよりもLocal curricula & plans の方が浸透している。言い換えると、現場での裁量が大きいということである。地域ごとにローカルカリキュラムを策定し、教育的活動(Pedagogical Activity)は個人計画(Individual plan)と絡み合って計画される。つまり、園児個人の成長をベースにグループ計画を立てるのである。これは、3歳以下は4人グループ、4歳以上は7人グループで活動するという少人数保育だからこそ実現できるのであり、小学校以降も少人数グループでの指導が主であることから実現しているともいえる。

メディア教育の位置づけについては、国・地域一体となった取り組みをKAVI( The National Audiovisual Institute )が統括し、ガイドラインの作成(安全な映像等も含む)や子どもに教えるための教材・研修の実施、イベントの策定等を行っている。フィンランドでは、資質・能力のひとつであるマルチリテラシー(multi literacy)としてのメディアリテラシー(media literacy)と捉えた上でのメディア教育を家庭、国、地域、学校全体を巻き込んで生活に根ざした形で取り組む「一体型」であると言える。例えば、国を挙げて実施するメディアウィークでは、インターネットとの付き合い方を考えたり、最新の情報技術に触れることができるイベントが各地で実施され、家族で参加することが当たり前になっている。そして、国の機関であるKAVIがイベントの内容や計画等を検討しているのである。メディア教育が社会全体の取り組みとして一体的に行われることが、子どもの中に主体的にメディアを扱う態度や認識が育まれることに繋がり、人としてまた社会の一員としての育ちに繋がるのである。

3. ネウボラが果たす役割

日本の幼稚園や保育所が「子育て支援」の拠点としての役割を担い、保育者は保護者支援をはじめ様々な役割を求められている。それに対して、フィンランドの保育者は「幼児教育」の実践者としての位置付けが明確である。「子育て支援」についてはネウボラが果たす役割が大きく、お互いに高レベルの知識や技能を有するプロフェッショナルとしての領域を分けての支援が機能していると言えよう。

ネウボラ(neuvoは助言やアドバイス、laは場・場所を意味するフィンランド語)は、フィンランドの教育システムを支える重要な役割を担っている。ネウボラには、出産ネウボラ、子どもネウボラ、青少年ネウボラ、家族ネウボラなど、ライフステージに分かれて種類があります。その中でも、出産・子どもネウボラは、妊娠期から就学前にかけての子どもや家族を対象とする支援制度で、「かかりつけネウボラナース(保健師)」を中心とする産前・産後・子育ての切れ目ない支援のための地域拠点(ワンストップ)そのものをも指している。

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2018年3月にパイヴァコティの視察を実施した。パイヴァコティとは、社会福祉部門の管轄であったデイケアセンターが、パイヴァコティ(päiväkoti:保育と教育の両面の機能を併せもつ日本のこども園のような施設)として数年前に教育文化省の管轄へと移った施設で、管轄の移管により「教育施設」としての役割を重視していることが明確に示された。さらに、男女共同参画が進み女性のほとんどがフルタイムで働くため、母親の就労有無に関わらず、すべての子どもにパイヴァコティに入る権利が与えられ、教育を受ける権利も保証されている。そのパイヴァコティでは、子どもはどの年齢層においても非常に穏やかで、落ち着いて活動に参加していた。少人数活動が基本であるため、日本のようにクラス全体の活動を基本としていないということもあるが、一人一人が乳児の頃から尊重されていることがどのクラスからも伝わってきた。そのベースとなっているのは、子どもが母体に宿った時から継続的な援助がスタートするネウボラの考え方であるだろう。日本では、子育てに対してのリスクを想定し、それらを回避するためにはどうしたら良いか?ということから施策がスタートしがちであるが、フィンランドでは子どもの誕生の瞬間から1人の人格として社会的存在感をもって迎えられる。保育現場においても、保育者が何かを指示するというよりも子ども自身が遊びや活動を主体的に選択し、子どもの声に穏やかに耳を傾ける保育者の姿があった。保育の場においては、子どもの椅子は保育者が屈まなくても良いように大人と同じ高さで作られており、午睡用のベッドは壁への収納式になっていて、スペースが十分に活用できるようになっているなど、全てが合理的に考えられており、保育者にとっても快適な労働環境が整えられている。また、低年齢児クラスでは、外遊びの前後の衣服の着脱において、子どもが一人でできるように整えられた物的環境の下、粘り強く見守りながら待つ保育者の姿があった。子どもを取り巻く大人にとっての穏やかでゆとりのある環境が、子どもの成長を支える基盤の一つとなっていることを示すものである。

子どもの成長発達についてはパイヴァコティにおいて、教育的活動(Pedagogical Activity)を通して計画的に育まれて、成長のプロセスや目標を保護者と共有する。保護者は、子どもの発達や健康面について、ネウボラナースとの継続的な対話を通して医学的知識をもとにした支援を受けることができ、安心感をもって子育てができている。また、子どもが病気になったときなど、保健センター内のネウボラでネウボラナースに処方箋を発行してもらうことができる。そして、その場で出された受診証明を職場に提出すると休暇が認められる。保護者が躊躇することなく子どものそばにいることができる仕組みが整っているのである。

フィンランドにおいては、子どもを育む有機的環境のベースとして、Well Beingの考えが貫かれていて、まずは第一に個が尊重されている。これは、子ども・保護者・保育者・働き手すべてに対して共通していることである。社会としての価値観と保健、教育の歯車がお互いに機能しあうことにより、社会全体で子どもの情動的スキルを育むことを実現している(図2)。

おわりに
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フィンランド大使館のウェブサイトには、様々な絵文字が紹介されている。そのうちの一つが「分かち合い」を示すものである(図3)。昨年の3月に視察に訪れた際に、この精神を実感することが多くあった。VR(特急列車)で移動する際、キャリーケースを棚に置こうとしたところ、あいにく下の棚が一杯で上の棚しか空いておらず、困っていると、初対面の女性が一緒に上の棚に乗せようと手伝ってくれたが、少々力不足であったため見知らぬ乗客の男性に声をかけて一緒に手伝ってくれた。さらに、棚はロッカー式になっていて、0.5ユーロ必要であったが、私が紙幣しか持っていないと知ると、代わりにコインを入れて、「お互い様だから気にしなくていいわよ」と言ってくれた。列車も、ペット(家族?)としての犬を同伴できる車両や子どもが遊ぶスペースのある車両など、様々な配慮がなされている。街でベビーカーを押す母親や父親を非常に多く見かけ、トラムや地下鉄、バスでは混んでいても大きなベビーカーを畳むことなく乗り込むことができて、それを当たり前のように受け入れてスペースを空ける乗客など、至る所でお互いを尊重しあい、違いを受け入れる精神が発揮されていた。フィンランドは建国100年を迎えた歴史的にはとても若い国で、人口も550万人(2017年1月末時点)であるため、様々なことがしがらみなく合理的に構築されている。そのような社会を背景とした教育システムであるため、日本とは文化的背景等異なる点も多いが、そこから学ぶべき点は多々あると感じている。


  • エシコウル:初等教育は7歳から始まるが、入学前の1年間(6歳)を学習の準備期間として、就学前教育(プレスクール)としてのエシコウル(esikoulu)が義務教育化された。


参考・引用文献

  • 文部科学省 「幼稚園教育要領」「学習指導要領」
  • 厚生労働省 「保育所保育指針」
  • 内閣府 文部科学省 厚生労働省「幼保連携型認定こども園教育保育要領」
  • National Core Curriculum for Basic Education 2014
  • National Core Curriculum for Pre-primary Education 2014
  • National Core Curriculum for Early Childhood Education and Care 2016
  • フィンランド大使館ウェブサイト https://finland.fi/ja/emoji/(最終閲覧日2019年2月27日)


本研究はJSPS科研費 JP17K04656の助成を受けたもので、第15回子ども学会議(学術集会)でのポスター発表を元に加筆したものです。
筆者プロフィール
megumi_nakamura.jpg 中村 恵
畿央大学教育学部現代教育学科 准教授。奈良教育大学大学院 教育学研究科修了。専門は、幼児教育学、教育工学、幼児教育評価論。特に、保育におけるICTの活用とカリキュラムの開発に評価を絡めた研究を継続して行なっている。「社会情動的スキルと認知的スキルを相互的に育む日本版エシコウルの開発」(JSPS科研費)の研究代表者として、フィンランドの幼児教育システムについての研究を進めている。主な著書は、「新・保育実践を支える保育内容総論」(福村出版)編著、「新・保育実践を支える保育原理」(福村出版)共著、「子どもと教師のための教育原理」(保育出版社)共著など。
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